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    C7lE1o

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    C7lE1o

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    ・だいぶネガティブな篭手切くんを書きたかった
    ・松井がちょっと元気な個体
    ・そうこうしてたらおんすていじが発表されて爆発したけどなんとか書き上げたい

    #篭手切江
    handCutRiver
    #豊前江
    toyo-maeRiver
    #桑名江
    sangMingjiang
    #五月雨江
    mayRainRiver
    #村雲江
    murakumoRiver

    ネガティブ篭手切江(仮)「……ねえ、ずっと思ってた事があるんだけど」


    お腹も膨れた昼下がり。江の五振りに与えられた部屋の中、示し合わせるでもなくテーブルを囲み思い思いに過ごしていた時。ためらいがちに手を上げた村雲江によって、心地よい沈黙はそっと破られた。


    「うちの篭手切江って他の本丸の篭手切江と随分違わない?」


    「……そのことなあ」

    座布団を枕に寝転がっていた豊前が伸びをしながら起き上がる。
    そう。村雲が切り出してくれた『そのこと』については皆少なからず感じることがあった。
     
    「そうだね。僕もそう思っていた」

    「演練で見かけた篭手切は皆、俺なんかに目が合うと嬉しそうに会釈してくれるけどね」

    「この本丸の篭手切は、なんというか、目が合う以前の問題なような気もしますが」

    読んでいた(目が前髪で隠れているので本当に読んでいたのか疑問だが、よしんば寝ていたとしても分からない)農業の本から顔を上げた桑名に、村雲と五月雨も同意する。

    この本丸の篭手切江は、秘宝の里で纏めて顕現した僕達5振りとは違い、半年も前にこの本丸へやってきていた。
    それからは他の江の刀達を迎える機会を待ちつつ出陣を繰り返し、その時が来た時には練度が最大に達するのももうまもなくだろうと言う頃であったという。
    そして迎えた秘宝の里にて、報酬として設定されていた篭手切江の次にやってきた豊前と顔を合わせようと言うところで、篭手切は意識を失い倒れてしまったのだそうだ。
    そうだ、というのはあくまで篭手切が倒れた瞬間に立ち会っていないからであって、実際その後に顕現した僕と桑名、五月雨と村雲が対面したのは布団に寝かされ意識のない状態の篭手切江であった。

    本来手入れ部屋というものは怪我をした刀剣男士以外は立ち入らないものであるそうだ。
    それは当然そうなのだろうと理解はしていたが、こんこんと眠る篭手切の幼さの残る顔が、悪夢の苦しみに歪む瞬間を見てしまったから。

    僕達はどうにも篭手切から離れがたくなってしまった。

    部屋を追い出されても前の廊下に居座る僕達を見た主が、今回だけ特別だからね、と困ったように笑いながら手入れ部屋を襖を開けてくれた瞬間、一斉に部屋の中に押しかけて襖を破壊しかけたものだからたまたま様子を見に来ていた御手杵という槍(篭手切と同じ部隊らしく、そういえば迎えてくれた隊の中に彼がいたような気がする)が音に驚いて慌てて駆け寄ってきたのを覚えている。


    「江の刀が来るのを楽しみにしてたからなあ。無理しちまってたのかも。
    俺と篭手切は顕現した時期が近かったから部隊も一緒で、気にかけてはいたつもりだったんだが……」

    御手杵は主が退出した後も手入れ部屋に残って、僕達が来る前の篭手切の話をしてくれた。
    気づいてやれなくてすまん、と両手を顔の前で合わせて申し訳なさそうにする御手杵を見て怒りなど感じるわけもなく。とんでもない、むしろ気にかけてくれてありがとな、と彼をお礼を伝えた。


