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    C7lE1o

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    篭手切視点
    この本丸に私が顕現したのは、半年ほど前の事だ。
    殆どの本丸と同じく、己が最初に顕現した江のものとなった。
    少しだけ違ったのは、私は秘宝の里の報酬ではなく「」でこの本丸へやってきたという事ぐらいだ。

    だからと言って、やることは何も変わらない。他のほぼ全ての篭手切江と同じく、鍛錬とレッスンに励み他の江のめんばあの顕現チャンスを待っていた。

    皆さんがいらした時に、恥ずかしくないようなパフォーマンスをお見せできるように。
    これが歌って踊れる付喪神、江だと胸を張って言えるように。

    {そんな私の理想は、とあるきっかけにより崩れ去ってしまった。}
    ↑これいらんかも





    「ねえ、見て、水心子。あそこにいるのって、この間の報酬の刀じゃない?」

    あれは、目前に迫った秘宝の里の到来に、本丸中が沸き立っていた日の事だ。

    練度が上限に達するのも時間の問題であった私は、しばらくは積極的な出陣はほかの刀に譲っていた。
    だが同じ江のものなのだから迎えに行きたいだろうと、主が気を回してくれた為、久しぶりの出陣の為に身体を慣らす目的で、演練場へと足を運んだ。

    「おっ本当だ、にゃ」

    「笹貫……。話には聞いていたが、実際に手合わせをするのははじめてだな。」

    「まあ、俺たちも久々の演練だからな。毎日毎日馬の世話やら畑仕事やらで、錆びちまうかと思った」

    「とかいう割には、ちゃんと真面目にやるよね肥前は。前も同じ日に馬当番になった五虎退が、君の事を褒めていたよ。最初は怖い人かと思ったけど、自分にも丁寧に教えてくれたし、なにより馬が懐いてたって」

    部隊に編成されたのは、私の他に源清麿、南泉一文字、水心子正秀、肥前忠広、そして山姥切長義。
    私が以前出陣していた時のめんばあで、いずれも練度が上限に達したか、それに近い状態のため、最近は出陣はお預けになっていた。

    「肥前は一見怖いけど、ちゃんと優しいって事をわかってくれる刀がいてよかったね」

    「ああ。私達は同じ部隊で、戦場をともにしていたから知っているが、他にも理解してくれるものがいて良かった」

    「俺たち以外に友達できるか心配した、にゃ!」

    「……別に、仕事なんだから真面目にやらねえほうがおかしいだろうが」

    ぷい、とそっぽを向いてしまった肥前の耳はほんのり赤くて、皆で顔を見合わせて笑う。


    「こうして6人で集まって話をするのも、なんだか久しぶりな気がするな」

    「そうだな。最近はお互い忙しくて、君のレッスンに付き合う事も無くなってってしまったし」

    この5人は同じ部隊のめんばあでだというだけではなく、私にとってはれっすんに付き合ってくれる大切な存在でもあった。


    「確かに、もう随分集まれていないな」

    「中々予定が合わなくなっちまったもんにゃ」

    「水心子ってば、れっすんが無くても早めに起きて振りの復習をしてるんだよ。よっぽど楽しいんだね」

    「なっ!き、清麿気づいて……!?ゴホン!ふ、復習は大切だ!期間が空くのであればなおさらだろう!」

    「その通り。なればその成果を発揮する機会が欲しい所だね」

    そういうと長義さんはちらっと南泉さんへ視線を向ける。2人の目と目がばちり、と合ったかと思うと、南泉さんは少しだけ悪そうな顔をして、ぽん、と手を打った。

    「じゃあいっそのこと今度の江の歓迎会の出し物で踊るのはどうだ、にゃ!」

    「ああ、いいね!楽しそうだ!」

    「おい、俺はやらねえぞ」

    「え、肥前、やらないのか……?」

    「いいのかい?出し物で主から優秀賞が貰えたら、賞品でケーキバイキングのチケットが」

    「いつから始めるんだよ次のレッスンとやらは」

    案の定渋りを見せた肥前の返事に、心做しかしょんぼりした水心子さん、
    それをみた清麿さんが持ち出した情報に秒で食いつく肥前。
    以前はよく見かけていたやり取りだ。
    はじめの頃は、食事につられて参加したように見える肥前に無理を強いていないか、と不安に思ったこともあったが、南海太郎朝尊いわく、「彼は本当に嫌なら声をかけられる前に姿を消しているよ」とのこと。
    いつの間にかどこかへ消えているでも無く、なんだかんだこうして付き合ってくれているという事は、別に嫌ではないという事で。
    それを知っているからか、この流れすらもなんだか嬉しくて、胸のあたりがほんわりとしてくる。

