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    つわぶき

    @euthanasia_twb

    自創作置き場

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    つわぶき

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    本編の続きで、フィンチくんとセレちゃんの視点の前半…多分…前半です…。
    2人の視点がスイッチするのでちょっと読みにくいかもしれません…

    ##stringers

    碧空に黒歌鳥 ① 11月の終わり、あと数十分で12月になろうかという時、その知らせがエドワード・フィンチへ伝えられた。親友一家が何者かに襲撃されたという一報は、とても言葉では言い表せないほどの衝撃を彼に与えた。なぜ、今なのか。ふと目に入ったレースのカーテン越しの外は真っ暗闇。室内は明るいというのに、その闇の中に放り出された気分になる。呆然と立っていることしかできなかった。夫妻、そして弟は死亡、親友本人は重傷を負い手術中、出血が酷く生死を彷徨っているらしい。彼は改めて自分の背負う家門の重さに辟易した。今すぐに親友のいる病院へ駆けつけ、そばで無事を祈りたい。けれど、突然家門を背負うことになった身では、目の前の煩雑な諸問題を投げ出して行くことなど許されない。彼は家族間の関係を拗らせに拗らせたまま数週間前に急逝した先代を恨んだ。


     12月1日の朝、セレステ・ノーランは何気なく見たニュースに唖然とした。自分の嫁入りする家が、何者かに襲われ、義両親となるはずであった夫婦、義弟は死亡。そして婚約者は意識不明の重体。
    「セレステ。」
    言葉を失い立ち尽くす彼女に、彼女の父が話しかける。神妙な面持ちであった。
    「ストリンガーのお宅には、許可を出すまで近寄らないように。婚約の破棄も視野に入れているから、覚悟はしておきなさい。」
    「父様、」
    苦虫を噛み潰したような表情で彼女は口を開いたが、父はそれを制止する。
    「分かった、これ以上は言わない。私も彼をみすみす手放したくはない。だがな、今はお前も狙われていると考えるべきだ。婚約を公表しているのだからな。しばらくは家に留まってくれ。会社には私から連絡を入れておく。」
    今日は何もしなくて良い、と彼女の父は背を向けて言う。彼女は黙っていることしかできなかった。涙が一筋、頬を伝う。彼らは、残された少ない時間をより大切にしようと努力し、手を尽くしていた。彼女もまた、その当事者だった。突然、何もかも奪われてしまったのだ。幸せだった空間も、時間も、全て。
     『もし容態の急変で、予定よりも早く死んだらこれを読んでほしい。』
    そう書かれた封筒を受け取っていたことを、彼女は思い出す。エドワードから渡されたもので、アイゼアに頼まれたのだと言っていた。回りくどいことをせずとも、直接渡すなり、ラザに託すなり、簡単な方法はあったはずだ。しかし、そうしなかったのはラザに知られたくなかったのだろう。内容は分からないが、決して軽い内容ではないということは容易に推測できた。彼女はレターナイフでそっと封を切った。
     彼女は手紙を読み終えると、また涙を流した。
    『ひどく取り乱すだろうから、できるだけ傍にいてほしい。貴女がいれば兄は落ち着くだろう。』
     その他にも、アイゼアが彼女を信頼していること、彼女だからこそ兄の将来を安心して任せるのだということ、兄はどうすれば安心するかなど、励ましの言葉と助言が書き連ねられていた。しかし、彼女の涙は安堵でも感動でもない。早速その信頼を裏切らなければならないこと、彼の傍にいられないことによる無念と、何もできない無力感とに苛まれてのものだった。



     親友の一件からひと月ほど経って、ようやくある程度解決の兆しが見えてきた。過密だったスケジュールにも余裕が生まれ、彼は親友の見舞いの予定を立てた。親友の叔父が面会謝絶にしていたが、親交が深く、身元のはっきりしている彼ならば、ということで特別に許可が降りたのだ。案内された病室は、特別待遇用のもので、快適そうではある。この設備を十分に活用することもできそうにない、未だに目を覚さない患者に宛がう理由は勿論、彼の身にこれ以上何か起きてはいけないからであった。本人が起きれば苦い顔をしそうなものだが、この病院に土地を提供し出資した地主貴族の跡取りなのだから、特別待遇でなければむしろ困るのだ。
     ずっと目を覚さないという親友との対面は、彼にとって苦い経験となった。2ヶ月ほど前までは、疲れていた様子ではあったとはいえ、所謂「元気な姿」であったのだ、と実感させられた。食事も摂れず、動けもしない親友は、頬の肉が落ち、鍛えていた腕も筋肉が衰え細くなっている。看護師は、昏睡状態ではあるが、植物状態ではないと説明した。精神的外傷が原因であるらしい。一時期は大きなニュースになったが、詳細は伏せられ、当時の状況は彼にもわからない。だからこそ、身体も精神も屈強であったはずの親友がこのような状態で横たわっていることが恐ろしかった。一体、何が起きたらこうなるのか。不意に耐えられないほどの吐き気に襲われ、力が入らなくなる。その場に蹲り、落ち着くのを待った。
     結局、別室で休むことになった彼は、落ち着くとしばらく呆然と虚空を見つめていた。先代である父を亡くして一年も経っていない彼は、もう一人、自分に近しい者が死んでしまうのではないかと不安だったのだ。


     家にこもりきりの生活に慣れてきた頃、珍しくエドワードから電話がかかってきた。彼女は、直感的にラザに関することだと思った。
    『セレステ、話せるかい。』
    「時間的余裕ならいくらでもあるわ。…ラザのこと?」
    『ご明察。今日、面会に行ってきてね。』
    「面会謝絶じゃなかった?」
    『シレニ卿に直接許可をいただいたんだよ。』
    「あなた相手じゃ、断る理由もないわね。」
    『そういうこと。…ちょっとショックかもしれないけど、大丈夫?君が聞いたら卒倒しそうだから。』
    「危篤ってわけじゃなさそうね。それなら何だって構わない。どうだったか教えて頂戴。」
    電話の向こうの声は一度止まり、深呼吸の音が聞こえる。彼女は無意識にぎゅっと目を瞑った。
    『まだ意識が戻らない。身体的にはもう問題は無いらしいけれど、心因性のものかもしれないって。』
    「そう…まだなのね。他に変わったことは…なかった?」
    『これが大問題なんだけど、1ヶ月も点滴で寝たきりだから…痩せてしまっていたよ。正直、僕も動揺して倒れるくらいにはね。』
    大問題、とエドワードは言うが、セレステにとっては既に重要なことではなかった。数年前までは発狂していたかもしれなかったが。ラザ・ストリンガーという人物そのものを気に入っている以上、痩せようが太ろうが、生きているなら許容範囲だと思えるようになっていた。しかし、エドワードが卒倒する程と考えると、多少の変化ではない。彼女はどう声を掛けるべきか迷った。
    「……、そっか。」
    『随分と素っ気ないな。』
    「言葉が見つからなくて。」
    『だろうね。』
    「でも、痩せるのは仕方ないことでしょ。何も食べていない、動けもしない。…生きているってことだけでもありがたいわよ。」
    『ああ…そうだね。』
    目頭を揉んでいる様子が容易に想像できる。何か言いたいことはあるが、言い出せない。でも、抱え込むのも辛い。我慢できないほどになれば勝手に話し出すが、まだ余裕があるうちは聞き手が嫌な思いをしないようにと我慢する癖がある。
    「大丈夫?」
    『大丈夫ではないかも。…いや、間違いなく大丈夫じゃない。ごめん、…君に言うべきじゃないんだけど…。』
    「昔からの付き合いよ。聞くわ。」
    セレステは感情の言語化はあまり得意ではない。エドワードの言葉が、今、自分の胸中で渦巻くもやもやした気持ちを代弁してくれるかもしれないと期待した。
    『…ありがとう、君だって辛いはずだから…。』
    「私が辛いなら、ラザともアイゼアとも長い間親しかった貴方はもっと辛いでしょ。」
    『ごめん……、怖かったんだよ。』
    「何が?」
    『父親を亡くしたばかりだから、また親しい人が2人も死んでしまったらどうしようって…。ラザまでいなくなったらと思うと、怖くて仕方なかった。』
    「…そうね。先代が亡くなってすぐだった。怖くなるなんて当たり前よ。貴方にしかない辛さでしょ。それを申し訳なく思う必要はない。」
    怖い。そうだ、怖いのか。ラザまで死んでしまうかもしれないという不安、恐怖。セレステは喋りながら腑に落ちるのを感じた。怖いものなんてもうほとんどなくなったと思っていた。自分の人生の中に現れたのは比較的新しい部類のはずが、ここまで入れ込んでいるとは。
    『ありがとう。…はあ、簡単に弱音も吐けないなんて。家なんか継ぐものじゃないよ。』
    「失言ね!」
    『うわ!急に大きい声出すなよ…!全く、このことは内密にお願いしますよ。』
    「ふふ、言わないわよ。でも、ちょっとは元気出たでしょ。」
    『…もうちょっと穏やかな方がありがたいんだけどな。報告して君が泣いたら慰めなきゃと思っていたけど、泣き言を言ったのは僕のほうだったか。』
    「いつもそうよ。私はノーランの娘。あなたほど繊細じゃないの。」
    『そうだった。「お転婆セレステ」、弟だって君には勝てなかった。』
    「そう。私、強いから。今はあなたが代わりに泣いて頂戴。」
    セレステはそう言って電話を切った。それ以上は泣きそうだったのだ。泣くのはラザが戻ってきた時にしたい。しかし、静かになった自室に不安と寂しさがこみ上げ、とうとう両の目から涙が溢れた。


