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    negitama_mata

    @negitama_mata

    kb/擬/原型/文章/絵

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    negitama_mata

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    dmsd、割れたdmtを組み立てるsd(♀)の短いお話、右手視点。書きたいとこだけ書きました。原、小説。

    作業場の彼女 今の明るさでは、小さな欠片の形がよくわからない。
     彼女がそう嘆いたので、マスターハンドは明かりを持ってきてやった。細かな作業をするための、手元を明るく照らすものだった。
     だがそれでもまだ足らないと、彼女は自分から明かりを探し始めた。もっと明るくして、早く彼を直さないと、と。
     そして彼女の作業場は昼夜を問わず強烈な光に包まれるようになった。黒い欠片をもっと見やすくするために、壁は白く塗られ、さらに光を反射した。入ろうとする者をためらわせるほど、彼女の作業場は明るくなった。
     これほどまでに明るくしたら、目が眩んでしまうのではないか。マスターハンドは気をもんだが、彼女は喜んで作業を続けた。
     一分一秒でも早く彼を元通りにしたいから。
     そう言われてしまうと、何も言い返すことはできなかった。彼女は最も大切だった彼を失ったのだ。多少の無理をせずにはいられないのだろう。
     そう思って、彼女のしたいようにさせて、できるだけそっとしておくことにした。
     時間が経てばもう少し落ち着いて、無理な作業はしないはずだ。彼に拾われた時に比べて、彼女はずいぶんしっかりした子に育ったのだから。
     その時は、それが一番いいと思ったのだ。
     平皿を手にしたマスターハンドは作業場の入り口で止まっていた。彼女の作業場はあまりにも無機質で、未だに慣れることができない。
     真っ白な部屋の中で、小さくて薄汚れた灰色の丸が、彼女が、床に座り込んでいた。
     山と積まれたガラス質の砂塵から欠片を選び取り、大きな欠片にあてがっている。場所があえば欠片はおのずからくっついてくれるのだが、そう容易くは見つからない。彼女はただ黙々と、しかるべき場所を探している。
     最も大きな欠片はひどく歪な形で、部屋の明かりをもってしてもなお、真っ黒で不気味な塊だった。彼女にとって最も愛しい存在の慣れの果てだ。
     背しか見えない灰色はまるで生気がない。白布の中のシミを見ているようだ。
     その傍らには場違いな雰囲気を放つ皿がぽつんと取り残されている。皿の中のりんごのうさぎは、哀れにも萎びかけていた。
     昨日、マスターハンドが置いて行ったものだ。うさぎ達はまったく相手にされなかったようだ。こうなることは半ばわかってはいたのだが。
     彼女はその時間の全てを、彼を組み立てることに使っている。食べる時間も、寝る時間も、本当に全てを費やしているのだ。
     声だってもう何日も聞いていない。最後に聞いたのは呻き声だ。言葉にはなっておらず、いらだちなのか、疲れなのかもわからなかったが、今よりもずっと生き物らしいふるまいだった。それもしなくなって久しい。
     このままでは彼が組みあがる前に、いや、彼が組みあがった瞬間に、彼女は駄目になるだろう。
     兎角、何か口にさせなければと、今日はりんごをすりおろしたのを持って来た。
     宙を滑り、マスターハンドは彼女の前に回り込んだ。
     黒く濁った瞳は、目の前の自分を事務的に映すだけで、認識してはくれない。
     昔の、一緒に手遊びをして遊んだあの日には、自分の指の動きに目を輝かせてくれたのに。
     かつての彼女は、彼が迎えに来ると転がるように駆けていった。ばいばいまた明日ね、と笑い、彼と共に帰路へ着くのをほほえましい気持ちで見送ったものだ。
     彼女が立ち上がったところも見ていない。彼が元に戻っても、萎えた脚では隣を歩けなかろうに。
