今が思い出になるまで 春も少し過ぎあたたかくなってきた空気を感じながら、菩薺観の庭の木々の一つの前に花城は立っていた。
「三郎」
名前を呼ばれ振り向く。美しい最愛の人が此方にゆっくり歩いてくる。昨日は無理をさせたので少しでも休ませていたかったが、思っているより相手は丈夫なのだと改めて感心する。
「おはよう、哥哥」
「おはよう、三郎。何を見ていたの?」
花城が見ていたのは他よりも少し背の低い木だった。しかし葉は青々と繁りのびのびとした新芽は此処にあるどの木よりも存在を主張している。
謝憐は葉の一枚に手を伸ばし、そっと指で優しく撫でた。
「君が帰って来て、庭の世話をしてくれるからこの子がとても元気に育ってくれている。此方の花も向こうの木も。花が咲くのが楽しみだ。本当にありがとう」
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