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    uvedoble181

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    uvedoble181

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    続いた 結局カプなしで山井ちーちゃん一番←トミーになりました

    バイのトミーが色んな人に惚れてる話慰めて欲しかっただけ

    「…お前、何でここにいんだよ。」

    深夜のエルドラド。なんとはなしに眠れずに劇場内をうろついていた俺は、勝手に酒を持ち込んで飲んでいる不審者と出くわした。

    「おお、山井じゃん。もう寝たかと思ってたよ。」

    男は悪びれた様子もなく、酒を舐め続けている。

    「質問に答えろ、トミザワぁ。」

    コイツはもう俺の組とは無関係だ。我が物顔でアジトに上がり込まれちゃメンツに関わる。

    「なんか、ちょっと荒れちゃってさあ。一人で飲みたくて。ここが懐かしくなったから、来ちゃった。」

    まったく答えになっていない。こんな奴を入れたうちのセキュリティにも大概問題がありそうだ。

    「言ったっけ?俺、離婚してんだけど。」

    勝手に喋り始めた。

    「元妻の…マリーっていうんだけど。この前そいつ見かけてさ。新しい彼氏と一緒にいたんだよ。すっごい、幸せそうで。」

    死ぬほど興味がないが、止めるのすら面倒くさい。

    「俺だってこと隠して、その彼氏に近づいてみたんだけど、これがめちゃくちゃいい男でさあ。もう完敗だよ。」

    酒をあおりながら喋り続ける。

    「嬉しいんだけどさ。やっぱさあ。きついよなあ。あんなに、大好きだったのに。子どもも。ちゃんと、生まれてたら…」

    5歳だったんだよ。そこまで言って、トミザワは膝を抱えて席の上でうずくまった。

    言いたいことはそれだけか。心底女々しい野郎だ。反吐が出そうになるのをこらえながら、口を開く。

    「気持ち悪いなあ、トミザワ君。お前なんかに一瞬でも時間使わされた女に同情するよ。」

    トミザワが顔を上げる。

    「子供、流れてよかったじゃねえか。どうせ考えなしにヤってできちまったんだろ?お前みてえなクズの遺伝子は絶やしたほうが社会のためだって。」

    刑務所に入らなければ幸せになれたとでも思っているのか。学のないガキがガキを作って、負の連鎖になるのは目に見えている。お前みたいなゴミは最初からひとりだったようなもんだ。

    「ブタ箱ぶち込まれて、借金こさえてよお。ココ抜けたからってなんも変わらねえな。組が春日になっただけだろ?春日たちが帰ったらどうすんの?」

    マリー、ドワイト、俺、春日。復讐のためか、絆とやらのためか。お前はいつも他人ありきで生きている。そういうところに、虫唾が走る。

    「なあ、お前なんのために生きてんの?意味ねえのに。ココで組の養分になってたほうがまだ人の役に立ってたんじゃねえか?」

    ガン。

    何かが俺の髪を数束巻き込んで、顔スレスレを通り過ぎた。

    振り返ると、六角レンチが壁に垂直に突き刺さっている。

    もろに当たったら、鼻ぐらい砕かれていただろう。トミザワに撃たれかけたときのことを思い出す。

    「危ねえなあ。」

    「黙れ、クソ野郎が…。」

    トミザワは血走った目で俺を睨みつけている。

    無視して壁に刺さったレンチを引き抜くと、トミザワの方に放り投げた。

    「熱吹いてんじゃねえぞ、ガキ。さっさとそれ持ってオウチ帰れ。」

    トミザワはレンチを拾い上げると、俺の方に歩いて来る。

    「ふざけんな、てめえ。本当に、許さねえからな…。」

    俺の胸ぐらを掴み、ぎりぎりと締め付ける。

    「へえ。で?許さなかったら、どうすんの?」

    「試してみるか…?」

    これは、面倒だな。組員でもない奴をボコるのは可哀想だが、先に手を出したのはコイツ。自己責任だ。

    俺はトミザワを突き飛ばして、胸めがけてバールを振り抜く。アバラを数本折れば、大人しくなるだろう。

    金属同士がぶつかる音。どうやらトミザワのレンチに阻まれたようだ。

    「は。やっと、やる気になったかよ…!」

    「…いいねえ、そういうの。タイマンで俺に勝てると思ってる?」

    俺は、春日たちに負けた。ただ、それはあくまでも4人がかりでの話。組を抜けてからいくらか鍛えたか知らないが、春日たちとつるんで戦っていただけのトミザワなど相手にならない。

