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    Shimra_ss

    @Shimra_ss

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    Shimra_ss

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    攻め同士、受け同士の座談会が性癖です。
    書きたいこと詰め込みすぎて収拾がつかなくなったので変なところで終わりますがご容赦…。

    部屋の主は大体俺です。

    相方について語り合わないと出られない部屋【注意!】
    まず前提として
    ※玖朗と追眠くんは付き合ってる(両想い)
    ※劉仁と霊霊は付き合ってるか微妙(体の関係はあるし劉仁は霊霊に恋愛感情があるが、霊霊の方が謎)
    以上を踏まえた上でお読みください!


    ***


    とある夕暮れの日、いつもの日常を過ごしていたあなた。
    一陣の風があなたの頬を撫でる。その瞬間、突然まばゆいまでの光があなたを襲うだろう。

    そして、次に目を覚ましたときには


    『自分のカノピについて相手と語り合わないと出られない部屋』


    「……は?」

    劉仁は我が目を疑った。
    先程までの自分は、仕事を終えて中華街の路地を通って事務所に帰る途中だったはずだ。
    しかし、目の前に広がるのは見たこともない白い部屋。空中に浮かぶ歪んだ文字。
    訳も分からず混乱していると、背後から聞き覚えのある声がした。

    「"自分のカノピについて相手と語り合わないと出られない部屋"? なにこの頭悪そうな文章」

    振り向くと見知った男が立っていた。

    「……医生(センセイ)」
    劉仁が呼称を口にする。
    医生こと弥 玖朗は劉仁の姿を視認すると、その隣に立って空中に漂う文字を苦々しそうに眺めた。

    「馬鹿の一つ覚えみたいに毎度毎度変なところに飛ばしてくれちゃってさ……今度は何すれば良いの」
    「え、医生(センセイ)、こういう経験が他にもあるのか?」
    「説明すんのはあとね。俺いまスッゴく機嫌悪いの」
    その言葉に違わず、劉仁に向き直った玖朗の顔は般若も裸足で逃げ出すレベルで禍々しく歪んでいた。
    「(追眠関係か……)」
    玖朗がここまで心を乱す原因はひとつしかない。
    劉仁は彼の人の姿を脳裏に思い浮かべながら、心の中で合掌した。

    「…で?"カノピ"ってなに?それについて劉仁と話をしなきゃいけないってことでしょ?何か分かんなきゃ話のしようがないんだけど?」
    玖朗は不機嫌さを隠しもせず腕を組み、指先でトントンと音を立てた。
    「あ~…前に従業員が話してたな……確か"彼女"という意味だったかと……」
    劉仁が恐る恐る発言する。その言葉を聞いて、玖朗の眉間にますます皺が寄った。
    「"彼女"?そんなのいるわけないじゃない。前提から崩壊してるよ。バカなんじゃないのこの部屋の主はさぁ」
    玖朗の声がどんどんと怒気を含んでいく。自分に向けられているわけではないのに、劉仁は胃が痛くなる感覚を覚えた。
    すると、空中の文字がユラユラと歪みだし、少しずつ形を変えていった。

    そして…

    『自分の嫁について相手と語り合わないと出られない部屋』

    …という形になったところで、揺らぎが収まった。収まってしまった。

    「俺は独身だこのボケが!!煽るのも大概にしろよ!!」
    とうとう怒りの沸点を超えた玖朗が叫びだす。
    ただでさえ意中の人のせいでイライラしているというのに、さらにその存在を仄めかすような文字が浮かび続けていたのだから無理はない。
    片手で数えるくらいしか聞いたことがなかった玖朗の怒声に、劉仁は小さく飛び上がった。
    「せ…医生(センセイ)、落ち着け……この文字は別に煽ってる訳じゃないと思う…」
    「煽りじゃなかったらなんなワケ!?猫(マオ)が俺の忠告無視して変な仕事請け負って危うくクソ野郎の手篭めにされそうになって大喧嘩した直後にこれだよ!?一周回って空気読みすぎでしょ!!」
    「お…落ち着いてくれ……そ、そうだ…嫁の話というわけじゃないが代わりに我(オレ)の許嫁の話をしようか……」

    咄嗟に場の空気を変えようとした劉仁だったが、玖朗はその中の聞き慣れない単語に反応した。
    「は?許嫁?劉仁、許嫁いたの?」
    「いや…居たというか……居はしないんだが……」
    劉仁はバツの悪そうな顔をしてモゴモゴと口を動かす。そして、ポツポツと話し出した。

