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    ひよこ@よく焼けている

    @piyopiyo1ji

    字を書く脆弱な鳥。
    ピクファンやうちよそ、よそよそがあるよ!

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    POIPOI 79

    灰奈さんハッピーバースデー後夜祭です。
    アシェルさんとモブ少年のお話。
    推敲まだですので、また修正するかも!

    ※ひよこはアシェルさんの夢女なので、強い思想が入ってる可能性があります

    恋泥棒と手袋の約束サダルメリクの星色の髪は、昼中であっても尚煌々と輝いて、秋の色にくすんだ街をも明るく照らす。
    黒いレースの手袋をした手が、髪をかきあげる。左耳を彩る飾りは陽の光に鮮やかに照らされ、高いヒールのブーツで颯爽と煉瓦道を歩く彼女にあわせ、オーガンジーブラウスのボウタイがふわりふわりと上機嫌に揺れていた。
    今日この休日は少し特別で、いつもより足が軽く感じる。
    なにせ昨日まで怒涛の21連勤。
    やんごとない身分の人間の身辺警護をつきっきりだ。
    いくら平和になったとは言え、厄介事は尽きない。政治家の屋敷は広いうえ、妻も娘も護衛対象。流石のアシェルも疲労が蓄積していた。
    寝ずの番もあった厳しい務めを果たし、今月初めての丸一日非番。
    前夜から酒を浴びるように飲んで、ひたすらに惰眠を貪るのも悪くなかったが、せっかくなので充実した『休暇』を楽しみたかった。
    例えば秋服を買い足したり、入ったことのない店に寄って一人優雅に食事をしてみたり、雑貨店を眺めて掘り出し物を見つけてみたり、何なら先日の半休で可愛い知り合いと楽しんだパンケーキ屋にまた足を運んでも良いだろう。
    とにかくそういった『らしい』休みを過ごしたいなと街に繰り出したのだが、良くも悪くも目立つ彼女は、非番の日でさえ忙しい。
    例えば、そう。

    「おい、デカ女!!お前調子にのるんじゃねーぞ!!」

    とこんな風に、よくも知らない輩に理由のわからない汚い言葉で喧嘩を売られたりすることも、まあまああったりする。
    背後から聞こえた、本日一番手の威勢の良い声に、薄桃色のカラーグラスを指で摘んで外しながら振り返る。
    馬鹿げた台詞を吐かれても、いつもなら歯牙にもかけないのだが、今日はすこぶる機嫌が良いので、多少は相手してやろうかと思ってしまったからだった。
    振り返りざま、獅子の鬣の如き艶やかな髪がたなびいて、その美しさに、すれ違った女性がほうっとため息をついて立ち止まる。
    声の主の方へと視線を向けたアシェルは、カラーグラスをボウタイの結び目に引っ掛けて、さてさてどんなアホ面が喧嘩を売ってきたのかと、わくわくしながら裸眼でその姿を確認するや、驚きに目を見開いた。
    一瞬空を仰ぎ見ようかと首を持ち上げたが、思いとどまって再び声の主に視線を戻す。
    怪訝そうに眉間にしわを寄せた顔すらも整っており、声の主は一瞬怯んだが、負けじと踏ん張り声を上げた。

    「ぼくの婚約者がお前に夢中になったせいで!ぼくに見向きもしてくれなくなったんだぞ!」
    「無視すりゃ良かった」

    こういったケースは、実は珍しくない。
    お前のせいで彼女にふられた。
    お前に一目惚れした妻が、ザリア軍基地で出待ちを始めて家事をおろそかにしだした。
    お前が格好良すぎるせいで、他の男が霞んで見えるようになった、どうしてくれる。
    などなど。
    ライヘンが知れば喜んで全力でからかいにかかるネタであろう、しかし、当の本人はたまったものではない。
    こちとら貴重な貴重な休日である。
    幼稚な言いがかりに付き合ってはいられないのだ。
    しかも、だ。

    「最近のおチビちゃんは随分とませていやがりますねぇ。お付きのじいやはどちらに?お馬さんで速やかにパッカパカお迎えに来て頂きましょうか?」

    相手は幼稚どころか、まさしく子供だからであった。

    「コラきさまぁ!!バカにしただろう!ぼくはいたって本気だぞ!!」
    「お坊ちゃま、今日はいかがされましたか。お昼寝のお供をお探しなら、あちらの仕立て屋が立派なくまちゃんを用意してくださいますよ」
    「ふ、ふざけるのもたいがいにしろ!ぼくはもう、ぬいぐるみが無くても一人で寝れるんだからな!!」

    相手は恐らく、学院に上がったばかりであろう。ようやく『少年』と言えるほどの年に見えた。
    こんな子どもから明らかに敵意を向けられることなど、そうはない。
    少年の、真面目だが微笑ましい返しに、アシェルは顔を真っ赤にし頬を膨らませて笑いをこらえる。

    「お前を倒して彼女の心を取り戻してやるんだ!決闘を申し込む!」
    「ブッ…………ふ」
    「笑うな!!」

    堪えていたせいで、我慢できず噴き出した笑いは大きく漏れ、その様に少年は我慢できずとうとう飛び出してきた。

    「軍人なら逃げるなよ!いざ勝負!」

    手袋を煉瓦敷の地面に叩きつけ、貧弱な腕を振り回し殴りかかろうとしてくる、喧嘩慣れしていないいかにも貴族といった格好の少年を、アシェルは片手でふわりといなす。
    勢い余ってころんと地面に転がった少年が、擦りむいた膝のうっすらにじんだ血を視認するなり、大きな瞳を潤ませ縁にめいっぱい涙を浮かべたが、アシェルに見下ろされているのに気づいて、顔をぬぐい勢い良く立ち上がった。
    仁王立ちするアシェルに果敢に立ち向かい、みぞおちあたりにぽこぽこ拳を叩きつけるも、アシェルはびくともしない。
    アシェルはそのまましばらく、少年の気が済むまでやりたいようにさせていたが、思っていたより早く少年はバテてしまい、はあはあと息を切らし、汗で額に貼り付いた髪を整えながら、それでもアシェルをキッと睨む。