    「余裕かましてんじゃねーぞ、ジジイ!!」

    トミザワは俺の腹を勢いよく蹴飛ばした。バランスを崩して後ろに倒れ込んだ俺に、馬乗りになってレンチを振り下ろす。

    また金属がぶつかる音。バールとレンチが十字の形で競り合う。

    ジジイは事実だが、コイツに力勝負で負けるほど歳をとってはいない。トミザワは油汗を流しながらレンチを押し込むが、次第に押し上げられていく。

    「ぐ、う…!!」

    ある程度上体が持ち上がったところを見計らって片手を離し、トミザワの頬に拳を叩き込む。メガネが吹っ飛んで転がった。

    「ぐは!!」

    鼻血を吹いてよろめくトミザワを床に転がし、足で腹を踏みつける。

    「ほらな、勝てないだろ。バカだなあ、トミザワ君は。」

    バールを首元に押し付けてから足をどかす。それからしゃがみこんで、鼻を押さえているトミザワと目線を合わせた。

    「は、はっ、はーっ…」

    「痛えか?痛えだろ。ちったあ頭冷えたよな。じゃあさっさと帰れ。これ以上お前の相手したくねえから。」

    バールをどかして拘束を解く。組員だったら、それこそ四肢を潰して教育してやるところだが。今のコイツは春日の管轄だ。正当防衛以上のことはできない。

    「や、まい…。」

    トミザワは血にむせて咳き込みながら俺の名前を口にする。

    「あ?」

    しゃがんだまま首を傾げた刹那、俺の首にば、と腕が回された。

    コイツ、まだやる気か。これは、骨の一本や二本折ってやるしかないな。バールを握る手に力を込める。

    だが、トミザワはいつまでも俺を絞め落とそうとはしなかった。代わりに、俺の首を支えにして上半身を持ち上げる。

    それから、ぴちゃ、と音がして、口の中に血の味が広がった。

    トミザワは咳き込みながら腕を解いて、大の字で床に倒れ込んだ。

    「………何してんの?」

    「…ごめん。汚いな。すぐ顔洗ってうがいしてくれ。」

    「いや、そうじゃなくて。」

    なんで。

    それ以上言う前に、トミザワが背筋を使ってびょんと起き上がった。ついさっきコテンパンにされたとは思えないすばしっこさだ。

    「もう帰るわ。えー、メガネメガネ…。」

    メガネを探し出して拾い上げた。割れてねえかな?と劇場の照明にレンズを透かしている。満足すると、メガネをかけ直して出口へ向かおうとする。

    「あっ。」

    と、間抜けな声を上げて何かを思い出したようにくるりと俺のほうに振り返る。

    まだ何かあるのか。優しい俺は黙って次の言葉を待ってやる。

    にこ。

    トミザワは歯を見せて、血まみれの鼻と口に似合わない爽やかな笑顔を浮かべた。

    「死ね。」

    「ええ…?」

    シンプルな罵倒に、さすがの俺も戸惑うしかない。顔にはさほど出ていないだろうが、何も返す言葉がなくて黙ってしまう。俺のモラハラなんていつものことだろうが。そんなにキレることないだろ。

    どのみち、トミザワは俺の反応を求めていないようだった。吐き捨てるや否や背中を向けて、ずんずんと大股で出口へ向かう。

    俺はひとり、小さくなっていく背中を見送ってから、誰もいなくなった劇場に立ち尽くしていた。



    それから二度と会うことがなければよかったのだが。同じハワイにいる以上、奴と鉢合わせることは防げない。案の定、アジト近くに用があったらしい春日一行と出会す日が来てしまった。

