十六夜月の下で 暦としては春になりかけているが気候はまだまだ冬の冷たさを帯びている。夕餉に使った食器を洗っていると手がかじかんで徐々に痺れていくから早く暖かくなってほしいと願うばかりだ。
台所の灯りを最小限に抑えているから自分の手元がぼんやりと照らされ、水音と時折食器同士が当たる音が辺りに響く。
「――皿洗いかい? ご苦労様」
全ての皿を洗い終え手を拭っていると、背後から聞き慣れた声に呼び掛けられた。振り向くと、台所の出入り口で壁にもたれて立つ綾人の姿があった。
「若!? まだ寒いので体を冷やしてしまいます!」
「気分転換しに散歩をしていたのさ。人の気配がしたから誰かと思って覗けばトーマだったから立ち寄っただけだよ」
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