月の入り 月明かりしか無い室内。
気怠げにカウチに身を横たえる幼馴染がその細い指先で用意したベリーを摘む。良く冷やしたベリーが薄い唇に運ばれる様子を眺めながらオルテガはうっとりとその様子を眺めていた。
散々貪り合った為か、いつも清廉な雰囲気を纏う幼馴染は今は退廃的な魅力を放っている。サイズの合わないシャツはオルテガのもので、だらしなく着ているせいでしなやかな首から胸元が覗いている。陶器のような白い肌に咲く紅い痕はオルテガがつけた所有印だ。
下は何も履いていないからすらりとした白い足が月明かりの下で無防備に晒されている。そして、彼の細い手首に残る紅い帯状の痕は倒錯的な行為の証。傷付けたくないと思いながらも、自由を奪って支配する仄暗い悦びはオルテガの身の内に未だに燻っている。
「……リア」
名前を呼べば、月光色の瞳がこちらを見つめて柔らかく綻ぶ。その瞳に誘われる様に近付いてカウチに寝転がれば、直様身を寄せてきてくれるのが嬉しい。
言葉にせずとも考えている事を見透かされたのだろう。腕の中に閉じ込めた幼馴染はうっとりした様子でオルテガに身を任せた。
ただ触れ合うだけでも満たされる。しかし、更に先も欲しくなる。
腕を開け渡せば、慣れた様子で頭を乗せてくる幼馴染はすっかり腕の中で過ごす事に慣れたようだ。人前で恥じらう様子も可愛らしいが、こうして安心した姿で過ごしてくれる事も喜ばしいものだった。
「どうした、機嫌が良いな」
耳元で甘く優しい声が囁く。顔が緩んでいたのだろうか。それとも空気に滲んでいたのか。いずれにせよ、悟られてしまう程度には漏れ出ていたらしい。
誤魔化すように口付ければ、相手はくすぐったそうに笑みを零す。稚いその表情を愛おしく思いながら長い髪を撫で、細い体を抱き締めた。
「ふふ」
小さく笑い声を零すと細い指が答えるように撫でてくれる。その感触に目を閉じて好きなようにさせるために身を任せた。
こうして無防備な姿を晒すのは愛しい幼馴染の前だけだ。普段は騎士団長として常に気を張っているが、この温もりの傍でだけ何もかもを忘れられる。勿論、役割を放棄する事はないが、それでもたまには息をつきたくなる時がある。
「フィン」
優しく名を呼ばれて目を開いた。月明かりの下、その美貌に柔らかな笑みを浮かべる最愛の人はしなやかな手で己の頬を包んでくれる。
「今夜は離れたくない」
泊めてくれと続きかけた言葉を遮って唇を奪えば、腕の中に愛しい月が沈んだ。