     エドワードとの電話からひと月もしないうちに、ラザは意識を取り戻した。それからすぐに両親とアイゼアの葬儀が決まった。セレステは電話をかけず、ショートメールでラザに見舞いの挨拶を送った。気が向いた時に返事をすれば済むようにと気を遣ってのことだった。返信は来なかったが、忙しく、返事を打つ元気もないのだと思うことにした。


     葬送ミサの会場である、ハムステッドの教区教会で久々に見たラザは、ほとんど別人だと言っても良いかもしれない。上背があり、くすんだベージュに近いブロンドの長い髪、特徴的な青い肌と、彼の一族には珍しい横長の尖った耳と二つずつ銀のピアス。それは変わりなかった。しかし、新しく仕立て直したのであろう喪服は、最後に見たスーツよりもずっと細身だった。何より、夏の夜のような、穏やかでありながら生命の気配に溢れている…その雰囲気が全くなかった。彼だけがまだ、木枯らしの吹き荒ぶ初冬に閉じ込められたままだった。
    「ラザ。」
    2つの棺の前の喪主はゆっくりと瞬きをして、彼女に焦点を合わせた。水仙と同じ色の瞳が揺れる。いつもは何とも思わなかった鮮やかな黄色の瞳が、その瞬間、不気味に光ったような気がした。
    「…、セレステ、来てくれたんだ。」
    穏やかな声。柔和な微笑み。記憶に違わない。しかし、いつも聞いていた声の温かさはなく、彼女は身構えた。
    「そりゃ、来るわよ。父と兄達もね。ボディーガードも連れて。」
    「ご挨拶しなくちゃ。」
    「そうして頂戴。辛いのに面倒をかけてしまって申し訳ないけれど。」
    力なく笑いかける彼は、どこか無機質に感じられた。アイゼアの手紙の通り、相当参ってしまっている。彼女は眼前の婚約者をすぐに助けられないことが、悔しくて仕方なかった。
     ラザはノーラン家の面々に挨拶を済ませると、他の参列者に挨拶しに行った。すると、兄の一人がセレステにそっと耳打ちする。
    「ラザ、あんな感じじゃなかったよな?」
    好奇心の隠しきれていない兄の言葉が癪に障る。
    「兄様は私が死んで、兄様自身も死にそうになって、目を覚ましたら1ヶ月経っていて、すぐ葬儀の喪主を務めるってなったら、それでも普段通りに振る舞えるの?」
    彼女は頭にきて、兄の耳を引っ張った。
    「すまん、ごめん、そういうつもりじゃなくて!ごめん!セレステ、俺だって無理だ、ごめんって、離してくれ…」
    彼女はしばらく手を離さなかったが、見覚えのあるプラチナブロンドが目に入り、やっと兄を解放した。
    「あ…エドワード!エドワードも来てるんだな。」
    フィンチ家の当主に対し無礼な言動だが、昔馴染み故、彼も意に介さない。
    「どうも。思ったより参列者が多いみたいですね。ラザが呼ぶとも思えない人種までいるようですが。」
    彼女もそう思っていた。ラザの知り合いでもなさそうな参列者が多い。挨拶もされていないのを見るに、招かれてもいないはずだ。
    「ラザも呼んでないはずよ。本当に、どこから嗅ぎつけて来たのかしらね。」
    エドワードも頷き、眉間にしわを寄せる。
    「アイゼアの葬儀と別にして正解ですね。」
    「同感。あの子が一番嫌がりそうな雰囲気だものね。」
     いつの間にかラザは葬儀屋らしい者と話していた。内容までは聞こえない。ラザが席に着くと、葬儀が始められるとアナウンスされた。


