カチャカチャカチャ…
ある音はソファの上から。
パタタパタタパタタ…
ある音はベッドの枕から。
中々合わないけど、時々目を合わせては、また手元に向き直る。
飛び越せない小節が行手を阻む。
それでも指先を信じて、繰り返す。
外でしとしと落ちる菜種梅雨が、丸い蕾に恵みをもたらす。
コンクリートに染み込む水溜りたちがいる限り、天気予報の傘マークもなかなか消えない。
「あっ」
小節の先をゆく音が聞こえた。
一声上げて、横顔が綻び出す。
息を吸い込むと、テンポが徐々に加速する。もっと背中が前のめりに、遂には目を閉じて、小さな箱は雨音に包まれる。
止めない。対話する。耳を澄ます。
「まだまだ」
「おし」
やがて葉桜になる前に、とびきりの晴れを浴びるために。
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