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    菫城 珪

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    菫城 珪

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    BL営業のアイドルもの

    偽物の恋 スポットライトを浴びながら精一杯に踊って歌う。
     ステージに立つ高揚感も俺にとっては生き甲斐だと言っていい。
     ちらりと隣を見遣れば、俺と同じデザインだが、左右反転した色違いの衣装を纏う相方、海音(カイン)。
     ちなみにこれは本名だ。
     奴は俺の視線に気が付いたのか、蕩けるような笑みを浮かべて俺に手を差し出す。
     そして、俺はこれは演技だと自分に言い聞かせながらその手を取った。
     同時にぐいっと引っ張られ、俺がカインに抱き締められると観客席からは黄色い悲鳴が上がる。
     汗とカインが好んでいる香水の匂いに不覚にもドキリとしてしまいながら死ぬ気で笑顔を作って見せた。
     これはあくまでもビジネスだ。
     必死に自分に言い聞かせながら最後の歌詞を歌い切る。
     大歓声の中、ライブが終わった。
     割れんばかりの歓声と拍手を浴びながら、海音の体が熱くて心臓が爆発しそうだった。

     ライブの熱も冷めやらぬまま、急いでシャワーを浴びて着替えをする。
     まだ濡れたままの髪を乱暴に拭きながら楽屋への道すがら、スタッフ達に挨拶をして回った。
     まだまだツアーは続くけど、毎日の感謝だけは忘れちゃいけない。
     俺だけではあんな大きな舞台には立てないから。
     楽屋に入れば、カインは椅子にだらけてスマホを弄っていて、マネージャーの遠嶋さんはどこかに電話している。
    「おつかれっしたー」
    「……」
     控えめに声を掛けて入るが、カインはこちらに視線を寄越しもしないし、返事もしない。
    「返事ぐらいしろよ」
    「今ゲームで忙しいから無理」
    「は? マジムカつく」
     楽屋の椅子にダラけて座りながらスマホをいじるカインのセリフにイラッとして、俺も不機嫌を隠さずに零す。
     いわゆるBL営業で今をときめく俺達『eclipse de solar(エリクプ セ ソラル)』だが、楽屋に戻ればこの通りである。
     スマホから目すら離さないカインに苛立ちながら俺は荷物を纏めた。
     こいつと話す時間が勿体ない。
     今日は早く帰りたいのだ。
     久々に姉貴が可愛いかわいい姪っ子を連れて帰ってくるからな!
    「……なんかいいことでもあるのか」
    「お前には関係ないだろ。俺上がるわ。じゃーな」
     怪訝そうな顔で食い下がってくるカインにひらりと手を振り、帽子を目深に被り、マスクをして楽屋から出ようとした。
     しかし、その手は何故かカインに掴まれて引っ張られる。
    「なんだよ」
    「何でそんなに機嫌が良いんだ」
    「いや、だからお前には関係ねぇだろって」
     何故か苛立ったようなカインにこちらもムッとしながら腕を振り払おうとした。
     ところが、その手はがっちり俺の手首を掴んで離れやしない。
     クソ、この馬鹿力顔面良雄め。
     普段のダンスでその力を発揮しろ。
     じっとり見つめてくるカインの視線に耐えきれなくなるのは大体俺の方が先だ。
    「あーもー! 今日は姉貴が姪っ子連れてくんだよ! わかったらさっさと離せ」
    「……それならいい」
     つまらなさそうに呟くとカインがパッと手を離す。
     その態度にイラッとしながらもここで噛み付けばまた時間を無駄にするだけだと必死に怒りを呑み込んで、楽屋を飛び出した。
     乱暴に楽屋のドアを閉めて廊下を走り、人気がない階段の踊り場まで来たところでずるずると座り込む。
     さっきまで掴まれていた腕と、顔が熱い。
    「なんだよ、あれ」
     じっとりとした視線に混じる嫉妬やら独占欲やらを見つけてしまってたまらない気持ちになる。
     ああいうのはステージの上とか演じてる時だけでいいのに。
    「勘違いするだろ……」
     デキてるっぽくアイドルをやる裏で険悪な俺達だが、それもまた俺にとっては虚像だ。
     本当はカインの事が好きだ。
     どうしようもなく好きで、最近では演じているのか俺自身の行動なのか分からなくなってきている。
     だからこそ、オフでは距離を取りたいのにカインはそんな距離を無視して詰めてくるから困っているのだ。
    「……本当に嫌いになれたらいいのにな」
     ぽつりと零しながら先程まで握られた腕を軽く撫でる。
     素直になれたら何か変わるのだろうか。
     ただ、普段のアレで好意を切り捨てられたら立ち直れない気がする。
     難病を患った母親の治療費にはまだ掛かるし、姉貴に心配を掛けたくない。
     これ程稼げる仕事を手放すのは惜しいからこそ、俺は俺の心を殺す。
    『アオバ』を演じていれば、生活が安定させられる。
     母さんに満足な治療を受けさせる事が出来る。
     クソみたいな父親に離婚を突きつけ、俺と姉の二人を女手一つで育てあげてくれた母に恩を返したいんだ。
    「……帰ろ」
     外の空気にあたれば、この熱も少しくらいは冷めるだろう。
     いっそ切り離してしまえば楽になれるのに。
     そんな事を考えながら俺は足早に階段を駆け上がった。




     カ「ねぇ、この間アオバに色目使ってた奴、共演NGにしてくれた?」
     遠「ちょっと難しいかな〜。今大人気の女優だもん」
     カ「ちっ、使えねぇの」
     遠「いっつも思うけどカイン君、本性違いすぎない? 普段のキラキラ王子様どこに行ったの」
     カ「アオバだけ知らなきゃいい。はー、早く囲いたいな。ツマラねぇファンに見られたらアオバが減る」
     遠「減らないでしょ。それに、アイドルなんて見られてナンボの商売なんだから」
     カ「さっさと辞めて俺と結婚すればいいのに」
     遠「妄言吐いてないでカイン君は次の仕事ねー」
     カ「……チッ」
     遠「ほらほら、素が出てるから取り繕って」
     
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