Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    燈@tomoshibi_wri

    @tomoshibi_wri

    20↑成人済腐/匡実と右実固定/

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 9

    燈@tomoshibi_wri

    ☆quiet follow

    あたるさん(@amazouyanka )のイラストに心臓を掴まれ、気付いた時には書き上げていました。
    まるでそれは、祈りでした。

    #匡実
    kuangMiao

    【ひかり】 どうしたら笑ってくれるのかなってずっと思ってた。笑ったらきっと綺麗だから見てみたいと。
     でも、そんなの安全圏にいる奴の自己満足でしかなかった。


     制服では隠し切れていない、転んで出来たわけじゃない痣とか傷。消えるどころか見るたびに増えていくそれに堪らなくなって、実弥に大丈夫かと聞いた事がある。
     今思えば大丈夫なわけがない。馬鹿なことを聞いた。
     それでも、問われた実弥は「何が?」と返してきた。大丈夫でも、助けてでもなく、まるでなんて事のないように。
     きっと周りの年齢だけは大人なやつらは誰も実弥を守ってなんてくれなかったのだろう。見えている現実は目を手で覆って見ないようにして、実弥が大丈夫と返す上っ面の言葉だけを安心材料として問題無しなんてラベルを貼り付けた。
     実弥は生贄だ。
     誰もが自分に火の粉が降りかからないように実弥を差し出している。生贄が殴られていれば『コッチ』側は何もないのだから。そんな生き方をもしかしたら生まれた時からずっと実弥はしてきたのか。そう思ったら目の前が真っ赤になるほどの怒りで指先が震えた。
     誰も実弥を守ってくれない。過去も今も。だから実弥は助けを求める方法すら知らないのだ。

    「ッ……ふざけんな!」
     
     机に叩きつけた拳から血が滲んだけど、こんなの痛みのうちに入らない。実弥は痛くても痛いとすら思ってない。それが当たり前だから。そんなの許せるわけがない。
     俺はまだ未成年で親の庇護下にあるから出来ることなんて高が知れている。でも、守ってやるなんて偉そうなことは言えなくても、側でその手を握り、その肩を抱いてやりたい。実弥には一人でも味方が居るって感じて欲しい。
     
     周りをうろちょろしだした俺を実弥は変な生き物かのように見ていたが、そのうち諦めたのか何も言わなくなった。
     時々実弥の背中に手を添えても目線をこちらに寄越しては目を伏せるだけ。でも、それで良かった。殴られた痛みを治してやることは出来なくても、せめてその半分を引き受けたいと思っていたから。


     家で宿題をしているうちにどうしてもコーラが飲みたくなって、音を立てないように家を抜け出した。面倒だけど家の近くの自販機にはコーラが無いから少し遠いところまで行くしかない。こんな事なら学校帰りに買っておくんだったと思いつつ、へたれてきたビーサンを履いて目的の自販機まで歩きだした。
     国道沿いにある種類が豊富な自販機で無事にコーラを買い、冷たいうちに飲んだ方が美味いだろうと我慢出来なくてキャップを捻る。一口飲めば喉を落ちていく炭酸がまとわりつくような暑さを少しだけ忘れさせてくれた。ここは海が近いから潮の匂いが家にいる時よりも強い。
     ガードレールに凭れつつ、また戻るの面倒だよなと視線をやった道路の向かい側。そこによく見知った姿が見えてきゅっと心臓が冷えた。見間違えじゃない。あんなに目立つ容姿を例え夜であったとしても間違えるわけがない。
     実弥だ。実弥がいる。でもなんで?
     実弥の家は俺の家よりも山側で、ここまで歩いてくるには遠い。歩けないわけじゃないけど、こんな平日の夜にわざわざ来るような距離じゃない。歩き方もどことなく不安定で、まるで迷子のように頼りなく見えた。
     呆けている間にかなり距離が空いてしまったが、車が来ていないのを良いことに横断歩道ではない場所を斜めに突っ切ってその後を追いかける。なんとなく嫌な予感がする。
     間に合え、そう思いながら。

     ふらついているのに実弥が歩くスピードは意外と早くて、俺が追いついたのは砂浜に降りてからのこと。海が見たかっただけかと思いきや、実弥は止まることなく海に近付いていく。
     咄嗟に「実弥!」と叫んだけれど、聞こえないのかとうとう海の中へと入っていってしまった。

     駄目だ! こんなところで終わらせるもんか! 実弥は絶対に幸せにならなきゃいけないのに!
     全力で走ってもビーチサンダルではスピードが出やしない。おまけに砂に足を取られて思うように前に進めない。
     実弥! 実弥! と喉から血が出るかと思うほど大声で叫び続けた。ここで叫ぶことを止めたら失ってしまうと思って怖かった。

     追いついたのは本当に奇跡だと思う。その細くて薄い肩にやっと手が届いた時には二人とも腰まで海に浸かっていた。
    「馬鹿野郎!」
     間に合った安堵で叫んだら、実弥は目をまん丸にしてびっくりした顔をしていた。
    「まだ何も……何もないのに! 死ぬなんて許さない!」
     生贄にされてしまったまま、痛みすら痛いと言えずにこの世から消えてしまうなんて許すもんか。
     ほんの少しの、当たり前の幸せを感じることなく居なくなるなんて絶対に駄目だ。
     情け無いけど、泣きながら次々と実弥に訴える。

    「俺が絶対に隣に居るから生きろよ!」

     そう叫んだ後、目の前のまん丸に見開いた実弥の目から涙がポロポロと零れ落ちて、やがて俺にしがみついて実弥はわんわん泣いた。俺もその細い身体を力一杯抱きしめて同じように泣いた。

     月の光だけが海に差し込んで、とても静かな夜。
     痛いも苦しいも、助けても嬉しいも幸せも。全部口に出して言えなかった実弥の口から、波の音にかき消されそうな微かな音が届いた。

    「匡近……痛いよ」と。

     それはとても小さくて頼りなくて、でも俺にはひとすじの光のように思えた。言葉を持っていなかった実弥にも、ようやく光が届いたのだ。まだ何ひとつ問題は解決していないけど、確かにこの夜、実弥は生まれ変わったのだと思う。

     それから俺たちは海の中で互いの体温と心臓の音を聞きながら、ずっと抱き合って泣き続けた。
     それは永遠にも思えるようなそんな時間だった。
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭💒😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works