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    uvedoble181

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    uvedoble181

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    遠距離カップルって帰国直前に成立しがちだよねというチートミ

    夢なら覚めないでくれ

    それはブライスとの最終決戦後、日本に帰国するまでの束の間の自由時間のことだった。

    ある夜、アジトでみんなと雑魚寝していた私は、一番と足立さんのいびきで深夜に目を覚ました。

    別に、目が覚めたからってやることもない。寝直そうとして、部屋の異変に気づく。

    トミーがいない。

    さっきまでソファで寝ていたはずなのに。部屋じゅう見回しても、どこにも姿はない。

    スマホに手を伸ばし、メッセージアプリを開く。トミーとのトーク画面を開き、どこにいんの?と送信した。

    5分ほど待つと、返信が来る。どうやら位置情報を送ってきたようだ。

    これは、リボルバー?私も来いってこと?

    こんな時間に飲むとむくみそうだけど…まあいいか。どうせ帰国すればバーで飲む暇なんてなくなるし。今のうちにシャバの空気を楽しんでおこう。

    私は適当に身なりを整えて、2人を起こさないようにそろそろとアジトを後にした。





    リボルバーではトミーがひとり、奥のカウンターで酒をあおっていた。

    「今日はひとり?」

    私はトミーの隣の席に座る。もう相当できあがっているらしい。

    「…んー、なんか、眠れなくてな。」

    「私も目ぇ覚めちゃった。一番たちのいびきがうるさくて。」

    私は適当なお酒を頼んで隣のトミーを手持ち無沙汰に眺める。

    「トミー、飲み過ぎじゃない?なんかあったの?」

    何も答えない。

    見れば見るほど、酷い顔色だ。普段はあまり吸わないタバコの煙を燻らせながら、焦点の合わない目でスマホをいじっている。

    「…あ。もしかして、私が日本に帰っちゃうから、寂しくなったの?」

    反応を引き出そうとからかい半分で言ってみる。もともとトミーは私のことが嫌いだった。私がいなくなるくらいでこんなに荒れるはずはない。

    「ん…?」

    やっとトミーがこっちを見る。

    「…まあ、そうだな。寂しいよ。せっかく友達になれたのにな。」

    予想外の素直な反応に面食らう。それだけではねえけど…と付け加えるが、結局それ以上言うのはやめたようだった。

    「大人になるといろいろあんだよ。お前にはまだわかんないだろうけど。」

    「な、なにそれ?子供扱いしないでよ。」

    トミーだってパーティの中では子供じゃない。私はせめてもの反抗に、運ばれてきたお酒をぐ、と流し込んだ。

    トミーは悪びれた様子もなくスマホを放り投げて、だらりとテーブルの上に頭をもたげた。

    「…千歳さあ、彼氏いんの?」

    上目遣いで、藪から棒に変なことを聞く。

    「なに、いきなり。いませんけど?…ていうか、いたことない。」

    「へーえ。」

    意外そうに眉毛を上げる。

    確かに、私はチャラそうに見られることが多い。ハワイに来てからは変装も兼ねていくつもピアスを開けたりしていたし、実際、派手な格好に見合うような軽い自分を演じてた。

    けど、元々の私はごく普通の配信女子。その上、家の束縛が強すぎて友達も満足にできなかった。まして彼氏なんて作れるわけもない。

    「一番とはくっつかなかったのか。」

    昔を思い出してちょっと落ち込みそうになる暇も与えず、にやにやしながら追撃してくる。

    「な、違うよ!一番とはそういうんじゃないって。」

    プロポーズまがいの言葉をかけられて、ちょっとときめきはしたけど。一番にはもう好きな人がいるみたいだし、歳の差も親子くらいある。私とくっつくなんて、ない。

    トミーはくくく、と笑って私で遊び続ける。

    「一番は偉いなあ。俺だったら、手ぇ出しちまうかも。」

    「はぁ!?」

    慌てふためく私を見てもっと笑う。さっきから、珍しく私のほうが手玉に取られる展開。面白くない。

    「そ、そんなこと言うんだったらトミーはどうなのよ!誰かいいヒトいないわけ?」

    「ん、俺?いないよ。」

    即答か。これで終わるわけにはいかない。なんとかして面白い情報を引き出してやりたくて食い下がる。

    「じゃあ、元カノは?」

    トミーにはそこはかとなく女の人にだらしなさそうな雰囲気がある。ひょっとすると、若い頃はけっこう遊んでたんじゃないか。

    「そりゃ、いるはいるけど…。」

    「詳しく教えなさいよ。それともなに?覚えてないくらいたくさんいるわけ?」

    「お前、俺をなんだと思ってんだよ。」

