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    ひよこ@よく焼けている

    @piyopiyo1ji

    字を書く脆弱な鳥。
    ピクファンやうちよそ、よそよそがあるよ!

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    POIPOI 71

    すみません、デーテオ先生。先に謝ります。
    出来てしまったのでアップします……
    タイトル詐欺です。軽い気持ちで流し見してください。
    ※なお、最後まで読んでから、もう一度最初から読むと、また味わいが違うと思います。

    夕焼け空に、君の声が遠く。待ち合わせ場所は、学院から少し遠くにあるブックカフェだった。
    まだ出来たばかりのこのカフェは、ミモザが見事に咲く庭のテラス席と、コールドブリューのアイスコーヒーが人気だ。
    庭には巣箱が置かれ、静かな郊外の店ながら鳥たちの鳴き声で賑やか。
    店内はというと、木造りのフロアの真ん中にどっしりと置かれた仰々しいコーヒーの抽出器具が鎮座しており、その見た目もあって、あっという間に店の評判は広まり、その噂を聞いたらしいコレッタが興味を示していたのを知っていた。
    数日前、待ち合わせ場所を告げた時、何だかとても嬉しそうにしていたコレッタの姿が、デーテオの、熟れたコーヒーチェリーの実に似た瞳に今も焼きついている。
    庭に面した席は二卓。
    庭と店舗を仕切る小さな段差はあったが、柵はなく開放的な席だ。
    そのうち一卓に一人。図書館で借りた本を読み終えたデーテオは、眼鏡のつるに指をかけて外し、こめかみのあたりを揉んでから再びかけ直した。
    どこからか烏の鳴き声が聞こえて音の方角を探す。
    見上げれば、空の裾のほうがほんのりと橙で、もうそんな時間か……とデーテオはテーブルに置いた鞄を端に退けようと手を伸ばした。
    そこで。

    「アラディアノ……デーテオ先生?」

    隣の席から声をかけられ、デーテオは声の主に向かい軽く会釈した。
    長い髪は、てっぺんの銀色を残してほとんどが赤金でよく目立つ。
    聖職者のような格好だが、確か誰かが詩人だと言っていた。
    名前は確か――

    「リシェロさん、でしたか」
    「あっ、覚えていて下さったノですか。嬉しいです」

    アラディア院でよく見る顔だった。生徒と仲が良いらしく、頻繁に院を出入りしているからいつの間にか覚えていた。
    図書館や物見塔、生徒がアルバイトをしているマルメローゼの常連でもある――そう、確かロンドがボランティアで参加したときにも見かけた。

    「こノような場所でお会いするなんて、奇遇ですね」
    「リシェロさんも、こちらのコーヒーを?」
    「いえ、リシェロは待ち合わせで……先生は」
    「私も待ち合わせです」

    お互いに私服が珍しい。
    デーテオはオフホワイトのサマーニット。
    リシェロは大きなリボンタイのブラウス。
    普段見ないラフな姿に、気持ちも和らいだ。

    「ここには初めて来ました。店員さんがとても親切です。見晴らしの良いお席を案内して下さいました。先生は?」
    「私は三回目です。ここはコーヒーが美味しくて」
    「そうでしたか。では、デーテオ先輩、とお呼びしなければですね」

    思っていることが表に出るタイプではない二人だが、他者から読み取り辛いと言われるだけで、感情が乏しいわけではないし交流下手という程でもない。
    淡々とした会話は、時折途切れながらも続いている。
    無言の時間を気まずく感じることはなく、不思議と会話は絶えなかった。

    「お店ノ中で本を買ったノです。ここで読んで待てると聞きまして。リシェロ、ご飯が食べられないノで、助かります」
    「そうでしたか」
    「コーヒーは、美味しいですか?」
    「そうですね、私は美味しいと思います」
    「素敵なことです」

    デーテオの耳障りの良い低い声は、小鳥たちのさえずりの間を通ってよく聞こえたし、リシェロの澄んだ柔らかな声は、庭のミモザの葉が擦れる音の合間をすり抜けてデーテオに届く。
    二人とも本をテーブルに幾つか置いていたが、ページを捲ることはなかった。
    アラディア院の話、マルメローゼのローズフェスタの話、互いの共通の知人の話。話題は尽きない。
    どこか似た空気の、居心地の良さを感じていた。

    ――ふと、デーテオが手首の辺りをちらりと見る。
    時計の針を読むと、待ち合わせの時間がもうすぐだった。

    「あっ」

    声を上げたリシェロが、デーテオの後ろの方に向かって、ブレスレットをしている方の手で小さく手を振る。
    どうやら、待ち合わせの相手が来たようだ。
    夕陽を受けたリシェロのブレスレットがちかりと光って、デーテオの眼鏡のレンズがそれを反射する。

    「先生、あちらからいらっしゃるノが、リシェロノ待ち合わせノ――」

    言いかけたリシェロが、デーテオの視界から一瞬で消えた。

    「えっ?」

    呆然としているデーテオの頭上から、あぁー……とか弱い悲鳴のようなものが聞こえて見上げると、リシェロが烏に頭をむんずと掴まれていた。
    布地の頭部は烏の足の爪で歪んで、どことなく悲しげな表情に見える。

    【ぬいぐるみの表情は変わらないはずなのに】

    「ライヘンさぁあん」

    じたばたもがくも、あっという間に遠くへ連れ去られていくリシェロを、デーテオは眼鏡の奥の瞳で追うしかない。

    「リシェロ、さ…………」
    「リシェロ!?」

    デーテオの後ろから来ていた女性が、悲鳴をあげながら慌てて駆けて来る。地面を力強く蹴り上げ、ぶわりと風を纏いみるみるうち高く遠くへ登っていった。
    あっという間の出来事に呆然としていたデーテオだったが、ただならぬ気配を察知し振り返る。

    何かからじっと見られている。
    ──いや、狙われている!

    危機感を覚えるも、遅かった。
    気づいた時には既に体が浮いていて、抵抗しようにもしっかりと【布地の体に食い込んだ】烏の足爪は、【短い手足】では当然届かず外すこともできない。
    眼下に広がる街並みは小さくなっていき、近づくのはやけに綺麗な夕空。
    ばっさばっさとやたら近くに聞こえる羽ばたきの音。
    強い風が、デーテオのフェルト地の髪を撫でていく。
    サマーニットにがっちり食い込む爪。
    真下の方から自分の名を悲痛に叫ぶ聞き慣れた声が聞こえたがどうにも出来ず、『やはり大人しく店内で待てば良かった……』と己の無力さに項垂れたまま、デーテオは巣へと運ばれていった。








    ちなみに、そう経たぬうちにリシェロを回収したライヘンが、巣に持ち帰られたデーテオも救出。
    デーテオは、無事コレッタのもとへと引き取られた。
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