    「さあ、最終目標がケーキバイキングに定まった所で、そろそろ出番のようだよ」

    「お前ら、準備はいいか、にゃ?」

    南泉さんの問に大きくうなずき、私達は久方ぶりの戦場へと駆け出していったのだった。


    歓迎会での曲目や、皆さんの衣装など、わくわくと考えを巡らせながら眠りについた、その日の夜。
    私は不思議な夢を見る。



    夢の中の私は、真っ暗闇の中に一人、ぽつんと佇んでいた。
    何の音も聞こえない。

    辺りを見回すと、遠くの方に光が差し込んでいるのが見えて。
    私は何の迷いもなく、光に向かって駆け出した。
     
    後もう少しで光に届く、と言う所で、光の中心に立つ人影に気がつく。
    逆光で顔は見えないが、それが誰か、頭が認識するより前に言葉が口から飛び出した。

    「りいだあ!」

    他の本丸の己が、そうしていたように呼びかける。
    光の中に入り、彼の手を取って、顔を見上げてみた。
    演練場で度々見かけたように、篭手切、と笑いかけてくれると、信じて疑わなかった。


    「……え」


    見上げた先でこの目に映ったのは、苦悶の表情を浮かべる豊前江の姿だった。

    「り、りいだあ……?どうかされ、っうわっ!」

    言い切る前に、背後から何者かに首を掴まれ、そのまま地面に引き倒されてしまう。

    痛みに呻き、倒れたまま辺りを見渡すと、私をぐるりと取り囲むように、6つの人影が立っていた。
    装束や顔立ちを見て、彼らが江のものであることに気づく。
    その表情は、皆一様に苦しげなもで、目には憎しみがありありと浮かんでいた。


    どうしてそんな顔をしているのですか。
    どうしてそんな目で私を見るのですか。

    声は出なかった。
    まるで喉が焼かれてしまったかのようだった。


    ふ、と目を開くと、見慣れた自室の天井が目に写り込む。

    起き上がり、時間を確認する。
    まだ丑三つ時と呼ばれる時間だった。

    朝には程遠いが、今眠ると先程の夢の続きを見てしまう気がして、二度寝をする気分にもなれなかった。

    同室の南泉さん、長義さん、姫鶴さんを起こさないよう慎重に部屋をでる。


    {顕現当初は一人部屋を与えられていたが、同じ部隊の面々と親しくなるうち、ならばいっそのこと同じ部屋で過ごさないかと誘いを受けた。
    それに2つ返事で了承し、最初は長義さんと、少しして2人だけでは心配だからと南泉さんが。
    そして、しばらくの間3人で過ごしたこの部屋に、最近新しい住人がやってきた。
    南泉さんと同派の、姫鶴一文字さんだ。
    この本丸の一文字は姫鶴さんを除けば南泉さんしかおらず、さらに言えば新しくやってきた刀剣男士のサポート役として、同派もしくは親しい関係性だったものが着くことになっている。
    気を使って部屋を出ると言った南泉さんを引き止める形で、今は4人で生活を送っている。}
    ↑これいらんかも


    乾きを訴える喉元に応じて、ひとまず厨に足を向けることにした。


    月の光を浴びながら、先程の夢について考えを巡らせる。
    夢の中の彼らのあの表情が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

    久しぶりの実践で疲れたのかもしれない。
    ええい、こんな事で疲れていて江のめんばあを迎える事
    などでききるものか!
    しっかりしろ篭手切江!


    むん、と気合を入れ直し、まずは喉を潤すために厨へ向かう足を早めた。

    大丈夫、少し疲れただけだ。
    しっかり休めば、明日には元通りになっている。



    そう、思っていたのだが。


    それ以降、私は毎晩のように夢を見るようになった。
    多少の違いはあれど、主な内容はさほど変わらない。
    毎晩のように、江の刀達が苦しげな表情を浮かべ、何かを訴えるようにただただ私を見てくるのだ。

    何か、私に伝えたいことがあるなら言ってほしい。
    そう思いつつも、夢の中の私は声を出すことができない。
    もどかしく思いながら夢を見続けていたある日、唐突にある可能性に思い当たった。


    もしかして、江の刀達は、私の事をよく思っていないのでは?

