目を覚ますとすぐ近くに食事が置かれていた。粗末にするのは罪になるかも知れないと、焚き火の傍で眠っている少女と獣を視認してルイはそれを掻き込んだ。決して多くはないそれを平らげただけで吐き気が増したが、彼らの住処たる森を汚すのは憚られてぐっと堪えた。喉が焼けるような酸っぱい感覚がして、それが余計に気を落とさせた。
絶望に駆られ逃げ出した時分よりは、幾らか気持ちが落ち着いた気がしていた。衝動的に取った行動とはいえ、自分は王命に背き付き従うべき将校から逃亡した身になる。見つかればどうなるだろう。罰を与える代わりにと一度は罪を許された身分でありながら、また裏切りと同等の行いをしてしまった。今度こそ処刑されるだろうか。それならそれで致し方ないと思えたけれど、それがツカサの名に泥を塗ることになるなら容認出来なかった。
ただでさえ、彼の幸せを願うことすら許されない愚かな罪人だったのだ。これ以上ツカサに負担をかけたくはない。
もうここを出なければ。そう思うのに、体に力が入らなくて立ち上がる気にすらなれない。抱えた膝ごと自身を抱き締めたら、虚しさに喉が狭まる。ひどく呼吸がし辛くて、彼の腕の中を思い出した。
会いたい。
その腕の中に、世界で一番安心出来る場所に、行きたい。
抱き締めて、頭を撫でて、よく頑張ったと褒めてほしい。
自分はなんて傲慢なんだろう。許されないことを受け入れて手離しても、それでもやっぱり欲しくなる。
幸せになりたいなんて、思ってしまう。
彼のそれとは似ても似つかない力で、懸命に自らの体躯を抱き締めた。なんの誤魔化しにも至らない虚しい抱擁を一人続けていれば、ふと足音が聞こえてきた。
そういえばネネの姿が見えないが、戻ってきたのだろうか。そう期待して顔を上げたルイの視界が一瞬眩む。まるで、夜空に燦然と輝く星を見上げた時のような、そんな輝きだった。
「──ルイ」
焦がれてしまった人がそこにいて、ルイは息を止めた。傍らには不安そうなネネがいて、物音にエムも目覚めたらしく眠そうに目を擦っている。それだけの光景を自身の脳は処理出来なくて、ルイははくはくと音にならない声を絞り出そうと口を開閉していた。
ツカサが一歩、前に出る。その瞬間、ルイはあの絶望感が再度その心を食らおうとするのを感じた。
──嫌だ。幸せになれないのはもうどうしようもないとしたって、絶望に食い殺されるのは、怖い。
「ッ!」
「ルイ!」
ルイは頼りない力で立ち上がり、森の奥へ駆け出した。あの人は、自分を求めてくれてしまうから。だけどそれは許されないから、触れてしまってはあなたまでも断罪に巻き込んでしまうかも知れないから。次々に浮かび上がる言い訳を吐き出すことも出来ずにルイはただ走る。足場の悪い森の奥は、摩耗した体で駆け抜けるには適していなかった。
「ルイ!!」
「ひ……っ!」
先刻は予期していなかった逃走に行方を失ってしまったが、今度ばかりはそうではなかった。一人で思い悩み自己犠牲にも等しい選択を取れてしまうルイのことだ、自分が迎えに来たとてまた逃げるだろうと予想していた。結果それは予想の通りで、覚束ない足取りで進みにくい森の中を駆ける彼に追いつくのは、決して難易度の高いものではなかった。
伸ばした手は、ルイに届いた。彼は小さい悲鳴を上げると走るのを止め、必死にツカサのそれを振り解こうとする。けれどそれを許すツカサではなかった。ルイに対して強さで捻じ伏せるような真似は絶対にするものかと決めていたが、今ばかりはそれを破った。この手を離したら、もう二度とこの子の心を救えない。そんな気すらしたから、ツカサはルイには決して振り解けないほどの強い力をその手に込めた。
