Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    syugetuheika

    @syugetuheika

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    syugetuheika

    ☆quiet follow

    前に友人に言われて書いたけれど、飼育方法を漫画で教えるペットショップで頒布されてるパンフレットみたいになりそうで放置したハムソンさんの話の冒頭部。続きを書く気がない。

     カチカチという小さな金属音で目を覚ましたナワーブは、愛しのペットが珍しく見えるところに出てきて水を飲んでいるという状況を堪能することもなく、スマホを片手に絶叫した。

    「遅刻!!!」

     例えば講義が始まる時間に起きただとか、既に終わってただとかなら諦めがつく。しかし、現在時刻はちょうど間に合うか間に合わないかの瀬戸際。床を踏み抜く勢いでバタバタと支度を始めれば、臆病な生き物は弾丸のように木屑の山にダイブして隠れてしまうが、残念ながらナワーブがそれに気づくことは無い。2分で支度を終えたナワーブは、ぷるぷると震える木屑の山に、いつものようにおはようと行ってきますを告げて部屋を飛び出した。ある朝のことである。

     そして今、二時間分の講義を終えて帰ってきたナワーブはケージの前にしゃがみこんで固まっていた。針金で囲まれたその一端にできた穴はちょうどハムスターが通れそうな大きさで、そのすぐ下には米粒ほどの黒い置き土産が証拠付けのように落ちている。ゆっくりと、芋虫が這うようなスピードで、しゃがんだままのナワーブは振り返る。服やら教科書やらが足の踏み場もないほどに散らかった、友人たちからは魔境と呼ばれるその自室を見渡した。部屋の蒸し暑さだけではない汗が、ぽたりと足元のプリントの束に落ちる。握りしめたままだったスマホを震える手で操作し始めたナワーブは、おもむろにどこかへ電話をかけ始めた。



     クリーチャー・ピアソンは、恐る恐るインターフォンを押した。ぴーんぽーん、と間延びした音が鳴るが、反応はない。片手のスマホとアパートの表札をもう一度確認し、再びボタンに手を伸ばしたところで、ようやくゆっくりとドアが開いた。顔を覗かせた青年との面識はあるにはある。が、彼が覚えているかは別の話だ。できるだけ柔和な笑みを浮かべ、口を開く。

    「あー……えっと、サベダーくん、で合ってるよな? い、一応何度か会ったことがあるんだが、君のバイト先の店長と知り合いのピアソンだ。よく分からんが、あいつから君を手伝ってやれと言われて――あの、聞いてるか?」

     ぽかんと口を開いたままであまりにも反応のない彼が心配になって、パタパタと顔の前で手を振ってやれば、勢いよくのけ反った彼にこちらが驚いてしまう。彼がそのまま後ずさったことで、バタンとドアが閉まる。少し迷った後ドアノブに手をかけて覗き込んだクリーチャーは、両手で顔を押さえてうずくまる青年を見て、一体どれほどのことが彼の身に起きたのかと恐怖に肩を震わせた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍👍🙏❤❤😭😭🐹🐹🐹💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator