アレンにキスをされた。
流れるような動きでされた触れるだけのキスは思いつきか無意識か、はたまたそういう気分だったからなのかは分からないけれど、すぐにパッと離れて何でもない顔をしてソファの隣に座ったアレンは今、スマートフォンを触っている。
「アレン」
「ん、何だ?」
「なんですか、今のは」
「今のって?」
「キスです」
「え?ああ、したかったからした。悪い、嫌だったか?」
「嫌ではありませんけど」
「ならよかった」
申し訳なさそうな表情が、ボクの言葉を受けてはにかんだ笑顔に変わる。本人自身は目つきが悪くて怖がられがちだと思っているようだけれど、親しい友人知人と過ごしているときの彼はころころと表情がよく変わるタイプであるので対極の感想を抱くだろう。そういう感想を抱く人間の数はそれほど多くなくて構わないと内心思っているけれど、口に出したことはないし出すつもりもない。ボクだけしか見られない彼の表情がたくさんあるのだから、求めすぎるのはあまり良くないだろう。
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