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    overdosetarou

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    overdosetarou

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    ワンライ(お題浴衣)の続きのつもりだったけどいろいろ破綻してるので没

    ※未来軸プロ設定
    ※付き合ってる
    ※なにもかもインチキ

    凪視点(ワンライ部分)→馬狼視点→凪視点
    朝チュンオチ(落ちてるとは言ってない)

    ワンライ浴衣続き(没) シンプルな布地から覗く二の腕には半袖の日焼け跡が残っていて、よく引き締まったそれがせかせか動くのを、凪は他人事のように感心しながら目で追っていた。
     自身が映った目の前の姿見は、漆塗りの縁で高級感があるもののほんの少しだけ埃をかぶっていて、こいつならこういうとこも見落とさないんだけどな、と背後に立つ馬狼を鏡越しにじっと見つめた。
    「クサオ、腕上げろ」
    「うぃ」
     言われたとおり両腕を持ち上げれば、正面に馬狼の手が回ってきて、帯が腰に巻きつけられる。そのまま力強く締められ、背中で結び目を作る衣擦れの音を仕上げに浴衣の着付けが終えられた。
    「ふーん……手際いいね」
    「はっ、当然だろ。つか人に頼んな、テメェでやれ! 煩わせやがって」
     仮に凪が自分で着付けたとして、緩みだの着丈だのの粗が目についてどうせ馬狼は手を出してしまうのだ。だったら最初からやってもらった方が手間省けるじゃん、と正直に口に出してしまえば余計に機嫌を損ねること必至なので、凪は唇を尖らせるだけに留めた。
     深い茶色に控えめな縦縞があしらわれた浴衣と桑色の帯は馬狼のチョイスで、我ながらなかなか様になっている……ような気がした。
     ちなみに、馬狼が着ている墨色の浴衣に臙脂の帯は凪が選んだものだった。黒と赤のはっきりしたコントラストは馬狼によく似合っていて、我ながらなかなかいいセンスをしている……ような気がした。

     二日連続のオフが偶然重なると判明し、トラベルサイトで良さげな温泉宿を見つけて予約したのがひと月前。一泊二日二食付き、オプションとして浴衣の貸出もしているとの表記を見て即決した。浴衣デート、いいじゃん。
     スマホの画面上で計画するだけなら当然何の労力も必要とせず、凪にしては珍しくやる気がみなぎっていたのだが、日が近づくにつれてだんだん億劫になってきた。浴衣の着方とか身のこなしとかよくわかんないし、めんどくさくなる予感しかしない。
    「そもそもお前が浴衣付きプランがいいって駄々こねたんだろうが。言うに事欠いて着るのが面倒だ? ふざけんのも大概にしやがれ」
    とキレる馬狼に引き摺られ、どうにか今日ここまでやってきたというわけだった。

