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    etano_oyasumi

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    etano_oyasumi

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    初めて利用するのでミスったらご愁傷さま。
    日本語、二次創作、健全
    私が見たいNoctyxを詰め込みまくって文字数が膨らみました。こんな物語があったらいいな、です。ご本人様方には一切の関係がありません。
    こんな物語があったらいいな、です。

    #Noctyx

    If Noctyxtory生い茂る木々に太陽が隠された薄暗い森の中、大きな岩を背もたれにして座る彼は童謡を口ずさんでいた。
    機械の腕を止まり木にしてはくれないだろうかと傍で佇む小鳥に手を伸ばして、無惨に破壊された機械の脚には目もくれずただ穏やかにその時を楽しむ姿はまるで完成された一枚の絵画のようだ。


    (綺麗だ…)


    そんな不謹慎な感想が出てきた自分に吐き気がする。
    きっと、目が覚めた時の自分は顔が青ざめているか、自分という存在に心底嫌気がさしているだろう。
    でも今は、とにかく彼を一人にしたくないという気持ちばかりがどんどん大きく膨らんでいく。お願いだから、彼に寄り添わせて。

    「ーーーー」

    声を出そうとして失敗した。まるで喉に何かが詰まっているようだ。せめて、愛しいこの人の名前を呼びたかったのに。ひとりで居させたくなんてないのに。
    彼という存在は目の前にあるのに、自分の意思で腕を動かす事も歩み寄ることも出来ない。

    (ここは夢の中の…俺の、世界なのに)

    手を伸ばす事さえ許されないなんて。お前はこの世界の住民じゃない、ただの観測者に過ぎないのだと突き付けられる事実は「何も出来ないなら、こんなもの知りたくない」と拒否する事さえ許してくれない。


    ガシャン


    持ち上がっていた機械の腕が重力に逆らう事をやめて地面へと落ちた。それに驚いた小鳥は飛び去り、彼も少しの間は残念そうにしていたがすぐにまた童謡を口ずさみ背もたれにしている岩に後頭部を預けた。
    表情はどこまでも穏やかで、機能停止した腕にさえ関心がない彼に苛立つものの今の自分には罵倒すら出来ない。

    ーーやめて。その手は硬いけどとても優しくて、温かいんだ。大切な貴方の一部なんだ。そんなに簡単に諦めないで。

    やがて歌い終えると、運命を受け入れ、物語の終わりだと言わんばかりに目を細めて微笑む彼は一層美しかった。やめて。やめて。目を閉じないで。お願いだから。



    「ーーーー浮奇」


    硬い感触が肩を包み込む。ハッとして目を開くと心配そうな顔をしたファルガーが浮奇の視界に飛び込んできた。

    「……ふーふーちゃん」
    「魘されていたぞ。悪い夢でも見たのか?」
    「…うん。悪い夢だった。」

    首元がじっとりと汗ばんでいるのが分かる。夢を見ていた。とても最悪な夢を。
    浮奇を起こす為にやんわりと掴んでいた機械の手は、やっぱり優しくて、温かかった。この硬質な手が大好きだから、先程の夢を目の前の彼に話す勇気は持てなかった。


    「…汗かいちゃった。シャワーで流してくるよ」
    「そうしてくるといい。私はお茶の用意をしておくから」
    「あ、お茶は…」
    「ジンジャーハニーレモンティー。濃さは私の匙加減だから保障はしないが」
    「…うん。ふーふーちゃんが淹れるジンジャーハニーレモンティー、大好きだから嬉しい。」

    自分で言いながら照れてしまってそそくさと浴室に向かう浮奇に、ファルガーはハハハッと明るく笑ってキッチンへと足を向けた。
    いつも通りのファルガーに安心した浮奇は手早く汗を洗い流し、スッキリした心地でファルガーとティータイムを楽しんで悪夢は忘れる事にした。浮奇が何も言わないならファルガーも追及しない。ただ穏やかに他愛の無い話をして二人で笑い合って過ごした。

