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    yue.sunet

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    #2403ソファ棺10 小説再録です。

    ドちゃん過去捏造。歴史に詳しくない人間が書いています。

    別頁にイラスト付きの同じ文章があります。ディスプレイが大きい方はイラスト付きの方をご覧いただけると嬉しいです。

    #2403ソファ棺アフター
    #2403ソファ棺10
    #ロナドラ
    lonadora
    #ロナルド
    ronald.
    #ドラルク
    drake

    întunericul nopţii sau Cer albastru 夜の闇と空の青 私が生まれた十九世紀は、魔女狩りこそ衰退して形骸化していたが、 古来より続く宗教、思想の相違、人ならざる者への恐怖心から来る、差別や偏見等が原因で、我々を筆頭に、人外は弾圧され続けてきた。
     人ではない異形のモノ、夜に生きる吸血鬼、悪魔を筆頭にした魔族、竜族、 妖精、巨人に小人、人魚・・・
     我々「ヒトデナシ」は、人間によって、十字架、 銀の杭、葬式を再び行う、銀弾、大蒜、祈祷、聖水・・・
     
     あらゆる手を用いられて、 一方的に、
     或いは闘い敗れて、闇に、 もしくは、

     完全な 『無』 に還されてきた。


     無論、ヒトでない者の中には、人間を襲うものも少なくはなかったが、 多勢に無勢で多くの同胞が消滅したり、種族ごと滅んでしまった。


     我々吸血鬼は人間の血がなければ生きてはいけない。
      故に我々は吸血鬼と呼ばれる種族である。


     同胞の中には、催眠や暴力で人間から血液を奪う者もいたが、私の血族は 人間と友好な関係を築いていくことを、血族の当主である 『御真祖さま』こと 私の祖父が「そうあれかし」と望んだ為、ヒトに対して好意的であった。 我が血族は人間を自らの居城へ招きいれ、馳走で歓待し、友好的な人間から 血液をわけて貰う事で『食事』を摂っていた。
     お父さまの友人には、強力な魅了の能力で、好んでうら若き女性を 侍らせ、吸血するいけすかない氷笑卿を通り名にする者もいたが(悪趣味な 性癖だ、あのヒゲめ) それでも決して無理強いせず、吸血は 同意の上で行なうという、決して逆らえない『掟』をもつ我が血族は概ね 人間と良好な関係であったと言えるだろう。

     それでも人間はヒトデナイモノであるというだけで、恐怖し我々を迫害しようとする。 物語の人魚姫は王子に選ばれず自ら泡になった。 お菓子の魔女は竈で 灼かれた。いくら吸血鬼が人にはない能力や力を持っていたとしても、 人間には、経験から学ばれた知識、技術、道具があり、この均衡はいつも 危うい針の上の天秤だった。


     竜の血族の直系であるというのに、私という吸血鬼は、何処までも 他に類を見ない程に弱く、骨に皮が貼りついているかの様に痩せこけ、 そのうえ吸血鬼らしい能力にも恵まれず、ただひとつ誇れる事は 「再生」出来る、ただそれだけだった。

     寒くては死に、転んでは砂になり、棺の蓋に頭をぶつけては塵と化して、雷鳴に驚けば身が崩れる程の儚さだった。ただ何度も姿が塵砂になろうとも、これだけは私が唯一誇れる再生能力で、すぐにヒトガタを取り戻す 事が出来た。
      だけど、砂状態の時に、その塵砂が風や水に流され散逸してしまっては 『私』という自我は喪失してしまうかもしれない、とご真祖様が仰られた。


     だから私は、両親を筆頭に血族全てに溺愛され、死なないように、 損なわれない様に、溢れない様に、こぼれない様に、繊細な硝子細工より慎重に、大事に大切に、鳥篭の様な城の中で育てられた。城の中は安全で、血族がいて、 だけど退屈だった。

     私は享楽主義者の多い吸血鬼の中でも特に好奇心が強くて、刹那的な性格 だったから、死んで砂になる事より、退屈を紛らわす事に心血を注いだ。

     夜の薔薇園は月の光が色とりどりの花弁を反射して美しかったし、 お父様が人間に変身して買ってきて下さる本は一番の娯楽だった。物語の中では、私は何者にもなれた。誰より強い勇者にも、極悪非道な魔王にも。囚われの姫君にも意地悪な魔女にも。世界を旅するジプシー(ロマ)や吟遊詩人にでも、何者にでもなれた。寵愛を一身に受けて育てられた為、完全無欠な登場人物になり切られる、完璧な魅力が自分にあると信じて疑うことはなかった。
     