    「ごめんって、馬狼……着せてくれてありがと。疲れてるっしょ、ちょっとゆっくりしよー」
     素直に感謝したり非を認めさえすれば意外と早く鎮火してくれると知ったのはここ数年のことで、お互い大人になって幾分か丸くなったことを実感する。案の定、凪に休憩を提案された馬狼は渋々といった体でテーブル横の座椅子に腰を下ろし、背もたれに身を預けてゆっくりと瞼を閉じた。
    「眠いの? 俺も寝ちゃおうかな」
    「目ぇ瞑ってるだけだ……旅先でまで昼寝で時間潰すつもりか? テメェは」
    「……元気そーでなにより」
     少し疲れた様子の馬狼だったが、しばらくして大きなため息をついたかと思うと目を開けて立ち上がり、テーブルに置かれていた茶櫃を持って、備え付けの電気ポットの方へ向かった。どうやらお茶を淹れてくれるらしい。
     着付けが崩れないよう、無駄のない所作でポットの前に正座した背中に「ありがと〜」と間延びした声でまた謝意を伝えると、馬狼はこちらを一瞥してフン、と鼻を鳴らし、またすぐに正面へ向き直った。
    (うーん、テンプレみたいなツンデレメイド……んや、奥さんかもしんない……)
     しゃんと伸びた広い背中をなんとはなしに眺めていたが、手元を見るため俯いた馬狼の衿元がふと妙に艶めかしく見えて思わず目を瞠る。もともとほんの少しの下心で着るよう仕向けた浴衣だったが、その威力は想像以上に侮れないものらしく、やっぱ来てよかったかも、と凪は静かに生唾を飲み込んだ。
     膝立ちになり、畳を摺りながらそろそろと馬狼の背後をとる。ポットではまだ湯が沸いておらず、今なら危なくないよね、と判断した凪は、露出した首筋に鼻先をうずめた。
    「う、あっ! ンだ急に……っ!」
     咄嗟に首を隠そうとした手を取り、すんすんと襟足を嗅ぐ。ほのかなシャンプーの残り香の奥に馬狼の匂いがして、興奮で体温が上昇していくのを自覚した。
    「まーまー、ちょっと大人しくしててよ」
     脇をぐっと持ち上げて同じように膝立ちにさせ、そのままぐいぐいと部屋の隅に追い込むと、浴衣のせいで体幹がうまく働かなかったのか、馬狼はそのままバランスを崩して壁に縋るような体勢になった。すかさず下半身を両腿で挟み込み、背後から拘束するように抱きしめる。
    「おいクサオ、何のつもりだ……」
    「いや、髪上がってるし浴衣だし、うなじ丸見えだからえろいなーって思って」
    「髪ならいつも上げてんだろうが! 急に発情してんじゃねえ!」
    「え、じゃあ常にそーゆー目で見てていいってこと?」
    「屁理屈こねんな、エロガキが……!」
    「ガキじゃねーし、一個しか違わないし」
     ビキビキと額に青筋を浮かべて騒ぎ立てているのを無視して首にねっとりと舌を這わせると、途端に馬狼は口を噤んで息を潜めた。よし黙ったな、と気を良くした凪は、そのままちゅうちゅうと皮膚を吸い上げたりゆるく歯を立てたりして、馬狼の首元を責めたてた。全身を強張らせ、ハッ、ハッと短い息を吐いて快感を逃そうとする馬狼がいじらしくて、もっと気持ちよくしてやりたい思いに駆られ、下の方に手を伸ばす。
    「すご、ケツの形くっきり」
     少しきつめに着付けられた下半身は、布が張って臀部の丸みが浮き出ている。尻のあわいに指を食い込ませてすりすり擦ると、馬狼はびくっ、と身じろぎした。
    「っ、おい、どさくさで何すんだコラ!」
    「はーい、暴れない。どうどう」
     身を捩らせて凪の間合いから抜け出そうとする馬狼を、空いている片手でどうにか抑え込む。口だけは威勢がいいが、体の方はどうやら力が抜けてしまっているらしい。振り向いて寄越された非難の視線だって、いつも顰められている眉はゆるやかな八の字を描き、瞳には薄く涙の膜が張っていた。
     凪はぞくぞくしながら馬狼の頤を持ち上げ、さっきまで着付けに使っていた姿見の方を向かせた。
    「見てみ、すけべな顔してんよ」
     いいようにされている悔しさと羞恥で馬狼の表情が歪むのを認めて、征服欲が満たされる心地がした。満足感から深く熱い息を吐く。わざと耳の裏にかかるようにしてやれば、馬狼は喉から甲高い呼吸音を鳴らして背筋をびくんとしならせ、そのまま全身を弛緩させて凪に凭れかかった。
     完全に抵抗しなくなった馬狼の尻をそのままゆっくり撫で回していると、次第に激しく荒くなる吐息の合間にくぐもった声が混じるようになってきた。引きしぼったような呻きと連動して、がくがくと腰が揺れている。
    (あー、もうこれ完全にいける……据え膳ごち……)
     凪は体の中心に熱が溜まって重くなっていくのを感じながら、馬狼の鍛えられた胸板が覗く浴衣の袷から手を差し入れ───