    その後にやってきた五月雨と村雲も加わり、僕達は手入れ部屋で篭手切を囲みながら色々な事を話した。
    人の身体になれたらばいくというのものに乗ってみたい事、ここで育てられている野菜達のこと、瀉血のこと、本丸にあふれる季語のこと、お腹の痛みにも種類があるらしいこと。
    そして僕達がやってくるのを一振りで待っていたこの篭手切の事。
    今までの本丸での出来事を彼の口からも聞きたくて、そしてその瞳がどんな色をしているのかを知りたくて。
    僕たちは互いに言葉をかわし、時には魘される篭手切の手を交代で握ったり、返事がないと知りつつも積極的に彼を交えて話したりして、とにかく篭手切のそばにあり続けた。

    篭手切が意識を取り戻したのは僕たちの顕現から丁度2週間後、奇しくも出陣や内番などで僕たちが篭手切のそばにいない時であった。

    知らせを受け何時ぞやのように襖を破壊仕掛けながら手入れ部屋に駆け込むと、布団から身を起こした篭手切が目を丸くしてこちらを見た。
    バチッと音がしそうなほどはっきりと、美しい翡翠と目があった瞬間どうしようもなく血が沸き立ったのをはっきりと記憶している。


    ところが。

    「この前演練で一緒になった松井に聞いたんだけど、その本丸では篭手切を中心にれっすんを良くしてるんだって」

    「れっすん、ってなんだ?」

    「僕も詳しくは知らないけど、一緒に歌って踊ったりするんだって」

    「そんなこと頼まれた事ねえなあ……」 

    「……というか、そもそもの話なんだけど、最初以外に篭手切とちゃんと顔を合わせて話ができた人、いる?」
     
    会話が途切れるのを感じた一拍後、村雲がお腹を擦りながらポツリと呟いた。



    「「「「「………………」」」」

    「……ねえな」

    「僕も無いかなあ。松井は?」

    「僕も無いさ。顕現の時に挨拶したきりだよ。」

    「私も顕現以降顔を付きわせて話した記憶はありません」
     


    そう。実はこの1ヶ月、篭手切ときちんと会話できた記憶がなかった。
    正確には、彼の意識が戻って挨拶を交わしてから今に至るまで。
    あの時だって、病み上がりの彼を気遣い簡単に名乗ってすぐ部屋を後にしたものだから、挨拶以外の会話をしていないことになる。
    気にかかった事はもう一つ。
    それは言葉を交わしている間、一度も目が合わなかった事。
    部屋に押しかけた直後視線が交わった事を覗くと、本当にただの一度も合わなかった。

    それは僕だけではなく、他の皆も同じようで。


    「どうやられっすん以前の問題のようですね……」
     
    「出陣が別なのはまだ分かるよねえ」
     
    「桑名の言う通り、僕達より練度が上限間近の篭手切と1ヶ月前に顕現したばかりの僕達じゃあ釣り合わないし……」

    「でも内番なら、1ヶ月あったらだれかしら篭手切と組んでもおかしくねえか?だって俺たち、同じ江の刀だぜ?」

    そう、僕達は刀工を同じくする刀だ。
    この本丸においては、顕現した刀剣男士の同派や縁のある者たちが指南役として後輩に本丸での決まりや過ごし方等を事を教える決まりとなっている。そう最初に説明を受けた僕は、なんの疑いもなく篭手切が指南役となってくれるのだと思ったのだ。

    だがそうはならなかった。本丸全体の事を教えてくれたのは初期刀の山姥切国広。
    そして出陣や内番、食事、入浴などの細かい指南役は、豊前には博多藤四郎が、桑名には蜻蛉切が、五月雨と村雲(村雲が五月雨と一緒がいいと半泣きで所望した)には後藤藤四郎が、そして僕には歌仙兼定がついてくれることとなった。
    もちろん彼らに不満があるわけではない。あるわけではないが、ほんの少しだけ残念だった。
    おまけに、僕達5人は同室だが、篭手切だけは別の部屋である。しかもすごく遠い。
    顕現した時期が違うから、と言われてしまえばそれまでだが、何故だが胸のあたりがモヤモヤした。



     
    「……なんか、ここまでくるとちょっと避けられてるみてえだな」

    まさか、とは誰も言わなかった。
    ここまで遭遇しないとなると、もう避けられているとしか思えない。
    だがそれを口にするには皆、心の練度が足りていなかった。
    実際口火を切ってくれた豊前も自分の発した言葉にちょっと傷ついた顔をしている。
     
     
    「……最初は俺が二束三文だから避けてるのかと思ったけど、それだと皆まで避ける理由にはならないよね」

    「僕も初めはすごく人見知りなのかなって思ってたんだけど、他の男士とは普通に話してるのを見たし」

    「なんで僕達をさけるんだろう……知らないうちになにかしちゃってたとか?」

    「でも出会ってからまともに会話もできてないんだよ?何もしようがなくない?」

    「だよなあ……」


    その日の話し合いは実質これで終わり。
    理由はわからないが、自分たちが篭手切に避けられている、という事実だけが浮かび上がったところで夕膳の呼び出しがかかった。

    僅かな期待を込めて広間に向かう。僅かな期待を込めて目を配るが、やっぱり今日も彼の姿は無かった。



    3日後。

    「……ではこれより」

    自分に注がれる8つの眼差しに応えるように、僕は手に握るペンの蓋を引き抜く。

    「『篭手切と仲良くなろう大作戦会議』を始めようか」

    会議名とはちょっと釣り合わない空気と、彼らの真剣さを可笑しく思うものもいるかも知れない。
    だが僕それを指摘できるであろうか。
    否。
    なぜなら僕も篭手切と仲良くなりたいから。
    せっかく同じ本丸に顕現したのに、今の距離感はあまりに寂しい。
    以前の僕ならそちらが避けるならこちらだってそうさせてもらうとばかりの対応を取っていた自信があるが、この本丸で過ごした1ヶ月と少しですっかり作り変えられてしまった。
    だって、豊前と、桑名と、五月雨と、村雲と、そして気にかけてくれる仲間達と送る本丸での生活が楽しくて。
    実際、演練で他の僕に出会う度に随分楽しそうだと驚かれるほどだ。

    血を浴び血を流し続けるのが己の業だという気持ちは変わらない。
    それはおそらく、これから先も。

    だが周りを見れば豊前が、桑名が、五月雨が、村雲がいる。
    できることならその中に篭手切もいてほしいなと、欲深くなってしまった僕は思うのだ。
     

    そんなわけで僕は今、僕達の純粋な真剣さのもと始まろうとしている会議を笑うものがいたとすれば、その身に流れる血を全て抜き去って然るべき機関へ寄付してやる心づもりをしている。心当たりのあるものは各々注意されたし。


    「……よし、じゃあ俺からいいか」

     
    前回の話し合いの後、できれば次回までにいくつか案を考えてくるよう提案した豊前が挙手をする。
    どうぞ、と発言を促すと同時に念の為人数分用意していたペンを豊前に渡した。

    「まず前提として、俺たちは顕現して1ヶ月経つ。
    だがその間、出陣も内番も遠征も、誰も篭手切と組んだ、もしくは同じ隊に配属になったことは無い。顕現した日以来まともに顔を合わせた奴もいない。ここまでいいな」

    ホワイトボード変わりとして用意したA3紙に、情報を書き込みながら話す豊前に皆頷く。
     
    「どうやら篭手切は俺たちを避けているらしい。けど誰も心当たりがない。なにせ顕現以来話したことねえからな。
    で、だ。思ったんだが、まず考え方を変えてみねーか?」

    豊前の言葉に今度は皆が一様に首を傾げた。

    「と、いうと?」

    「確かに篭手切には会えてねえ。けどそれを「避けられてる」って判断しちまうのは時期尚早なんじゃねえかと思ってよ。
    例えばだけど、俺も含めて自分から篭手切を探しにいったり会いにいった奴、いないんじゃねえか?」