     マスターハンドは小さな匙にりんごをすりおろしたのをのせて、半開きの口に持って行った。食べようとしないので、傾けて流し込むようにして口に含ませる。それでようやく喉が動いてくれた。
     体の機能はきちんと命をつなごうとしている。僅かながらも安堵を覚えて少しずつ彼女に食事を与えた。
     口無しの自分は、食事の楽しさも、必要や不要の度合いもわからない。この体は、見た目だけを模した劣化版ではあるものの、一応は別の世界の創造の神の写しである。そのため、自分は鏡の国の者たちとも外の世界のものたちとも根本的に違うらしい。外部からエネルギーとなるものを摂取せずとも、生まれてから今日まで、こうして在り続けている。
     だが、少なくとも、このままでは彼女が本当に駄目になってしまうことはわかる。
     ――このままでは、戻って来た彼がひとりになってしまうよ。そう伝えたくとも言葉のない自分には不可能だ。
     マスターハンドが知る限り、彼を組み立て始めたころの彼女は、ちゃんと食べて、寝ていたはずだ。だがいつからか、それらの時間は削られていき、気がついた時には彼女はふたまわりも小さくなってしまっていた。
     彼女は黒い欠片に手を伸ばし、見つめ、形を見極め、考え、試し、正しい場所へと戻すのを延々と続けている。
     大切な者をなくした痛みは、さぞつらかろう。マスターハンドにも、左手を模した片割れがいる。だから彼女の気持ちは我がことのように察せられた。
     だがそれでも、粉々になった片割れを元に戻せるかと問われると、即答はできなかった。
     割れた彼の欠片は、大きなものでも彼女の手に収まるくらい、小さな欠片は砂粒ほどでしかない。それが、小山を成すほどの数ある。そのようになってしまった者を正しく組み立てるなど、正気の沙汰ではない。果たして、どれほど時間がかかるやら。緻密な作業とそれを行うための集中力も、桁違いに必要だ。
     それでも、彼女はやっているのだ。繊細な作業で理性をすり減らし、長時間の作業で体を壊しかけても、ただもう一度彼に会いたい一心で。
     憐れで、不憫だ。
     手伝おうにも、小さな彼らに比べて自分はずっと大きすぎた。
     それに、彼女自身が自分だけの手で彼を取り戻すことを強く望んだのだ。彼女は言った。自分が彼の悪行を止められなかったから、こうなってしまったの、と。
     これは、彼女の気持ちの問題で、彼女がひとりで行う以外に感情の落としどころはない。そう納得するほかなかった。
     マスターハンドはゆっくりゆっくり時間をかけて、彼女にりんごをすりおろしたのを与え続けた。
     彼女は甘いものなら何でも好きで、高い所になっている果物もよくとってあげたものだ。りんごはお気に入りで、腕いっぱい抱えて持って帰ろうとしたのを手伝ったこともある。いつの日か、彼女の家まで一緒に持って行ったら、それだけで彼の嫉妬を買って睨まれてしまった。
     我々は手駒となるために生まれ、彼などその筆頭で、戦うことしか知らないような男だった。そんな彼が手探りで彼女を慈しみ愛そうとする様子は、なんとも面映ゆいものだった。
     彼を組み立てると聞いた時は、あまりにも無謀で、果てのないことだったので、逆にこちらが途方に暮れてしまった。
     しかし、彼女を止めることはしなかった。
     彼と彼女はもはや分かつことはできない存在になってしまっていたからだ。二人とかかわった者ならば、誰もが知っていることだ。
     彼女は、彼の隣でなければ生きていけない。笑うのも、食べるのも、息をするのも、彼の隣でなければ何もできない。彼もまたそうだ。
     彼を元に戻す術がなければ、遠からず彼女は駄目になっていた。
     しかし今のあり様を見るに、結局、どうすればよかったかはわからない。
     彼女が組み立てた黒い塊は、全体の三分の一ほどだ。かつての彼のぎらぎらとした苛烈さが嘘のように、静かな鈍色をしている。
     彼の姿がそうとわかるまでには、まだ莫大な時間がかかるだろう。
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