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    燈@tomoshibi_wri

    @tomoshibi_wri

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    キ学ぎゆさね。カプ未満。
    初めてぎゆさねに挑戦してみましたが撃沈しました。読むのは好きだけど書くのは難しいというのを身をもって実感した次第です。ぎゆさね好きさんすみません🙏

    #ぎゆさね
    teethingRing

    【ゆれる】 別に自分が潔癖症だとは思っていない。だからと言ってだらしないとも思わないが、ただ部屋が乱れているのがあまり好きではないだけだ。それでも一人暮らしで仕事が忙しいとなれば、どうしても部屋が片付かなくなってくる。
     月末の激務に追われて、今や家の中は色々とカオスだ。流しだけは害虫対策で汚れ物を溜めないようにしていたが、部屋中に洗濯物が溢れてきているのはどうしたものかと思っている。洗うもの、洗って干したもの、干して乾いたけど畳めていないもの。気付いていなかったが、案外服を持っていたんだなと疲れからか変な感心すらしてしまった。
     とりあえず明日(というか既に今日だが)を乗り越えれば時間は作れる。そうしたらまずこの部屋をどうにかしないとなァ。そう思いつつ、あと少し仕事を進める為にパソコンに向き直った。
     背後の洗濯物が風もないのに少しだけ揺れていることには、この時はまだ気付いていなかった。


     なんとか月末を乗り越え、今夜はゆっくり眠れそうな気がする。なんとか、と付くぐらいなので肉体的にも精神的にも疲れはとうにピークを越えていたが、まだここは職場なので自宅に帰らなくてはいけない。
     疲れた目を軽く揉んで周りを見渡せば、自分と同じような状態の同僚達がぱらぱらと帰り支度を始めている。まだ終電には余裕があるものの、遠い者は車通勤の職員で分担して送る話になっているようだった。
     こんな時、自宅を学園の近くにしておいて良かったと思う。電車で二駅。最悪歩いても帰れなくはない。誰がどの車に乗るか相談している中を「お先イ」と声を掛けて抜け出した。

    「あ、不死川くん」
    「んァ?」
     声を掛けられて振り返ると、胡蝶姉がニコニコとこちらを見ている。
    「なんか用かよ」
     問うても胡蝶は黙ってニコニコと笑っているだけだった。
     この笑顔が曲者なのだ。
     どうも自分は『憑かれやすい体質』らしく、霊感が強い彼女は時々こうして俺を意味ありげに見てくることがある。そういう時は俺が何かに『憑かれている』事が多い。この反応からして、多分今も、という事なのだろう。
    「まァた何か見えたんか」
    「うーん。いるにはいるのよね」
    「……いるんか」
     疲れている頭でも、こうもはっきり言われると嫌な気持ちにはなるし、疲れが増した気がする。いささかゲンナリしながら続きを促した。
    「でもね、悪意がある感じじゃないから大丈夫だと思うわ。むしろ」

    「不死川、送るから帰ろう」
     むしろ、の続きが気になっていたというのに、全く空気を読まない男が声を掛けてくる。
     そして何故か冨岡が来たことで胡蝶も話すことをやめ「お疲れ様」の言葉を残して宇髄の方へ歩いて行ってしまった。
    「むしろ、なんだよ」
     これだからタチが悪いのだ彼女は。俺の頭にモヤモヤしたものだけを残して去ってしまった。
    「どうかしたのか?」
    「べっつに、なんでもねエわ」
     冨岡に空気を読むなんて芸当は無理なので、それ以上考えるのをやめた。悪意がないと言っていたのだから特に害があるもんでもねえんだろ。
     それよりも疲れた。
     せっかく車で送ると言ってくれているのだから有り難く受け取ることにして、突っ立ったままの冨岡の背中を叩いて促す。
     もう今は一刻も早く自分のベッドで寝たかった。

     大きい黒のSUVの助手席に、こうして乗るのも何度目だろう。
     意外にも冨岡の運転は丁寧だ。家の方角が同じな為に何度かこうして車で送ってもらった事があるが、ブレーキもハンドル捌きも無駄な振動がこない。けれども穏やかな運転は眠気を誘う。心も身体も既に限界を越えているのだから無理もないが、同じく激務だった冨岡が運転しているのにひとりスヤスヤと寝るわけにもいかない。
     帰る時に濃いめのコーヒでも買っときゃ良かったと思っても、ここら辺はコンビニも自販機すらも無いのだ。仕方なく自分の頬の内側を軽く噛んで、ひたすら眠気に耐えた。
    「寝てていいぞ」
    「あァ?」
    「眠いのだろう? 家は知っているから着くまで寝ていい」
    「んな訳には」
    「俺は気にしないから大丈夫だ」
     言葉とは裏腹に、許しを聞いた途端に身体は急激に眠りに落ちていく。
    「悪イ」
     そう言ったのが最後の記憶だった。




