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    sekiner_xx

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    sekiner_xx

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    ロイティ3開催おめでとうございます!

    結婚前夜 鍵がない。
     バッグのポケットをいくら漁っても金属に触れることはなく、虚しく指先がくっつくだけだ。
     上着の内ポケットにもない、スラックスのポケットにもない。
     一体どこに入れたのか。
     仕方なしに家を出るときのルーティンを思い出す。
     ああそういえば今日は珍しく遅刻しそうで慌てていたから、財布に鍵を入れてしまったのだ。
     どうしてそんなことも忘れていたのかと少し苦笑して、オートロックの鍵を開ける。スーッと開いた自動ドアの内側に入り、エレベーターのボタンを押すと運良くすぐに乗ることができた。
     10階のボタンを押せば音もなく動き始めるエレベーター。その中でぼんやりとしてしまう。
     部屋に入ると風呂場から水音がしていて、俺が帰って来たことには気がついていないかもしれない。
     とりあえずは荷物を置いて手を洗い、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
     キャップを開けてひと口飲むと冷たさが心地良い。
     今日は本当に忙しかった。
     朝は仕事に遅刻しそうになってしまったし、仕事が終わってからは実家に顔を出して来た。久しぶりに見る家族はいつもと変わらず、快く迎え入れてくれた。
     母は相変わらず破天荒だし、ナナリーは優しく微笑みかけてくれて癒やされる。父は不機嫌そうだったけれどそれもいつものことで、母の通訳があってなんとか意思の疎通ができる父は、大人としての自覚を持てとかなんとか言っていた。
     大人としての自覚を持つ。
     就職してひとり暮らしを始めたときに自分のことには責任を持たなければとは思ったけれど、それは自分ひとりだけのことだったから、精神的に幼いところのある自分にもどうにかできた、と思う。
     それが明日からは、自分だけの責任ではなくなるのだ。
     日曜日の明日、休みを利用して区役所に行く。
     スザクと共に婚姻届を出しに行く。
     結婚するのだ。
     言葉にすればそれだけのこと。
     結婚を機に変わることもあるけれど、変わらないことも多い。
     引越しはこの前のゴールデンウィークに済ませているから、住所は明日婚姻届を出すときにまとめて変更をすればいいし、別姓が許されてる現在同じ名前になることもない。
     会社の人間にも、結婚したと説明しなければただ引越しをしただけだと思われるだろう。
     変わることといえば、アクセサリーを好まなかった自分が指輪をひとつつけること。さすがに婚約指輪は必要ないと辞退したが、結婚指輪はつけてほしいと言われて渋々ではあるが了承した。
     内側にふたりの名前を刻んだだけの、パッと見地味な指輪はハイブランドのもので、スザクがどうしてもと言うからそれになったのだ。
     そんなことをつらつらと考えていると、風呂からあがったスザクが隣に来た。
    「おかえり。終電にはならなかったんだね?」
    「ああ。今日ははやく帰りなさいって言われてな」
    「そっか。気を使わせちゃったかな?」
     スザクの視線の先には、実家から持って来た荷物がある。持たされたのは食べ物と、プレゼント。まだ開けていないので何が入っているのかはわからない。
    「もう歯磨きしたか? 食べ物も持たされたから、なにか飲みながらつままないか?」
    「あ、食べたい! 寝る前にまた歯磨きすればいいから」
     なにがあるのか見ないうちにいそいそと缶ビールを用意しているスザクが微笑ましい。
     ダイニングテーブルに持たされたローストビーフやカプレーゼを置くと、スザクはこどものようにはしゃいでいる。
     缶ビールのままでは味気ないと思ったのか、揃いのグラスを出して上手に注ぐスザクはとても格好良くて、ほんの少しだけ見惚れてしまう。
     視線を無理に外すと、渡されたプレゼントを手に椅子に座った。
     真向かいに座ったスザクとビールで乾杯をしてカプレーゼを口に運ぶ。
    「うん、トマトが美味しいな」
    「ローストビーフも美味しいね!」
     ビールで喉を潤すと、プレゼントのリボンを解いて、小ぶりの箱から中身を取り出す。
     緩衝材を丁寧に剥くと現れたのはフォトフレームだった。中には既に写真が入れられていた。
    「あ、それ、顔合わせのときの?」
     スザクが覗き込んで言う。
     フォトフレームには顔合わせのときの集合写真が入っていて、はにかんだ笑顔のスザクとその両親、自分と両親とナナリーが写っていた。
    「なんかこうして改めて見ると、ちょっと恥ずかしいね」
     照れた様子のスザクに答えようとして、声が詰まる。それは、フォトフレームと一緒に入っていたカードにこう書いてあったからだ。
    『お兄様、スザクさん、結婚おめでとうございます。家族が増えて嬉しいです』
     ナナリーの柔らかい文字で書かれた短いメッセージに、目頭が熱くなる。
     スザクとの結婚を本当に祝福してくれているのだろう。なんて優しい妹なんだ、と感動するのと同時に、スザクと家族になるのだということにも感動してしまう。
     今までは身内とは思っていても法的には他人で、それが誰からも家族と認めてもらえるのは案外嬉しいことだった。
    「ルルーシュ、泣いてるの?」
    「……嬉しくてな」
     ごしごしと涙を拭うと、優しい表情をしたスザクと目が合う。
    「あんまり見るなよ……」
    「見るよ。だって嬉しくて泣いてるルルーシュなんて、滅多に見れないから」
     ニコニコとしているスザクが憎たらしいけれど、嫌じゃない。ただ、恥ずかしいのだ。
    「今日ははやく寝ようね、明日は早くから区役所だから」
    「わかっている。お前こそ、寝坊するなよ」
     ぶっきらぼうに言っても相変わらずニコニコとして、ぜんぜん効果はないらしい。
     ローストビーフを摘まんでビールを一気にあおる。
    「俺は風呂に入るから、あとは全部片付けておけよ!」
     照れ隠しに乱暴な言葉を使っても笑顔で対応するスザクは、いつの間にかとても大人になったようだった。
     スザクを背にして思う。
     明日、俺たちは家族になる。
     とてつもなく幸せな日々が訪れるように、祈らずにはいられなかった。
     



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