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    菫城 珪

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    菫城 珪

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    ハロウィンオルセイSS

    万精節の夜に万精節の夜に

     この世界にもハロウィンのようなイベントがある。
     それは万精節という精霊を祀る為の祭りだ。
     万精節の夜には精霊が現れるといい、人々の間に混じり精霊が気兼ね無く楽しめるようにと様々な仮装をして祭りを楽しむ。というのが万精節の主旨であり、最大のポイントである。
     王都城下もそれは例外では無く、思い思いの仮装をし、貴族も平民もなく祭りを楽しむのだ。

     その日、俺も朝から支度に追われていた。
     精霊を迎える為の準備をする為だ。
     今日ばかりは王城の仕事も休みになり、人々は皆浮ついている。年に一度のこの祭りは誰しもが待ち侘びる行事だからだ。
     貴族の当主は豪華な仮装を纏う事が暗黙の了解として伝わっている為、俺は朝から揉みくちゃにされている最中である。レヴォネ家では蒼い竜を祀っていて当主を初めとしたレヴォネ家の者はその竜に纏わる仮装をすることが多い。俺も例外では無く、水竜アルヴィオーネをイメージした衣装を仕立てた。
     鏡に映る自分はまるで自分でないようだ。
     スパンコールと魔石で作られたビーズを散りばめて表現された精緻な鱗は光を浴びてキラキラと輝いている。翼に見立てた袖は幾重にも薄いレース生地を重ねて長いローブ状に仕立てており、動く度にひらひらと揺れて綺麗だ。
     どうやら職人がめちゃくちゃ気合を入れた逸品らしい。
     これに顔の上半分を覆う形の蒼い竜の仮面を被ったら完成だ。この仮面は昔からレヴォネ家に伝わるもので、代々万精節の際に使われてきた。
     これから当主が行う儀式を行わなければならないが、夕方からはフリーになる。儀式の内容は「私」の記憶にもあるから大丈夫だろう。儀式が終わったらオルテガと共に祭りに城下の祭りに行く約束をしているのだ。
     ふわふわと浮ついた心で儀式に挑んで良いものかと思いつつも俺は夕方を待ち遠しく思うのだった。


     …そして、儀式やらなんやらをしていたらあっという間に夕方である。この祭りの本番は陽が落ちてからだ。
     陽が落ちてからは精霊が遊びに来るのだと言われている。暗くなれば人に紛れ易くなるかららしいが、この辺は黄昏時とか逢魔時とかそんな感覚に近いのかもしれない。
     窓の向こうが斜陽が注ぐ濃い橙色に染まる。きっとそろそろ精霊がやってくるのだろう。
     オルテガがやってきたのもそんな時分だった。
     迎えにきたオルテガは頭に大きな三角の耳がある。そして、尻にはふさふさの尻尾。顔の上半分を狼の仮面で隠していた。全体的に深い翠色で作られたそれは彼の家が祀っている巨大な狼の姿をした風の精霊ラファーガを模したものだろう。
     何というか彼に狼の耳と尻尾だなんてあざとい。しかしよく似合っている。
    「リア、良く似合っているな。素晴らしい衣装だ」
     手放しに褒められて少々恥ずかしく思いながらも抱き寄せてくる腕に素直に身を任せれば、仮面に隠れていない口元が笑みを描く。多分、赤くなった耳とか首元が見えたんだろう。
    「お前も良く似合っている」
     逞しい体のラインを出し野生的な魅力がありつつも上品な衣装は彼に良く似合っている。あんまり似合っているから直視出来ないんだが!
     どうやら騎士服の時にも思ったが俺はビジュアルに弱いらしい。格好良いものは格好良いんだから仕方ないだろう。
     内心でそう言い訳しているのを見透かされたのか、オルテガが俺の顎に手を掛けて自分の方へと向けさせる。仮面の奥にある黄昏色の瞳とばっちり目が合うとそのまま口付けられた。
    「ん……」
     仮面が邪魔なのに器用に角度を変えながら深く喰らい付いてくるオルテガは俺の腰に腕を回してがっつり捕らえてくる。こうやって逃げ道を塞がれる事に俺が弱い事を知っていてやるんだからタチが悪いと思う。
     散々蹂躙されて息も絶え絶えになった辺りで漸く解放される。窓から射し込む残照はすっかり薄くなり、室内には薄闇が蹲っていた。
    「……これから祭りに行くんだろう?」
     不埒に腰を這う手の甲を軽く抓ってやりながら訊ねれば、彼は不敵に微笑んで俺をソファーに押し倒す。
    「もう少し暗くなってから出掛けよう。……お前を他の奴に見せたくない」
     色っぽい顔をしながらそう言って始まった愛撫に、俺は争う術を持たない。自分でも悪い所だと思ってはいるんだが、とことんオルテガに弱いのだ。
    「少しだけだからな?」
     オルテガと祭りに行くのを楽しみにしているのも事実だ。軽く釘を刺して彼の背に腕を回す。
     幸い、祭りは夜通し行われる。少しくらい遅れて行っても問題はないだろう。
     薄闇の中、黄昏色の瞳が応えるように細くなるのを見ながら俺は与えられる熱を貪ることに集中するのだった。
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