これから「恋」を始める二人~30年間片想いバレンタインを添えて~30年後ドラロナ、バレンタイン
「君って本当に私のこと好きだよね」
バレンタインのチョコをもらって喜ぶ俺に、好きで好きで大好きで死ぬほど好きな意中の相手本人から笑顔でそう言われた瞬間、俺の恋は終わりを告げた。
よし、出奔しよう。
好きだと気付いたのはアイツが来て一年目。
「好きだな〜」「好きな奴が側にいて嬉しいな〜」とか思えてた期間はそれから一週間。
好きでもない上に絶対物理で負ける相手からの好意ってすげえ怖いんじゃねえの???って気付いて落ち込むこと一ヶ月。
神社に駆け込み「絶対に不安にはさせないから好きでいたい」って祈願して絵馬を納め、騙し騙し上手くやれてたと思ってたのが5分前まで…
バレたか…バレたな…とりあえず北にでも行くか…
後輩のハンターたちは順調に育っていて、ロナ戦は区切りがいい所で終わっている。
……うん、考えれば考えるほど出奔するにはこの上ないタイミング。
「はいはい」なんて適当な相槌を打って布団を被る。……朝が来たら書き置き残して北へ行こう。
スマホは置いて、個人所有の通帳とハンコと財布だけ持っていこう。
朝、決意が揺らぐだろうからメビの頭は撫でなかった。
新幹線で西行って金下ろして飛行機とかで北の大地へ羽ばたく。
愛してるぜこの街もお前も…ごめんな、愛しちゃって………お前のとこから消えるから、好きって思うことだけは許して欲しい。
「いや、好きでもねえ奴からの好意とか気持ち悪いだけか〜」
俺の目の色と同じ空の下、コツコツと貯めた現金が入った鞄と、新しく契約したスマホを片手に飛行機へ乗り込む。ぐんぐん離れて行く滑走路、空港、街…途中からぼやけて何も見えなくなったのは、きっと雲の中に入ったせいだ。
お陰様で体は丈夫だしなんとでもなんだろ。
ロナルド君が消えて3日経った。
手がかりを得るために、ありとあらゆるスペースとスマホとパソコンを漁ったけれど『あばよ』と書かれたメモ以外収穫は無く5回くらい死んだ。
ヤバい吸血鬼に何かされたのかと思い捜索願いを出したけれど、事件性は無いという結論だけが帰ってきたし、SNSを駆使したが特に成果は無かった。
……というか、ただの同居人でしかない私は公的な手段をあまり頼れない。いくら彼のことを探したいと願ってもその方法は限られる。
最後の手段であるお祖父様は「自分の手で探さないと後悔するよ」とだけ言い、いつもは甘い両親も手は貸してくれなかった
「もしかして、好きなのって私だけだったの…?」
彼とコンビを組んで30年。
外堀を埋めて埋めて埋めて埋めた30年。
ガードが甘いけれど、変なところで鉄壁な彼を囲い込んで囲い込んで囲い込んで囲い込んだ30年。
もうすでに籠絡したと思っていた。彼の一挙一動から私への愛が溢れ出すようになってかなり長い時間が経っていたので、改めて好きと言ったりはしなかった……
いや、一度だけそれらしいことを言った。
彼が出奔する直前に、それはもう嬉しそうな顔で私が作ったチョコを食べる彼へ「本当に私のこと好きだよね」と言ったのだ。
次の瞬間、彼がそれはもうびっくりした表情だったことは覚えている…そして、思い返すとその顔には絶望の色があった。
つまり、彼が私のことを好いていたという事実は無いってこと…?
ゑ???つまり私は勝手に好かれてると思って悦に入ってたド変態ってこと??????
「無理過ぎ…」スナァ……
………好きでもない相手からの「私のこと大好きだよね(ニチャァ)」とされたから逃げたの…?
うわ…無理過ぎ………ごめん…………………そりゃあ逃げるよねごめん………………………………
………よし、落ち込み終了。スタート地点はマイナス!つまりこれから上がる余地しかない!!!
さっさと見付けて、ちゃんと「愛してる」って言って、伴侶を前提に友人から始めよう!!!
毎週、最愛の弟から手紙が届く。
1通目は弟が出奔して3日後だった。
元気にしているということ、住む場所と職を得たこと…そして好きになってはいけない相手を好きになり逃げ出したという懺悔。
どこぞの人妻を!?と思ったがどうやら相手は同居している吸血鬼で、いや付き合っておらんかったんかい!!!と大声でツッコミを入れた…
こちとら「ご挨拶」が来るのを待ってもう何年だと………
そんなこんなで3通目の手紙が届いく。
それには髪を目立たない茶色に染め、同僚と飲み屋で肩を組んで笑っている写真が同封されていた。
「で、おみゃあさんはどうする?」
「迎えに行きます」
目の前に座っているのは、さっきまで手紙を読んでは砂になり復活しては砂になっていた吸血鬼。
「ちゃんと話し合うんじゃぞ…埒があかんくなったら電話しろ」
「…そうならないことを祈っていてください」
さて、今日来た写真から居酒屋が割れるまでどのくらいかかるかにゃあ?
「腹を括れよ」
北の大地の弟へ、小さなエールを送った。
「私in北海道!!!いやさっっっっむ!!!!」
「ーーーーーー!!!!」
ロナルド君がお義兄さんへ宛てた手紙から場所を特定して雪が吹きすさぶ北の大地に降り立ったジェントルofジェントルこと私とイデアの丸ことジョン。
彼がよく通っている居酒屋へは連絡を入れており、潜入の下準備は完璧!待ってろ若造!愛してるって言ってやるからな!!!!
「えっ…?」
馴染みの居酒屋のお通しを一口食べて驚いた…アイツの味だ。
なにせ30年間ほぼ毎日食ってたんだから間違いない。
アイツが公開していたレシピを元に作ったとかではなく、食材も調味料も違うのに何故か分かった。これは、アイツの味だ。
「私の作った料理、美味しいよね?」
「お前なんで…!!!」
「手紙」
「手紙!?」
「お義兄さんに手紙見せてもらったんだ……ねえ、ロナルド君一緒に帰ろう?」
「そ、そんな…」
「…大好きだよロナルド君、私は君のことを心から愛してる…それは君も同じでしょ?」
「だいっ!?!?!?!?」
「…ジョンも一緒に帰りたいって」
「ニュ~ン♡♡」
「お前それはズルだろ!!!!!」
「ズルじゃないでーす」
「だいたい急に言われても無理だ」
「…なんで?」
「除雪の仕事してるから」
「除雪の仕事…?」
「おう、今月末まで」
「今月末…………分かった、私も君の仕事が終わるまでここで暮らす」
「はあ!?」
「だって逃げるでしょ!?!?!?」
「逃げ、ねえよ??????」
「逃げるじゃん!逃げる人の台詞じゃん!!!ヤダもんね!やーーーーっと愛する伴侶を見付けたんだからね!!絶対に逃がさないから!!!!」
「た、たかが数週間だろ!?!?」
「はあ!?238年以上です~~~~~~~~!!!!!!!」
「はあ!?!?!?」
「私が生まれてから今までずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと探してきた運命の相手は君なの!!!!」
「はっっっずかしい奴!!!!!!!!!」
「黙らっしゃい!!!暮らすからね!否は無いからね!!!!」
「後悔しても遅いからな!!!!!!!」
「する訳ないからいいも~~~んだ!!!!」
にっぴきが揃って帰って来るまであと2週間。
ヌン
完