    「お、山井!」

    俺は面倒ごとを避けるため踵を返そうとしたが、空気の読めない春日がぶんぶんとこちらに手を振って駆け寄ってくる。

    「久しぶりだな、何してんだ?」

    「関係ねえだろ。」

    ハワイに組を持ってる俺がここにいるのは当たり前だ。何をしてるかと言われても、仕事だとしか言えない。

    「おい一番。そんなやつ構ってないでさっさと行こうぜ。」

    当然というか、トミザワもいる。この前のことをまだ根に持っているのが明らかなとげとげしい声と顔つきだ。

    「んだよ、世間話くらいいいじゃねえか。お前だって山井のこと嫌いなわけでもねえだろ。」

    「ハァー?」

    春日がトミザワの地雷を踏み抜いた。

    「死ぬほど嫌いですけど??借金漬けにされたし??骨折させられたし??今も顔合わせればモラハラしてくるし??」

    組にいたときのことまで蒸し返してきた。

    「トミザワ君よぉ、被害者ヅラがすぎねえかなあ?借金はてめえでこさえたもんだろ?ヤクザがやらかした組員ボコるのも当たり前だよな?」
    「うるせーカス野郎。俺は一番と話してんだよ。」

    食い気味にIQの低い罵倒が飛んでくる。まったく傷つきはしないが、こんな風に対等な口を聞いてくるトミザワは一周して新鮮で面白くもある。もう少し付き合ってやってもいい気がしてきた。

    「カス野郎、ねえ。借金持ちで前科もんでバツイチでヤクザくずれのトミザワ君より俺のほうがカスなのか。傷つくなあ。」
    「バツイチ以外はテメーのせいなんだよ!!てか30年片想い拗らせるよりはバツイチの方がマシだぞ??」

    春日は困惑して俺たちを交互に見ている。

    「お、おいお前ら。どうしたんだよ。喧嘩してんのか?」

    俺たちは構わず互いをくさし続ける。

    「俺はお前と違って無関係な女巻き込んで流産させたりはしてねえなあ。まあトミザワ君の子供なんて可哀想なもんが生まれなかったのは不幸中の幸いか。」
    「てめえ、子供のことは関係ねーだろ!!」

    他のパーティメンバーも異様な雰囲気に気付き始める。

    「怒ってんの?わあ、怖いな。やるか?また昨日みたいにコテンパンにされるか?」
    「いや、やんねえやんねえ。お前の血で服汚したくないし。あ、そうだ。お前のお気に入りのホステスさん寝とってやろうか?もうお前には欲情できなくなるかもよ?」

    おじいちゃん。そう鼻先にささやかれると、さすがにいくらか血が沸き立つのを感じた。バールを握り直したところで、春日が割って入る。

    「ストップ!!」

    春日にべしんと頭を叩かれる。

    「お前ら、本当にどうしたんだよ!なんかあったのか!?」

    別にコイツがいなくなるなら俺はそれでいいんだが。無視して踵を返し、今度こそ仕事に向かおうとすると、トミザワがわなわなと震え始めた。

    「や、やまいが。」

    こいつ、マジか。

    「き、きのう、え、エルドラドに行ったら…俺みたいなクズの遺伝子は、淘汰されたほうが人類のためだとか…」

    「おい、トミザワ。」

    余計なこと言うんじゃねえ。そう言う前にトミザワがつらつらと続ける。

    「組の養分になるくらいしか能なかっただろ、とか…俺みたいな事故物件は一生独り身がお似合いだとか言ってきて…。」

    最後のやつは言ってない。

    「それで、俺が怒ってレンチぶん投げたら、逆ギレしてきてボコボコにされて…」

    「おい山井、それはダメだろ!謝れよ!」

    「は?」

    「トミーもだぞ!ひでぇこと言われたからってやり返すな!」

    「ううう。なんでだよ、俺悪くねえし…。」

    春日に叱られたトミザワがぐずり始める。

    「い、一番。これ、まだ続くの?私たちそろそろおいとましたいかも。」

    「そうだぞ春日…スジモンバトルしに行くんじゃなかったのか?」

    「あ、やべ。そうだった。このままだとコロシアムの受付時間過ぎちまうな。」

    スジモン?聞き慣れない単語に戸惑う俺に構わず、春日は時計を見てにわかに焦り始めた。強引に話をまとめにかかる。

    「と、とにかく!俺らはスジモンバトル行ってるから、二人ともちゃんと仲直りしとけよ!」

    「うう…。」

    トミザワはひとりお仲間から取り残されて、ハーフパンツの裾を握りしめながらうつむいている。

    これは、俺が悪いのか?