    発言をまとめる為にノートを広げようとしていた手が止まった。

    「……皆に関しては分からないが僕に関して言えばそうかも知れない。その、話してみたい気持ちはあるのだけれど、緊張してしまって……」

    「俺もそう、自分から探しに行ったことはないかな……。二束三文の俺から話しかけられたくなんか無いかと思って……あ、まってお腹痛い」

    「つまり豊前は、私達と篭手切が接触する機会が無かったのは篭手切がこちらを避けているのではなく、こちらが積極的な行動を起こしていないから篭手切と会うことがないのではないか、と。そう言いたいのですね」

    お腹を抱えて丸まった村雲の背中を擦りながら五月雨が首をこてん、と傾げて言った。

    「おー。顕現して1ヶ月やそこらの俺たちでも出陣やら内番やらでそこそこ忙しいだろ?ならもっと前に顕現してる篭手切は俺たち以上に忙しいんじゃねえかと思ってな。いくら全然会えてねえそしても、篭手切だけに理由を求めるのはちげーんじゃねえかって……。うまくいえねえけど……」
     
    あーくそ、なんて言ったらいいかわかんねえな、と前髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。それさえ様になるなあと思いながら豊前の肩をそっと叩いた。

    「大丈夫、分かるよ。確かに自分から篭手切を探しに行ったりすることは無かったよね」

    「なのに会えないのは避けられてるからだって決めつけるのは、確かに早かったかも……」

    「では、どうしますか?」

    「決まってんだろ。行動を起こす!」

    放たれた言葉は会議の進捗としてはノート1行分にしか満たないものだったが、発言者が豊前だと言うだけでかなり進展した気がする。
    さすが豊前。深く頷いて、次の議題を纏めた。


    その後、内番や他の刀達から呼び出されるなどして参加人数は変動したが会議は続けられ、時には呼びに来たり通りすがりの刀達の話も聞いて着々と進んでいった。
    僕達と篭手切の距離感について不思議に思うものも少なからずいたようで、自分たちのほうで話を聞いてみようかという申し出もあったが、気持ちだけ頂戴しておいた。僕に関して言えば半ば意地のようなものもあったが、まずは自分たちで動きたいのだと言えば皆納得し応援してくれて、自分の持った感情を少し情けなく思ったのは別の話としておこう。


    以下、簡単に会議の発言と、発言者を記録したものの一部である。


    【篭手切から避けられてる(仮)件について】
    ・こちらから行動を起こさない内に避けられていると決めつけるのは早い(豊前)
    ・篭手切もすごく忙しいのかも(豊前)
    ・こちらから篭手切に会いに行ったものはいないのでは?(豊前)
    ・ならこちらから篭手切に会いにいこう(桑名)
    ・でもいきなり会いに言っても何を話したらいいかわからない(松井・村雲)
    ・各々得意な分野で接触すればよいのでは?(五月雨)
    ・話しかける内容を予めいくつか用意しておけばいいかもしれない、例えば食べ物とか好きな野菜とか、野菜って言えばここの畑って(以下畑の話・略/桑名)


    【こちらが取る行動について】
    ・話しかけに行く(桑名)

    〈話題候補(軽めの話)〉
     ・好きな食べ物や野菜について(桑名)
     ・内番について(村雲)
      →世話係の男士に聞けばといわれそう(村雲)
     ・季語について(五月雨)
     ・本丸について(豊前)

     ・買い物に誘ってみる(通りすがり/歌仙)
     ・一緒にご飯を食べる(桑名)
     ・脱ぎ合う(通りすがり/村正)
       混乱の為5分ほど中断
     ・手合わせ(五月雨の呼び出し/同田貫)
       五月雨、手合わせの為離席
     ・おすすめの本を聞いてみる(昼膳の呼び出し/水心子)

    ……等々。
    昼膳の後も話し合いは続いだがそちらは話を聞きつけた男士達をはさんでの雑談だった為省略するが、それでも有意義な話を沢山聞けた。
    ひとりで考えていたらこんなに案が出ることも無かっただろうと思うと、やはり話し合いというのは大切なのだなと感じる。
    では明日から実行してみよう、といったところで会議は終了。
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