    そう、予知夢ではなく、ただの悪夢だったんだと記憶に蓋をする事にした浮奇はそれから毎晩同じ夢を見る事になるとはこの時には考えもしなかった。





    「うーきーうーきーだーいすき」
    「…」
    「うきうき大好き!うーーきーー!」
    「…ちょっと静かにしてくれる?二人とも」

    鏡を見ている時に邪魔をしないで欲しい。肌の手入れはいつだって真剣勝負なのに。連日の悪夢で絶不調に陥った浮奇は鬱陶しそうに手をひらひらと仰いだ。そんな事を素直に聞き入れる二人ではないと知っているけど、自分の意思を伝えておくのは大事なことだから。

    「ファルガーが心配してたよ。浮奇が毎晩魘されてるって」
    「僕も心配!どんな夢を見てるの?」

    浮奇が自分から話さない事にファルガーが追及しないからと言って、浮奇から話を引き出す方法は他にもあるのだと遠回しに言われているようだ。すっかり寝不足で肌のコンディションが崩れてイライラしている時にやたら明るいコントラストの二人に襲撃された浮奇はあからさまに嫌そうな顔をして見せるが、二人はそんな事を気にする程に繊細でもなければ互いの扱いだって熟知している。

    「うーきーうーきー」
    「わかったから、それやめてサニー」

    浮奇がはぁ、と溜息をつきながら降参のポーズを取れば「こっちでゆっくり話そう!」と上げた手をアルバーンに掴まれた。引っ張るなら片手でいいだろうに、両手を掴むあたりアルバーンだ。
    捕まえたと言わんばかりにぐいぐい引っ張って連行するアルバーンと大人しく後ろをついてくるサニーに挟まれて移動し、図体のデカい男三人ではやや狭いソファに並んで座って右を向けばサニー、左を向けばアルバーンと図体の大きな男達に挟まれてギュウギュウ詰めになった所で(なにこれ…)と浮奇は内心思っていたが口には出さなかった。まぁ、こういうのも好きだし。

    「それで、浮奇」
    「どんな夢?ホラー?怖い夢はー」
    「アルバーン」

    気が急いてマシンガンのように言葉を浴びせようとするアルバーンにちょっと黙ってなさい、と浮奇越しで叱ってくるサニーにしゅんとしたアルバーンを見て少し気が抜けた浮奇はよしよし、と髪を撫でてさり気なく猫のような柔らかい毛の感触を楽しむ。あっさりと立ち直り、浮奇に良いように撫でさせるアルバーンは時々本当に猫のようだ。こうなったら話すまで離れないだろう二人に打ち明ける事を決意した。

    「…もし、未来を変えたいって言ったら、二人は協力してくれる?」
    「……未来を?誰の時代?」
    「あ」

    サニーのキョトンとした顔に気付く。そうだった。自分達はそれぞれ別の未来からこの時代に来ていたんだったと思い出して、浮奇はまず連日見る悪夢の説明から入ることにした。

    「俺は…時々、予知夢を見るんだ。ここ最近の悪夢がそれで…」
    「うん」
    「それで、その夢の中で、ふーふーちゃんが、死ん、で、俺は何も、出来なくて」

    悪夢を見る経験以上に重たい、「死」を口に出す感覚に浮奇の情緒は一瞬で乱れたが即座に両側からギュウギュウと抱き締められた衝撃でかろうじて涙は零れずに済んだ。

    「いつ?」

    サニーの静かな声が右耳に届く。警察である彼の真剣な声は背筋がピンと張り詰めるような、緊張感を与えてくる。
    思わず息を止めそうになると、左腕にぐりぐりと押し付けられた頭が大丈夫だよと訴えてきた。この二人は本当にバランスが良い。

    「いつかは、分からない。でも景色を見た限りこの時代で起こる事だと思う。ふーふーちゃんの姿からして、そう遠くない未来の可能性も高い…」
    「それどんな景色だった?場所が分かれば防ぎやすいと思うよ」
    「そうだな。アルバーンの言う通り、まずは場所を特定して…」
    「……二人とも、夢の話なのに、信じるの?」

