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    we_prli

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    大体一発書きの夏アレ置き場

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    お大事に / 夏アレ

    風邪を引いてしまった。
    それも、かなりタチが悪いタイプの風邪だ。
    原因はおそらく、薄着のまま朝方まで作曲作業に熱中してしまっていたからだろう。夜中から朝方にかけては冷える季節だということがすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。夏準にも口を酸っぱくして言われていたのに。今更反省したところで、いつもよりも高い数字を叩き出した体温計は表情を変えてはくれなかった。
    はあ、と吐き出す息が熱い。ぞくぞくと震えるような寒気がするのに、身体には熱がこもっているのが分かる。高熱を伴う風邪を引くのはひさしぶりのことで、こんなにも辛かったっけ、と毛布に包まりながら何度も後悔した。
    コンコン、と控えめにドアをノックする音が聞こえて、ゆっくりとドアが開く音を耳が拾う。身体を起こす元気はどうしても出せなかった。視線だけを来訪者へと向けると、ばちり、と視線が交わった。
    「起きていたのですね。熱は下がりましたか?」
    「わからない、けど多分下がってない……」
    「測ってないんですか?」
    「うごきたくない……こほ、」
    「無理して話さなくていいですよ。安静にしていてください」
    今回の風邪の症状は、最悪なことに喉にもかなりの悪影響を及ぼしている。咳が出ることも辛いが、話したり唾を飲み込むだけで痛みが出てしまう。病院で処方してもらった薬が効いているあいだは幾分かマシにはなるが、長くは続かない。いつか元通りになるのだろうか、と不安になってしまうのは、風邪を引いて心細くなってしまっているからだろうか。もういい大人なのに、さみしいだなんて。
    口に出してはいないけれど、夏準がちょくちょく様子を確認しに来てくれるのは俺のそんな感情に気が付かれているからかもしれない。風邪を夏準に移したくはないのであまり一緒の空間にいたくはないものの、一緒にいてくれると安心する。熱が高いせいなのかずっとモヤがかかっているように意識がぼんやりしてうとうととしか眠れなかったのだが、夏準が世話を焼いてくれているあいだにいつも眠りに落ちているのは、きっとそういうことなのだろう。

    「アレン、少しだけ動けますか?体温計、挟んでください」
    「ん……」
    「額のジェルシート、剥がしますね」
    いつのまにか温くなってしまっていた冷却ジェルシートが額から剥がされて、すぐに新しいものが貼られる。冷たくて気持ちがいい。俺はこんなふうにてきぱきと看病してあげられないので、やっぱり夏準はすごいなあ、なんて思いながら夏準の姿を目で追っていると、ピピピピ、と体温を測り終えた音が聞こえた。

    「測り終わりましたね、何度でしょうか。……38.9度。なかなか下がりませんね」
    俺の体温を読み上げる夏準の声に辛いわけだ、と他人事のように思う。39度台からは下がったものの微々たる変化だ。もう同じことは絶対……たぶん、いやおそらくしない、しないから、ちゃんと気をつけるから、と心のなかでこぼす。少なくとも、夏準の忠告はちゃんと聞くように心がけたい。

    「明日も下がらなかったら、もう一度病院に行きましょう」
    「うん……」
    「食欲はありますか?お粥作りましたけど、もし食べられないようならゼリーや果物もありますよ」
    「たべる」
    「分かりました、用意しますね」
    「夏準、」
    「はい、なんですか?」
    「やさしい」
    「なんですか、いつもは優しくないみたいに言わないでください」
    「ありがとう」
    「……お気になさらず。与えてもらったものを、返しているだけなので」
    どういうことだ、と空気を震わせる前に、俺が聞きたかったことを察してくれたらしい夏準が「こういった看病の仕方は、アナタたちに教わったことですよ。間違えていないと良いのですが」と呟くようにこぼした。熱で思考がまとまりにくいせいで理解が遅れたが、これまでの経験の話だろう。俺が風邪でダウンしてから夏準がしてくれた看病よりかなり拙かったはずだ。それなのに、夏準はそんなふうに感じてくれていたのか。胸のあたりがじくじくと痛む。俺なんかでいいなら、何度だって看病する。さみしかったら側にいて、さみしくなくなるまで手を握っていてあげる。

    「今度は、俺が看病する」
    「いえ、ボクは風邪を引きませんから」
    「前引いてただろ」
    「もう引きません」
    夏準は体調不良を隠すのがものすごく上手いが、最近は見破れるようになってきた気がする。もしかしたら夏準が、弱いところを見せてくれるようになってくれているからかもしれないけれど。

    「お粥と薬を持ってきますから、いい子で待っていてください」
    「……まだ」
    「まだ、なんですか?」
    「ちょっと待って」
    「さみしくなってしまいますか?」
    「…………」
    すぐ戻ってくるのに、とは言わないのは、夏準がやさしいからだ。今の俺、絶対に面倒くさい。本当、もういい大人なのに。心細くなって、ちょっとのあいだでもひとりになりたくないなんて子供みたいだ。

    「ご飯を食べ終えたら、添い寝してあげましょうか」
    「それはいい」
    「……」
    「だって、おまえに移るとこまるし……」
    「ボクは風邪を引きませんから。規則正しい生活をおくっていますからね」
    にこ、と笑いながら言う夏準に負けて、添い寝をして貰ってすぐに眠りに落ちることになるのは、これよりほんのすこしだけ先の、俺と夏準だけの秘密の話だ。

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