     挿絵などの絵画も嫌いではなかったが、文字で綴られる物語の方が、想像の 余地が入れられる分好みであった。なかでも、Johann Wolfgang von Goethe という、私と同じ時代に生まれた人間の紡いだ詩や戯曲、小説はたいそう 面白く、科学、生物学、地質学、哲学、汎神論、政経学、帝王学等多くを学んだ。

     その膨大な著書でも、何故、我々 がが迫害されるかはわからなかったけれど。



     私が少死成長した頃、城の外の世界では露土戦争という同族殺しが始まり、 我々人外の者は、更に身を隠すようになった。


       血がいっぱい流れていくよ。

       誰の空腹も満たせず、哀しみで胸を満たす真っ赤な血液が大地に流れるよ。

     御真祖さまが仰った。
     私は「人間同士で争い合っている間はわたしたちの血族は安泰ですね」と 無邪気に笑った。
     大きな手で、頭を撫でられた。


     勿論弊害もあった。戦争のせいで面白い本がどんどん減っていって、愛国心の為 自らを犠牲にせよ、という趣旨の本ばかりになった。

     つまらない。

     私は御真祖さまの 何世紀にも渡って蒐集された古今東西の膨大な過去の蔵書に享楽を求めた。紙ではなく皮や石板、 大きな葉に刻まれた物語もあった。 ねぇ、その昔はね、地面は平らで、大地は蛇や象、亀が支えていたんですって。 東洋では腋から仏になる赤子が生まれたそうです。 お母様の故郷の国では、混沌から大地ができて、そこで神の姉弟が喧嘩 して太陽神の姉君が隠れてしまったから夜が明けなくなって、それで太陽を再び 呼び戻す為に、とても愉快な宴が催されたんですって。私もその宴に参加した かったなぁ。 私の故郷の近隣の神話では、色恋や横恋慕、近親相姦、戒めを孕んだ宗教的な物語ばかり だったのに、お母様の故郷の物語は素敵だな、と思った。落語という滑稽話も お気に入りだった。

     吸血鬼の能力には目覚められなかったが、語学や読解力、美辞麗句、社交辞令に罵詈雑言、詭弁、口論の才能に恵まれたのは弁護士のお母さまの血筋かな、と 滅多に会えない母を恋しい気持ちになるのはこういう時だった。



     生まれた時から食が細く、血液はあまり好んで飲みたいと 思なかった。口の悪い血族に「外見完璧純粋吸血鬼中身薄羽蜉蝣」と言われた (その血族はお父様に酷く折檻されたが) 事もあった。 全くもってその通りの姿だからそう言われても仕方ない。
     だって完璧な吸血鬼なのだもの。 それは、そう。

     生き血は胃に凭れるし、何より私の牙は皮膚を貫くには顎の力が 足りない。瓶詰めの血液はすぐに鮮度が落ちる。薔薇の生気はそれほど 栄養にならないし、もしゃもしゃして美味しいとは思えないうえ、 咀嚼した後、口から出さなければいけないのも無作法だと思う。 せっかく綺麗に咲いていたのに。
     温めた牛乳は飲めたが、それだけでは、吸血鬼として成長していくには足りないものがある。

     少量でも血液がないと 吸血鬼は躰を保てない。


     御真祖さまが、 交配された種の毛の焦茶色の牛から搾って きた新鮮な牛乳に、蜂蜜、夜明け前に摘んだ薔薇の雫、
       そして新鮮な血液を数滴。
     ちろちろと御真祖さまの指先から灯される小さな炎に温められた 「特製ミルク」はとても美味しくて、よくねだって作ってもらった。


     御真祖さまは、自分で作るともっと美味しい、と言って、私に料理を教えてくれた。いつか将来、お前が昼の子を招いて料理を振舞って美味しいと言ってもらえたら、ちょっとだけ血を分けてもらえるかもねと。 私があんな恐ろしい人間を招く 共に過ごす 有り得ない 普段から何を考えているかわからない御真祖さまnの真意は、私には理解出来なかったけど、本に載っている料理を作るのは、物語の世界に込むようで楽しかった。出来ることが増えるのは、満たされる。吸血鬼の中には人間と同じ食事ができる者もいる為、彼らが、美味しい腕を上げたな、と言ってくれるのは、こそばゆく嬉しかった。
     ヒゲの師匠だけはまだまだ未熟だと言ってたけど、私の作ったスコーンを残したことはなかった。


