貴方に餞を 歩道の片隅に一輪の花があった。
風で飛ばされて来たものとは明らかに違う。
誰かが意思を持ってそこに置いたもの。
雑多な街でその青い花だけが異質で、現実感が無かった。
偶然通り掛かった中也は何故こんな物が? と僅かに首を傾げる。
常なら気にすらしない、道端に置かれた花が妙に気になり、無意識に触れていた。
「あ、ごめんなさい」
背後から女性の声がした。
日中だというのに周囲に人影は無く、その声は間違いなく中也に向けられたもの。
聞き覚えの無い声に中也は警戒心を滲ませ振り返る。
だが、その警戒心は一瞬で緩んだ。
歩道にある青い花と同じ種類の花を抱えた女性が立っていた。
目深に被った麦わら帽子のせいで顔は陰り、表情はわからない。
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