    「…先日、親父(ボス)が…『そろそろ好い人は居ないのか』とメッセージを送ってきて……許嫁候補と銘打って本国にいる関係者の写真を色々送ってきたんだ……オ、我(オレ)自身も断ったしお袋も間に入って止めてくれたから何もなかったんだ……無かったんだが………」
    話しながら劉仁の空気がどんどん重くなっていく。さすがの玖朗も違和感を感じ、「…それで何も無かったなら良いんじゃないの?」と遠慮がちに声をかけた。

    しかし、ついに劉仁は泣き出しそうな顔になって
    「……どこからかその話が漏れて霊霊の耳に入ったらしく…『結婚するんだって?おめっとー』と面と向かって言われて……そのあとすぐ長期の"仕入れ"に行きやがったから……もう2週間以上…会えていなくて………」
    と、顔を覆ってしまった。

    顔見知りの大の男が顔を覆って泣きそうになっているのを見て、さすがの玖朗も自身の怒りが萎んでいくのを感じた。
    劉仁の想いを知り、2人の間に起こったことについて多少なり関わっていた玖朗にとって、これは予想外の展開だった。
    自分に関係のない話題であると思っていたが、まさかこんなところに特大の地雷が埋まっていようとは……。

    「否定したんでしょ…?」
    「した……だが、ちゃんと聞いていたのか…不安で……」
    「連絡は?出掛けてても電話とかメッセージ送るとかくらいはできるでしょ?」
    「…今回は電波が届かないところにいるらしい……たまにあることだが……」
    どんどん落ち込む劉仁に玖朗がかける言葉を探していると、空中に浮かんだ文字が慌てたようにグニャグニャと動き出した。

    そして

    『自分の恋人について相手と語り合わないと出られない部屋』

    と、形を変えた。


    「恋人と胸張って言えたら苦労してねぇよ该死的(クソッタレ)!」
    今度は劉仁が吠えた。
    泣き出しそうだった表情が一変。鬼も泣いて夜逃げするレベルの表情で空中の文字を怒鳴り付けた。

    その横で玖朗は(連続で人の地雷踏むとかこの部屋の主はアホなのでは…)と思った。

    「セックスしてるからって恋人じゃねぇんだよ!!こんな不義理な関係、こっちだっていつまでも続けていたくねぇんだクソが!出来(出てこい)!我会杀了你(殺してやる)!」
    「劉仁、落ち着いて……」
    今度は玖朗が劉仁を宥める。玖朗が想像していたよりも超弩級の地雷だったらしい。
    暴れだす一歩手前の劉仁は戦闘技能を持たない玖朗ではどうにもならない。ので、声をかけるだけで巻き込まれない程度に距離を取ろう、と玖朗が思った矢先、空中の文字が今までにないスピードでシャカシャカと動き出した。

    そして

    『自分の好きな人について相手と語り合わないと出られない部屋』

    に、変わった。


    その文字を見て玖朗が「劉仁!ほら!文字変わったよ!」と声を張り上げた。
    フーッフーッと猛獣のような呼吸を繰り返す劉仁は、玖朗の指差す先を見て少しずつ怒りを抑え込んだ。

    「これなら簡単だよね。俺は猫、劉仁はあのガラクタ屋について話せば良い。俺はガラクタ屋のことは心底どうでも良いけど、聞いてあげるから、ね?」
    さらっと酷いことを言いながらも、玖朗は劉仁の肩を叩いて落ち着かせようとする。

    そこで玖朗は「そう言えば」と思い立ち、文字に向かって声をかけた。

    「立ち話もなんだし、座れる場所が欲しいな。あと、お茶なんかがあったらゆっくりじっくり喋れるんだけど」
    そう言うと、2人の後ろでガタンッという音がした。
    振り返ると、飲茶セットを乗せたテーブルと2脚の椅子が鎮座していた。

    「え、いつの間に…?」
    「大体こういう部屋はこういう仕様なんだよ。座ろうか」
    「何かの罠では……」
    「危害を加えるつもりなら、この部屋に入った時点で何か起こってるよ。部屋の主が望んでいるのはそんなことじゃないしね」
    「望むこと…?」
    「書いてあるじゃない」
    空中に浮かぶ文字を指差し、玖朗はさっさと椅子に座る。慌てて劉仁もそれにならった。

    「さて…どこから話そう。俺の可愛い猫について、聞きたいことある?」
    先程までの不機嫌さはどこへやら、玖朗はにこにこしながら劉仁に向き直る。
    その様子を見て劉仁の怒りも完全に鎮火したようで、平静のテンションで玖朗に訊ねた。
    「あー…そうだな……じゃあ単刀直入に、追眠のことはどう思っているんだ?」
    劉仁の質問に、玖朗は待ってましたと言わんばかりににっこりと笑った。