     それだけ愛情と栄養を与えられて育ったにも関わらず、私の体は皮膚の 上から骨をなぞられる程、痩せこけ、手足は昆虫の触角の様に細く 長かった。上背のあるお父さまやお祖父さまの血筋か背は高く伸びた。 この貧相な体型を隠すために、黒いマントに身を包んだ私に姿は 、遠くから見ても絵画に描かれる様な、古典的で恐ろしげな風貌の 『吸血鬼』そのものだった。
     さすが我が息子、完璧だよとお父さまが褒めてくださった。



     二十世紀に入って間もない頃、ルーマニアの城では風聞でしか知らなかったが、 世界の国全てが対立しあう大きな戦争が勃発したらしい。たくさん人間が同族同志で殺し合い、 屍が累々と生まれたらしい。我々吸血鬼は死体の血液からは栄養をとることが出来ない から、他人事だった。
      いけすかないが、教養高いヒゲの師匠の元で修行 という名目の礼儀作法を学んでいるうちに、世界を巻き込んだ大きな大戦は、二度も勃発し、ヒトの科学が産んだ殲滅兵器でひとつの国が焦土と化して終焉したらしい。 その地はお母さまの故郷である日本という小さな島国であった。

     その日本という国は、元々の国民性なのか、大量の戦死者への追悼か国民総動員と言って婦女子老人をも同員させた改悛の為か、戦後みるみる復興して、治安が良くなって きたと、風の噂が流れてきた。そしてお父さまが、日本へ移住することを決めた。日本と いう国は古来より鬼や妖怪という異形に寛容な国であったのも理由のひとつだろう。 百鬼夜行という異形達のパレード、是非私も見てみたい。日本に同族はいるだろうか。

     日本への移住を機に、私は血族から離れて独り立ちすることにした。

      
      否、独りではなく、私と
       私の為に世界を半周して来てくれた、愛すべき使い魔のふたりで。

     お父さまは泣いて心配したが、祖父である御真祖さまが、罠のたくさん設置された 城を用意して、賛成して下さったので、都心部からそう遠くない、けれど静寂とインフラの整った、僻地である伊奈架町に居を構える事になった。 お父さまは、 その羽ならひとっ飛びで私の城にやってこられる距離にある、栃木に城を築いた。 弁護士として世界を飛び回るお母さまが父の城に帰る事は滅多に無い様であったが。


      御真祖さまが独立祝いだと、私の城の周り一面に向日葵の苗を植えて下さった。

     太陽の色の花であると、この花は昼間の太陽の色だと仰った。
    いつか昼の 空の色の薔薇ができたら見せてあげる、と稚気めいて仰ったから、その時は棘を 抜いて下さいね、棘が刺さると死んでしまいます。と答えた。


     日光で死ぬ私は昼の色を知らない。故郷の城には、吸血鬼に頻繁に贈られてくるという青空の絵画が飾られていたが、私は本物をこの目で見たことがなかった。 絵画の空の青は、城にあった宝石の色の模造品の様で、私の好奇心を擽らなかった。 サファイヤ、タンザナイト、アクアマリン、ラピスラズリ… 屹度こっちの方が
    キラキラして、瞬く星のようで綺麗だろう。
     
     時折、というには頻繁に、お父さまが上等な血液ボトルを差し入れにいらして下さったり、ホリディシーズンや、御真祖さまの思い立った時に血族が集まるパーティに参加することもあった。それも面倒な時もあるが、まぁ、楽しい。 (御真祖さまが張り切り過ぎ なければ、であるが。勿論そんな事は滅多にない) 日本の風習で、お年玉という お小遣い目当ての時が殆どであったが。日本、良い国ではないか。

     戦後移住して暫くは、娯楽に飢えていたが、人間の技術の進歩は、 素晴らしいもので、城の中で楽しめる本以上の娯楽を、人間は次々とたくさん生み出してくれた。
     独立する前は滅多に城から出ることはなかった上、好奇心を擽られた 「映画館」に入る為には耳を丸め血色を良くし牙を隠す、という変身を しなければいけなかったが、生憎と私に変身の才能はなかった。 御真祖さまが映写機を城に据えつけて下さったので、娯楽室で映画も観られたが、当時の主流であったラブロマンスや、戦争映画、西部劇に私は 愉快さを見出すことが出来なかった。  Chaplin や Harold loyd の作品は、滑稽で面白いと感じられたが。もっと破天荒なほうが私好みだ。

     テレビ放送も、私はそれほど楽しめなかった。テレビ番組のストーリーは、 二百年の間に読んだ本の内容ほどには面白いと思えなかったし、本の物語を 俳優がなぞっているだけに見えた所為もある。テレビ番組はそられなかったが、『テレビゲーム』という娯楽に、私は熱中した。

