忘れていた昔の話と少しだけ前の最近の話「大包平」
障子に向かって囁く。大包平の部屋の前に山姥切国広は立っている。夜も随分と深く、本丸は静まり返っていて、寝ている仲間たちを起こしてはいけないから一番抑えた小さな声で呼んでみた。部屋の中で寝ていたらきっと気付かない声量。もう一度、呼ぶ。おおかねひら。
……静寂。
寝ているのか。……だよな。あと10秒待って返事がなかったら自分の部屋に戻ろう。数をかぞえる。じゅう……きゅう……はち……なな、……ろく。
障子が静かに引かれた。どうした、と大包平が顔を出す。よかった、起きていた。「来てくれ」と告げる。足早に、しかし足音はしない速さで歩き出す。後ろから大包平がついてくる気配がした。眠いと言って断られたらどうしようと思っていたが杞憂だった。太刀は夜目が効かないからついてこられる速度で歩かないといかない。大包平の手を掴んで歩き出した方がよほど早いと一瞬考えるもそんな子どもみたいな扱いは嫌がられるかもしれないと思うとできなかった。
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