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    8lCev

    @8lCev

    19↑
    今は平子受けを書いて描いています
    来年には藍平本を出したい

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    8lCev

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    五番隊の前任隊長←平 (モブ←平)
    平子が思い悩んでいるだけ
    ある歌をオマージュしてます

    #モブ平
    pung(orKong)OfAMob

    夏のはじまり 肌をなぞるように吹く風を感じていれば、繰り返される心地の良い低音が聞こえてくる。ここ十数年で聴きなれた声が鼓膜を震わせて心へと染み渡り、ピンと張っていたものがゆっくりと解していく。

    「ああ、やっと見つけた。こんなところに居たのかい。随分と探したよ、真子」

     重い瞼を緩慢に持ち上げ、くらむような眩しさに瞳孔が動けば、陽射しを遮った木影の中で顔を覗き込んでくる隊長の顔が目に入った。平子ほど長くはなく、拳西ほども短くはない、中途半端に長い髪が目の前で柔らかい風に揺れる。

    「ほら起きて。一緒に帰ろう。まだ山積みの書類仕事が残ってるから」

     枕にするため、頭の後ろに回していた腕を優しく掴んで身体を起こされる。促されるがまま立ち上がって死覇装の汚れを払った平子の少し乱れた髪に手を伸ばし、米神から差し入れた指で梳いて耳へと掛けた。
     家族に向けるような柔和な笑顔をじっと見つめて、脳裏に焼き付ける。春風のように穏やかなこの人が向けてくれるもの全てを忘れたくない。

    「急に居なくならないでよ。真子が居ないと僕は書類業務が出来ないんだから」

    「なんでやねん。俺が現世出張行っとっておらん時は一人でやれとったやないですか」

    「あれはちょうど拳西と一緒に彼が来てくれたから出来たんだ。一人であの量は難しいよ」

    「ふうん。そういうことにしておきますわ」

    「わぁ、信じられてないなぁ」

     なだらかな丘を並んで下りながら、頬を掻いてへらりと笑う隊長の横顔を見やる。細めの眉と垂れた目尻、二重の瞼の下で細い睫毛の影がかかる髪と同色の虹彩が、その温和な人格を現していた。
     隊長の言う彼とは拳西んとこの暑苦しい隊長のこと。二人は霊術院からの長年の付き合いらしく、隊長は彼と呼んでいる。よくある旧知の仲で、瀞霊廷内で鉢合わせた時に行われる掛け合いでもその関係を顕著に映していた。
     一歩下がった場所から視界へと納めた二人の姿を思い浮かんで、心に薄らと靄が生じる。
     思わず立ち止まって、深く嘆息した。
     表現することすら忌諱されるこの感情はどこまで理性を夢の中に置いていくのか。付き合いの長さゆえの親密さへと起こした悋気は、まるで煙をその形のままに手で捉えようとするにも似た愚かさで、想いの深さを再度自覚するには充分だった。

    「急にため息なんかついて、どうしたの?」

    「大丈夫、どうもあらへんです」

    「そう?ならいいんだけど・・・」

     色濃い心配を顔全体に浮かべた隊長をひらひらと手を振り、お得意の飄々さで躱す。ただ大きくため息を吐いただけなのに、心の底から心配してくれる様に、再び心臓が跳ねた。このままだと胸の内が顔に出てしまいそうだからと、不安そうなままの隊長を置いてさっさと歩き出す。
     いつもより速度に気をつけて歩を進めれば、隊長はすぐに駆けてきて隣に並んだ。
     膨れていく想いと共に、小さな思い出ばかりが増えてゆく。護廷内の祭りにすら誘う勇気がないのに、抜け出した部下を探し回ってようやく見つけた時に出る安堵した声が聞きたくて、何度もふらりと隊舎から姿を消してしまうのだ。
     刺すような日照りの中、しばらく歩いていると代謝が行われて必然的に汗ばんでくる。張り付き始めた襦袢に鬱陶しさを感じて胸元を引き、手でパタパタと空気を入れると幾分か涼しくなった。

    「真子、明日はこうやって抜け出さないでね」

     珍しく柔らかさが抑えられた硬く真剣な声色で隊長が話しかけてきた。素早く明日の予定を思い返すも、特別な何かが思い当たることもなく、首を傾げる。

    「なんでや。なんや特別な事ありましたっけ」

    「あれ?言ってなかったかな。僕、明日お見合いなんだ」

     ガツンと頭を強く殴られたような衝撃が走る。よく回るはずの脳が処理するには巨大すぎる言葉に、思わず足を止めてしまった。

    「総隊長の意向でね。五大貴族じゃないけど、そこの分家のお嬢様と料亭で見合うことになって。お嬢様は社会経験も兼ねてそのまま職場を見に来るらしいから、真子には居てほしいんだ」
     
     続けられる隊長の言葉の羅列が少しも理解出来ない。
     いや、言いたいことは分かっている。お嬢様に隊長を紹介した総隊長の面子を潰さぬよう、隊の二番目として護廷十三隊のイメージに相応しい姿を見せてほしいということだ。
     分かっていても、それを受け入れたくない。
     吹雪の中にひとり立たされているかのような絶望感が襲ってくる。さっきまで汗をかいていたはずの肌にはブツブツと鳥肌がたって、頭から氷水を被った後ほどの寒気が襲ってきた。

    「・・・なんで」

    「真子?」

     葉を伝う水滴が落ちるが如く頭の中を占めていた言葉が口から溢れて、それに隊長が反応する。
     突然立ち止まって何かを呟いた副隊長は他から見れば随分と訝しいはずだ。回路の停止していた思考を爆速で稼働し、不自然なく紡げる会話を叩き出した。
     
