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    akami_oniku

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    akami_oniku

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    次に出したいな〜と思っている本に入れたいな〜と思っているお話です。
    ジュンくんがメイドさんになっていちゃいちゃするお話ですが、メイドさんになる前のシーンまでしか書けていないです。

    茨ジュン進捗「おっ茨、お疲れさんです……じゃなくて。お帰りなさい……ませ?茨……サマ、茨坊っちゃま?」
    「…………最後のはやめてください、特定の人物を想起させられて不愉快です」
    「注文が多いご主人様っすねぇ〜、んじゃあ、茨サマでいきますか。」

    いや、いきますかって言われても。
    ————首の詰まったカッターシャツに、形が整いすぎていて逆に不自然な蝶ネクタイ。ジャケットは後身頃だけが長い特徴的なシルエットで、普段着用しているユニット衣装を連想させる。
    所謂燕尾服と呼ばれるそれと、あまりに似合わないその畏まったような口調から、『執事』ってやつの真似事だということはすぐに察せた。けれど、どういう経緯でこいつがそんなことをしようと思ったのかは全く理解ができない。
    ようやく面倒な会食が終わりホテルで一息つけると思ったら、今度は身内が面倒事をふっかけてくるのかと眉間が重くなるが、当のジュンがやたらと楽しそうなので咎める気が失せてしまう。思い出したように恭しく礼をすると俺の右手から鞄を取り上げて、慣れない手つきで引いた椅子に着席するよう誘導された。『ほら、早く座ってくださいよ』と何故か満足気な表情を浮かべるこいつに、そんなにグイグイくる使用人がいて堪るかと思うけれど、それでも言う通りにしてしまうのだから腹立たしい。
    八重歯を控えめに覗かせながら『今日もお疲れ様です』と微笑む姿は割とそれっぽかったが、どう考えたって調子に乗らせるだけなので黙っておくことにする。



    × × ×



    「はぁ、あそび部で」
    「そうです。この暑さですから、熱中症とか怖いでしょう?」

    コンビニで調達したらしい惣菜たちをわざわざ皿に盛り付けながら、この頓珍漢な状況について説明し始めるジュン。
    要約すると、所属するあそび部では基本的に屋外での活動が多いが、口述された通りの理由から何か室内でできることを探していたと。丁度そんな時に談話室のテレビで執事喫茶の特集が流れ始めて、満場一致で次の活動内容が決まったらしい。

    「オレは執事なんて柄じゃねぇですけど……。室内でできますし、ただのお茶会よりは遊び心あって面白いと思いません?」
    「まあ……。ジュンがこういうごっこ遊びのようなものに興じるのは意外ですけどね」
    「いやぁ、正直最初は恥ずかしいし断ろうと思ったんすけど……。演技の勉強にもなるんじゃないかって、燐音先輩とゆうたくんが」

    …………どう考えても面白がっている輩にまんまと言いくるめられているが、あくまでも身内だけでの活動、外部に漏れるような心配は皆無だ。ジュンのアイドルとしてのイメージに傷が付く訳では無さそうなので、あの二人に関しては目を瞑っておくが、こいつのバカ正直加減には対策が必要そうだ。

    「この服もさっき皆さんと買いに行ったんすよ。ほら、この前駅前にできたあの店」
    「ああ……。通りでペラペラな訳ですね」
    「ちょっと、そういう空気読めねぇこと言わないでくださいよ。あくまで楽しく遊ぶための小道具みたいなものなんですから、質はどうだって良いんです」

    嫌に黒光りしているくせにペラペラな生地と、身体のラインに沿っていない中途半端なシルエットから、決して質が良いと言えるものでは無いと推測していたが。『駅前に新しくできた店』というジュンの言葉から、それが間違っていなかったのだと腑に落ちる。
    数週間前にオープンしたばかりである数階建ての大きな建物は、入り口に置かれたいくつかのワゴンからだけでも店の雑然とした雰囲気が伝わってくる、所謂ディスカウントストアってやつだ。先日撮影帰りの車で前を通りかかった際には年上二人が興味を持ってしまい、どうにか足を運ぶことの無いよう頭を悩まされたのは記憶に新しい。