    何故そう思ったかと問われてしまうと、明確な理由は無い。
    ただ、私を貫く彼らの目が、あまりにも苦しげなものだから。

    そうかもしれない、程度だったのが、そうだとしか思えなくなってしまうのに時間はかからなかった。

    全ての江の刀がそうでは無いことは、演練などで見かける彼らの篭手切江への対応を見ていれば理解できる。
    ひょっとしたら、この本丸へ顕現する江の刀達はこうであるぞという、私への忠告なのかもしれない。
    誰からの、と聞かれても答えることはできないが。
    だって、あんなに苦しげに見つめてくるあの眼差に、ほかにどんな意味があるというのか。
    私には、到底わからなかった。

    いずれやってくるであろう江のものたちが、
    夢とは違うという確証も、夢が現実にならない保証だってどこにもなかったのだ。


    追い詰められていく私が魘され、飛び起きるようになってしまうのにも時間はかからなくて。
    呼吸を荒くし、震える肩を抱きしめてうずくまる姿を見られては、隠し通す事すらできなかった。

    心配した3人からから主へ相談する事を提案されたが、それは断った。

    これはほかでもなく自分自身の問題で、誰にもどうしよもないことなのだ。
    迷惑をかけて申し訳ないが、と謝罪の言葉と共に頭を下げると、南泉は慌てた様子の南泉の声と共に両肩にそっと手をかけられ、顔をあげる体制になってしまった。


    「こてちさあ、南くんがこの部屋を出て俺と同じ部屋に住む、って言った時、なんて言ったか覚えてる?」

    ズイ、と美しい顔立ちに視界が占領される。
    突然の事に驚き、言葉の出ない私の変わりに、長義さんが引き継いでくれた。

    「顕現したての頃は特に分からない事が多いし、内番や出陣で必ずしも猫殺し君と一緒になれるとは限らない。
    それに、部屋は身体を休める為の場所だけど、心が弱っている時に一人でいると、どんどん良くない方向に考えてしまう。だから、姫鶴が良ければ、せめて人の身に慣れるまでの間だけでも同じ部屋で過ごさないか。絶対にひとりにはさせません、と、君は言ったんだよ」

    そう言えばそのような事を言った覚えもある。
    が、それとこれとどう関係が、と口を開く前に姫鶴さんが答えを教えてくれた。

    「俺はさあ、それ聞いてすごい良い奴だなあって思ったの。だからもう十分本丸に慣れた今でもこの部屋に居座ってるわけ。ここまでいーい?」

    「は、はい……」

    私と向かい合わせになるよう、どっかりと腰をおろした姫鶴さんは、私の返事を聞き満足そうにうなずいてから続ける。

    「ん、いい子。そんで、俺から見たらこてちは今、すっごく弱って見える。理由はわかんないけどさあ。だから、そのー」

    一旦、言葉を切った姫鶴さんは、私の瞳をまっすぐに貫いて、こう言った。

    「俺をひとりにしない、って言ってくれたこてちを、俺がひとりにしたくないの」


    いつの間にか、肩の震えは止まっていて呼吸も安定している。
    だというのに、姫鶴さんの姿が歪み出し、口からはみっともない嗚咽が漏れだしたので、俯いて口を手で覆った。

