馥郁【オルセイ】 甘い芳香、濃桃色の丸い果実は見るからに甘そうだ。
視察中に領民からもらったプラムが入った籠を抱えた俺はご機嫌だった。プラムは桃よりも酸っぱいイメージがあるが、この領地のは甘いんだ。
たくさん貰ったから生で食べる以外にも砂糖で煮詰めてシロップ漬けやジャムにするのもいいかもしれない。
「おかえり。……また随分と貰ったな」
屋敷に戻って玄関を潜れば、オルテガが待ち兼ねていたように出迎えてくれた。彼は一つ取り上げると夕焼け色の瞳でじっくりと果実を見つめている。
「剥いてやろうか?」
火を使った料理をさせると消し炭を生み出すオルテガだが、手先は器用なので不要かもしれない。だが、なんかこう剥いてあげるって恋人っぽくてやってみたいなと思った次第だ。
「良いのか? じゃあ、剥いてもらうか」
同じ事を思ったのか、籠を俺から取り上げるとオルテガが厨房の方へと歩き出す。その背を追いながら、我ながらちょっとむず痒いなと思った。
今の時間帯は調理担当の使用人達もあまりいない筈なので少し二人きりでゆっくり出来るかもしれない。
厨房に着くと、やはり人数は少なかった。残っている者も俺とオルテガの姿をみると気を利かせてくれたのか皆どこかへと行ってしまう。
「気を使わせたな」
苦笑混じりのオルテガが籠を降ろす。折角二人きりにしてもらったんだし、少しイチャイチャさせてもらおう。
「甘えさせてもらおう。いくつ食べる?」
皿とペティナイフを出しながら尋ねれば、オルテガが2本指を立てた。俺の分も合わせて三つくらいあればいいかな。
特に甘そうな奴を三つ選んで服の袖を捲る。桃やプラムを剥くのってちょっとコツがあるんだよな。
まずは一周切れ目を入れて捻るようにすると、綺麗に種が外れる。そこから皮を剥くんだが、意外とつるりと剥けた。途端に強くなる甘い芳香に思わず唾が出る。
そろそろおやつどきだから小腹が空いてるんだよ。俺も二個食べるか。
二つ分剥いた実を一口大に切って皿に乗せれば、オルテガの分は完成だ。
俺は面倒なので皮だけ剥いて齧り付く事にした。
「お前の分は切らないのか?」
「私は細かくするのが面倒くさいからこのまま食べるよ」
そう答えて齧り付けば、果汁が溢れて腕をつたっていく。このままではやばいと思った時だ。
横から手が伸びてきたと思ったら腕を取られて軽く引っ張られる。なんだと思った瞬間、オルテガが顔を近付けてきて、熱くてぬるりとしたものが俺の腕を這う。
舐められた! と思った瞬間にはオルテガがちらりとこちらを見上げて不敵な笑みを浮かべた。俺を見る夕焼け色の瞳につい顔が熱くなる。
あーもー、本当にそういうところだぞ!