    「可愛いし、カッコいいよ。強いのに愚かしいほどの善人だ。本人は自覚してないけどね。よくあの街で五体満足で居られたと思うよ。…でも時々、ひどく脆い。そのギャップのせいかな、この俺が"放っておけない"って思うんだ」
    そう言って、玖朗は用意されたお茶を飲む。烏龍茶の香ばしい香りが、ふわりと一帯に広がった。
    「命を救われた……最初はその"借り"を返すために俺から繋ぎ直した関係だったのに、今じゃ俺の方が猫に絡め取られてる。別にね、猫が側に居なくても生きていけるよ。でも、猫が居ない人生はもう考えられない」
    「…惚れ込んでいるんだな」
    「そういうこと」
    玖朗が笑う。毒気の無いその表情に、劉仁はつられて優しく微笑んだ。

    「俺も良い大人だからね、本当は猫が俺無しで生きていけることも、猫の人生の選択肢に俺が関わる必要がないことも分かってるんだ。でも、猫が危険な目に遭うたびに……この辺がね、ムカムカしてグラグラして脳が正常な思考を拒否するの。笑っちゃうよね、ガキかっての」
    この辺、と言いながら玖朗は自分の胸の辺りを指した。
    「それは…愛ゆえの怒りだろう。正しいことだ」
    「ハハ、そういう答えがあっさり出る辺りが劉仁らしいね。俺は、そこに至るまでにずいぶん時間がかかった。自分の症状なのに、自分で名前をつけられなかった」
    精神科は専門外なんだよね、と玖朗は茶化すように話す。しかし、その目はどこか憂いを宿していた。
    「……そのせいで、最初は猫に酷いことしちゃった。嫌われたっておかしくなかった。それなのに、猫は俺を…俺の居るところを"帰る場所"のひとつにしてくれた。本当にバカで、残酷なほど優しい男だよ。俺が一生を賭けて借りを返そうとしても、返しきれない」
    玖朗の視線が遠く空(くう)を泳ぐ。心に宿るその人を思い出しているような仕草だった。それからひとつ溜め息をつき「…会いたいな」と小さく溢す。

    「…早く帰ろう、追眠もきっと待ってる」
    「そうね。じゃ、次は劉仁ね」
    「え?」
    「"語り合わない"と出られないんだから当たり前でしょ。あのガラクタ屋のことなんて聞きたくないけど、今はしょうがないから聞いてあげる」
    言いながら、玖朗はテーブルの上の蒸籠に手をつける。中に桃まんが2つ入っているのを確認し、ひとつ手に取って残りを劉仁に勧めた。

    「いまでも分からないな。なんであのガラクタ屋なの?端から見てて、一番迷惑被ってるのは劉仁じゃない?」
    「う、うぅ……」
    自分に御鉢が回ってくると思ってなかった劉仁は口ごもる。烏龍茶を一口飲んで息を整えると、意を決したように話し始めた。

    「……きっかけは、あなたたちだ」
    「ん?俺達?」
    「あぁ……医生(センセイ)と追眠が想い合って幸せそうにしているのを見て、微笑ましかった。あの街で、お互いを尊重しあえる存在が居るのはとても貴重で、良いことだと思った」
    「うん……?」
    「…そう思っている横に、アイツが居た。『この男もいつかそういう存在を見つけるのだろうか』と思ったら…それこそ……"ここ"が…モヤモヤしてきて……」
    ここ、と言いながら劉仁は自分の胸の辺りを指す。
    「おかしいだろう?アイツには我(オレ)以外の仕事仲間はたくさんいるし、関わっている人間まで含めたらもっと……。でも、アイツの隣に立ってともに死線を潜り抜けてきたのは、我(オレ)しかいないだろうと何処かで自負していたんだ。アイツのワガママに最後まで付き合えるのも我(オレ)だけだって……」
    「…それは……」
    「迷惑だと、縁を切りたいと何度思ったか知れない。でも、その度に『我(オレ)が居なければコイツはすぐ死ぬんじゃないか』という考えが頭を掠めて、気付けば10年近く一緒に仕事をしていた。馬鹿だろう?とっくの昔に、我(オレ)はアイツを手放せなくなっていたのに、その瞬間になるまで気付かなかったんだ」
    劉仁が顔を伏せる。その目は、どこかにいる"誰か"を懐かしむように細められていた。

