今は負け続きと見る バーのカウンターの端っこで褐色の液体に沈むロックアイスは提供した時よりも一回り小さくなっていた。
「あのねぇ、高杉社長。そろそろツケてくれる人もいないんだから早く部屋に帰りなさい」
「んー」
頬は高揚しきり、眼は据わり、半身をカウンターにしなだれさせた美丈夫は、くぴ、くぴとグラスの中身を口に含みながら、相変わらず腑抜けた返事をする。
洗い終わったグラスを一つまた一つと拭き上げながら、『新宿のアーチャー』ことジェームズ・モリアーティは深く深く溜息を吐いた。
今日の祭は一旦お終い。この後「新茶のバー、出張するの!? バーでご飯食べたい!!」と目を輝かせたマスターが来る予定なのでその準備もそろそろ始めたい。本当の事を云えばバーは夕食を取る場所ではないし、どうせマスターの後に誰彼とゾロゾロ続いて、どんちゃん騒ぎ会場になるのは目に見えているが、一年に一回の祭だし、「まあ、いっか」と大目に見た次第である。
2846