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    みやもと

    @1e8UANtebd93811

    文置き場

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    みやもと

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    リュパン/パートナーに救われる話

     数多の敵を斬り続けた所為で剣を握る手が震え痺れている。どうにか感覚を失わないようにと改めて強く握り直し、リュールは耐えるべく奥歯を噛み締めた。
    「……っ……」
     辺りにはまだ多くの異形兵が群れをなしている。警戒を怠らず神経を張りつめさせたままでいるが、果たしてこの集中がどこまで保つだろう。は、と耳をつく荒れた己の呼吸が煩く感じ、それを思考の端に追いやるようにひとつかぶりを振った。
    「かなり厳しい状況だね……」
     リュールを案じマルスが声をかけてくるが、ええ、と頷くのが精一杯だ。マルスの力を借りてもどこまで踏みとどまれるか、明るい見通しは立ちそうにもなかった。
     数に物を言わせた敵の攻勢。想定外の攻撃を受けながらも仲間たちと力を尽くし戦い続けたが、体勢が整わぬままでの攻撃と何よりあまりの敵の多さに押され次第に皆に疲労が色濃く見え始めていた。劣勢に追い込まれている状況をどうにか打破すべく、仲間たちの制止の言葉を振り切りリュールは一点突破を試みて自分の元へ敵を引き付けることに成功した。その間に仲間たちの安全を確保し、かつ反撃に転じるための体勢を整えてくれればとの考えからだ。
     だが、できるだけ仲間たちから敵を引き離すことに注力した結果、気づいたときには敵の只中に孤立する破目になっていた。敵陣深くまで入り込んでしまった己の迂闊さを悔やんだところで今更遅い。数えきれぬほどの戦闘で負った傷と痛みはリュールの身体だけでなく精神までも容赦なく苛もうとしていた。
    (傷薬は……先程でもう、尽きましたね……)
     輸送隊を当たればまだ幾つか使えるものがあるかもしれないが、じりじりと敵が迫りつつある現状では傷薬を使っている余裕は最早ないだろう。既に味方のリブローさえ届かぬ距離である以上、回復の手だてはほぼ断たれたと考えた方がいいかもしれない。傷を負い体力を失った今の自分で、どこまで敵の攻撃をかわすことができるのか。先の見えない状況が、余計にリュールの身体を重くした。
    (何とかしないと……でも)
     おそらく仲間たちも何か策を講じようとしてくれている筈だが、果たして自分はそこまで凌ぎ切れるだろうか。ふと胸によぎった不安が心さえ重くし、常ならばささぬ影がリュールの気持ちを曇らせ始めた。
    (どうすれば……)
     焦りばかりが先立ち、どれほど考えようとも有効な手段が思い浮かばない。戦い続けるしかないと分かっていても、あまりに疲弊しすぎて一歩踏み出すことすらひどい苦痛を伴うほどだった。
    (しっかり……しないと……)
     気を抜けば剣を握る手から力が抜けてしまいそうになる。駄目だ、と無理矢理かぶりを振ったところで、負傷による出血の影響かくらりと軽い眩暈を覚えた。
    (……あ)
     まずい、と思ったが既に遅い。己を支えきれずつい体勢を崩しそうになったそのとき、傍らからリュールの腕を掴み支える手があった。
    「っ、」
     はっとして振り返った視界に映る、見慣れた愛おしい姿。しっかりとリュールの腕を掴んだまま、パートナーがすぐ側からこちらを見つめて優しく微笑みかけてきた。
    「パンドロ……」
     これだけ多くの敵がいる中で、彼は一体どうやってここまで辿り着いたというのだろう。けれどその疑問より、他の誰でもなくパンドロが側にいてくれるという事実に頽れそうな心が踏み止まれた。
    「神竜様」
     呼ぶ声はどこまでも優しく、それでいて心強ささえ与えるように響く。変わらず微笑むその顔がひどく眩しく見えて、状況も忘れリュールは暫しパンドロに見惚れてしまった。
    「お支えいたします」
     言ってパンドロは杖を振りかざし、目を閉じて深く祈ると共に回復の術を施してくる。温かな光がリュールを包み込むと、見る見る間に傷が塞がり失った体力をすべて癒してくれた。
    (リカバー……)
     側まで来なければ使用することのできない高位の回復の杖。痛みが消え状況に気を配る余裕ができたところで、ふと目に入ったパンドロの姿にリュールは小さく息を呑んだ。
    「っ、」
     あちこちにいくつもの傷を負い、体力さえ尽きかねないほどひどく消耗している。ただでさえ守備力に乏しい彼が、これだけの敵の中を潜り抜けてくるなど無茶を通り越して無謀とさえ言えるだろう。それでも、危険を顧みずパンドロは側へと駆けつけてくれたのか。ただリュールを救いたいというその一心で。
    「大丈夫です、神竜様」
     これだけ傷ついた状態では立っているのさえやっとの筈だ。彼自身にもすぐに回復が必要な状況と言っても差し支えないというのに、それでもパンドロは変わらず微笑んでみせる。心が震えてやまないほど、どこまでも綺麗に。
    「オレが何度でもあなたをお支えいたします。例えどんなに困難な状況であっても……神竜様ならばきっと遂げられます」
     まっすぐに見つめてくる瞳にあるのは、リュールに対する揺らがぬ信頼。傷が癒えたのもさることながら、パンドロのその想いこそがリュールを強く奮い立たせた。
    (……あなたは、こんなにも……私のことを)
     ひたむきで強く、どこまでも澄んだ純粋な想い。いっそ切なささえ覚えて胸を打たれる。
    「……パンドロ」
     喉元まで込み上げた熱いものをどうにか飲み込み、リュールは彼に笑みを返す。それから抑えきれぬ気持ちのまま、傍らのパンドロを抱き寄せた。傷ついた身体を労わるように、そっと優しく。
    「ありがとうございます。……もう、大丈夫です」
    「神竜様……」
     癒しの力以上のものを与えてくれたと、改めてパンドロに笑いかける。それから改めて周囲を見据え、剣を握り直してマルスと共に敵の中へ斬り込んでいった。
    (あなたがいてくれれば、私は)
     恐れも苦しみも厭わず前へ進むことができる。心強さを得て精神を研ぎ澄ませながら、リュールは大切な存在があることの嬉しさを深く胸に刻んだ。
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