最初に抱いたのは、きっとただの憧れだった。男なら誰だって強い人に憧れるもので、僕にとってその身近な強い人がシャナオウさんだった。そう、それだけだったんだ。
だけどシャナオウさんは強い上に優しくて、落ちこぼれの僕のことを決して否定することはしなかった。不本意ながらなってしまった従者だけど、側仕えとして大事にしてくれたし、それでいて歳の近い友達みたいに気楽に接してくれた。
純粋に嬉しかった。いつも失敗ばかりで親しい友達もいない僕に、シャナオウさんは僕の欲しかったものをいっぺんに与えてくれたから。
いつしか僕は、初めて男の人に恋をしていた。
でも。それはあってはならない感情だ。僕は従者、そしてインキュバス。主人でアンドロイドで、それに男のシャナオウさんを好きになっていいはずがない。
『また繰り返すの?』
かつて愚かな恋をした僕が冷たい目をして睨んでくる。わかってる。わかってるよ。でも好きで好きでたまらないんだ。どうしろって言うんだよ。
好きなのに苦しい。欲しいのに届かない。あたたかいのに辛い。
相反する感情は僕の中で何度もぶつかり合って、その度にキラキラと輝いて見えた世界はひび割れていった。幸せだった恋心は徐々に削れていって、最後に残ったのは得体の知れない、美しくも醜くもない歪ななにかだけだった。
どうしてだろう。あんなに好きだったはずの横顔が最近は嫌いだ。あなたが笑うとわけもわからず苦しくて、眩しすぎる光から逃げるように顔を逸らしてしまう。これは一体なんなんだらう。
『早く諦めてよ』
わかってる。わかってるってば。してはいけない恋なんだ。だから壊して捨てなくちゃならないんだ。同じ過ちを繰り返して、従者としてすら見捨てられる前に。
だけど。
「……でき、ないよ……僕の恋を、どうして僕が否定しなくちゃならないんだ……っ」
耳を塞いでうずくまっても、冷たい忠告は鳴り止まない。どうしてこんなに痛いんだ。苦くて苦しいこの感情は、本当に叶えるべき恋なのか。
恋っていうのはお砂糖みたいに甘くって、白くてキラキラした美しい感情なんだ。なのにこんな、こんな。
「……たすけて……、」
こんなに辛いのに、諦められません。
一線を踏み越える覚悟もないくせに、抱きしめてほしくてたまりません。
お願いだから、止まらない涙を拭ってください、
「……シャナオウさん……」
僕は恋だったはずのなにかをそっと胸の奥に仕舞い込んだ。捨てられなかったそれは、今も僕の心を黒い煙を上げて焦がし続けている。