    「……で。あなたが執事ごっこをするのと、俺の取っていたホテルの予約人数を変更させてまで押しかけて来たことと何の関係が?」
    「それはすんません、急に思い付いちまったもんで……。茨、口調とか仕草とかやたら丁寧ですし執事の真似する参考になりそうだと思って。練習、付き合ってくれません?」
    「……断っても良いんですか?」

    その確認は、どう考えたってここに来る前に取るべきだろうと思いつつも口には出さないのだから、俺も結局こいつに甘いのだ。
    最近はジュンもそれに気付き始めているようで、こちらに最終決定を委ねているような口ぶりとは裏腹に、断られるはずが無いという自信に満ちた表情で俺を見ている。一体どこで調教方法を間違えたのだろうか。

    「あんた明日休みでしょう?迷惑かけないようにしますから!」
    「いや、既にとんでもない迷惑を被っているんですが……?というか、自分のスケジュールを確認する頭があるのならもっと余裕を持って連絡を……」
    「だからそれはすみませんって……!ほら、茨サマのお疲れを癒せるように頑張ってゴホーシしますんで、ね?」

    先程の自然な笑みとは打って変わって、わざとらしく作り笑いを浮かべたジュンが、魚の切り身の刺さったフォークを口に押し付けてくる。
    仕方なく口に含むと、瞬間強すぎる塩味が口に広がって、こんなに不健康な味だったかと軽く咽せ込んでしまった。ジュンの手料理の方が余程———なんて思ったところで、胃袋まで掴まれているのかと恐ろしくなった訳だが。

    「…………本当に、日に日に強引になってませんかあなたは……」
    「へへっ、そういうあんたは日に日に押しに弱くなってますねぇ?」

    俺の言葉を許諾だと捉えたジュンが、勝ったとでも言わんばかりに目を細めて誇らしげに笑う。
    『もっと食べます?』と今度はこいつお気に入りのサラダチキンを差し出されるが、手で払って拒否をした。大体、魚も肉もって欲張りすぎやしないだろうか。

    「というか、執事なんて殿下あたりに頼めばいくらでも本物を借りられたのでは?レッスンでも付けてもらえば良かったものを……」
    「いやいや、”あそび部”って名前の通りあくまでお遊びなんで。それに本物の執事の人なんて、こっちが緊張しちまいますし」

    恋人が真っ先に自分を頼ってくれて嬉しい————なんて乙女のような思想は生憎持ち合わせてはいないが、確かに日和殿下を巻き込もうものなら、今この瞬間など比にならないほどの面倒事になっていたに違い無い。
    どうせやるのなら徹底的にだとか何とか言って寮内でド派手な講習会を開いたり、クリーニング代だけで今ジュンの着用している衣装代を軽く上回るほどに上等な燕尾服を用意したり——……。知らないところでユニットメンバーがド派手にやらかしていた可能性を思うと、犠牲がたかだか俺一人の休日程度で済んだだけ、まだマシだったのかもしれない。

    「だからって何で自分なんですかね……。あなたには敬語を使っている人間全員が従者に見えているんですか?」
    「いやいや、茨って結構それっぽいと思いますけどねぇ〜?だからほら、いつも通り偉そうにしててくれれば良いんで!」
    「喧嘩売ってます?」

    前言撤回。今からでも多方面を巻き込んでクソほど大事にして、一度こいつの胃をキリキリさせてやった方が処世術を身に付けられるんじゃないだろうか。
    それでも『冗談ですよ』とけらけら笑う生意気な子供のような表情を見ると溜息の一つで済ませてしまうのは、これ以上相手にして余計な体力を使いたく無いからだということにしておく。


    × × ×



    「失礼しま〜す」
    「…………何でしょうか」

    先に片付けをしたいから、それが終わったら練習に付き合ってくれとシャワーに送り出され、疑いもせずに言うことを聞いたのが間違いだった。
    浴槽に浸かって目を瞑り、一日の疲れを吐き出すように深呼吸をしたところで、ガチャリと音を立ててドアが開く。鍵を閉めておくんだったと思っても、そんなの後の祭りだ。
    冷たい外気を引き連れて、腰にタオルを巻いたジュンがずかずかと侵入してくる。