    「本当ならちゃんと段階を踏んでいくのが筋なんだが、相手が相手だから……。体を繋ぐことはできたが心までというのは……だから、今はこれで上出来だと思うようにしている。我(オレ)の気持ちを知っていても普段通りに接してくれるし、嫌いだと言っていたセックスも我(オレ)が相手ならと許してくれる。……これ以上は望めないだろう」
    「……純情だねぇ」
    「どうかな……アイツの気持ちは追い付いてきていないし…」
    「いや十分でしょ。アイツ、結構他人に対してドライだよ?しかも元々ノーマルでしょ。それがボトム役で劉仁みたいなガタイの良い奴とセックスするなんて、デメリットの方が多いじゃない。それなのに受け入れるって、惚れ込んでないと出来ないでしょ」
    「しかし……恋愛は面倒だと…」
    「アイツちゃんと恋愛したことあるの?そもそも恋愛の定義が違うんじゃない?別にずっと一緒にいてベタベタするのだけが恋人じゃないでしょ。適度な距離感で通じあってれば良いんじゃない?常識が通じない相手なら、なおさら常識の範囲に収まる必要なんてないよ。劉仁達だけの関係になれば良い」
    「……なんだか、医生(センセイ)らしくない言葉だな」
    「バレた?これは紅蘭さんからの受け売りだよ。俺が猫との関係に悩んでたときに、どこからともなく現れてサラッと言っていったの。本当、謎だらけだよねあの人」
    「紅蘭大姐か……確かに、あの人らしい」
    劉仁は、湯呑みにわずかに残った烏龍茶をあおった。その顔はどこかスッキリとしていて、長年抱えていた悩みを吐き出したかのようだった。

    「でさ、話してたら気になったんだけど……あのガラクタ屋ってちゃんとセックスできるの?」
    「えっ!?」
    突然の質問に劉仁は椅子をガタン!と揺らした。
    「いやなんか…そう言う色気のある場面に向いてなさそうというか……不感症っぽいし」
    「ふ、ふか……!」
    「うちの猫みたいに可愛く喘ぐ様も想像できないしね。いや想像したくないけど」
    「あぇ…っ!」
    急にデリケートな話題に触れられて、劉仁は目に見えて動揺した。玖朗の言葉を繰り返そうとする度に、椅子がガタガタと揺れる。

    「で、どうなの?」
    「い、いや…あの……その………」
    劉仁は視線を泳がせた。玖朗はにやにやと笑って、テーブルの上の急須を手に取り烏龍茶を劉仁の湯呑みに注ぐ。時間が経っているのに、烏龍茶は淹れたてのように温かかった。
    劉仁は玖朗に促されるまま、それを一口飲むとゆっくりと話し始めた。
    「……確かに…正直、声は…可愛くはない……苦しそうというか…痛そうというか………だが…ちゃんと反応は、する……」
    「ふ~ん?」
    「お、我(オレ)が下手なのかもしれない…いろいろ人に聞いて手を尽くしてはいるが……男とセックスするなんてアイツが初めてだし……」
    「誠実だねぇ」
    にやにや笑いながら玖朗は烏龍茶を飲む。その姿を見て、劉仁はハッと気付いたかのように身を乗り出した。
    「医生(センセイ)の方はどうなんだ!」
    「え、俺?」
    「さっき追眠が"可愛く喘ぐ"と言ったな!どうやったら出来る!?何かコツがあるのか!?」
    「えぇー………」

    劉仁のあまりに必死な勢いに、玖朗は思わず身を引いた。
    一瞬話題を逸らそうかと考えたが、劉仁が重ねて「教えてくれ!」と頼むので玖朗は口を開いた。

    「前立腺ってわかる?男にしかない臓器で精液の生成とかの役割があるんだけど。ここにうまく刺激を与えると快感を感じるようになるの」
    「それは部下から聞いたことがある。実践もしているんだが……」
    「それを知ってるなら話は早いね。まぁすぐにどこ触っても気持ちいい、みたいになるのは難しいよ。男って元々そういう体のつくりをしてないしね。だから、考え方を変えるの」
    「考え方…?」
    「そう。"いま目の前にある1回のセックスで気持ちよくなる"んじゃないの。その後もずーっと気持ち良いセックスが出来るように相手の体を"作り替える"って気持ちで触れるの。前立腺マッサージはその基本だね」
    「つ、作り替える…!?」
    「開発っていう奴もいるね。楽しいよ。少しずつ相手が自分のモノになっていくのが分かるんだ。最初は痛がったり反射的に拒絶したりすることも多いんだけど、段々快感の方が勝っていく。その様子が肌を通して伝わってくるんだ」
    妖しく笑う玖朗に、劉仁が息を飲む。
    「……ま、変わっていくのは俺も一緒かな。猫がどうすれば気持ち良くなるか、どこに触れられるのが好きなのか、俺の方も覚えるの。俺自身も猫のモノになっていく。それが積み重なっていくことで、お互い最高に気持ちいいって思えるようになるんだよ」
    そこまで言って、玖朗は烏龍茶を一口飲んだ。ふぅ、と一息ついてまたゆっくりと話し出す。
    「……これは猫とするようになって初めて分かったことだよ。俺にそれを教えてくれたのが猫で良かったって、今でも心の底から思ってる。だから……他の奴が猫に手を出そうとするのが我慢ならない。猫は俺のモノで、俺は猫のモノなの。もう他の奴のための身体じゃないんだよ、お互いにね」
    これでいい?と言いながら、玖朗は烏龍茶のおかわりを自分の湯呑みに注ぎ始めた。温かい香りが、2人の間に流れていく。

