○年後の___ 灰色の雲が低く垂れ込めた朝だった。
朝顔が遠くの軒先に咲き誇り、夏木立からは凄まじい程に蝉時雨が聞こえる。じっとりとした暑さが肌にまとわりつき、地面から立ち上る熱気を感じれば、汗がじんわりと額に滲んできた。
俺の名は___。かつてはこの都で「英雄」だの「ヒーロー」だの言われていたが、今はただの影に過ぎない。
梅雨明けの湿風が傷跡を撫で染みるように痛む。この傷は、俺の過去と決して切り離せない証である。数年前、命を懸けた最後の戦いで、体の一部を失った。その日以来、俺は前線を退き、新たな世代のヒーローを育てることに専念している。
「___さん、今日も訓練のご指導をお願いします。」
若い声が背後から響く。振り返れば、次世代を担うヒーローたちの顔が見えた。彼らの目には、かつての俺が持っていたものと同じ、純粋な決意と情熱が宿っている。
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