    予知夢とは言ったものの、夢は夢だと信じない人は多い。無条件に信じて真剣に話を進める二人に浮奇は困惑して左右に視線を投げたが冗談を言っているような様子じゃない。

    「当然だよ!だって…」
    「ダディの命がかかっている上に、優秀なサイキッカーの能力を疑うなんて愚か者のする事だろう。それに私達はそんな些細な事を疑う様な関係じゃないぞ、ウキキ。」


    狭いソファで胸を張って肯定するアルバーンを遮って聞こえたのは、浮奇を挟む二人とは違う、聞き慣れた低くてハスキーな声だ。聞かれた事に緊張する浮奇を慰めるように硬質な手のひらがくしゃりと頭を掻き回してきて、どうにか耐えていた涙腺が決壊する事を浮奇は静かに受け入れた。









    「その森、僕知ってるかも!サニーと追いかけっこした時に通った事あるよ!」
    「…あー、確かに大きな岩があったかもしれない」

    流石に全員はソファに座れなかったので、ついでにお茶でも飲もうとダイニングに移動した四人はそのまま今後について話し合う事にした。
    いい大人が追いかけっこ…とは今更誰も突っ込まない。二人は怪盗と警察という立場でもあるから絵面としては真っ当なのだと前に本人達が言っていた。深く考えてはいけないのだ。
    「結構最近の追いかけっこだよな」と珈琲を飲みつつ記憶を辿るサニーに横からアルバーンが補足していく。お馬鹿な大冒険も役に立つ事があるもんだと笑うファルガーに、死期が近いと知られてしまった気まずさと普段から寡黙な自分の性分が全面に出て浮奇は中々ファルガーの顔を見れないでいた。

    「とりあえず僕とサニーで見に行ってみるよ。写真撮って送るから浮奇はそれを確認して!」
    「そうだな。珈琲も飲み終わったし、行こうかアルバーン」
    「えっ?!もう飲み終わったの?まだこんなに熱いのに!」
    「あぁ、猫舌…」

    牛乳入れて温度下げる?とアルバーンのコップを持って冷蔵庫に向かったかと思えば牛乳を追加しただけで済まさずホイップとチョコソースも盛られた珈琲をアルバーンの前にコトリと置いたサニーに驚くような人間はここには居ない。
    飲み物はファルガーが用意したが、サニーとアルバーンには珈琲なのに浮奇には相変わらずジンジャーハニーレモンティー。彼のそういう無言で労わってくれるところが大好きなんだと些細な事に気付いては何度も自覚する。
    浮奇は先程泣いて少し鈍くなった嗅覚がかろうじて拾う優しい香りにほっと息をつきながら目の前の二人のやり取りを眺めていた。

    とても深刻な話をしたのに、どこまでもいつも通りで何も絶望していない。浮奇の予知夢を信じていないのかと言えばそうでもなく、内容については真剣に話し合っているし当の本人であるファルガーも同じだ。
    浮奇は最悪の予知夢に連日打ちのめされてボロボロの頭で考える。夢で壊れていたサイボーグの四肢は、今は普段と変わらず生身の手足と遜色なく自在に感情を表現して見せている。
    こんなに硬いのに、ほんとに壊れるのかな?どこかにヒビでも…と考えているうちに無意識に機械の腕をぺたぺた触り始めた浮奇に、本人は気付かないがいつの間にか他の三人はそれを黙って眺めていた。

    「……あ、壊れてたのは脚だった」

    しばらくしてポツリと浮奇の言葉が流れ出た時、眺めていたサニーはふと思い出す。

    「自称無敵のサイボーグ、自称だけど確かに硬いよな」
    「サニー?聞き捨てならないぞ。自称でなく事実だ!」
    「確かにこの間サニーが銃で撃ったけど傷一つつかなかったよね!」
    「うん。むしろ跳弾してこっちが危なかった」
    「ハハハハ!VSFの銃程度では俺は死なない事は証明されたんだったな!」
    「待って、銃で撃った?ふーふーちゃんを?…サニー?」
    「あ。やべ」