    「医生(センセイ)も追眠に操を立てているのか」
    「そうなっちゃうよねー。我ながら青いなって思うよ。でももう自分の身体が猫以外に性的な反応を起こす気がしないんだよね。誰を見たって『猫の方が可愛い』って思っちゃうんだよ。自分がこんなに一途だなんて知らなかったな。気持ち悪いよ」
    「そんなことない!良いことだ!」
    「劉仁ならそう言うと思った」

    手の中の湯呑みをユラユラと揺らしながら、玖朗は劉仁を見据える。

    「で?『医生"も"』って言うぐらいだから、劉仁もあのガラクタ屋に操を立てているのかな?」
    サングラスの下の瞳がニィ、と細められる。その様子を知ってか知らずか、劉仁は至極真面目な顔をして
    「? 当然だろう。二股は良くない。不義理だ」
    と答えた。
    「そーゆーことサラッと言っちゃうところがマフィアらしくないんだよね……」
    玖朗は思わず脱力した。
    からかおうと思っていたのに、あまりにあっさりと、かつ真面目に返事をされたものだから、少し面白くない。
    別の方からアプローチをかけよう、と玖朗は思い直した。
    「あのガラクタ屋にはそういう感覚あるの?浮気とか心配じゃない?」
    「アイツは極端に性欲が薄いんだ、自慰もめったにしないと言うし……。過去にリサが近くにいたのに今まで何も起きてないんだから、アイツから何かすることはないと思う」
    「あ~…そうね。あの美人とずっと暮らしてて何も起こさなかったのは確かに………いや、男としてヤバくない?え、アイツもしかして童貞?」
    「いや、童貞では無かった」
    「何で知ってんの?」
    「訊ねたことがある」
    「どんな流れで?」
    「『男は我(オレ)が初めてだったと言っていたが女は?』と」
    「それでなんて?」
    「学生の頃に一度、と」
    「え、恋人がいたの?」
    矢継ぎ早に行われる予想外の応酬に、玖朗は意図せず前のめりになった。
    「いや、無理矢理宛がわれたそうだ。実家の遺産目当ての遠縁の親戚が、既成事実を作ってしまおうとしたらしい。アイツ本人は抵抗するのが面倒だったから受け入れたと」
    「うわエグ……知りたくなかった…お金って怖いね…」
    「結果的にその親戚の家が大火事になって一族もろとも燃えたから何事もなかったらしいが」
    「いやオチすらえげつない……そんな奴と一緒にいて大丈夫なの?劉仁もいつか呪われるんじゃない?」
    またもや予想以上の返答がきて、玖朗はドン引きした。
    だが、劉仁の方はもう慣れっこらしく淡々と玖朗の言葉に答えていく。
    「我(オレ)は呪いなんて信じてないし、我(オレ)が居なくって困るのはアイツだ。それに……アイツを不幸にする気はない」
    「………熱烈だね。お茶、冷たいのにすれば良かったかな」
    誠実と情熱を絵に描いたような劉仁の姿勢に、玖朗は眩しそうに目を細めた。
    その表情に劉仁も笑って返す。しかし、ふと思い付いて、劉仁は小さく頭を抱えた。
    「だがまぁその……困ったことはひとつある」
    「え?なに?」
    「……我(オレ)と寝るようになってから…アイツが男に言い寄られる頻度が増えた……」
    「え!?あのうすらデカイ刺青ゴリゴリのイカれ野郎を口説こうとする奴がいるの!?」
    「特に闇オークションの会場で……あんなところに出入りするような人間の中にはゲイやパンセクシャルや異常性癖者も多いんだ……我(オレ)も誘われた経験があるし…。アイツもたまに声をかけられていたんだが、その度にノーマルであることを理由に断っていたんだ……だが、それがもう通用しなくなったみたいで……うちの部下曰く、似た者同士は隠していても"分かる"らしくて……」
    「あー……つまり、ガラクタ屋から"っぽさ"が出てきちゃってるってこと?」
    「そうらしい……最近は我(オレ)が側にいない時に肩を組まれたり腰に手を回されたりするようになって……この間は無理矢理キスされそうになっていたし…腹パンで相手を沈めてはいたが……」
    「何というか……難儀だね……劉仁がアイツに入れ込めば入れ込むほど、アイツが危険に晒されるってわけか……」
    本格的に頭を抱え出した劉仁を見ながら、玖朗は苦笑する。物好きは目の前の男だけではなかったのか、と心のなかで独りごちた。