     喪主が参列者に挨拶をする。丁寧に、真意が見えないように、耳触りの良い言葉で包まれた恨みと悪意が喪主の口から滔々と紡がれる。前列は呆気に取られた顔、後列を振り向けば感動的なスピーチとでも思っていそうな顔。言い回しに棘は無いが、普段から彼の話ぶりを知る者にとっては不自然極まりないものだった。
    「俺たちにだけ違うものが聞こえてんのか?これは」
    「同じ言葉のはずですよ。解像度が違えば受け取り方も変わるってだけ。」
    「しかしなあ…あいつ、本当に悪口しか言わないな。」
    「普通なら嫌味にも聞こえないものっすよ。あの人のことをよく知らないなら。」
    「まあ、そりゃそうだろうな。」
    隣席には、パブリックスク―ル時代の顔馴染みのロジェ、それと後輩のフロレンツがおり、彼らも同じように違和感に驚いているようだった。2人はそれぞれ政府付きの機関と教会から事件の調査官として派遣されたのだとか。エドワードは彼らの話に耳を傾けつつ、親友が呪詛を吐き続ける様子をじっと見つめていた。少しでも親友の気が晴れるように祈った。
     ミサが終わると、ラザは葬儀屋と話していた。葬儀屋もラザと並ぶと小さく見えるが、長身だった。時折、長い犬歯が覗く。…吸血種?老舗にそんな葬儀屋はあっただろうか。携帯で調べると一件、吸血種の社長が興した、比較的新しい葬儀会社があった。エンバーミング…防腐処置が上手いらしい。アイゼアは安置葬。ここで間違いなさそうだ。
    「フィンチ家の御当主にご挨拶申し上げます。」
    葬儀屋は彼に気配もなく近づき、声をかけてきた。彼は驚いて顔を上げる。
    「畏まらなくて結構ですよ、プレスコット社長。」
    「私共をご存知で…?」
    「いいえ、先程気になって調べたんですよ。便利な世の中だ。」
    全くですと、白っぽい吸血種は微笑みながら頷いた。すっと真顔に戻り、本題が切り出される。
    「アイゼア様の葬儀の日程が変更になりました。明日にするべきだと。」
    「問題ない。喪主も想定外だっただろう。…ああいった輩に居座られても困るからな。」