     もう間も無く不死川の家に着くが、あまりにも気持ち良さそうに寝ていたので、もう少しだけ寝かせてやろうと人気のない公園の駐車場に車を停めた。
     目に映る不死川の寝顔とか、微かに聞こえてくる寝息とか、そんなもの全てが愛おしくて、今なら遠慮なく見つめていられる。そう思って穴が空くほど不死川の顔を見つめ続けた。
    「どうして不死川はこんなに無防備なんだろうな」
     眠気に頭を揺らしていたので、確かに寝ていいと言った。それでも『好きだと告白してきた同僚』である俺の前で寝るだなんて、少し無防備にも程があると思う。
     本当は触れてみたい。でもそれは許されていないから諦める。
    「俺が言った好きは不死川の中では無かったことにされているのか?」と凹みそうになるが、今は問うても返事がないことは分かっているからやめた。

    「なあ、不死川」
    「俺は不死川が好きなんだ」
    「だから、いつか俺をその心の中に入れて欲しい」
     ぽつりぽつりと本人に届かない告白をいくつか紡いでから、ため息をひとつ。
     そして、再び静かに車を出発させた。このままでは抑えがきかなくなるような、そんな気がして。




    「不死川、着いたぞ」
     肩を揺すられても、自分が何処にいるのか一瞬分からなかった。目蓋を擦って無理やり眠気を飛ばすと、見えてきたのは見慣れた自宅マンションの前。
    「悪イ」
     俺は遠慮もなくすっかり寝こけてしまったらしい。笑って許してくれた冨岡に礼を言って車から降りる。
     冨岡は俺に何か言いたそうにしていたが、しばらく待っても何も言われなかったので「おやすみィ」とだけ言って後ろ手にドアを閉めた。
     オートロックを潜る時に、車のエンジン音がその場から離れていくのが聞こえた。

     冨岡のおかげで予定よりも早く帰れたので、久しぶりに湯を張って風呂に浸かる。固まっていた身体がゆっくりと解れて、疲れが抜けていく。
     現金なもので、疲れが薄れると洗濯物も片付けてしまおうという気力が湧いてきた。流石に夜も遅いので洗濯機を回すことは出来ないが、干したままの洗濯物を畳むことは出来る。せっせと無心で畳んていくと、覆っていた洗濯物が無くなった分、部屋の中が明るくなっていく。
     最後に大きめのバスタオルを取り込もうとして手を伸ばすと、誰かに呼ばれた気がした。
     ここは一人暮らしの部屋で今はテレビも付けてない。当たり前だが振り返っても誰もいない。
     なら隣か近くの部屋の声か? そう思ったところで不意に胡蝶姉の言葉を思い出した。

    『いるにはいるのよね』
    『でも悪意かある感じじゃない』

     風呂で温まった身体がぞくっと震える。
    「まさか……な」
     余計なことを考えないように、いつもよりも丁寧にタオルを畳んだ。


     その夜、疲れているはずなのに夢を見た。
     それは男に抱きしめられている夢だった。しかも自分は無抵抗でその腕を受け入れて、あまつさえうっとりと幸せそうな顔すらしている。
    「不死川……好きだ」
    「ん……俺もォ」
     目を閉じて、顔と顔が近付いて。
     あと少しで唇が触れる。

    「んだこれ、クソッタレが!!」
     そこで目が覚めた。朝だった。

     
     夢の中で俺を抱きしめていた相手の顔は見えていない。ただ、自分はその声を知っている。
    「不死川」
     現実よりもずっと甘い、俺の名前を呼ぶ声。
     その声の持ち主は1人しかいない。

     そして、思い出したことがある。
     自分は確かにその声で名前を呼ばれたのだ。ほんの少し前のことだ。
     好きだ、と言われた。
     『冨岡義勇』に、昨日のように家まで送られた時、好きだと言われたのだ。
     
     何故その記憶を綺麗さっぱり忘れていたのか分からない。あまりのことに頭が覚えておくことを拒否したとしか思えない。
     それでも、その記憶は現実だった。
     そして夢とはいえ、自分は冨岡に好きだと言われて抱きしめられて幸福感を感じていたのだ。

    「うぁああああ!」
     近所迷惑とは分かっていても、もう色々叫ぶしかなかった。



    「恋心が実体になることって珍しいのよね」
    「? なんの話よ、姉さん」
    「うふふ。ここだけの話」
    「……また姉さんは余計なことに首を突っ込んでるんじゃないの?」
    「違うわ」


    「あれは、恋の始まりなのよ」

     そう言って姉があまりにも綺麗に笑うので、しのぶはもう何も言わずにその前にお茶を置いた。

     その数ヶ月後、同僚同士が恋人同士に変わるのを真っ先に気付いたのはカナエだった。そして、それ以来、不死川が何かに取り憑かれた話は一切聞かなくなったのだった。
     
     
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