帯化(仮) 嵐の音がする。締まり切った窓ガラスがガタガタと揺れ、屋根や地面を無数に叩きつける夥しい量の水の音が、引っ切り無しに耳に届いた。時折ビカビカと光る雷が、部屋の中をまばらに照らす。
耳障りなほどうるさいのに、ゾッとするほど静かな夜だった。ヒースクリフはそれが、嵐の前の静けさだと知っていた。もうすでに嵐の中にいるのに、そう思っていた。
大切なことをふたつ忘れた。
ひとつは、自分が証明できるもの。復讐を誓った武器の、塗り替えた言葉の意味が、自分の寄る辺だった。
もうひとつ。
もうひとつ、あったはずだ。
本棚の中で本がひとつ抜き去られていたとする。自分はその本棚を初めて見た。そして、そこに一冊分の間がある。そこにある本の名前を、果たして当てられる人はいるのだろうか。そういうものだった。“無い”と言うことがわかっても、それが何なのかはわからないのだろう。
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