申請差戻、要:破損事由 ああ、やったなと思った。
ふつと糸が切れるようにあたりには暗闇が落ちた。かのごとく、大包平は感じたが目の前を立ちふさがる山姥切国広は違うのだろう。太刀の目と打刀の目は異なる。薄い月明かりでは山姥切の纏う布がほのかに光って見えるだけの大包平とは違って、山姥切には闇に飲まれる廊下の先まで見渡せるに違いない。驚き引き攣った大包平の顔を含めて。
廊下の角からぬるりと現れた白い影に動揺して持っていた手燭は取り落としていた。そのせいであたりは真っ暗である。気配も足音もまったく察知できなかったので、すわ化生かなにかかと勘違いして肝を冷やした。しかし影をよく見ればそれは山姥切国広だった。動揺を悟られまいと落とした手燭を探すふりで視線を外す。ごまかすにも手遅れ――という気はしなくもない。
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