御仕事 主の帰りは遅い。日付変更付近に、屋敷に帰ってはスープの様な軽い夜食を摂る。酒瓶を持って屋敷を徘徊し、出会った執事と杯を酌み交す。赤ワインは重過ぎて苦手らしい。
「さすがミヤジ、私の徘徊時間を把握してるねー」
見張り台でスパークリングワインを豪快に飲み干した主は、夜風を気持ち良さそうに浴びていた。
「主様が仰って下さった予定はちゃんと把握済だよ…無論、連絡が無いときは心配にはなるけどね」
「まぁね、予定は未定だよね」
構文だよ、と、主は笑う。
「ところでさ、ミヤジは子供の相手、疲れない?」
「疲れる事はあるが…やり甲斐を感じる事の方が多いかな」
「やり甲斐ね…私、その言葉は苦手だわ」
主の仕事は、子どもたちに勉強を教える事だと云う。勉強が苦手な子にはフォローを、出来る子にはレベルアップをさせるそうだ。
「本当、子供って嫌いだな…言語が通じないし理論も無いし矛盾だらけなんだもん」
そう言う割に、主は、休日も館で子供たちのために教材を手書きしている。
「でも、子供の成長や笑顔って、やり甲斐だよね…」
「やはり、主様は優しいね」
「私は優しくないって。」
ミヤジは穏やかに主を見つめる。そんな二人を、綺麗な三日月が照らしていた。
END 2023.09.18