    「お休みのところ失礼いたします〜!!! お布団の方敷かせていただいてよろしいでしょうかあ!!!」
    「「────ッ!!!」」

     入り口の襖の向こうからはつらつとした大声が飛んできて、二人揃って肩が跳ねた。一瞬固まったのち、急いで佇まいを直そうとする馬狼に半ば殴られるように押し退けられ、その勢いのまま畳に倒れ込み、手で顔を覆う。
    「……マジか〜〜〜〜〜〜〜…………」 
    「っ、ゴホ……ンンッ…………はい、頼みます」
     座椅子まで這いながら数度咳払いをした馬狼は、ものの数秒でいつもの仏頂面を取り戻して姿勢を正し、仲居の呼びかけに応えた。
     そこはかとなくベテランの風格を醸し出す熟年の仲居が二人突入してきて、部屋に入るやいなや迅速丁寧にリネンが広げられ、あっという間に二人分の寝床を完成させるとにこやかに退室していった。
     凪はその間も構うことなく興奮の余韻でぼーっと転がっていたが、先程までの甘い空気がまったく霧散してしまったのが腹立たしくて、「切り替え早すぎない?」と傍らの馬狼に問いかけると、「仮にもスポーツで飯食ってんならメンタルトレーニングの重要性くらい思い知れ」とちょっとずれた答えが返ってきたのでなんだか毒気を抜かれてしまった。
     そのまま黙ってしまった馬狼をふと見上げると、耳の縁がほんのり色づいているのに気づいて、どくん、と心臓が大きく鼓動した。これは仕切り直してもう一度攻めれば、とんでもなくエロいことになってくれるんじゃないか、と下品な期待で脳内がピンク色に染まってしまうのは、まあ、不可抗力というものだろう。

     何事もなかったかのようにしれっとしている恋人が身の内で熱を持て余しているであろうことを思えば、憎さ余って可愛さ百倍、浮き足立つ気持ちは萎むどころか余計に膨らみ、数時間後の馬狼はそれはもういろいろと苦労するはめになるのだが、事の顛末は凪のみぞ知るところである。

    ◇◇◇

     体の火照りがどうにも治まらず、熱い茶なんか飲んでられるか、と馬狼は客室を出て、廊下にある自販機でミネラルウォーターを買った。釣り銭のレバーを下げようとしたが、少し逡巡して、最下段の端にあったレモンティーのボタンを押す。結果、二本のペットボトルが取り出し口で詰まってしまい、引っぱり出すのに少々難儀した。
     渇いた喉をすぐにでも潤したくて、絨毯敷きの床をスリッパで踏みしめながら冷えたペットボトルをぐいと呷る。熱くなっていた口内から喉奥に流れる水でさえ微弱な刺激に感じて、馬狼は舌打ちをした。
    (いきなり盛りやがって、あのバカ)
     自分も流されかけていたことは棚に上げて、凪に責任転嫁をしてみる。普段、凪と馬狼がそういうことになる時は、大抵ゆるい触れ合いのあとになんとなく盛り上がって突入するのが定石で、がっついたりがっつかれたりというのは稀にしか起こりはしなかった。そう、稀に。ひどい喧嘩のあと仲直りしたときのアレとか、特に白熱した試合があった日のアレとか。今日の凪はどう見ても完全にアレのモードなのだ。
     一応、温泉旅館という非日常的なロケーションであるし、そうなる可能性がまったくないわけではないと考えて最低限の準備はしてきていたのだが、到着早々昼日中から事に及ぶなど馬狼の良識が許さない。ここで一回灸据えてやらんと気が済まねえ、と意気込んで、馬狼は長い廊下をのしのしと突き進んでいった。

     部屋に入ろうと襖を開けると、凪がなにやらぶつぶつと喋っているのが聞こえてきた。馬狼が近づいて様子を窺うと、部屋に設置された固定電話でどこかと話しているようだった。
    「──一番早いと何時にできます? あ、じゃあ五時でいいです。はい。朝は、んあー……九時……いや、やっぱ十時で。じゃ、お願いしまーす」
     通話はそこで終了したらしく、古めかしい受話器をガチャンと戻した凪は、訝しむ馬狼を何事もなかったかのように迎え入れた。
    「あ、おかえり」
    「今、どこと電話してた?」
    「フロントに内線。あとでご飯の時間教えてくださいねーって言われてたでしょ」
     確かにチェックインの際そんなことを聞いたが、先程までのごたごたですっかり頭から抜け落ちていた。クサオにしては気が利くな、と褒めてやろうとして、はたと今しがたの電話の内容を思い出す。夕食が五時で朝食が十時?
    「おい、晩飯ははえーし朝飯は遅すぎんだろ」
     すかさず指摘すると、無言で視線を逸らされた。凪はやましいことがあると、こうしてだんまりを決め込む癖がある。悲しいかな、長年の付き合いで馬狼はおおよその魂胆を察してしまえた。
    「……やっぱエロガキじゃねえか」
    「あーもうそれでいいです。だったらなに?」
    「開き直りやがって……」
     いつもの面倒臭がりが嘘のような箍の外れっぷりに、こいつは今日腹上死でもするつもりなのだろうか、と微かに悪寒をもよおした。
    「別に、飽きたら寝ればいいし、温泉入っても散歩出てもいいじゃん。だいたいさ、」
     言葉を切った凪は、おもむろに馬狼の両手首を掴んで引き寄せ、小声で囁いた。
    「気づいてる? お前、いつもより声上擦ってんの。ほんとは人のこと言えないくらいずっとムラムラしてんでしょ。そんなに何時間も待てんの」
    「───ッ……」
     言いがかりだ、と一蹴できないくらいには、馬狼は己の状態を理解していた。凪を諌めたい気持ちとは裏腹に、体の芯はじんじんと引かない熱を帯び続けている。近づかれたことで不意に鼻孔をくすぐる凪の匂いに軽くめまいがした。
    「ご飯食べるまではいい子にしてるから。おねがい」
     こてんと首を傾げて、上目遣いを寄越される。挑発的な態度から一転、全力おねだり態勢に入った年下の恋人に若干の苛つきをおぼえつつも、自覚した疼きを無視することは今や困難を極めていた。これを解消するには、結局絆されてやるしか方法はないのだ。
     逃げ場を失ったと悟った馬狼は、ならばせめて少しでも優位に立ってやろうと「残さず食えたら考えてやるよ」と凪の耳を両側から強く引っぱった。「いだだだ」と歪んだ顔に溜飲が下がる。
     白い漆喰の壁に掛けられている年季が入った時計は、三時半を指していた。