    「医生(センセイ)の方はどうだ?追眠はその…そういう危険が……」
    「あの容姿で、あの瞳で、あの仕事だからね。昔から下心込みで近付いてくる輩は多かったみたいよ。でも猫自身は性的なことが大嫌いだったし、腕も脚もピカイチだから切り抜けてるみたい、今も昔も」
    「そうか…それなら安心だな……」
    「まぁね。こればっかりは、猫が俺に気持ちを向けてくれてるって自惚れても良いかな。だからさ、劉仁も自惚れて良いんだよ」
    「え?」
    「だって、さっきから聞いてたらさ、あのガラクタ屋、劉仁以外は拒否してるんでしょ?それって劉仁に操立ててるようなもんじゃない。自分のことすら疎かにするアイツが、そこだけは守ってるって相当じゃない?」
    「それは……我(オレ)が『不让任何人触碰』って言ってたからって……」
    「いつ?」
    「さ…最中に……意識してなかったんだが…口走ってしまったみたいで……」
    「セックスで盛り上がったノリで言ったうわ言ってこと?」
    「うわ言じゃない!本心だ!い…言うつもりはなかったんだが……」
    「………はぁー…アイツの日頃の行いのせいかもしれないけど…劉仁も大概バカだよね」
    「えっ!?」
    「あのさ……あの!ガラクタ屋が!劉仁の言葉を!律儀に!守ってる!これがどういう意味か、本当に分からないの!?」
    「…………………」
    珍しく玖朗が語気を荒らげて、椅子から立ち上がる。
    劉仁はぽかんとした表情で玖朗の姿を見つめた。やがて言葉の意味を理解したのか、茹で蛸のように顔を真っ赤に染め上げた。

    「あ……えっ…!」
    「やっと気付いた?劉仁って変なところ鈍感だよね……いや、近すぎて逆に見えなくなってたのかな……とにかく、劉仁が思ってるよりガラクタ屋は劉仁のこと考えてるよ。胸張って良い。あんたらは常識の範囲で見ても、ちゃんと"愛し合ってる"よ」
    アイツ、俺の忠告は全然聞かないし…と、ブツブツ言いながら玖朗は椅子に座り直す。
    劉仁は顔を真っ赤にしたまま、テーブルに突っ伏してしまった。

    しばしの沈黙が両者の間に流れる。




    そして、その様子を眺めている2つの影があった。

    「あれ?喋ってる?これ」
    「いや……何も聞こえないな」
    「マジ?じゃあそろそろ終わりかな?」
    「さぁ…どうなんだ?」
    影の片方が空中を見つめる。
    そこには
    『語り合いを見届けないと出られない部屋』
    と言う歪んだ文字がフヨフヨと浮いていた。

    「しっかし、風猫って超愛されてんじゃん。あの玖朗がデレデレしちゃってさ~アッハ!あの顔だけでしばらく笑えるわ」
    「この流れでその感想が最初に出てくるのどうなんだ?愛されてるならアンタだってそうだろ」
    「アッハ!ワンワンって趣味悪いよね。よりによってオレを選ぶなんて、かわいそー」
    2つの影……霊霊と追眠は部屋に設置されたモニターを観ながら、ソファに座ってジュースを飲んでいた。

    モニターにはテーブルに突っ伏す劉仁と、椅子に深く腰かけて烏龍茶を飲む玖朗の姿が映し出されている。
    霊霊と追眠は、ずっとここで劉仁と玖朗が話しているのを観ていたのだ。

    「にしても便利だね~ここ。風猫と喋れるし、飲みモンとか無くなったら勝手におかわり出てくんの。この部屋欲しいわ」
    「あんたの収集対象には部屋まで入ってるのか…?まぁでも、便利なのは認める」
    序盤で玖朗がテーブルと椅子と飲茶セットを呼び出していたのを真似て、2人はソファとジャンクフードとドリンクを呼び出し、さながらおうち映画を楽しむような空間を作り上げていた。
    霊霊が空になったコップを催促するように振ると、次の瞬間には中身が満たされる。追眠が残り少なくなったスナック菓子の袋をポンポンと叩くと、いつの間にか新しいお菓子が側に追加されていく。
    不可思議なシステムに何ら疑問を抱くこと無く、2人は悠々とくつろいでいた。