「ルイ、落ち着け!オレだ、逃げる必要はない、話をしよう……!」
「っ、嫌だ、お願いですからっ、離して……ッ!」
強い力を振り解こうと必死になって暴れていたルイの足が、地面から這い出た木の根に引っ掛かる。ツカサが引き留めているとはいえ重力には逆らえず、バランスを崩したルイはその場に倒れ込んだ。痛みに呻くルイへ、ツカサは自らが泥で汚れることも厭わず地面に膝を付き彼を抱え起こした。
「ルイ!オレのせいですまない、怪我はないか」
「っ……ぁ、あ…………」
逃げなければと、ルイは地面に尻をついたまま後退ろうとした。しかしそれは叶わなかった。なにかに阻まれたわけでも、傷を負って動けないわけでもなかった。
ただ、頬に散った泥を落とすツカサの手が優しくて。自分をじっと見つめてくる彼の目が優しくて。どうして自分は、愛しい人が自身に向けてくれるこんな柔らかな優しさを拒まなくてはならないのかと、そう思うと動けなかった。
「ん、怪我はないな……頭は打ってないか?」
「っ……」
どこかぶつけてはいないかと、ツカサの手がルイの頭を這う。それがまるで撫でられているようで、ルイはそれに甘えたくなる気持ちを必死に飲み込んで首を横に振った。問われているのに返事さえ出来ないなんて、道具としても使い物にならないガラクタだ。なのにどうして、何故彼はこんかにも優しい手つきで、愛おしいものを守ろうとするように触れるのだろう。
「……ルイ」
「……は、い…」
「帰ろう」
目を細めて、穏やかな声で、ツカサが言う。
その言葉に身を預けられたら、全身で縋れたら、どれだけよかっただろう。ぎゅっと唇を噛んで、ルイは俯くと出来ないと首を横に振る。
「何故だ、ルイ」
「っ……わたし、は……、幸せになる権利が、ない、から、です」
「奴の言葉を信じるのか」
ツカサの声が僅かに棘を持つ。傷つけている、怒らせている。恐ろしくて肩が震えた。掠れた声で申し訳ありませんと絞り出すと、ツカサの手がルイの左手を取った。
「……?」
「お前の考えはよくわかった」
そのままツカサは、ルイの左手に口付けた。飛び散った泥を口に含むことを恐れもせず、指先に、手の甲に、そして薬指に絡みついた指輪に。
「だから次は──お前の、本当の想いを話してくれ」
ツカサの両手が、ルイの手を包んだ。縋るように、あるいは誓いを交わすように。その目から、手の温もりから、意識を逃がすことが出来ない。
吐き出すだけなら。吐露するだけなら。それなら許されるだろうか。望まないから、本当の想いを言葉にするだけだから、幸せになんてならないから。必死に脳内に紡がれた言い訳を肯定するものはなにもなかったけれど、頬に伸ばされたツカサの左手が、その薬指に鎮座する揃いの指輪がきらりと光を浴びて輝いたから。
求めていいよと、肯定された気がした。
「──幸せに、なりたい──あなたを、幸せにしたい、です、──二人で、っ二人ともが、幸せなのがいい、それ以外、なんにも要りません……っ!」
過ぎた願いだと、泣き出した。上手に泣くことも出来ない迷子は、泣き声を上げることもなくただ双眸から溢れるそれを垂れ流しにして泣いた。今まで通り、あなたと生きているだけでいいと、それが幸せでそれだけが唯一求めた希望だと、懸命に吐き出した。
「ルイ」
「っ……」
「奴の言葉を信じるくらいなら──オレの言葉を信じてくれ」
優しく引き寄せられて、反射的に瞼を閉じた。柔らかく重なったそれが、閉じ込めきれなかった心の全てを許してくれた気がした。
「ルイ、ルイ──お前を幸せにしたいよ。お前が望む以上の幸福を教えたい。もっと強欲になってほしい、もっとたくさん笑ってほしい。辛い時はオレを頼ってほしい、悲しい時はオレも共に涙を流そう。そうやって、二人で生きたいんだ」
