流れ星の習性 日が短くなって、夕方になると気持ちいい風が吹くようになった。お家の中よりも、外の方がずっと涼しくて過ごしやすい。
だから、今日はお外で夕ご飯にしようよ。
ぼくがそう言ったら、ダークはちょっとだけ面倒くさそうだった。でもすぐに、それでいい、って許してくれた。
外の芝生にシートを敷いて、夏のお野菜のカレーを持って行った。ふたりで並んで、夕日と入道雲を見ながら食べる。
カレーは美味しくできたと思う。ダークもそう思っている。たぶん。
今日は、いつもみたいにダークの気持ちに確信が持てない。
最近のダークはたくさんのことを考えているから、本当の気持ちがわからないことが多い。
特によく考えているのは、剣のことだ。次に多いのが、入道雲の向こう側、外の世界のさらに外、宇宙のこと。このふたつのことを考えている時、ダークは落ち着きがなくてうずうずしている。
こうなったダークが何をするのか。ぼくは知っている。旅に出るんだ。ぼくを置いて、ひとりで。
隣のダークを見ると、食べる手を止めて空を見ていた。また考えごとをしているようだ。遠くを見てばかりで、時折思い出したようにカレーを口に運ぶ。
――ダークが旅に出るのは、しょうがないことだ。
ぼくは、心の中で声に出してそう言った。
ぼくたちの写し元であるカービィとメタナイトは、流れ星みたいなもの、らしい。
誰に言われたわけでもないけれど、カービィはそうだと知っている。ぼくの中にあるカービィの記憶に、そんな自覚がうっすらとあるのだ。
流れ星は基本的には止まらない。広い宇宙をあちこち移動し続ける。そういう定めを持っている。
だから、カービィはお家があっても冒険に出て行くし、メタナイトも自分の戦艦で宇宙のいろんなところに行く。
写しのぼくたちもそれに抗えない。鏡の魔法で生まれて、外と違う理で生きているはずなのに、このまんまるい体の本能の方が強いのだ。
お家でぼんやりするのが好きなダークも、ふとした時に遠くに行きたくなってしまう。
ダークが行きたい遠い場所は、剣の道の高み、という漠然とした場所だ。もちろん、現実には存在していない。ダークの本当の望みは、まだ見たことない強さに会うことだ。
ダークは鏡の国のあちこちで戦っていた。ここで目新しい強さを見つけることは難しいから、外に探しに行かないといけない。
今頃、ダークの体の奥は、見たことのない場所に行こうと言い始めているに違いない。ふたりで一緒にいることが一番だとわかっていても、遠くに行きたい衝動に揺さぶられている。
ぼくもダークとおんなじ気持ちになる時があるから、よくわかる。
最初にそうなった時は、とても大変だった。
渡り鳥が隊列を組んで空を飛ぶのを眺めていたら、無性についていきたくなってしまったのだ。自分の知らない場所があると思うと、この目で確かめたくてしょうがなかった。
駆け出して空を飛び、群の一番端っこにくっついて行った。鳥達と一緒に飛ぶのは楽しかった。でも、ぼくはすぐに疲れてしまった。
本当なら、ぼくたちはとても遠くまで行ける。このまんまるの中にはたくさんのエネルギーが詰まっていて、体ひとつで宇宙を旅することができる。でもぼくの体はほとんど空っぽだ。割れたダークを元に戻すのに、ぜんぶ使ってしまったから。
渡り鳥とちょっととずつ距離が空いて、ついていけないのがもどかしくて、泣きたくて。高度が落ちて疲れてふらふらになり、群が遠くの点になってしまった頃、探しに来たダークが見つけてくれた。
ぼくはいっぱい泣いてしまった。遠くに行けない、本能をまっとうできない不甲斐なさは強烈だった。
けれども、それ以上に、ダークを置いてきぼりにしてしまった自分が大嫌いになった。ぼくにとって一番大事なのはダークだ。ダークとずっと一緒にいると決めた。なのに、まんまるの体の本能に負けてしまった。それが悔しくて、悔しくて、ずっと泣いていた。
今でもたまに、遠くに行きたくて、心がはちきれそうになる。でも、もう衝動的になったりしない。遠くに行きたい理由がちゃんとわかっているし、体だってまだ治っていないから。
本当はダークと一緒に遠くに行きたいけど、それもまだ無理だ。
あと数日したら、ダークはぼくをおいて行ってしまう。それがぼくたちという存在だから。ちゃんと帰って来てくれるのはわかっているけれど、見送るだけなのはちょっと辛い。
ダークは今度はどこまでいくのかな。いつ帰ってくるのかな。
まだ旅立ってもいないのに、もうすっかり寂しくなっている。
かつんかつんとスプーンと食器がぶつかる音がする
しばらくの間はご飯も一人で食べなきゃいけない。いやだな。少しの間だけ、カービィのところに行こうかな。でも、ダークがいつ帰って来てもいいように、お家にもいたいな。
「シャドー」
カレーを綺麗に平らげたダークが言う。
「美味かった」
「そっか、よかった」
ダークは優しい。もうすぐ旅立つから、わざわざ言ってくれたんだ。ああ、嬉しいなあ。でも、寂しいなあ。
ダークが手を伸ばして、頭を撫でてくれた。おおきくて温かい。
ずっとこうだったらいいのに。でも、ダークがしたいことをできるのが一番だから。ぼくはちゃんとここにいるね。