俺がつがい相手に知らせないでほしいと言った話は、どうやら許可されたようだった。でもその代わり、交換条件のような約束事を承諾させられた。それは『二十三歳を過ぎたら相手のつがいとつがい解除をする事。つがい相手が他のつがいを作った時点で、即座につがい解除をしてもらう事。その後は国が選んだつがい候補と番う事』だった。進学や就職を鑑みての判断らしい。あくまで普通の生活を送って、それでも俺には、もっと子どもを産んでほしいらしい。本当は運命のつがいとの子どもが一番だが、それが駄目なら他のアルファとの子どもでも研究対象になる。世間一般では間違っているようなことでも、俺が対象ならそれは全て正しい。これから先、俺の存在がアルファやオメガの価値観を変えるかもしれない。俺は研究者にとっては未知の世界で、喜びであって、最高の宝らしい。だから、俺が運命のつがいと番ってたとしても、俺が強く望むなら、つがい解除もやむなしとなった。つがい解除の時は、俺と相手の接触は極力避ける方法で解除してもらえるみたいで、国も俺を守る為にはどんな手段を使ってでも、俺を守るらしい。それを聞いて、将来いつか来る解除の日は、どうにかなりそうだと安心した。これは俺の逃げだ。俺の恐怖がこうさせた。俺が愛してしまったから、拒否されるのが怖いだけ。俺は初めてその相手を見た時、雷に打たれたような衝撃だった。ドキドキと心臓が波打って、体が熱くなった。衝動的に触りたい、触られたいと思って、そんな自分に驚いて、でも惚れ惚れする顔にキスしたい、抱きしめてほしいと、今まで思ったことのない感情が次から次へと溢れていった。気を抜けば相手の胸に飛び込んでしまいそうで、気持ちを落ち着かせるのに必死だった。毎夜、姿を思い出して、どうにかされたいと、あまりしない自慰行為をしてしまう。どうしようもなくて、よく近所の公園に頭を冷やしに行っていた。多分、世間で言う一目惚れとはこんな感じなんだろう。だから、レイプまがいの事をされた時、顔が分かってからは嬉しくて、嬉しくて、信じられないほどの多幸感に襲われた。でも目が合って逃げるように立ち去られた後は、痛みと辛さと怖さが一気に溢れてきた。歩くのもきつい状態で寮に帰り、痛みに耐えながら体を洗い、それでも朝には高熱が襲った。記憶があまりないけど、三日ほど入院して一週間は起き上がれなかった。それから歩けるようになって部活に復帰すると、強烈な視線を感じた。でも目線が合うことはなかった。避けられてるけど、意識はされてる。自分がした事に後悔してるのか、恐怖してるのか、それともまたやってやろうと思ってるのか。どういう意味での視線なのかは分からないけど、それでも、頭の中で俺のことを考えてくれてると思うと、また同じ事をされてもいいと、して欲しいとさえ思ってしまった。だから、夜、寮の部屋のドアが叩かれた時も抵抗しなかった。目の前の相手は興奮状態で、やれれば誰でもよかったんだろうけど、それに俺を利用してくれたことが嬉しかった。他の人のところに行くくらいなら、俺の体を使って欲しい。抱かれるなんて素敵な言葉じゃなく、ヤられるという行為だけど、欲を吐き出すのに、こんな体でも使ってくれて、必死に腰を動かしてくれる事が嬉しかった。それはずるずると相手がアメリカに行く日まで続いた。だから別に相手が悪いわけじゃない。全部俺のエゴ。好きとかそんな可愛いもんじゃない。心の底から愛してる、愛しい人。抱いてもらえた事が嬉しくて嬉しくて俺の体を変えるほどの運命だったとしても、本能と心は違う。甘い言葉も態度も何もなかった関係で、はっきりと知らされた現実。相手は性処理の相性のいいやつくらいにしか思ってない。自分もそれでいいと思ってるけど、心の奥底では、拒絶される事が怖い。本当の気持ちを伝えて、愛してる人から拒絶されるのは怖くて苦しい。でも愛してる人の子供は欲しい。世の中を見渡せば、俺と同じように本気で欲しくて求めているものが、絶対に手に入らない人は沢山いる。俺は運がいい。奇跡的に愛してる人の子供を授かった。絶対に手に入らないものが手に入った。宝物は貰ったから、だから、もう十分。これ以上を望んだら、せっかく手に入った宝物が壊れそうで怖い。望んじゃいけない。もう何もいらない。それにもう離れてしまった。離れたら、欲を吐き出す誰かを選ぶ。愛してる人が他の誰かを選ぶところなんて見たくない。だから、避ける。この想いだけ大事にして、もう二度と会わないように。
俺の中にある命
こんな奇跡をくれた人が
側にいないのは凄く寂しい
でも、お腹に触れれば
それだけで幸せが体を巡っていく
だからこの子さえいれば
俺は沢北がいなくても
生きていける