ツカサの片目から、ぽつりと雫が零れ落ちる。頭がじんと痺れて、浅い呼吸のせいで喉が痛い。それでも今のルイにとって、そんなことはどうでもよかった。今はただ、ツカサが自分のために紡いでくれる言葉に全ての意識を向けていたかった。
「愛してる、心の底からお前を愛している、ルイ。オレの想いが、誰かに許しを請わなければならないものなわけがあるか」
「つか、さ、さま」
「お前の想いだって、誰にも咎められるものか。誰かがその権利を奪うなら、オレが与えよう。誰かに許されなければならないなら、オレが許そう」
「……っいい、の、ですか」
幸せになってもいいのですか。
幸せにしたいと願ってもいいのですか。
ツカサはただ、優しく微笑んだ。
「ああルイ、オレの幸福をお前に贈ろう。だから、お前の幸福はオレにくれ。二人で、ちゃんと、幸せになろう」
気付けば迷子は、帰るべき場所に飛び込んでいた。
抱き留められて、逃さないというように強く彼の腕に閉じ込められる。それだけで、ただ抱き締めあっただけで、こんなにも涙が止まらなくなる。このまま死んでも構わないと思うほど、胸が幸福で満たされて呼吸が出来なくなる。
溺れている、もう助からない深さまで沈んでいる。それならもう、それでよかった。ツカサがいてさえくれれば、水底でだって息をしていられる。
ツカサがいなければ、もう生きてなどいけないのだと、痛感してしまった。
「──っゔ、ぐ……!ひっ、ゔぅ……っ!」
ああ、この子は、泣き方さえ知らないのだ。わんわんと声を上げることも出来ずに、引き攣った喉を何度も鳴らして漏れ出た呻き声で苦しそうに泣いている。そんな子を放り捨てて、自分が幸せになど生きられるわけないのに。どうにもこの子は、何度言い聞かせてもツカサの幸福に自分を換算しない。頭数になるはずもないと無意識に思っているのだろうか。
ルイの手がツカサの背に回る。驚いた、とツカサはその髪を優しく撫でた。こうして彼をその腕に抱く時、ルイの手は控えめにツカサの服の裾を握るか腰の辺りでどうしたものかと彷徨うばかりだったから。震える手で縋るように、あるいは離さないと縛り付けるように。初めてルイが、抱き返してくれたのだ。
「ああ──ルイ、愛してる、大丈夫だ。お前の幸福は、ここに在るよ。全部ちゃんと、受け止めていていいんだ」
「っぁ、ゔ、……ッ!ぅ、っく、ゔ……!」
「うん、うん、たくさん泣いてくれ。悲しいことはもうない、全部、全部吐き出していこう。そしたら──二人で、帰ろう」
* * *
帰路は、少女たちを宥めるのに一番苦労した。目を真っ赤に腫らしてふらふらと歩くルイは二人から大層心配されて、本人が大丈夫だと訴えようとすると号泣の余韻で喉が引き攣りしゃくり上げてしまうので逆効果だった。ツカサがオレが傍にいるのだから絶対に大丈夫だと豪語して漸く引き下がってくれたのだ。
そうして未だ余韻が抜けずぐすぐずと鼻を鳴らすルイと絡めるように繋いだ手を引いて、ツカサは町まで戻ってきた。ぼろぼろに泣いているルイの姿をあまり見られたくなくてわざわざ裏道を使ったせいで少し時間はかかったが、無事に館へ戻ってくることが出来た。
「おかえり、ツカサくん」
出迎えたカイトは泥だらけ涙だらけで、平時なら美しく整えている髪さえぐしゃぐしゃの二人を笑いながら汚れた上着を受け取った。綺麗にしておくから今日はもう部屋で休んでおいでと優秀な部下が笑うので、ツカサはそれに甘えることにしてルイの手を引いた。
が、ルイの足取りは段々と重くなる。どうやらまだ罪悪感が残っているらしい。幸せの権利とやらは受け止める覚悟をしたらしいが、恐らくその胸に巣食うのはそんなくだらない資格の問題ではないのだろう。