    俺は結局そのへんのベンチにトミザワを座らせて、落ち着くのを待つことにした。たいして興味はないとはいえ、昨日の異常行動を問いただすいい機会かもしれない。

    「…トミザワくん。」

    「なんだよ…。」

    「まあ、なんだ。昨日は、言いすぎたかもな。」

    惚れた女に無碍にされるつらさは俺にもわかる。トミザワはもう自由の身だし、見てくれも性格も、まあ客観的に言って悪くはない。昨日のはただの馴れ合いだ。まさかここまで傷つけるとは思っていなかった。

    「けどよ。俺も組長だからな。部外者に好き勝手に入って来られて、優しくするってのも、難しんだよ。」

    「…」

    立場上不法侵入者を丁重に扱うわけにはいかない。そんなことはトミザワにもわかっているはずだ。

    「なあ。凹んでたのはわかるけどさ。なんでわざわざ俺んとこになんて来たんだ?慰めてもらえるわけねえってわかりそうなもんだけど。」

    今の仲間に情け無いところを見せたくなかったのか。自分を地獄に突き落とした俺と喧嘩がしたくなったのか。

    トミザワがうなだれたまま口を開いた。

    「…きだから。」

    「は?」

    声が小さい。なんも聞こえなかった。

    「山井が、好きだから…」

    「ん?」

    聞こえたけど、何を言ってるかわからない。

    「山井の、声が聞きたくて…もしかしたら、ちょっとは慰めてくれるかな、とか思って…酔ってたから…」

    「え〜…?」

    お前、そういう感じだったのか。想像の斜め上から来たな。

    「…それは…いつからだ…?」

    「わかんない…」

    「なんか、きっかけとかあんだろ…」

    「わかんないって…」

    要領を得なさすぎる。俺とお前の過ごした時間のどこに、俺を好きになる要素があったんだ。

    「いや、お前…それを言って…俺にどうしろっての?」

    言うまでもないが、俺はあのひと一筋だ。拗らせて30年、姐さん似の女と遊んだりはしても、本気の相手はいないし、これから作る気もない。というかそもそも、男には欲情できない。

    「聞いたのはてめーだろ!」

    トミザワはまた真っ赤になって怒った。立ち上がってあさっての方向に駆け出そうとするのをバールで止める。襟首にバールを引っ掛けられて、ぐえ!と声を上げた。

    「まあ、うん。あれだ。ちょっと…どっか入るか。」
    「は!?」

    片想いを拗らせてるという意味でなら、コイツと俺は同族ってことになる。いくつか聞きたいこともあるし、一杯くらい奢ってやろう。そうすれば春日たちの前で昔のことをぐじぐじ蒸し返すこともなくなるはずだ。




