名も無き夜頬を撫でてくれる大きくて熱い手が好き。
俺であって「俺」じゃない名を優しく呼んでくれる低い声が好き。
全身全霊で好きだと伝えてくれる逞しい体が好き。
くるくると表情を変える美しい黄昏色の瞳が好き。
すり、と頬を擦り寄せれば甘やかすように抱き締められる。
眠る前にこうやって拙い触れ合いをする時間が好きだ。そのまま熱い腕の中で収まりの良い場所を探すように身動いでから目を閉じる。
オルテガと共にいるようになってから毎夜のルーティンとなりつつあるこの時間は何より心地良い。
オルテガに抱かれて眠るのは好きだ。暖かくて良い匂いがして安心出来る。
この世界で目覚めてから時折見ていた悪夢も、こうして一緒に眠るようになってからいつしか見なくなった。眠っている間も守られているのだと思うとくすぐったい気持ちになる。
「ご機嫌だな」
耳元を柔らかな声が擽った。オルテガももう眠いのか声が少し掠れている。
「お前がいてくれるからな」
目の前にある胸に額を擦り寄せてくすくすと笑みを零す。
嗚呼、こうして共に過ごせるだけで胸が温かくなる。こういうのを幸せと呼ぶのだろうか。
遥か遠い思い出の中、両親が与えてくれた温もりはこれに良く似ていたと思う。でも、この温もりはもっと熱くて時に激しい。
「……おやすみ、フィン」
強く抱き締めてくれる腕に身を任せながら目を閉じる。
今夜もきっと良く眠れる事だろう。