ルイにとって、ツカサを傷つけたことはひどい大罪なのだ。その理屈なら曖昧な判断でルイを傷つけた自分こそ裁かれるべきなのだがなどと思いながら、ツカサはルイの手を引いて口を開く。
「ルイ、お前は常にオレの監視下にあるという王命に背いた行動を取ったわけだが」
「え、あ……はい。申し訳ありません」
「命令に反した者には罰を与える必要があるのはわかるな?」
「はい」
ルイは緊張を孕みながらも、しかしどこか落ち着いた声色で頷いた。今更、罰の一つや二つ幾らでも受け止められる。だってツカサがいるのだ。彼がいるなら、どんな痛みも苦悶も堪えられる。勿論痛いのは嫌いだけれど、大丈夫。ツカサがいてくれるなら、そんなもの怖くない、堪えられる。
「座れ」
ツカサの私室へ連れられ、ベッドの上へと促される。ルイが命令通り大人しく腰掛けると、ツカサはにこりと笑みを浮かべて告げる。
「動かないことだ、いいな」
「え、……!?」
ツカサはルイの隣へ乗り上げると、その腕の中に彼を捕らえた。ぎゅうと優しくも強い力で抱き込み、くしゃくしゃの髪に頬を寄せる。戸惑い慌てている彼の背を撫で頭を撫で、すんと空気を吸い込んでルイ自身を堪能する。温かい。ルイの香りがする。ツカサは漸く張り詰めていた糸が緩んだ気がした。きっと迷子は、もう勝手に道に迷ったりはしないのだと安堵した。
「あ、あの、ツカサさま」
「こら、動くなと言ったろう」
「いや、なん、なにをなさっているんですか」
「罰だと言っただろう。勝手に動いたら罰にならん、大人しくしろ」
「どこが罰なんですか……!」
あなたに触れられたら嬉しくなるに決まっているのにと、ルイは熱を持つ頭を必死に落ち着けようと藻掻いた。あれだけみっともなく泣きじゃくり彼に縋りついていた恥ずかしさまで思い出して気が気でない。
だというのに当のツカサは、言うことを聞かないなら別の罰もあるぞと笑う。部下たちの前で口付けを交わそうか、町を二人でデートするのも悪くないなとくすくすと喉を鳴らして言うものだから、ルイは目にうっすらと膜を張りながらも大人しくなった。
「はは、いい子だ」
からりと笑ったツカサの手が、ルイの身を隈無く撫でる。大切なものを慈しむように、愛でるように。時折一秒にも満たない触れるだけのキスが髪や額に降り注いで、しかしそれを拒む術を奪われたルイは、とうにたっぷりと満たされてしまったそこに注がれる愛情を懸命に受け取っていた。
ツカサは時折、悩ましげな息を微かに吐いた。あの日の消え入りそうな体温とは違う。苦しそうな呼吸はない。触れることさえ許されないと拒む声もない。
ルイがいる。この腕の中に、確かに在る。それがどれだけ幸福なことか。
手離さないと誓ったのに、失くしてしまったらどうしようと、ひどく不安だった。権利も許しも全部やると宣ったけれど、それさえルイが恐れ拒んでいたらどうなっていたことか。
自身の幸福そのものが、失われていたら。
幸せにしたい人が、消えてしまっていたら。
後になってじわじわと現れた恐怖がツカサを襲って、その度吐息が漏れるがルイの存在を確認して安堵している。やはり罰を受けるべきは自分だ。この拭いきれない恐怖こそ、自身への罰だ。それを受け止めた上で、彼へ償わなければならない。今度こそ、本当に幸せにしなければ。
「ツカサさま」
「……ん、どうした、ルイ」
「あの、……腕を、あなたの背に回す許可を、頂けませんか」
返事をする前に、ルイの手が控えめにツカサの服の裾を引いていた。ああ、本当に珍しい──否、それが求めていいものだと、理解したということだろう。
「ああ、許可しよう」