    「……なんで、俺が好きなんだ。」

    俺は最寄りのバーにトミザワを引っ張った。抵抗するのは諦めたらしく、向かいの席で意気消沈している。辛抱強く答えを待つと、ぼそぼそと喋り始めた。

    「こ、この前までは嫌いだったよ…けど、最近になって…強いし…渋いし…スタイルいいし…声かっこいいし…意外と面倒見いいし…」

    「うん…うん。わかったから、もうやめろ。」

    気持ち悪いやらくすぐったいやら。謎の感情が湧き上がる。

    「…そもそも、お前男いけたのか?」

    トミザワは離婚経験者だったはずだ。少なくとも女とは寝られるはずだが。

    「そーだよ、バイだよ。ちなみにウケよりのリバだ。」

    「聞いてねえけどな?」

    ウケとかリバとかはよくわからんが、問いただす価値はおそらくない。

    「てか、じゃあ人類みんな恋愛対象じゃねえか。その中から俺に惚れるって、イカれてるだろ。」

    「あーそうだよ。どうせフケ専でドMの変態バイでストックホルム症候群の末期症状だよ。」

    そこまで言ってねえだろ。先回りして卑屈になるな、鬱陶しい。

    「もう、なん…じゃあさ、あいつとかどうなんだ?あのヘソ出してる小娘。」

    眉間を押さえながら、春日一行の紅一点の姿を思い出す。見た限り、トミザワとはそれなりに仲良くしているようだが。

    「えっ。」

    「え?」

    トミザワが弾かれたように顔を上げる。目を見開いて赤くなっている。

    「ち、千歳とはそんなんじゃねーよ!アイツまだ大学生だぜ!ガキだっつーの!」

    ガキはどっちだ。わかりやすすぎるだろ。

    「バカか。そんなん言ったらお前、俺から見たら赤ん坊みてえなもんだからな。」

    というか、それならトミザワはただの惚れっぽいキモ男なのか。さっき、全人類の中から自分が選ばれた的なことを言ったのがとんだ自惚れだったことになる。

    「お前…俺とあのヘソ出しを天秤にかけてたのか?乙女かよ。キモい。」

    てかその二択で俺を選ぶな。狂ってるのか。そう呟くとまたトミザワが真っ赤になって怒った。

    「だって!!どのみち全員可能性ゼロだろ!!それだったらお前に絡んで引かれるのが一番ダメージ少ないと思ったんだよ!!」

    「…全員?」

    俺と、ヘソ出しの二人じゃないのか。

    「あっ。」

    「え、まだいるのか?」

    トミザワが青くなって立ち上がる。赤くなったり青くなったり忙しいやつだ。

    「いないいないいない。ごめんもう帰るわ。ありがとうございました。さよなら。」

    「待て待て。気になるじゃねえか。言ってけよ。」

    「…………」

    とは言っても、候補は限られている気がする。誰だ。誰がいる。確か、コイツを俺から助け出して命を救ったアフロがいたはずだ。

    「あ、かす」

    「そうだよ!!一番だよ!!よくわかったな!!」

    トミザワがキレ散らかして俺の腕を振り払おうと暴れる。これで全力なのか。悲しいくらい弱いな。

    「お前、なんなの?チョロおじさんじゃねえか。だっる。」

    「うるさいぞ!!」

    トミザワはムキになって、自由な方の手で俺の頭をガスガスとしばく。少し痛い。

    とはいえ、他に惚れてるやつがいるなら好都合だ。俺にキモい感情を向けられ続けるのも困るし、少しばかり協力してやってもいい。

    「トミザワ君さ、あれだったら俺…春日に聞いてやろうか。可能性あるかどうか。ヤクザだし、男いけるかもしれねえだろ。」

    「は?いいよ別に!変な気ぃ遣うんじゃねーよキモいな!」

    「わかったわかったわかった。じゃあ俺が勝手に自分の興味で聞く。で、アリそうだったら教えてやるから。な?」

    「勝手にしろよッ!!」

    力を緩めると、やっと解放されたトミザワはずかずかとバーの外に出ていった。




    次の日、都合よく春日らが医務室に茜たちの様子を見に来た。さらに都合の良いことに、トミザワは本当かどうか知らんが風邪で留守番だと言う。約束というほどのことではないが、これだけ状況が整っていればあえてやめることもあるまい。