    「ぐ、軍人ふぜいがなまいきにも、ぼくの、こんやくしゃに色目を使いおって、よくも、たぶらかしたな……最近、ずっとお前のことしか、話しや、しない!院の、お勉強、時間でもずっと上の空、だ……!」
    「へー、そのお年で難しい言葉よく知ってるなあ」
    「話を聞け!ぼくは怒ってるんだぞ!」

    肩からずり落ちたサスペンダーを気にもせず、少年は髪を振り乱して地団駄を踏む。
    アシェルに友人をとられたのが、よほど気に食わないらしい。

    「つかさあ、その女の子の事は知らないけど、初対面相手にろくに挨拶も出来ねぇわ、こっちが軍人だって知ってて拳で向かってくるわ、そういう行き当たりばったりなとこは女から見ても男から見ても全方位かっこ悪くないかぁ?」
    「う、うるさいうるさい!」
    「大体、ちょっと構われなくなったくらいで大騒ぎするか?おもちゃ取られた子供じゃあるまいし……アッ」

    うっかり飛び出た言葉に口元を押さえたアシェルに、少年は唇を引き結んで耐えている。

    「ぽっと出のきさまに負けるなんて……ぼくは、ぼくは、彼女と未来をちかいあった仲なんだぞ」
    「はあ……」
    「屋敷の木に登って遊んでて、降りられなくなったところを助けてくれたって……ぼくのいない所で……ぼくだってそれくらい……それくらい……」

    ふと思い出した、連勤中の一幕。そういえば、屋敷のお転婆娘が、敷地内で一番高い木に登って降りられないと泣いていたのを助けてやった。
    以来随分懐かれて、警護が終わる日には屋敷中の薔薇を集めた花束を手渡してくれ、わざわざ門扉まで送りに来た。
    可愛いもんだなあと微笑ましく思い、『お嬢ちゃんが呼んでくれたら、いつでも会いに行くから。可愛いお顔が台無しだよ』と、涙を拭ってやり、花束の中から薔薇を一輪選び、髪に挿してやった覚えがある。
    そうか、あの子の婚約者かぁ……とアシェルはぼんやり振り返った。ツレがいるのに悪いことをしたなあ、なんて爪の先ほど罪悪感を覚えたが、そんな一瞬の出来事で目くじらを立てられてはたまったものではない。

    「ま、相手が悪かったな。貴族の子供だろうがなんだろうが、負けたフリして事を収めるつもりはないんでね」
    「うぅー……」
    「そもそも、デカ女だ軍人風情だ、他人を見下すようなクソダサい男に、負けを譲るつもりは一切ないよ」

    カラーグラスをかけ直し、ぽんぽんと少年の頭を撫でてやるが、少年は相変わらず怒りの表情で瞳を吊り上げ、アシェルの手を振り払う。

    「──言葉の非は謝る。だが、子供扱いはやめろ」

    幼い彼が、自分のプライドを守ろうと必死に紡ぎ出した言葉に、アシェルは撫でていた手を引っ込めた。
    まだまだ未熟な彼なりに、彼女が大切で、どうにかして元の仲に戻りたいと必死だったことが伺え、アシェルは背を正す。

    「済まなかったね。だが、相手との力量をの差を見誤って先走るのはやめな。いつか取り返しがつかないことになる」
    「…………」

    恐らく、周りの大人は彼の癇癪に『負けてやる』ばかりだったのだろう。彼は自分が騒げば状況をどうにか出来ると学んでしまっていたようだ。
    それも、今日で懲りただろう。

    「あたしの膝に土をつけたいなら、腕を磨きな。挑戦は大歓迎だよ」
    「土をつける前に、お前を雇ってひざまずかせてやる」
    「ハハッ!いいねぇ、そういうの嫌いじゃない」

    遠くの方から名前を呼ぶ声がし、少年が振り返る。きっと、彼の付き人だろう。
    アシェルは、地面に置き去りの小さな白い手袋を拾い上げて少年の手に握らせると、自分のレースの手袋も片方外して重ねた。

    「愛した女のために、危険を顧みず立ち向かったことは評価する。あんた、いい男になる。そん時に返しにきな」

    鼻先がぶつかりそうなほど顔を近づけにやりと笑ったアシェルに、少年は言葉を返せないまま頬を赤らめ立ち尽くす。
    その様子を一瞥もせず去ってゆくアシェルの背中を、彼はじっと睨んでいた。

    ──という一連の様子を、朝市の帰りに見かけたライヘンが神妙な顔をして見守っていた。

    「ねえリシェロ」
    「はい、ライヘンさん」
    「泥棒ってどう思う?」
    「事情はあれど、他者ノ物を奪う行為は厳罰に処すべきだと思います」
    「……アシェル、『また』やったわね。泥棒」
    「アシェルさんが、頻繁に泥棒を……?!」

    驚きに、ばさ、と、両手に持っていた買い物袋を取り落としたリシェロは、慌てて地面に散らばった果物をせっせと拾い集めていたが、ライヘンの方はアシェルの背中をじっとりと見やり、「いずれ何らかの天罰が下るんじゃない?」と、吐き捨てる。
    ペッ!と、つばを吐くなどその美貌に似合わぬ仕草をするも、リシェロがようやく荷物をすべて拾い上げた途端、何でもないと言わんばかりにいつもの柔らかな微笑みを浮かべるのだった。
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