    自分の世界に入っていたと思いきや、しっかりと聞かれていた事に慌てたサニーが言い訳を考えるがこれといって浮かんでこない。浮奇の目が据わっている。これはヤバイ。

    「そのサイボーグ、どれくらい硬いか知りたいって唐突に撃ってきたぞ。サニーらしいな。」
    「ファルガー!」
    「一緒に居たアルバニャンは爆笑していたな」
    「ニョーーーー!!!違うんだよ浮奇ぃぃぃ!あれは、あれは…テストで、機能を確かめる…製品テストってやつ!」
    「ふーふーちゃんは商品じゃないけど?」
    「「oh nyo —----」」

    アルバーンの下手な言い訳で余計に怒る浮奇は普段あまり使わない念力でサニーとアルバーンを浮かせて外に追い出した。「早く写真撮ってきて。…あと、全部終わったらお説教するから」と添えて。浮奇の迫力に慌てて走り去る二人を見送ってからダイニングに戻ればテーブルを叩きながら爆笑するファルガーがそこに居た。

    おかしそうにケラケラ笑うファルガーにもお説教が必要かもしれない。そう呆れつつ隣に腰掛け、コップを持ち上げて少しぬるくなったお茶をひとくち飲んだ。
    自分が淹れるいつものお茶より少し甘くて、それがファルガーの優しさに感じて口元が綻ぶ。そうしてひと息ついてファルガーに向き直ってみれば笑っていたかと思えばテーブルに頬杖をついて浮奇を眺めているではないか。

    「ウキキ。心配をかけて悪かった」
    「…ふーふーちゃんのせいじゃないのに」
    「いいや。今より少し未来の私がそうさせたんだから、これは私が悪い。だが、大丈夫だウキキ。何も心配要らない」
    「まだ何一つ解決してないよ」
    「そうだな。でもウキキは忘れているようだ。…俺達はNoctyxだ。」

    決して浮奇を傷付けないサイボーグの手が、わしわしと浮奇の頭を撫で回した。そんな犬にするみたいに…と小言を言いつつも浮奇は表情を隠したくて下を向いてそれを受け入れる。当たり前の事に気付いていなかった恥ずかしさなんて、ファルガーにはお見通しなんだろうけど。

    「誰にも壊せやしない。唯一無二の存在だ」
    「…誰も、手出しすることは出来ない」
    「そうだ。四人揃えば最強だ。俺は元々最強だがな」
    「ははっ、本当、俺なんで忘れてたんだろ」

    なんの根拠もないのに、力が漲る。世界に明かりが灯ったように明るくなった気がして、単純すぎる自分に笑ってしまう。それでも浮奇はやっと心から気が抜けたような深い安堵を感じていた。

    「あぁ、ただでさえ肌の調子が悪いのに泣いたからもっと酷いことになっちゃった。」
    「いつも通り綺麗だが…オーケー悪かった。まずはホットアイマスクを用意しよう。情報を集めておくから浮奇は少し休むといい」
    「ん…使ったカップを洗ってからね」

    そう言って浮奇はちらりと空席になった目の前の席に残されたマグカップを見る。あんなに大騒ぎしていたのにアルバーンはちゃっかり珈琲を飲み干して行ったらしい。こびり付いたホイップの残骸を完璧に落とさなきゃ、とやる気を出している様子にファルガーも静かに笑って、浮奇の予知夢を思いながらそっとサイボーグの手を握り締めた。

    (私を殺すとなれば、恐らくは…)

    自らの生に不都合な物があるとき、大抵の人は目を逸らすが大きな力を持った人間は排除に向かう事がある。さて私は未来で何をしたかなとファルガーは自らの行いを振り返りながらゆったりと手の力を抜き、自分で淹れた白湯を飲み干すのだった。








    「ほら!やっぱりここだよ!浮奇に写真を…あ、ファルガーから自分に送ってくれってメッセージがきてた」

    森の中をパシャパシャと写真に収めてファルガーに送り付ける作業はアルバーンに任せて、サニーはゆっくりと周囲を観察していた。
    ここまで足跡どころか獣道すら無かった。穏やかだがあまり動物も人も立ち寄らないのだろう。少し前に追いかけっこをしていた時の形跡がそのまま残されているくらいだ。
    予知夢でのファルガーが腰掛けていたという岩も、少し苔が生えていて今までこの場に誰かが来たような形跡もない。