「ありがとう、ございます」
ぎゅうとツカサの背にルイの腕が回る。それがひどく愛おしくて、ツカサはすりすりとルイの頭に頬を擦りつけた。温かい、とルイは思った。しっかりと抱き締め合うことがこんなにも温かく優しいものだなんて。
甘えるように身を寄せてくるツカサに、今まで勇気がなく縋りついていただけだったのが途端に申し訳なくなった。せめてこれからは、積極的に返せるようになれたらいいなと思った。
だとすれば──"それ"も、必要な頃かも知れない。
「……ツカサさま」
「ああ、今度はどうした?」
「……私は、あなたのもの、ですよね」
「お前を物扱いするのは気が進まないが、オレ以外に渡す気はないな」
愛おしそうに両の頬を包まれて、ルイはきゅっと唇を噛む。いいや、こんなところで緊張している場合ではないと、自らのシャツのボタンを一つ、震える手で緩慢に外してみせた。
「私はこの身を──あなたに捧げる覚悟があります」
「……ルイ」
「どうか、あなたのお好きなように。あなたにこの身を暴かれるなら、私は……」
言葉を遮るように、手が伸ばされる。触れられる、暴かれる。一気に広がった緊張に瞼を閉じれば、手はルイの身を暴くことはなく外されたボタンに触れた。元の通りに隠されてしまう肌に、彼はそういった行為は望んでいなかったかとルイは肩を落とす。それを見て、ツカサは困ったように笑うとするりと身を屈めルイの首筋にキスを落とした。
「っ…!?」
「言っておくがな、ルイ。オレはもうずっと前からお前を抱きたいと思っているからな」
「!?あ、えっと、」
「だがな、お前が今示したそれは──贖罪だろう」
「あ……」
罪滅ぼしのために彼を抱こうなどとは思えない。行為に至るならば後ろめたい気持ちの一切、ルイに抱えさせるつもりはツカサにはなかった。うんと優しく、うんと気持ちよく。ただ愛情に浸れるように融かしてやるつもりなのに、贖罪のためになんて誰が満たされるのだろう。
「だからルイ、お前が本心からオレを望み、オレを愛するが故にそうしたいと思ったなら……その時は、オレに抱かれてくれ」
「っ……はい、…喜んで」
ふわりと蕩けた笑みにツカサは目を細め、愛しくて堪らないと彼を撫でる。それから咳払いを一つすると、それはそれとしてだなと含み笑いのままにルイをベッドへ押し倒した。
「なっ……ツカサさま?」
「相変わらず──自分を蔑ろにしてしまうのは治らないようだな、ルイ」
「そんなことは……」
「贖罪のために純潔を捧げようとするやつの言葉が信用出来るとでも?だから──これは仕置きだ」
「え、えっ、待っ──」
制止の声も聞かず、ツカサはその口に噛み付いた。角度を変えて何度も唇の柔らかさを味わい、滑り込ませた舌を深く絡めて快感を贈る。優しいだけの口付けなら今まで幾つも交わしてきたが、深いそれはルイには殆ど経験のないものだった。甘い声が口付けの合間に漏れて、それが彼に聞かれていると思うと羞恥で頭がおかしくなりそうだった。
「ん、ぅっ……っは、はぁっ、はぁ……っ」
「……ふ、初いものだな、そんな状態で抱かれようなどと思ったのか?」
「つか、っん、ん……!」
一度のキスでくたくたに弛緩しているルイを笑って、ツカサはもう一度、まだ足りないと何度も唇を重ねる。慣れないそれに少しずつ余裕が出来てきたのか、上手に快感を受け取り始めた体がぴくりぴくりと震えるのが愛らしかった。
「ん、ふぅ……っ、」
「はっ……、まだ終わらんぞ、ルイ。逃げるなよ?」
「はい、はい……つかさ、さま」
「ん、……愛してる、ルイ、愛してるぞ」
「…ぁ……つかささま、…お慕いして、います、ん……っ」
結局二人はその日、夜になるまで誓いのキスを続けていた。