    トミーはよろよろと起き上がって新しいタバコに火をつける。

    「悪いけど、そんな面白い話ないぜ。てかちゃんと付き合ったのって前の奥さんくらいだしな。」

    「え、そうなの?意外。もっと経験豊富かと思ってた。」

    奥さん一筋とは。申し訳ないけど、イメージと違う。

    「まあ、わりと早く結婚したからな。」

    煙を吐き出しながら背もたれに体を預ける。

    そういえば、5年間収監されてたんだった。その前にもう結婚してたということは、確かにけっこう早いほうか。

    「ふうん…結婚してからは?」

    何気なく、話の流れで聞く。

    「言っただろ。収監されて、マリーが流産して…」

    そして、すぐに後悔した。けど、トミーは特に気にした様子もなく続ける。

    「もうそれで終わり。出てきたら、前科もんのクズなんて誰も相手にしないしな。たぶん、これからもなんもねえよ。」

    「やめてよ、そういうの…!」

    「なんでだよ。犯罪者なのは本当じゃん。」

    「そういう問題じゃない!」

    私は下を向いてジャージの裾をきつく握りしめた。なんて言ったらわかってもらえるのか、わからない。

    「…ま、まあ。色々あったけどさ。マリーは今幸せみたいだし。」

    私が唇を噛み締めてうつむいているのを見ると、トミーはわざとらしく明るい声をつくって話をまとめようとする。

    「俺も、お前らと会えたし。だからよかったんだよ、これで。な?」

    言い終わると、私をあやすように指で背中を叩く。

    「だ、か、ら…。子供扱いしないで!」

    何もよくない。大好きな奥さんに会えなくなって、人生5年無駄にしたのに。一番や私と会えたからって、なかったことになんてならない。

    「ていうか、前科もんのクズだから何よ。そんなの、私だって同じだからね!」

    私だって、自分の身かわいさにたくさんの人を傷つけた。トミーがクズなら、私もクズだ。

    トミーが眉を寄せる。

    「ええ?お前はクズじゃねえよ。」

    「なんでクズじゃないのよ!」

    私はまだ若いし、金持ちだし、刑務所にも入ってないからってこと?トミーはもう30だし前科持ちだから、それで誰にも相手してもらえないっていうの。

    言葉が次々と浮かんでくるけど、たぶん言っても意味ない。だから代わりに、トミーの手の甲に自分の手を重ねて、握りしめた。

    トミーは微かに目を見開くと、咥えていたタバコの火を灰皿で押し消した。その手で私の頭をぽんぽんと叩く。

    「チーちゃん。」

    「ん…?」

    普段はあまりその呼び方、しないのに。何かと思って顔を上げると、トミーが下から覗き込んできた。

    「お前さあ。」

    何か、にやにやしている。

    「俺のこと、好きだろ。」

    「………は?」

    私は時が止まったように固まる。それをいいことに、トミーが私のほっぺをつんつんとつつく。

    「俺もなあ、チーちゃん好きだぜ。よかったな。嬉しいか?」

    そのまま両手でほっぺを掴んでぐにぐにと引っ張ってくる。

    「…!…!!」

    いまだかつてない屈辱に顔が爆発しそうなくらい熱くなる。

    「なあ。おい。俺に会えなくなるの、寂しいんだろ?認めろよ。」

    私の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。せっかく整えてきた前髪が無惨に乱れる。

    「…う。」

    やがてトミーはうめき声を上げてぴたりと止まった。眉毛がハの字に垂れ下がって目がじわじわと赤くなっていく。

    「ううううう。」

    がくんがくんと私の肩を揺さぶり始めた。完全に目がイッてしまっている。

    「ち、ちーちゃん。お、おれもさびしいよぉ。にほん、かえらないでよぉ…。」

    べそをかく中年男性を目の当たりにしてやっと我に帰る。そして、謎の怒りで目の前が真っ赤になった。

    「この、バカトミー!!!」

    私はトミーの顔からメガネを剥ぎ取ってテーブルの隅に放り投げた。

    「ん、っ!?」

    アロハシャツの襟を掴んで勢いよく引っ張る。トミーがバランスを崩してグラスが倒れた。中身が広がって、床に溢れる。

    トミーのかさついた唇に、私の唇を押し付ける。タバコの味。

    「…ち、ちーちゃん?」

    離れると、トミーはぼーっと口を開けて目を見開いていた。唇には私の赤いリップがかすかに残っている。

    「…トミー。」

    襟を掴んでない方の手でトミーの顎を持ち上げて、充血した目を覗き込む。

    「好き。付き合って。」

    トミーの眠そうな目がぱ、と見開かれる。さっきまで泥酔で濁っていた瞳がきらきらと輝いた。

    「えー、うそ!うん。いいよお。」

    よし。言質はとった。

    「ありがとう。」

    「んーん。コチラコソ。」

