前世でディオンの従者をしていた男を見つけたのは、彼、テランスの努力からして必然と言っていいものだったのかもしれない。SNSで活動していたところに事務所にスカウトされてモデルデビュー、活躍の場を広げるようにして俳優になった彼はスマホを触れば名前を知らなくても顔は分かるぐらい頻繁に活躍していた。
前世の時ディオンから直接聞いたことは無いが、おそらく恋仲だったのだろうと思っていたからディオンを探しての行動だろうかと思ってはいた。どこにいるか分からない中探そうと思ったら見つけてもらいやすいという点で有用な手段だ。自分は運良く兄さんと再会できたが、そうじゃなかったら自分も似たような手段をとっただろう。
いずれにしろディオンが彼と再会して幸せになってくれればこんなに嬉しい事はない。彼を見かけるようになってからそう思っていたのだが、僕がテランスよりも先に見つけたディオンは前世の記憶を持っていなかった。不幸中の幸いというべきか、感情だけは残っていたのかディオンはテランスに興味はあるようで、それなら、と友人の幸せを願って2人が再会出来るように奔走した。
そうして(詳細は省略するが)奔走の甲斐あって、ディオンとテランスは再び今世も結ばれた。ディオンは何も思い出していないようだが、テランスはそれを不満に思ってはいないようなので愛し合う2人にとやかく口を出す程無粋ではない。
「ジョシュア、今いいだろうか?」
「ディオン、おかえり。中に入りなよ」
大学生になり、部屋が各個人に分け与えられるようになった為ルームメイトではなくなったがそれでもお互い寄宿舎に住んでいる為昔と変わらず部屋を行き来する仲だ。
「デートはどうだった?」
「何人かに見つかって面倒ごとになりかけたが、充分楽しめた」
「そう、良かった」
大して広くない部屋だが、それでもディオンはよく来る為すっかり定位置となっている椅子に勝手に腰掛ける。新しくカップを持って既に淹れていた紅茶を注いでディオンの前に置く。最初よりも幾らか渋いだろうが、そんな事に文句を言うわけでもなく寧ろありがとうと小さく言ってごくりと飲んだ。
「それよりも、だ」
さっきよりもうんと真面目な顔をしてキッとこちらを見る。本人にそのつもりはないのだろうが美人の真面目な顔は迫力があるのだといい加減理解して欲しいところだ。うん?と返事をしながら学習机に備え付けてある椅子と先程まで使っていたカップを持ってそばに座る。
「テランスと連絡をとった事があると聞いた」
「え?まぁ、そうだけど」
予想外の言葉に思わず面食らう。別に疾しい事は何もない。僕と彼はお互いに前世の事を覚えているので連絡先を交換して、その照会をした歴が残ってはいるぐらいのものだ。でもディオンに見せろと言われたら見せるし、テランスも同様だろう。
「テランスがジョシュアと連絡をとった事があると言ったので、その、悩んだのだが見せてもらった」
「そう」
やはり、テランスもディオンに見せろと言われたら見せるのだ。大事な恋人に勘違いされたらたまったもんじゃないし、僕だってそんな厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。予想通りの答えにうんうん、と頷いているとガッと両腕を掴まれる。
「何故あんなに写真を送ったのだ!」
ガクガクと揺さぶられながらいったいなんのことかと疑問符を浮かべる。かなり激しい揺らしに、痛い痛いと軽く言えば我に返ったのか、すまないと力を緩められる。
「それでいったいなんの事?写真?」
「昔の写真だ、まだジョシュアとルームメイトだった頃の」
あぁ、まだディオンとルームメイトになったばかりの頃に「家族にルームメイトと仲良くしてるって紹介したいから」と写真を撮って兄さんに見せたっけ。そうだ、それでテランスに今世でディオンと知り合ったきっかけを聞かれた時にその写真を送った記憶がある。いつもなら本人に確認してから送るが、前世の事もあってうっかりしていた。
「ごめん、送っちゃった」
「っ〰〰ジョシュア!」
再びガクガクと揺さぶれ頭も前後左右に揺れる。今思えば、あの時は兄さん以外の記憶持ちに会った事が無かったから柄にもなくはしゃいでしまっていたのだろう。画像を勝手に送ってしまった点にもう一度謝罪してから、でも、と言うとまたディオンの手が止まる。前世と違って年相応の事をするのに、人の話を聞く時は真面目なのがディオンらしいなと思う。
「テランスはディオンの写真なら何でも喜ぶんじゃない?あの写真を送った時も凄く喜んでたし」
「そ、れは……」
ディオンは言葉に詰まると、そのまま顔を俯けた。ボソボソと何か言うディオンの声わ聞こうと顔を傾ければ観念したように今度こそハッキリと言った。
「す、きな人にはもっと格好いいのを送りたかったのだ」
顔を赤くしてそう言うディオンを見て、これは久しぶりにテランスに連絡をとって伝えなくてはいけないな、なんて考えていた。