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    菫城 珪

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    菫城 珪

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    夜襲を掛かるセイアッドの話

    夜駆け※先の展開の要素が出てきます。大丈夫な方だけお進みください








    夜駆け

     なんか疲れたなぁ。
     そう思いながら窓辺で溜め息をつく。
     別に何をしたって訳でもない。ただいつもと同じように職務をこなしているだけ。
     いつも通り夕食も美味しかったし、風呂も気持ち良かった。なのに、何となく疲労感が抜けない。
     椅子の背凭れに体を預けながら深い溜め息を零す。肉体的な疲労より精神の方の疲れかもしれない。
     膝で丸くなっているフィーヌースの背を撫でてやるのもなんだかおざなりになっている気がする。これは宜しくない。
    「キュウ?」
     俺の機微を察したのか、フィーヌースが長い首を持ち上げて夕焼け色の瞳で俺を見つめてくる。
    「フィー、今夜は一人で眠れるか?」
     頬をくすぐってやりながら告げれば、俺の言葉を理解したと思しき愛竜は大きく伸びをしてから器用に窓辺へとよじ登る。そして、そこに置いてある彼のベッドである籠の中で丸くなって見せた。目を閉じる前にちらりと寄越された視線は「行って来て良いよ」と告げているようだ。
     もう一度背を撫で、ガウンを羽織りながらそっと部屋を後にする。
     そのままこっそり屋敷を飛び出して向かうのは隣接しているガーランド邸だ。
     庭に出て垣根をくぐる。今でもオルテガが通るせいかそれなりに手入れされた垣根の隙間を潜り抜けながら思い出すのは昔の事だ。
     幼い時分は良くこうやってお互いの屋敷を行き来していたもので、相手についた葉っぱや土を払っては笑い合っていた。薔薇の垣根の小道を懐かしみながら潜り抜け、目指すのは屋敷に寄り添うように植えられた菩提樹だ。
     この菩提樹には小さな板が幾つも打ち付けられていて2階と行き来するための足掛かりに出来るようになっている。幼い頃、悪ガキだったオルテガが作ったもので、両親から派手に叱られていた。今でも現役で、たまにこれを使ってオルテガが来る事がしばしばあるが、こうして俺から訪ねるのは初めてだ。
     オルテガの体重を支えられるなら余程大丈夫だろうと思いながら手と足を掛け、少しずつ登っていく。木登りなんていつぶりだろうか。
     少々怖かったものの、思ったより簡単に2階のバルコニーに辿り着いた。落ちないようにだけ気を付けながらバルコニーに移って深呼吸を一つ。
     夜も遅いし、多分もう寝ているだろう。3回声を掛けて起きてくれなかったら戻るとしよう。自分の心にそんな保険を掛けてからコツコツとガラス戸をノックする。
    「フィン」
     小声で声を掛けるのと、中で物音がするのはほぼ同時だった。
     少々乱暴に開けられたガラス戸の向こうには酷く驚いた顔をしたオルテガがいる。
    「リア!? 何故ここに?」
     今までベッドにいたのか寝癖のついた頭も寝巻きの姿も愛おしい。これだけでも頑張って庭木を登った甲斐があるというものだ。
    「お前に会いたくなった」
     そう告げるのと強く抱き締められるのはほぼ同時だった。
    「危ないだろう。フィーヌースを寄越してくれれば俺が行ったのに」
    「なかなか楽しかったぞ。それに、お前の驚いた顔も見れた」
     抱き締めてくれる体に身を任せながら癖のついた髪を軽く撫でれば今の自分の状況を思い出したらしい。薄明かりの中でオルテガの耳が少しだけ赤くなるのが見えた。
     俺からも彼の背中に腕を回して逞しい胸に頬を擦り寄せて存分に甘えてやる。熱い体も慣れた匂いも全てが安心出来るもので、ホッと体の力が抜けたような気がした。
     嗚呼、やっぱり俺の居場所はここなんだろう。
     心底そう思いながら少し背伸びしてオルテガの唇を奪ってやった。
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