    「髪、オレが洗ってあげますよぉ。……あ、それとも背中でも流します?」
    「結構です。……というか入ってこないでください、お湯が溢れているんですが」
    「良いじゃないですか。ほら、もうちょっとそっち寄ってください」

    多少グレードが良いとは言え、ホテルの個室に備え付けられた浴槽の大きさなんてたかが知れている。それでもそんなこと気にも留めずに無理矢理入ってくるものだから、肌と肌がぴったりと触れ合ってむず痒い。筋肉質な見た目からは想像できない柔らかい肉感に、何だか妙な気分になりそうで少し距離を取ると、うざがっているとでも勘違いしたらしいジュンがその分また距離を詰めてくる。何なんだこいつ。

    「……近い。狭い。また筋肉増やしただろ」
    「最後のだけちょっと違いません?そんなカリカリしないでくださいよぉ」

    『合宿みたいで楽しくねぇです?』とか言ってるジュンを無視して浴槽から上がり、シャワーで髪を濡らす。
    持参したパウチのシャンプーを手に取ろうとすると、確かに置いたはずの場所からそれが消えていて。ぼやけた視界と散乱する思考の中で、どこか別の場所に置いてきたのだろうかと考えていると、堪えきれないといった様子の笑い声が聞こえてくる。
    たったそれだけで状況を把握できてしまうことを腹立たしく思いながらジュンの手に握られたパウチを奪い取り、お前もちゃんと持参しているのだろうなと声を掛ければ、それまで途切れることなく反響していた音がぴたりと止んだ。こういった場所に備え付けられているものはあまり質が良くないので、外泊の際は持参するか現地で調達しろと言い聞かせていたのを、今更思い出したのだろう。
    『オレの髪は強いんで大丈夫です』だとか『あんたが取るホテルのやつは全部良い匂いがするから多分良いやつですし』とか、訳の分からない言い訳に意識が向いている間に、手早く全身を清めていく。

    「自分は先に上がっていますので、どうぞごゆっくり」
    「うえっ、もうですか!?……あ、じゃあオレが拭きます!」
    「要りません」
    「ちょっと、全然奉仕させてくれないじゃねぇですか!」
    「逆にどうしてそう的外れなことばかりできるんですか。黙ってシャワー浴びてさっさと寝ていただくのが何よりの奉仕ですね」

    びしょびしょのまま後を追ってくるジュンを静止して、余分に持ってきていたシャンプーを押し付ける。
    渋々と言った表情でそれを受け取ると、流石にこの状況で押し切ることはできないと察したのか洗い場へと戻って行ったので、気持ち強めにドアを閉めてやった。
    隙を見計らって出てくるんじゃと身構えていたが、脱衣所でパジャマを身につけている間も、ドライヤーをしている間もそんな様子は無い。一度叱られたくらいですんなり引いてしまうあたり、まるで飼い主の顔色を窺う愛玩犬だ。

    「全く……。他人に奉仕する前に自分の荷物を片付けていただきたいんですが……」

    部屋に戻って眼鏡を装着すると、隅に散乱しているジュンの荷物が視界に入る。さっきまで何とも思っていなかったはずなのに、呆れの募った今はやたらと目について仕方ない。
    せめてチャックくらいは閉めておけと倒れた鞄を持ち上げると、それを支えにしていたらしいディスカウントストアの袋ががさりと音を立てて雪崩れてきた。

    「っ、と……」

    散らばってしまった中身たちを手に取って、日常ではそうそう目にしないサイズの派手な色をした袋の中へ戻していく。
    先ほどまでジュンが着用していたものと同一商品であろう燕尾服が数着。おそらく他のメンバーのものも代表して持ち帰ったのだろうとぼんやり考えていると、最後に持ち上げた一つだけやたらと厚みがあるような気がして、軽い気持ちで目をやると。