    「なんで今日になって言うんや!早よ言うといてください!」

    「え?」
     
    「明日出勤の隊士らに言わなあかんですやん。総隊長のお知り合いなら、粗相あらへんよう言いつけなあかんし、終わらせられる仕事はさっさと片付けとかな。ほら早よ帰りますよ」
     
     振り返った隊長を追い越して、早足で帰路を辿る。
     今、顔を見られるわけにはいかない。きっと酷い顔をしているから。
     真子待って、と追いかけてくる隊長を無視して無心に足を動かした。

     帰舎してすぐ、隊長に手を貸しつつ終わらせられる書類仕事を片付け、手の空いている隊士を十数人呼び集めて隊舎内中全てを清掃、終業時に隊士らへ注意事項を通告して仕事を終えた。
     いつも通り夜勤の隊士に声掛けをして、副隊長就任時に割り当てられた邸宅へと戻る。
     自宅に玄関に着いて誰の目に触れることがなくなった途端、目頭が熱くなって身体が小刻みに震え始めた。立っているのも辛くなって、扉に背を預けずるずるとしゃがみこむ。
     ずっと側に居たい。
     この想いが報われなくても構わない。
     死神として命尽きるまで貴方の隣に。
     フラフラと立ち上がって自室へと向かう。座布団へ副官章を放って死覇装を脱ぎ落とし、部屋着の着物を羽織って畳張りの部屋で身体を倒した。胎児のように脚を抱え込んで、出しっぱなしだったクッションに顔を埋める。
     見合い相手はどんな人だろうか。
     優しいのか、穏やかなのか、溌剌としているのか。
     美しいのか、可愛らしいのか、それとも凛としているのか。どんな容姿でも、隊長の隣に似合う人なのだろう。
     貴族家系で総隊長の知り合いだと言っていたけど、どこのお家のお嬢様なんだろうか。五大貴族の直系ではないらしいが、その家系ではあるってことは、多分五大貴族の分家。四楓院の分家なら夜一から話が入ってくるはずで、朽木家は今、虚弱な蒼純の婚姻相手を探しているし、志波家はそもそも分家が少ない。そうとなれば残りふたつの貴族のどちらかか。
     隊長の見合い相手を想像していれば、鼻の奥がツンと痛み、目尻に涙が集まってくる。流れ落ちてしまわないように、溢れそうになるそれをぐっと抑え込んだ。
     胸の中心に居座る慕情に振り回される幼い子ども。いつか子どもの自分があの人の目の前で全てを投げ捨て、泣き出してしまいそうで怖い。初めて好きになった人へ抱く、拙い恋情が副隊長としての立場を忘れさせる。
     あの人の前でもし涙を溢してしまっても、副隊長がこんな泣き虫でも良いのかと問えば、強がらないでいいよ、なんて言って、優しく頭を撫でてくれるだろう。なかなか抜けない子ども扱いに嫌になって、同時にその大きな手が離れないで欲しいと願うのだ。
     胸が締め付けられて、苦しさに身体を縮こませる。どうしても割り切れない想いが身体中を支配して、逃せない痛みが充満した。
     限りある恋だとしても、隊長に出逢えて幸せだった。
     それでも、いつまでも今までのように、いつまでもこれまでの生活が、どこまでも続いて欲しいと願っている。
     女性に笑いかける姿なんて、家庭を持つ姿なんて見たくない。お見合いはどうか破談に、とまで考えて、はっと思い頭を振る。顔を見せる嫉妬を無理矢理押し隠して、ぐっと飲み込んだ。
     隊長の幸せを壊してはいけない。
     自分が関わらなくても、自分と共にいなくても、幸せを願えるように。大好きな人なのだから。
     恋人として貴方と手を取り合うことは出来ずとも、俺はいつまでも貴方を好いている。
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    dhastarflower

    DONE巌ふちと十禾。
    船の上で巌鉄斎が十禾に眼帯をとられその後返してもらうまでの話。
    十禾が巌鉄斎を誘う描写はありますが未遂程度。
    あと支部にあげるときにあらためて誤字脱字加筆修正します、また挿絵も描きますー!
    私の中でひとつの巌ふちの最終形態。
    遅咲きの初恋 失ってから大事なモンに気づく俺は愚かだ。
     ああしていたら、こうだったらともしもの妄想の連続をいくら繰り返したってアイツは帰ってきやしない。あの瞬間に戻れたらとか不毛だから辞めた。
    ちゃんとその時を生きてきた人間がしてきた選択をせめて無駄なモンにしないようにとするばかりなんだ。遺されたモンの責任だ。
     …わかってはいんだけどよぉ。
     なぁ付知。
     何度も何度だって、俺は後悔しかない
     
     ※※※
     
    「あ〜そうだそうだぁ、巌鉄斎。悪いけどそれ、預からせてもらうよ」
    「…はぁ?」
    「十禾殿?」
     誰が仙薬を持ち帰り公儀御免状を手にするかの話し合いにより俺がその役目を有り難く頂くことになって、それ以外が各々の小舟に乗り別れを惜しみ達者でと見送ったあと。俺と佐切と酔っぱらい男の三人だけになり、先程まで賑やかだったものがなくなってさらに寂しさが募るのか懸命に泣くのを抑えようと佐切の鼻をすする音がデカい船で響く、そんなしんみりとした空気を台無しにブッ壊すかのような酔っぱらい男の言葉に俺は耳を疑った。
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