    「…にしても、アンタって意外と貞淑だったんだな。もっと奔放かと思ってたよ」
    「アッハ!しょーがないじゃん、あぁ言われたらさ~。ワンワンがいなきゃ一部のオークションやマーケットに顔出せなくなるし、仕事が滞るんだよね~」
    「それこそ、劉仁以外にもその辺のツテを持ってるやつはたくさんいるだろ。まぁ劉仁が人間的に一番安全そうだけど……『誰にも触らせるな』だっけ?ちゃんと守ってるんだな」
    「いやマジでヤバくね?束縛男かっつーの!最初聞いたときおかしくって噴き出すかと思ったわ。まぁそのときは突っ込まれててそれどころじゃなかったんだけど。あとさ~言い寄ってくるやつらってマジウゼェの。グダグダグダグダと『自分と寝たらこんなメリットがある!』とか『絶対気持ちよくしてやるぜ!』みたいな、いらねー自慢話すんの。通販番組かっての。そんな奴らと寝るくらいならワンワンの方が100倍マシ」
    「さすがにその比較は酷くないか……」
    「風猫だって覚えあるだろ~?今日だって大喧嘩したって玖朗言ってたじゃん」
    「俺としては想定内の事だったから何でもなかったんだけどな……。今回の依頼は博打の代打ちだったんだけど、相手が負けた金をチャラにするためにヤクやら盗品やらで俺と取引しようしてきたんだ。断ったら逆ギレして襲いかかってきてさ。ま、雑魚だったし瞬殺だったよ」
    「アッハ!玖朗の杞憂だったってことか。過保護だね~」
    「相手がヤクとウリをシノギにしてる半グレ集団で、劉仁のとこと敵対してたらしい。万が一、俺が劉仁や玖朗と繋がりがあるってバレたらタダじゃ済まないって気を揉んでたんだと」
    「なるほどね~」
    「それよりアンタは、劉仁の許嫁の話はちゃんと聞いてたのか?劉仁、スッゴい落ち込んでたけど」
    「あ~あれね。実はさ、ワンワンに婚約者が出来るって噂は結構前から出回ってて、オレも知ってたの。でもワンワンに女の影なんて全然ないわけ。んで、最近になって『本国の親父の斡旋でワンワンに正式に婚約者が出来る』って話が出回り始めたから、ちょっとからかったんだよ。あのときのワンワンめっちゃ動揺してて超面白かった!」
    「つまり……最初から噂を信じてなかったのか?」
    「当たり前じゃん。話が出回り始める前の日まで、ワンワンはオレと寝てたんだぜ?あのクソ真面目野郎が二股とか愛人囲うとか出来るわけねーし、外堀から埋めようとした身内が意図的に流した話って感じしたし。まぁオレとしては良いネタだったけどな」
    「それ…戻ったらちゃんと言ってやれよ……このままじゃ劉仁が不憫すぎる……」
    「てかさ、風猫もしっかり玖朗に"開発"されちゃってんのウケるね!あんなに『やらしーことは嫌いです!』って顔してたのにさ~」
    「その分、玖朗の方を"調教"してるからな。おあいこだろ」
    「アッハ!カッコイ~!!」
    「アンタは、劉仁とうまくいってないのか?」
    「やーまずさ、ワンワンのちんこエグいんだよ。アレがよく入るなって思うよ毎回。突っ込まれたらリアルにオエッ!ってなるから」
    「あ~…うん、まぁ……想像はできる…」
    「風猫はどうなん?毎回そんな気持ちいいの?」
    「えっ!?…いや、う~ん……最初からそうだったわけじゃない…というか、そういう行為自体が嫌いだったし……いつの間にか……玖朗相手なら…気持ちいいし…いいのかな、って……」
    「アッハ!玖朗の努力の賜物ってやつ?おアツいねぇ」
    「アンタの方もそうだろ。自分の利になることが何一つ無いのに受け入れるなんて、それこそ劉仁が"許せる相手"だったからじゃないのか」
    「アッハ!なにも得してねーワケじゃねーよ。ワンワンはオレと『楽しいセックス』がしたいんだって。実際、ヤッてるときのワンワン見んのは結構楽しいしね」
    「じゃあ同じ条件だったら劉仁以外でも良いのか?」
    「いや今は無理。ワンワンが『触らせんな』って言ってたし。他の奴と寝てワンワンと縁が切れるんなら、それこそ損でしょ」
    「じゃあ順番が逆だったら、アンタは別のやつと寝たのか?」
    「オレと本気で寝たいって言う物好き、ワンワン以外にいねーよ」
    「"もしも"の話だ。答えてみろ」
    「……えらく食い下がるじゃん。そんなに大事?オレとワンワンが寝てることが」
    「大事なのはそこじゃない。アンタの気持ちだよ。劉仁のこと、好きなのか?」
    「ん~好きって言うか……見てて飽きないって感じ?普段も、寝てるときも、オレ相手に真剣になっちゃってさ。かわいそーで、面白い」
    「……昔の玖朗もそうだったけど、アンタも大概言葉知らずと言うか………はぁ、もういいや。今まで通り劉仁だけを受け入れてればいいんじゃないか?そのうち劉仁の方がアンタの代わりにちゃんと言葉にしてくれるよ」
    「訊いてきたわりに急に雑じゃん」
    「だってアンタ、自覚がないから。これ以上は自分でどうこうしないと理解できない範囲だと思うし」
    「ふぅん。ま、いいけど………アレ?」