    「はい、ごちそーさま。じゃ、さっそく」
     いそいそと四つん這いで近寄ってきた凪に鼻白みながら手刀を食らわす。テーブルの中央にはつい一時間ほど前まで巨大な蟹が一杯丸ごと鎮座していたのだが、同時に出された一人用すき焼き鍋の固形燃料が燃え尽きるまでの間でほとんどが凪の手によって剥かれ、あろうことか馬狼の取り分まで甲斐甲斐しく身を掻き出して渡してくる始末だった。以前、馬狼の家で茹で蟹を出した時は露骨に嫌そうな顔をして、「剥いてくんなきゃ食べれない」と駄々をこねたのですべて没収してやった記憶がある。面倒臭がりが祟って普段は発揮されないだけで、元来器用な男であることは理解していたつもりだが、餌がちらつくだけでここまで動けるものなのか、と馬狼は半ば唖然とした気持ちで凪を見つめるしかなかった。
     先刻の一悶着のあと、気を取り直して夕飯まで周囲の散策に出ることにした凪と馬狼だったが、完全に甘ったれと化した凪をいなすのに馬狼は散々な苦労をした。指を絡めてこようとするのを振り払ったり、おんぶを要求してくるのを跳ねのけたりと悉く神経をすり減らされ、浴衣で紅葉デート(旅行計画中の凪の言)などという風情とはまったくもってかけ離れていた道程からやっとの思いで旅館に戻り、気疲れし果ててようやく食事にありつけると思えばこの急かされようである。
    「バカの一つ覚えみてーに迫ってくんな!」
    「約束したっしょ、全部食べたらやろーねって」
    「考えてやる、つっただろうが! 勘違いしてんじゃねえ」
    「は? けーやくふりこーで訴えるぞ」
    「そもそも架空に締結されてんだよクソが……」
    「失礼いたします〜!! お食事お済みでしたら下げさせていただきますけど、いかがなさいますか〜!?」
     やいのやいのと騒いでいると、つい数時間前に聞いた覚えのある快活な声がすこんと響き渡る。おそらく布団を敷きに来たのと同じ仲居たちだろう。馬狼が了承の意を伝えると、目にも止まらぬ流れ作業で、入室から即座に卓上がまっさらになった。プロの仕事に内心感服する馬狼の袂を、隣に座ったままの凪が握っている。様子のおかしい男を二度連続で目の当たりにしながら、何事もなかったかのように「それではごゆっくり〜!!」と笑顔で去っていく彼女らを見送って、再び部屋は二人きりの空間となった。
    「………………」
    「………………」
     しばし沈黙が訪れる。先に動いたのは凪だった。また馬狼との距離を詰めてくるのかと思いきや、おもむろに立ち上がって、部屋の奥へとすたすた歩いていく。木製の引き戸を勢いよく開け放った先に広がったのは、見事なレイクビューと、石造りの大きな湯船。自分たちの知名度を鑑みて予約したのは、露天風呂付き客室だった。凪はいつものふてぶてしさに少しだけ険しさを含ませた表情をして外を指差し、焦れた声で馬狼を促した。
    「ほら、早く。一緒入ろ」
    「……下僕の分際で指図すんな」
     悔しさ半分、欲求への苛立ち半分で、苦し紛れの悪態をつく。馬狼は顔を顰めながら、仕方なしといった体で、手招きする凪に続いて扉の向こうに歩を進めた。

    ◇◇◇

    割愛!!割愛!!割愛!!