    「ひ、姫鶴のアニキが篭手切を泣かせたにゃ……」

    「え〜?確かにクサイこと言った自覚はあったけど、そんなにい?」

    「まあまあ。言いたい事を全て言ってくれたから有り難いよ。ついでにさっきの「すごい良い奴」の中に俺を含めてもらえると大変有り難いのだけれど」

    「ず、図々しい奴にゃ……!」

    「心配しなくてもはいってるよお。嫌な奴と同じ部屋に居たりしないってえ。あ、もちろん南くんもねえ」

    「な、なんかついでっぽい……でもそう思っててくれて嬉しい!にゃ!」

    いつもと変わらない調子の会話の間にも、私の涙は止まる様子を見せず。
    それでも皆さんは呆れたりせずに、私を真ん中にして、並んで横になってくださった。

    「これって、川の字ってやつ?」

    「それだと一本多いにゃ……」

    「誰か呼んで来るかい?肥前とか」

    「それだともっと川の字から遠ざかるしよりによって一番こなさそうな奴……!」

    私を挟んで控えめに飛び交う声を聞いている内に、あれだけ眠るのが恐ろしかったのが嘘のように、ストン、と眠りについた。












    その翌日。とうとう始まった秘宝の里の攻略は順調で、あっという間に最初の一振り……豊前江が顕現した。

    朗らかなに挨拶をしたりーだーに部隊の皆はワッと駆け寄るが、私はその場から動けないまま、ぼうっとその光景を眺めていてた。

    それに気づいた長義さんが篭手切、と私を呼び寄せてくれる。



    「ほら、彼も君と同じ江だよ」

    背中を押されりーだーの前に立たされる。
    その目が自分のほうを向いた瞬間、私は息をするのを忘れてしまった。

    端正な顔立ちに、これ以上無いほどふさわしい美しい紅玉の瞳は、愚かな私を呼吸ごと飲み込んだのだ。


    「篭手切?……っおい!真っ青じゃねえか!」

    うんともすんとも言わない私の顔を覗き込んだ肥前がそう叫ぶと、他の部隊のめんばあたちも近寄ってきて、口々に顔色が悪い、具合が悪いのかと口にする。
    僅かにできた紅玉の君との距離に安心しつつ、錆びついた機械のようにぎこちなく頷く。
    長義さんが私の額に手を当てたり怪我が無いか確認してくれるが特に外傷が見当たらずに首をかしげてるのがわかった。
    部隊のめんばあを困らせてしまっている事実と、後ろから感じる視線に耐えきれなくなった私はとうとうしゃがみ込み、そのまま意識を飛ばしてしまった。
    だから、これから述べることは見舞いに来てくれた同じ部隊の肥前忠広と源清麿、水心子正秀が教えてくれたことだ。


    突然意識を失った私に隊は慌てふためき即座に撤退、そのまま私は手入れ部屋に運び込まれた。
    その後隊は私の変わりにりーだーを編成して再び里へ挑み、日付が変わらない内に桑名江さんと松井江さんを迎えることに成功したそうだ。

    里から手入れ部屋まで私を運んでくれたのはりーだーで(それを聞いてまた気を失いそうになった)、りーだーも桑名さんも松井さんも、目を覚まさない私をひどく心配してくださったらしい。
    頑なに手入れ部屋の前から動かなかったので、根負けした主が特例ということでりーだーたちを手入れ部屋に招き入れたのだと教えてもらった。
    結局、彼らは本丸に来て初めての夜を手入れ部屋で過ごすことになったそうだ。

    それから私の意識が戻るまでの1週間、続いてお迎えした五月雨江さん、村雲江さん、せんぱい……稲葉江さんも一緒になり、
    出陣や内番など、やらなければならないことがある時以外は手入れ部屋で眠り続ける私のそばにいてくださったらしい。

    「なにせ、理由もわからず突然意識を飛ばし、それっきり目を覚まさないのだからな。我が主や私達はもちろんだが、江の者たちも酷く心配していたぞ」

    「南泉が主に報告していたのを聞いたのだけれど、ここ最近夢見が悪かったんだって?酷く魘されていたとも聞いたよ。主には言えずとも、僕達には話しておいてくれたって良かったんじゃないかな。同じ部隊の仲間なんだから」

    「おっしゃる通りです……」

    ぷりぷりしながらも目の奥にこちらを案じる光を秘めた水心子さんとにこにこしつつも「怒ってます」オーラを隠さない清麿さんに謝罪し、2人の少し後方、襖に背を預けて黙り込んでいた肥前にも声をかけた。

    「肥前も、迷惑をかけてすまなかった」

    私達の隊の脇差は肥前と私の二振りなので、私が抜けた後の彼の負担は察するに余りある。
    そう思い頭をさげたのだけれど。

    「別に。けど清麿の言う通り具合悪いならせめて同じ隊のやつには伝えとけ。動き方変わって来るだろうが」

    「ああ、その通りだ。本当に……」

    「……キ」

    「え?」

    謝罪を重ねようとした私より先に肥前が何事かを呟いた。


    「……っだから、ケーキだよ!歓迎会のは逃したが別件で券は手に入れた!悪いと思ってんなら付き合えって言ってんだよ!!」

    「……!!も、勿論!」

    「おし」

    なら良い、と早口に言い捨てると、肥前は用は済んだとばかりに足早に手入れ部屋を出ていってしまう。
    ふすまの向こうに消えてしまう前に、一瞬だけ垣間見えた肥前の耳が赤く染まっている気がした。


    3人で顔を見合わせた後、思わずくすくすと笑ってしまった。









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