    霊霊が宙を見上げる。それに釣られて追眠も顔を上げた。
    視線の先では空中に浮かんでいた文字が、ユラユラと動き出していた。

    『条件を達成しました。これから皆さんを元の場所に転送いたします。なお、この部屋で起こったことは記憶に残りませんので、ご安心ください』

    「えっ、残んないのか?」
    「マジか。ヤベーな」
    「ヤバい?なんで?」
    「いや実はさ、オレ今遭難してんの」
    「は!?」
    「○✕村の山の中に呪われた祠があるって聞いてさ、居ても立ってもいられなくて出てきたんだよね。マツリは他に予定があるって言ってたから置いてきたの。んで、山登ってる途中で足滑らせて谷に落ちてさ。足の骨折れて動けねーし食糧も無くなったから近くを流れてる川の水で凌いでたんだけど、そろそろマズイかなって。ここに来る直前とか超意識朦朧としてたし」
    「えっ!?」
    「だから、この部屋に来たとき足痛くねーし食い物出るしラッキーって思ってたんだよね。けど、元に戻るならしょーがねーな。諦めるわ」
    「いや待て待て待て待て待て!何とかならないのか!?せめて霊霊だけは家に帰すとか!いまの会話だけは俺が覚えておくとか!!」
    「風猫が覚えてても無理っしょ。遠いし、オレ担いで谷登ったり出来ねーだろ」
    「劉仁に伝える!玖朗とマツリも連れて、一緒に迎えに行くから!」
    「え~…絶対怒られるじゃんそのメンツ……てか、玖朗とは大喧嘩してたんじゃなかったの?」
    「そんなん知るか!今はアンタの命の方が大事だ!」
    「アッハ!ホント、呆れるくらい善人だね。じゃ、期待しないで待っとくよ」
    「死ぬなよ!絶対に!」

    追眠の声に釣られるように、浮かんだ文字がジリジリと形を変え始めるのが見えた。
    しかし、2人がその内容を認識する前に部屋が音もなく消え始める。ソファもモニターも粉末が水に溶けるように崩れていった。

    「霊霊!絶対、劉仁を残して死ぬんじゃない!」

    平衡感覚を失いつつある身体を必死で立て直しながら、追眠は霊霊に手を伸ばした。
    霊霊はいつものように嫌みったらしく笑う。それでも、追眠に手を伸ばすことはしなかった。

    自分の身体が消えていく瞬間、追眠は空間で動く文字を反射的に目で追った。



    『ただし、最後の5分間の会話だけは記憶に残すものとします』








    ***




    目を覚ますと、ふっくらとした猫のしっぽが見えた。
    だるさを残す身体をゆっくりと起こして周囲を確認すると、見慣れた野良猫が4匹、自身にぴったりとくっついて眠っている。
    ―あぁ、玖朗と喧嘩したから、今日は久々にこっちの寝床に来たんだっけ
    そう思い出して、追眠は後悔のため息をついた。

    一番近くに寝転がっている野良猫の方を見ると、よだれを垂らして気持ち良さそうに眠っている。追眠は無意識に口許をほころばせた。

    その猫を撫でようと手を伸ばした瞬間、ある出来事が閃光のように脳内を走り抜けていった。

    「霊霊!!」

    ガバッと、追眠が勢いよく立ち上がる。
    周りにいた野良猫は驚いて一斉に散ってしまった。が、今はそれどころではない。

    「劉仁!どこだ!?霊霊が危ない!玖朗も!救急セット持って出てこい!!マツリ!霊霊を探してくれー!!」

    追眠は自慢の俊足を駆使して、中華街の闇のなかへと走り出していった。





    その後、道端で倒れていた劉仁を叩き起こし、不機嫌全開の玖朗を引き摺りながら、飲茶を買い食いしていたマツリを担いで○✕村まで霊霊を迎えに行ったのは、また別の話-…。

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