      それはもう熱烈に。

     自分の儘ならない体より、私の操作で思うままに動き回り、縦横無尽に 冒険するキャラクタ。逆に、この私よりすぐ理不尽に死ぬ主人公。 ヒゲの師匠の好みそうな囚われの姫君を悪い敵から救い出すゲームより、軍師よろしく戦略を練って、繰り返し繰り返しやりこんで、苦労した果てにクリアできる 没頭感のあるゲームの方が俄然燃えた。どうやり込んでもクリア出来ない ゲームはさらに燃えた。 今まで読了した本はすべて終わりが決まっていた。 だが、これらバグだらけのクソゲーは、エンディングが作られて無い キャラクタが全て同じに見える 画面が固まる 全てが可笑しくて、 思い通りにならないのが愉快で、俄然プレイを続けた。 こんな些細なバグ程度、私が竜の一族の直系であるにも関わらず、すぐ死ぬ吸血鬼 であることより可愛げがあるではないか。
     勿論私もジョンも完璧に可愛げの塊であるのだが。

     余りある時間を、ゲームばかりして生活していた。今の時代は便利で、 こんな辺鄙な伊奈架町でも、新鮮な牛乳も、新作ゲームも、最近はあまり頁を捲らなくなって久しい本も、愛しい使い魔の為に作るお菓子や食事の材料も、 すべて配達してもらえる。最初は城の外観に怯えていた配達員の若い人間も、私自身がフレンドリーで、悪意も害意もない善良な吸血鬼であると認識してからは、重い荷物を奥の方まで運んでくれる程迄に親切にし れた。お礼に 差し入れたクッキーが美味しかった所為かもしれない。

     これほど愉快な娯楽を生み出せる人間という生き物は、もしかしたら我々 吸血鬼より享楽主義なのではなかろうか

     日本という極東の、都心部から離れた伊奈架町という、屋外に娯楽の場が 少ない閑静な田舎に住む人間が、土地に全く似つかわしくないこの城の事をどう感じていたかは、私にとっても予想外の事であった。

     だから、この娯楽の無いこの地の住民にとって、丘の上に屹立した尖塔と ガーゴイル、そして先端の鋭い鉄格子に彩られた、禍々しいクラシカルな 私の城に (正確には御真祖さまのものであるが) に好奇心旺盛な人間達が 興味を持たない筈がなかった。ルーマニアではあり触れている西洋式の 城も、日本の四角い城しか見慣れていない日本人の好奇心を大いに刺激していたらしい。伊奈架町の物見高い住民は、この恐ろしげな城に棲まう 黒衣に身を包んだ、痩身のヒトでナイ者は


    「真祖にして無敵の恐ろしい吸血鬼」


      であると畏怖し、噂を聞きつけた性根逞しい観光業界が、遠巻きに城を 眺められるバスツアーまで運航させたり、何だかよくわからない 『真祖にして無敵の吸血鬼』をモチーフにした土産菓子まで作られていて、 私と我が居城は、私の預かり知らぬ所で、伊奈架町の町興しのダシにされ、観光客誘致におおいに貢献していたらしい。

     まぁ面白いし、畏怖されるのは吸血鬼の本能で好ましく、文句はないの だが、今更私の正体が「真祖にして無敵」なのは外見のイメージだけで、実際の 私は、優秀な血流の一族からあぶれ出た、すぐ死ぬ出来損ないだと、言い 出せる雰囲気では、とうの昔になくなってしまっていた。 まぁいいさ、唯一関わりのある配達員達との関係は良好であるし、町中を闊歩する勇気は私には無い。 実害さえなければ好きにすれば良い、と思っていた。

     そして、いつものように夜になって目を覚まして、近づいて来る足音に、 待ちに待った新作ゲームの配達人かな と小走りに扉へ近づいた瞬間、 私は急に砂塵になっていた。 何が起きたかわからなかった。 そして再生した瞬間、


      私は見てしまった。

      この瞬間に消滅してもいいとさえ思った。

      この目が映してしまったからだ。

      昼の空の色。

      こんなにも美しいものだったのか。

    絵画や写真、映画、テレビなんかとは比べ物にならない、一度でも 見てしまったら惹きつけられて、瞬きすら、惜しいと思える美しい色。 磨き上げられた宝石より、夜空に輝く月星より美しいものがあったのか。



     私はこの空の色を、誰よりも近くで、永遠に見ていたいと思った。



                                                                             〜fin〜
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