青色の恋煩い困ったことになった。
視界の端をちらちらと舞う青い光に内心でため息をつく。
ホンルは数日前からこの青い光……青い燐光を放つ妖精に付き纏われていた。
妖精の可愛らしい外見と物珍しさに最初こそ喜んだものの、この妖精がどうやらホンルの片目だけにしか興味がないらしいと気づいてからはそう楽しめるものではなくなった。
同じように青く輝くこの瞳を同族だと勘違いしているのか、妖精はホンルの瞳に親しげに近づいては話しかける。だがホンルがそれに反応を返すと、予想外のことに戸惑ったように、あるいは怯えたかのように慌てて逃げてしまう。
そうしてしばらくするとまた、ホンルの目元へ近寄ってくるのだ。
今日もまた妖精はホンルの前髪を無遠慮に掻き分け、同じ色の青い瞳に寄り添って何か熱心に話しかけている。
ホンルは、それを邪魔しないように口を閉ざしてじっと妖精が満足するのを待つ。
彼の小さな囁き声は、耳をすませないと聞こえない程でそれを聞くためにはホンルは息を潜めなくてはならなかった。
もちろん聞き取れても何を言っているのかは妖精の言葉を知らないホンルにはわからないのだが、歌うように紡がれる声はそれだけで心地が良かった。
動けない、声も出せない、という状態は煩わしくはあったが、嬉しそうに理解できない言葉を連ねる妖精の姿を見ると彼の邪魔をする気にはなれない。
なにより、邪魔をしてしまったばかりに2度とホンルのもとを訪れなくなったなどということになってはいけない。
ホンルは息を殺して自分に……、いや、ホンルの眼孔に収まった瞳にうっとりと話しかける妖精をただ眺めた。
妖精は話しながらホンルの目蓋を撫でた。
仲間と思っているにしては妙なことに、眼球そのものに触れることはせずいつも彼は目蓋や目元に触れる。まるで直接触れてはならないとわかっているように。
もし、仲間がホンルの眼窩に嵌っていることを理解しているとして、彼はそのことをどう考えているのだろう?
話しかけると浮かべる表情は、仲間を囚える存在への嫌悪だろうか?
ホンルは、同族との逢瀬を阻む邪魔者にすぎないのだろうか。
思考に没頭していると、ふと妖精がホンルの目尻をぽんぽんと叩いた。反射的に目をつむる。
すると、ふわ、と目蓋にくすぐったさを感じた。
見えないが、どうやら目蓋にくっついて何かをしているらしい。
もぞもぞと動く感触が離れるまで待って、そうして目を開くと妖精が満足そうに笑っていた。
頬を紅潮させてうっとりと口元を綻ばせた彼と真っ直ぐに目が合う。
困ったことになった。言葉もわからないのに。
この微笑みが向けられているのは自分ではないのに。
目玉だけになれたらどんなにいいだろう。