    「……何なんですか、これ」

    パッケージに印刷された若い女性モデルが着用しているのは、燕尾服と同じく白と黒を基調としたモノトーンの衣装。————だけど、いや、これは。

    「茨ぁ、寝る前に何か飲みます?お茶淹れんのとかちょっと執事っぽ……うげっ、何でそれ……!」
    「……いつも言っていますけど、腰にタオル一枚で出てくるのやめていただけます?風邪でもひかないと学ばないんですかね……」
    「服着てドライヤーすると汗かくんすよ……って、そうじゃなくてっすねぇ〜……っ!」

    シャワーを浴び終えいつの間にか戻って来ていたジュンが、俺の手元を覗き込み、そして数歩後ずさる。
    この慌てようを見るに、これが見つかったのは措定外の出来事らしい。あまりに杜撰に管理しているものだから、見つけられたくてわざとそうしていたのかとも考えたが、どうやらそうでは無いようだ。まあそれもそうだ。————メイド服なんて、よほど性癖が拗れていない限り、一生手に取るはずのない代物なのだから。

    「……個人的に購入したんですか?であれば部費では落ちないので、間違えて領収書提出しないようにしてくださいね」
    「んな訳無いでしょう!ラックからまとめて取った中に、これが混ざっちまってたんです!店を離れてから気づいたんで、一番執事っぽく振る舞えなかった人が罰ゲームで着ようってなったんですよぉ……!」
    「はあ、なるほど」
    「おいっ、なんでちょっと疑ってんですか!マジなんです、皆さんそのまま仕事とか予定があるってんで、オレが持って帰っておくって引き受けたんすよぉ〜……っ!」

    俺の手からそれを奪い取り、乱暴にビニール袋へと押し込むジュン。あまりに慌てるものだからうまく入っていないし、何ならパッケージの角が袋を切り裂いてしまっているので、隠れるどころか貫通して丸見えだ。そんなことにも気づかずにどうにか隠蔽しようとするこいつの姿に、何か良くない感情がぞくぞくと背筋を駆け上がるのが分かった。

    「まあ、その機転の利かせ方も”あそび部”らしいんじゃないでしょうか」
    「っそう!そうなんすよぉ〜……!折角なら楽しんじまおうって感じで……!」
    「ではジュン、着て見せてください」
    「いやいやいや、どういう話の流れですか!オレの話聞いてました!?」
    「ええ、きちんと聞いていましたよ」

    上手くこの場を収められると安堵の表情を覗かせたのも束の間、続いた言葉の突拍子の無さに思わずと言った様子で突っ込んだジュンは、声を荒げてからこちらのペースに飲み込まれたのだと気付き顔を顰める。
    その隙にメイド服を奪い取ろうと鷲掴むと、そうはさせまいと反撃してくるが、変に暴れたせいで腰のタオルがずり落ちそうになったのに気を取られたことでジュンの敗北に終わった。見事俺の手中に収まったそれをわざとらしくジュンの眼前に掲げると、目に入れるのも嫌なのだろう。さっきまで獲物を狙う野生動物のように鋭かった瞳が、罠にかかった獲物のように悔しげに伏せられてしまった。

    「ゔ〜っ……。オレはそんなん絶対着ませんからね……!?つうか結果的にとは言え部の活動用に買ったんですし、私的に使う訳には……」
    「……ごっこ遊びが一番下手だった人が、罰ゲームとしてこれを着るんですよね?」
    「?そうですけど……」
    「でしたら結局、ジュンが袖を通すことになるのでは?」
    「GODDAMN!!それが嫌だからこうしてあんたに教えを乞いに来たんでしょうが!」

    たかがお遊びに何故練習をしてまで挑むのかと疑問だったが、これを着用するという事態に陥るリスクを少しでも減らすためだったのだと思うと合点がいく。
    まあ生憎、そのために選んだルートで思わぬ事態に陥っているのだが、これは紛れもなくジュンの詰めの甘さが招いた事態だ。恨みたければ自分を恨めば良い。
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