    ◇◇◇

     窓から射し込む朝日に瞼だけが持ち上がり、数秒おいて頭がゆっくりと働き始める。重い腕をなんとか持ち上げて枕元のスマホを手に取ると、時刻は七時を少し回ったところだった。手癖でいくつかゲームを起動し、ログインボーナスだけ回収して畳に放り投げる。
     隣に眠っているはずの馬狼の寝顔でも拝もうと思って寝返りを打つと、そこはもぬけの殻だった。きちんと角を合わせて畳まれた布団一式だけが残されている。
    「……んえ? ばろーどこー……」
     呟いてみるがそもそも室内に人のいる気配は無く、当然何の答えも返ってこない。かと言って探しに出る気力があるわけでもなく、どうせそのうち帰ってくるし、と二度寝を決め込もうとすると、ふと床に転がっている何かが目に入った。ずりずりと匍匐前進で近づき、手にとって確認してみる。
    「およ……レモンティーだ……」
     自分では覚えがないので、おそらく馬狼が買ってきてくれたものだろう。凪は躊躇いなくキャップを開け、黄金色の液体を一口含んだ。起き抜けには少しつらい甘さに顔を顰める。普段の食事にあれこれ小言を並べてくる馬狼だが、嗜好品の中で唯一レモンティーだけはちょくちょく与えてくれるから、かわいいとこあるじゃん、とそのたび凪は思っていた。数口飲んでいると甘さにも慣れ、鼻に抜けるレモンの風味に少しだけ気分が浮上する。
     ペットボトルを傾けながらゆるやかな眠気に呆けていると、部屋の入り口の襖が開き、見慣れた全身黒のウェアに身を包んだ馬狼が現れた。息を短く切らして、額には汗が浮いている。
    「え、なに。走ってきたん?」
    「あ? 起きてんのかよ。なんか文句あんのか」
    「ええ……」
     どうやら馬狼は、自宅からわざわざランニングウェアを持参してまで日課のロードワークを励行していたらしい。道理で一泊二日のわりに鞄がでかいはずだ。昨夜あれだけ滅茶苦茶したのをものともしないタフネスに恐ろしくなる。流石はルーティーンの鬼。
     普段の朝トレ中の馬狼は、直後にシャワーを浴びることを鑑みて、髪をセットせず後ろで括っており、今日も例に漏れずそのスタイルだった。こめかみから首筋へ伝う汗を目で追う。
    「……ねー、今お前お風呂入るよね?」
    「だったら何だよ」
    「うーし」
     凪はのっそり起きあがり、馬狼にしなだれかかった。すでに湯上がりのようにしっとりほかほかとしている身体にすり寄りつつ、腰を抱いて脱衣所へ連れて行こうとすると、鋭い肘鉄を食らわされる。痛い。
    「鬱陶しい。寝とけや」
    「やだあ、俺も入る……風呂で寝る……」
    「それ結局迷惑被るの俺だろうが!」
    「お風呂でいちゃいちゃしよ。これ使おうよ」
     馬狼の手をとって、朝の生理現象を押しつけてやる。嫌がられるかと思いきや、逆に浴衣の上から竿を強く握られて呻き声が出た。
    「持ち主と違って元気だな。ちったぁ見習え、クサオ」
     片眉を上げて小馬鹿にしたような表情を作る馬狼を負かしてやりたい気持ちがむくむくと湧いてくる。まさかの反撃に悔しがる凪には目もくれず、馬狼は風呂場に消えていった。これはお許しが出たと捉えていいのだろうか。駆け引きじみたやりとりもぼちぼち面倒臭くなってきたので、勝手にそう解釈して馬狼の後を追うことにした。
     朝食を遅くしたはいいが、これから一仕事することを考えては、(お腹空いちゃうだろうな、やっぱもう少し早い方がよかったかも)と内心独りごつ凪であった。


    おわり〜ッ(;o;)チクショー
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