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    みどりた//ウラリタ

    @midolitaula

    ネオロマンスの二次創作
    小説

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    POIPOI 31

    秀信+七緒
    『叔母と甥』上巻より
    仲良くなりたい叔母と甥

    #天野七緒
    shichioAmano
    #遙かなる時空の中で7
    harukanaruTokiNoNakade7
    #遙か7
    far7
    #織田秀信

    叔母上は年上の甥にむすびの糸を使いたい!「秀信、ちょっといい?」
     彼女が僕の視界に収まると、自然と笑みがこぼれる。二つに束ねた桜色の髪が軽やかに右へ、左へ。どうやら機嫌がいいらしい。
    「ちょうど一息つこうと思っていました、叔母上もいかがですか?」
     その言葉は嘘ではない。早朝から早駆けの知らせが来るなり話を聞き、ちょっとした軍議を開き、その後は文を書き、考えを書にまとめ、気づけは腹の虫が鳴いていた。腹の皮が目の皮がたるむ。伸びてきたあたたかな日差しに手を差し出したいと思考が逸れて、なおざりに字が揺らぐところだった。
    控えていた侍女に目配せをし、叔母を縁側へ促すとその手には小さな赤い巾着が。その中身が「ちょっといい?」の内容なのか。口角を上げて待ちきれない様子はまだ年端のいかない頃の姿を思い起こさせる。
     円座に腰かけた彼女は来る茶も待たずにこう言った。
    「手を出して」
     ああ、昔もこんなことがあったな。
    椀のように出したこの両手に自分よりも少し大きい手がときには菓子、ときには花、ときには綺麗な石を入れてくれた。毎回変わる贈り物にいつも胸を高鳴らせていたのだが、彼女は覚えているのだろうか。そしてこの齢になった甥に今日は何をくれるのだろうか。僕の心の臓はゆっくりと、だが確実に働き身体をあたたかくしていく。
     しかし、今は僕よりも一回り小さい手は何も入れることはなかった。巾着の中から取り出した赤い紐を、左手の小指に通すと手際よく蝶結び。第二関節に緩くもなく、きつくもなく結ばれた紐はよくできた品で八葉からの頂き物かもしれない。
    思い出したかのように腹の底が重くなるのを頭の端に除けて、この意味を問いかけるように叔母を見た。
    「ダメかあ……それは〝むすびの糸〟って言って、五行の力を具現化したものなんだ。八葉と神子の絆を高めるものなの。相手に結んだらいつもは消えてなくなるんだけど、やっぱり秀信は八葉じゃないから無理みたい」
     悪く言えば八葉の方々のおこぼれというわけで、良く言えば八葉でなくとも僕と今以上に絆を高めたいというわけだ。先ほどまで意気揚々としていた神子様はどこへやら、しおしおと肩を落とす可愛らしい叔母に腹の底の重さは嘘と相成った。
    「小指に何か謂れがあるのですか?」
    〝相手に結べば〟ということはおそらくどこでもいいわけだ。人差指でも、手首でも十分一回りはできるくらいの長さはある。
    運ばれてきたあたたかい茶を手渡す際にゆらゆらと揺れる赤が目を惹いた。これでまたひとつ、視界に入れて嬉しいものが増えてしまった。
    「〝運命の赤い糸〟って話があるんだよ。自分と結ばれる運命にある相手とは見えない赤い糸で結ばれてる……って別にそこに結んだ深い意味はなくてね! 絆を深めるには小指かなってイメージ、固定観念。皆も小指でやってたから」
     慌てて捲し立てる頬は僅かに上気して、僕は喜んでいいのやら妬いていいのやら。これまた愛い叔母を見れたのだからと収めるように糸を撫でた。
    「結びの糸は叔母上に結んでも消えてしまうのですか?」
    「ううん、私と誰かを結ぶものだから自分に結んでも効果はないんだ」
    「……脚を失礼しても?」
    「脚?」と首をひねりつつ正座を崩して脚を寄越そうとするのを「そのままで」と軽く制した。流した二本の細い足首の片方に結びの糸を。途中、触れたくるぶしは何も言わずただ糸を通す空間だけを板張りから生み出し、掴んだ足首は僕の手で一周できる太さだとを知った。
    「僕の知っている赤い糸の話はこちらに結います」
    「ふふ、おそろいだね」
     黒い召し物に赤が映える。
    人の理に囚われず、織田家にも囚われず、僕に捕らえることのできない愛しい人よ。神なる力を少しだけお借りして祈ります。僕の思いはこの糸と共に、あなたと共にあります。ですからどんなに遠くへ行かれても安寧の地よりお戻りになられませんよう。あなたの無事だけを心からお祈りしております。
     しばらく二人は揃いの赤い紐をつけ、城内に留まる八葉は各々面白い反応を見せたんだとか。

     中国の故事には続幽怪録というものがあり、赤い縄を男女の足首に結ぶとどんなに遠くにいても、生まれた環境が違っていても必ず二人は結婚する運命になるというものがある。



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    百合菜

    DONE2021年2月7日に開催された天野七緒中心WEBオンリーで実施した「エアスケブ」で書いたものです。

    リクエストは「炊事をする幸七」です。
    ……が、実はこれは没案の方です。
    (それを先に書く私も私ですが^^;)

