炎を見る人〈ねぇ、イサン。よかったら今晩、星を見に来ない?〉
世間話の延長のような気軽さでカチコチと針を鳴らしたダンテが、そう言って一瞬だけイサンの方を向いた。
それが周りに聞こえないように──ダンテの声は囚人にしか届かないが、その中でも伝えたい人を選ぶことができる──まるで内緒話みたいに言ったことに気がついたのは、管理人の隣に居たイシュメールが「今何か言いました?」とダンテに聞いたからだ。
〈なんでもないよ〉と管理人は言って、それからこちらに目配せをする。目がないので、実際はそういう気配がしただけだが。先ほどの問いかけの答えを待っているのだろう──イサンはひとつ頷いた。
管理人はその答えに満足したかのように、別の囚人と話し始めてしまった。今日の鏡ダンジョンで使う人格を決めているのだろう。ダンテの隣を陣取った、イシュメールとウーティスのアドバイスが聞こえて来る。ファウストは……ヴェルギリウスと何か話しているようだった。
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