     意外なことに、その吸血種は普通の葬儀屋だった。無意識のうちに色眼鏡で見てしまったことに気が付き、エドワードは自分自身に落胆した。だが、吸血種が上流階級の相手をし慣れているのは珍しいとは思った。いくら法律で差別禁止が定められていようと、伝統を重んじることを求められる上流階級の前に、差別対象の吸血種を出すケースは少ない。アイゼアの葬儀は明日の午前に延期と伝えて回っている様子にも焦りはなく、こちらが思っているよりも良い仕事をするのかもしれない。葬儀屋はやはり、見知った顔ぶれだけに声をかけて回っていた。ラザのほうはノーラン家の面々に囲まれていた。だからこちらには喪主本人ではなく、葬儀屋が来たのだ。ああなるとずっと詰められることになるな、助けに行くか。


     エドワードは一瞬、割って入るのを躊躇った。が、親友のために自身を奮い立たせて声を出した。
    「何をそんなに話し込んでいらっしゃるんです?」
    ノーランの長兄が振り向いた。
    「明日、俺たちは参列できないからさ、ボディーガードの配置とか?ちゃんとしてくれって話だよ。」
    心配だろ、大事な妹なんだから。その言葉に他の兄弟も頷く。ラザにそんな余裕が無いことを分かっていて突いている。普段は可愛がっているはずなのに、これだから苦手なんだ。
    「それならウチからも出しますよ。ラザを少し休ませてやってください。顔色が悪い。」
    「ああ、よろしく。すまんな、ラザ。少し休んでこい。」
    ノーラン家の当主の言葉でやっとラザが解放された。目に見えて憔悴している。エドワードは親友を少し離れたところで座らせた。心配した様子でセレステも付き添う。


     座って落ち着いたのか、ラザは急に日程を変えたことを2人に謝った。
    「2人とも、急な日程変更でごめん。あれを追い払うにはそれしかなくて。警備についても。失念していた俺が悪い。」
    「あれは過保護。馬鹿どもが騒いで申し訳ないわ。月曜日の昼間なら来られる人も少なくなるだろうし、人を篩にかけるという点では良いと思う。」
    「僕も、こんなこともあろうかと1週間休みを取っておいたよ。絶対欠席したくないから。」
    「正直、2人さえ参列してくれれば良いんだ…急なお願いで申し訳ない。」
    「私は問題ないけど、埋葬も日程が変わるんじゃない?」
    「それは葬儀屋の方が各所に連絡してくれたよ。対応してくれるって。」
    「仕事が早いな。」
    「始まる前に相談したんだ。ミサが終わったらもう手配してくれていてさ。」
    へえ、と2人の相槌が重なった。ラザの口元が僅かに緩む。
    「で、本当に火葬で良いのか?」
    「棺2つ入れても、まだうちの納骨堂には入るけど…まあ…色々思うところがあって。」
    「ま、そうだろうな。これから移動か。」
    「手間でごめん。火葬終わってもまた移動して、こっちに戻って来て納骨。」
    「仕方ないよ、区外にしか火葬場は無いんだから。」
    「本当はもっと早く済ませるつもりだったんだけど、想定外の参列者が多くて…」
    「じゃあ挨拶はアドリブ?お前にしては嫌味だったけど。」
    「いや、直前に書いたよ。」
    「見事な、伝わる人にしか伝わらないスピーチだった。」
    「うまくいってよかった。」
    本当によくできた挨拶だったと、エドワードもセレステも思っている。表向きには見事な哀悼、本音は恨み節。少しでも喪主の気が晴れれば、それが最良なのだ。


     火葬は何とも味気なかった。高温の炉で燃やし尽くし、骨まで全て灰にして、骨壷だけが手渡される。二つの棺は、一つの、少し大きめの骨壷になってしまった。相変わらず、伝わる人にしか伝わらない悪意を、彼は披露していた。区別してやる価値もない、等しく無価値。そう聞こえた。火葬炉の付近はまだ熱気を感じる。炉の冷え切る頃には、彼の怒りも落ち着くだろうか。セレステは壁に埋め込まれた誰とも知らぬメモリアルプレートをそっとなぞった。彼の両親に関する嫌な思い出も、感情も、誰かの目に触れる場所ではなく、教会の地下の立ち入りが制限されている納骨堂に、一緒に隠されてしまうことを切に祈った。
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