アレンにキスをされた。
流れるような動きでされた触れるだけのキスは思いつきか無意識か、はたまたそういう気分だったからなのかは分からないけれど、すぐにパッと離れて何でもない顔をしてソファの隣に座ったアレンは今、スマートフォンを触っている。
「アレン」
「ん、何だ?」
「なんですか、今のは」
「今のって?」
「キスです」
「え?ああ、したかったからした。悪い、嫌だったか?」
「嫌ではありませんけど」
「ならよかった」
申し訳なさそうな表情が、ボクの言葉を受けてはにかんだ笑顔に変わる。本人自身は目つきが悪くて怖がられがちだと思っているようだけれど、親しい友人知人と過ごしているときの彼はころころと表情がよく変わるタイプであるので対極の感想を抱くだろう。そういう感想を抱く人間の数はそれほど多くなくて構わないと内心思っているけれど、口に出したことはないし出すつもりもない。ボクだけしか見られない彼の表情がたくさんあるのだから、求めすぎるのはあまり良くないだろう。
「アレン」
「何……、ん」
名前を呼ぶたびにいちいちスマートフォンから顔を上げてこちらを向いてくれる彼は善良な人間すぎると思う。だから、こうやって不意打ちでキスをされてしまうのだ。可哀想に、と思うものの、アレンのせいでもある。
「もしかして、キスしたくなった?」
「アナタが先に仕掛けてきたんでしょう」
「やった」
「え?」
「なんでもない。いいぜ、ほら」
おいで、と言うように両腕を広げるアレンにはあ、と小さくため息をひとつ吐いてから、その身体を抱きしめてアレンのくちびるをぺろり、と舐める。
「くすぐったい」
「アナタが口を開けないからでしょう」
「開ける開ける」
そう言って「あー」と開かれた口に「……ムードというものが欠落していますね」とこぼすと、困ったように笑いながら「俺にそれを求めるなよ……」と言うアレンが愛らしくて困ってしまった。
そういうところ、本当にずるいですよ、アレン。