来客を告げるベルの音が鳴った
宅配便の類ではないしそもそもオートロックの音ではなく、家のドアのベル音だから一体なんなのだろうかと警戒しつつ応答してみると『俺!俺だよ、アレン!』と言う声と若干異なるもののよく知る人とかなり似ている顔が画面に映っているのを見て、リビングを振り返る夏準
「宅配便?」
「いえ、アナタの名前を語っている人物なのですが……」
「え、俺家に居るのに?」
「すぐバレるような嘘をつくのは軽率だと思いますが、すこし気になる点がありまして」
「なに」
「驚くくらいアナタにそっくりなんですよ」
「え……ドッペルゲンガーみたいな?」
「それよりも、タイムトラベラーと言われたほうがしっくりしますね」
もう一度、今度はふたりで来客モニターを覗き見て「俺だ……」と話す
「アレンですよね?」
「うん……いや、俺はここに居るんだけど……誰だ?」
『だから、朱雀野アレンだって!十年後から来ました!たぶん』
「は?」
「うーん……」
一旦ドアを開けて会ってみることに
話してみると自分しか知らないことを知っているし、確かに自分らしいので部屋に招き入れることにした
十年前に来ているのだということを「そういえばこんなことあったな、夢だと思ってたけど現実だったのか……?と思ってとりあえず十年前に住んでたマンションに来てみた。いや〜、合っててよかった」と呑気に言う大人アレン
「その言い方だと、十年後は住んでないのか?」
「ダメですよアレン。そういうことを聞いたら、未来が変わってしまう可能性があるので」
「おお、若くても夏準だなあ」
「さほど変わらないでしょう」
「結構変わると思うけど。今のあいつより可愛げあるし」
「は?」
ハッとする大人アレン、今ならばこの時代の夏準の余裕がない顔や焦っている顔が見られるかもしれないと思って自分に「ちょっとだけ夏準にちょっかい出してもいいか?」と聞いてみたら怪訝な顔で「なんで俺に聞くんだよ。夏準に聞いたほうがいいだろ」と返されて、自分も若いな〜と思う
自分の許可も貰ったし、と夏準ににじりよると「ボクにちょっかいを出したら、アナタの時代のボクに何か言われるのでは?未来を変えるのは本意ではないので聞くつもりはありませんし答えなくてもいいですけど、アナタの反応を見た限りだとボクたちの関係性は今と変わらないようですから」と拒否されて「かわいいって思ったけどやっぱり夏準は夏準だ……」とこぼすアレン
「可愛くなくて結構です。それより、いつまでここに居るんですか?もし泊まるようであれば、寝具を買ってこないとないですよ」
「俺がおまえの部屋で寝ればいいだろ」
「未来のボクに怒られません?」
「あーいや、俺じゃなくてそこの俺が。そしたら俺の部屋のベッドが開くだろ」
「ややこしいですね」
「待て待て、俺の意志は?」
「付き合ってるんだし別にいいだろ、一緒に寝るくらい」
「つ…………そうだけど、そうじゃなくて」
ごにょごにょ言葉を濁すアレンをおいて話すふたり
「それで、いつ戻るかなどの記憶はあるんですか?」
「うーん、その辺ぼんやりしてるんだよな……まあ、ずっと居た記憶はないしそのうち戻るだろ」とあっさりしているものだから「アナタって人は……」と飽きれる夏準
数時間して急に本当に消える
未来に帰ったらこのときのことをばっちり覚えていた大人夏準に「おかえりなさい。ずいぶん楽しんできたようですねぇ」とちょっかい出そうとしたことがバレているというか覚えられているのでおしおきされる