    トミーはゆるゆると首を振る。襟首から手を放すと、テーブルの上にがくんと崩れ落ちた。

    「…じゃ、じゃあ私帰るから。あんま飲みすぎちゃダメだよ。」

    恥ずかしさが遅れて襲ってきて、そそくさと帰り支度を始める。

    「はは。きをつけろよ〜。」

    トミーが上機嫌でひらひらと手を振る。

    「あ。わ、私月一でハワイ来るからね。遠距離とか心配しないでいいからね!」

    けっこう寂しがり屋みたいだから、何ヶ月も会えないのは耐えられないだろう。次期会長だし、それくらい不二宮の財力にあやかってもバチは当たらないよね。

    「ん〜…」

    聞いてない。テーブルの上に突っ伏して寝てしまっている。

    まあ、いいか。細かいことは明日シラフに戻ってから話せば。私はお代を払ってリボルバーを後にした。



    翌朝。

    「お…チーちゃん。起きたか。」

    私は一番たちと同時に目を覚ました。

    「トミー、ぜんぜん起きねえな…。」

    一番があくびをしながら、ソファの上でグッタリしているトミーを見やる。時計もブレスレットもつけたままで、帰ってから気絶するように寝てしまったのがわかる。

    「一番。」
    「ん?どした。」

    起きて色々言い出す前に先手を打っておこう。

    「私、トミーと付き合うことになったから。」

    一番が固まる。

    鏡の前でメイクをしていたハン・ジュンギが振り向く。

    ペットボトルで水を飲んでいた足立さんもこっちを向いた。

    「おや、青春ですねえ。」

    ハン・ジュンギは付き合いが浅いからかそれほど驚かなかった。すぐに鏡に向き直ってヘアセットに移る。

    「…いつの間に?」

    一番も飲み込みが早い。持ち前の利口さで寝起きの頭を必死に働かせて、最低限の反応を返してくれる。

    「きのうから。二人で飲んでたら、良い感じになって、みたいな。」

    「はぁ?マジか、すげえな。三十路で前科持ちのくせにご令嬢とお付き合いとは。」

    足立さんが舌打ちして、アザラシのようにうつ伏せで寝ているトミーを忌々しげに見る。ペットボトルが握りしめられてぐしゃりと潰れた。

    「……じゃあ、二人きりになりたいんじゃねえのか?あれだったら俺らどっか行っておくか?」

    一番が気を回すのを足立さんが食い気味で阻止しようとする。

    「おいおいおい。春日、余計なこと言うんじゃねえ。俺は認めねえからな、こんなジャイアントキリングはよ。」

    「足立さん。嫉妬、みにくいぜ。アラ還のおじいちゃんにはどのみちチャンスねえよ。」

    足立さんが一番のほうにペットボトルをぶん投げる。アフロに当たってダメージはないようだ。ころんと情けない音を立てて床に落ちる。

    「いいよ別に、気遣わなくて。いつも通りみんなで遊びにいこ?」

    「そ、そうか。ならいいんだけどよ…。あ、トミー。お前もそれでいいか?」

    気づくと、トミーが寝転がったまま目を見開いて固まっていた。二日酔いで顔面蒼白だ。額には脂汗が浮いている。

    「いいって。」

    私が勝手に答えると一番はげしげしとトミーをどついた。

    「じゃあさっさと行くぞトミー。この幸せもんがよ。」




    というわけで、いつも通りみんなでぞろぞろとハワイの街角を歩く。これ見よがしにトミーと手をつないで恋人アピールは欠かさない。きのうと打って変わって、トミーの手は緊張で冷たくなっている。

    「ち、千歳…。」
    「ん?」

    トミーが青い顔で私に耳打ちする。

    「や、やっぱやめたほうがいいよ。俺オッサンだし、犯罪者だしよ…。家が許してくれねえだろ。」

    「まだそんなこと言ってんの?きのうはちーちゃんだいすきー、いかないでー、とか言ってたじゃん。」

    「ぐう…!!」

    ちゃんと記憶はあるらしい。言い返せなくて歯噛みする。

    だいたい、恋人選びにまで家の束縛を受けるいわれはない。まあ、じいやは卒倒するだろうけど。そこは頑張ってわかってもらうから大丈夫。

    「き、昨日のことは…夢かと思って…。」

    昨夜の失態を思い出してか、土気色だったトミーの頬がにわかに赤く染まっていく。

    「…私のこと、好きなんじゃなかったの?」

    悲しそうな顔をつくってトミーを見上げる。厳密には、告白してきたのはトミーのほうだ。私は承諾した側。トミーにその気がないなら、最初からこうはなってない。

    「いや……あの。好きです…。」

    トミーは目を泳がせて、ものすごく小さい声で答える。

    「じゃあ解決。」

    それが聞ければいい。私は嬉しくなってつないだ手をぎゅ、と握り直した。

    「ううう。」

    トミーは私の手を弱々しく握り返すしかない。
    こうして、不二宮グループ次期会長と前科持ちのタクシードライバーの不思議な関係が始まった。
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