    そもそも「炊事」とは何なのかとか、買い物で終わっているじゃない!という突っ込みはあるかと思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
    「姫様、こちらは何ですか?」

    何度目になるかわからない八葉たちによる令和の世の天野家の訪問。
    さすがに慣れてきたのか、八葉の者たちは早速手洗いを利用したり、リビングでソファに座りながらテレビを見たりするなど、思い思いのくつろぎ方を見出すようになった。
    その中で、七緒と五月、そして武蔵の三人は八葉に茶と軽い食事を出すために台所へいた。

    「これは、電子レンジって言うんだ」
    「でんし…れん……じ、ですか?」

    水道水の出し方や冷蔵庫の扱いには慣れてきた武蔵であったが、台所の片隅にある電子レンジの存在は使ったことがないこともあり認識していなかったらしい。
    七緒もそのことに気がつき、武蔵に説明する。

    「うん。説明するより、実際に見てもらった方がいいと思うから、使ってみようか」

    そう言って七緒は冷凍室から冷凍ピザを取り出す。
    そして、慣れた手つきで袋を開け、さらにピザを乗せていく。
    数分後、軽快な電子音が鳴り響き、そしてレンジの扉を開くとトマトソース匂いが台所に広がっていく。

    「ほお、相変わらず神子殿の世界にあるものは興味深いね」
    「そうですね、兼続殿」

    そこに現れたのは兼続と幸村のふ 2359

    百合菜

    DONE2021年2月7日に開催された天野七緒中心WEBオンリーで実施した「エアスケブ」で書いたものです。
    リクエスト内容は、「はっさくを食べる二人」。

    本当は、「探索の間に、幸村と七緒が茶屋でかわいくはっさくを食べる」話を書きたかったのですが、実際に仕上がったのは夏の真田の庄で熱中症になりかかる七緒ちゃんの話でした^^;

    ※スケブなので、無理やり終わらせた感があります
    「暑い……」

    七緒の口から思わずそんな言葉が出てきた。
    富士に登ったものの、呪詛返しに遭い、療養することを強いられた夏。
    無理ができない歯がゆさと戦いつつも、少しずつ体調を整えるため、その日、七緒は幸村の案内で真田の庄をまわっていた。

    秋の収穫を待ちながら田畑の手入れを怠らないものたちを見ていると、七緒は心が落ち着くのを感じる。
    幸村を育んだ土地というだけに穏やかな空気が流れているのだろうか。ここにはいつまでも滞在してしまいたくなる安心感がある。

    しかし、そのとき七緒はひとつの違和感を覚えた。
    呪詛とか怨霊の類ではない。もっと自分の根本に関わるようなもの。
    おそらくこれは熱中症の前触れ。
    他の土地よりは高地にあるため幾分和らいでいるとはいえ、やはり暑いことには変わりない。
    七緒の変化に幸村も気づいたのだろう。
    手を引かれたかと思うと、あっという間に日陰に連れていかれる。
    そして、横たえられたかと思ったその瞬間、七緒は意識を失っていた。


    水が冷たい。
    そう思いながら七緒が目を開けると、そこには幸村のアップの顔があった。
    「姫、大丈夫ですか?」
    そう言いながら自分を見つめる紫の瞳 1386

    百合菜

    DONE2021年2月7日に開催された天野七緒中心WEBオンリーで実施した「エアスケブ」で書いたものです。
    遅刻となってしまい、申し訳ございません。
    リクエスト内容は、「空を見る二人」。

    5章をイメージして書きました。では、どうぞ。

    ※ゲームを見返すエネルギーがないため、取り急ぎ「荘園」という言葉を使いました。
    後日見返して訂正します。
    「若様、姫様、そろそろ休んだらどうだい?」

    その日、七緒は幸村とともに真田家の荘園の見回ることとなった。
    富士で呪詛返しを受けたため、現在、七緒は信濃でゆっくりと療養している。幸い身体の調子は戻ってきており、再度の富士登山に向けて体制を整えているところであった。

    見回りと言っても幸村はただ視察するだけではなく、農作業に加わる。
    故郷を離れていた時期が長いため、民とともに田畑の手入れを行うことが何よりの喜びだと話す様子が七緒には印象的だった。
    幸村には「姫は木陰で休んでいてください」と言われるが、周りのものがあくせく働いているのを見ると申し訳ない気持ちになる。それに幸村が生まれた土地のために汗水を流しているのだから、少しでもいいから力になりたい。
    そう思って七緒もともに身体を動かしていたのだが、思っていた以上に時間が経ったらしい。
    太陽はいつの間にか空の一番高いところまで上り、強い日差しが七緒と幸村を照らしていた。
    「せめてものお礼に」と言われて差し出されたおむすびを七緒は口に頬張る。
    塩でシンプルに味付けされたものだが、空腹の身にはそれが却っておいしく感じる。

    ふと何気なく七緒は 1602

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