    「…春日。」
    「ん、なんだ?」

    珍しく俺から話しかけられたので少し驚いている。

    「トミザワ君のこと、どう思ってる?」

    しばし春日が固まる。

    「…は?普通に…仲間だと思ってるけど?」

    「そういう意味じゃなくてよ。トミザワのこと、可愛いと思ったりとかしねえの?」

    また、固まる。困惑した目つきで俺を見つめると、しばらく目線を彷徨わせてから口を開いた。

    「………うん、まあ。そう言われてみれば?可愛いかもな。一回りは年下だし。声とか、ビビりなとことかも。」

    マジか。トミザワを、可愛いとは。春日は衆道ヤクザだったのか。

    じゃあ、こっちはどうだ。

    「おい、そこのお前。」

    「は?私?」

    ほぼ話したことのない俺に話しかけられて、小娘が怪訝そうに眉を寄せる。

    「お前は。トミザワのことどう思ってんの?」

    「ええ?まあ、普通に好きだけど。」

    「じゃあ、トミザワのこと、カッコイイと思うか?」

    「……え。………まあ、ね。ドワイトから庇ってくれたりとか、したし。」

    かっこいいかも。そう言うと頬を染めて目を背ける。

    なんてことだ。トミザワの分際で生意気にも両方に脈アリらしい。俺は懐からスマホを取り出して、組時代からそのままになっているトミザワの連絡先を開くとしたしたとメッセージを打ち込む。

    「トミザワ君」
    「喜べ」
    「二人ともアリだっつってんぞ」

    「うそ。」
    「電話していい??」

    何も返信していないのに、スマホがぶんぶんと鳴り始める。俺は春日たちを置いて廊下へ出ていった。

    「…山井、今日どうしたのかな。」
    「さあ…」



    「千歳、一番!ま、まじか…!」

    興奮し切った声に混じって、ばふばふと音が聞こえる。布団の上でバタバタしているのか。乙女でキモい。

    「えー、えー…!!」

    「よかったな。で、どうすんだよ。」

    「え。」

    「ヘソ出しと春日、どっちにすんだ。」

    「え〜〜〜〜」

    「きめーよ。早く決めろ。」

    コイツの恋愛に毛ほどの興味もなかったはずが、変に深入りしたせいでどうにも結末が気になってしまっている。これがサブスクにハマるということか。

    「え、ちょっと会ってくんない??」



    「で、どうすんだよ。」

    俺たちはまたもバーに集まって向かい合っていた。トミザワは懲りずにバカスカ酒を飲んでいる。また泣き上戸とキレ上戸にならなければいいが。

    「…どーもしねえよ…脈アリなだけでじゅーぶんうれしーもん。」

    ぽつりと呟く。

    「ダチでいられるだけでじゅーぶんなんだよ。付き合うの付き合わないのって話になったら、また…」

    また、なんだ。それ以上は言えずにじわ、と目をうるませる。

    「…気持ち悪いなあ、トミザワ君。」

    俺の不吉な前置きにトミザワがむっと顔をしかめる。

    「大の男が何カマトトぶってんだ。ダチもなんも、セックスできねえ関係に価値なんてねえよ。」

    ぴき。トミザワのデコの血管が浮き出る。さすがに店内でまたおっ始めたりはしないだろうが。

    「…トミザワ。」
    「あ…?」

    懐かしいあのひとの影が、目の前をよぎる。利用されて、裏切られて。あの頃は、それでも良いと思っていた。体の関係などなくても、あのひとの役に立てればそれでよかった。ただの都合の良い男だったのはわかっている。でもなぜかあの時はある意味で、俺は彼女の特別だと思っていたんだ。

    「…頑張れよ。」

    俺はお前を励ますようなキャラじゃない。だからそれだけ言って、トミザワの短髪を手のひらで軽く叩く。残った酒を一気に飲み干して席を立とうとすると、がばりとトミザワに抱きしめられた。

    「…」

    なんのつもりだ。普段ならバールでメッタ打ちにしてやるところでも、場所が場所で何もできない。無抵抗でいる俺にトミザワが言う。

    「…や、やっぱり、や、やまいが。よかっ、た…。」

    無理を言うな。俺はノンケだと言ったはずだ。お前のことは、そう。せいぜいが…

    「ガキか、てめーは。」

    トミザワの肩を軽く叩いて引き剥がす。もうコイツと飲むなんてのもこれで最後だ。十分埋め合わせはしただろう。明日からはまた、被害者と加害者に戻る。

    「また養分になりたくなったら来い、カス。」

    それ以外でエルドラドの敷居は跨がせない。

    「…二度と来ねえよ。」

    トミザワは感情を読めない表情でそう返したかと思うと、にこりと爽やかな笑みを浮かべた。もう血で汚れてはいない白い歯が覗く。

    「死ね。」
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