    「ねぇサニー、本当にファルガーの脚を壊せるのかな」
    「ん?」
    「サニーの銃、VSFからの支給品なんでしょ?未来の…」
    「……そうだね。この時代とは違う、威力が強い銃のはずだ」

    サニーは無意識に装着している銃を撫でた。未来の技術が詰まった銃でも傷一つつかなかった。それが何を意味するのか。

    「浮奇の話だと、”その時”のファルガーの周辺は特に荒らされてもいない。ただファルガーの脚だけが破壊されていた。それは」
    「俺達と同じ、未来からの来た何者かが、ファルガーを…」
    「ッ!サニー!!上!!!」

    アルバーンの叫びに反射で銃を抜いたサニーが真上へと発砲する。カツンと何かに当たる音が聴こえた事で相手の居場所を特定したサニーは立て続けに三発発砲して素早くアルバーンの目の前へと移動し背中で庇うように構えを取った。

    「…サイボーグだよ、サニー」

    薄暗い森の中でも夜目がきくアルバーンには全く問題ない。見開かれたオッドアイの視線の先にはどこかファルガーを彷彿とさせる鋼鉄の塊がサニーの肩越しに見える。

    「アルバン」

    前方から目を逸らさないまま小さく呼ばれた名前に反応したアルバーンはスッと身をかがめて周囲を伺う。

    「周りには何も居ないみたい。あのサイボーグだけだよ」
    「俺が抑える」

    言うが早いか再び発砲して地面を蹴り出したサニーの邪魔はすまいと持ち前の身軽さで大きな岩の上へと飛び乗って奇襲者を観察した。ファルガーとは違い、全身がサイボーグで出来ているようだ。腕や脚の造りは若干似ているなと思ったが丈夫さはファルガーに劣っているらしくサニーの銃や蹴りで所々へこみが出来たり傷が増えていっている。

    「ふーちゃん、実は本当に無敵のサイボーグだったりする?」

    サイボーグ界の事情は分からないが、本当にコイツがファルガーを死に追いやったのだろうか。サニーは確かに強い人だが、それにしたって弱すぎるように感じる。
    そうこうしてるうちにサニーはサイボーグからの攻撃をいなし、地面へと押さえ付けた。

    「アルバン!」
    「やった!僕の出番!」

    呼ばれて喜んで岩から飛び降りサニーの元へ駆け寄るアルバーンの両手には無数の工具が握られている。
    怪盗というものは、ありとあらゆるトラップを掻い潜ったり、時には分解して”無かったことに”するものだ。作るのはよく分からないが、壊すなら任せて欲しいと胸を張って宣言したら呆れた二人と大絶賛する一人で意見が分かれた。
    そして大絶賛していた一人が今、こうしてアルバーンの能力を求めている。

    「へへー。破壊するのは難しくても、バラせばいいんだもんねー!」
    「バラすのも技術が必要だし、俺には出来ない事だから尊敬するよアルバーン」

    一人は押さえ付けつつ、一人は解体しつつ。穏やかに会話をしながらスクラップにされるサイボーグに意思は持たされていないのか、音声は内蔵されていないだけなのか
    やがて静かに機能を停止していった。





    「ただいま〜すっごく重たかったよ〜」
    「シッ。浮奇が寝ているんだから静かに。」
    「あっごめん…魘されてない?大丈夫そう?」
    「ああ、今はまだ……なんだそれは」
    「森の中で襲撃してきたサイボーグの残骸。」

    しれっと襲撃された事や既に解体済みで一応持ち帰ったと告げるサニーのジャケットに包まれたスクラップを見てファルガーは若干口を引き攣らせたが、それぞれのパーツを見てハッとする。

    「私の…元の時代の物だな」
    「ふーちゃんに少し似てると思ってたけど、やっぱりだったねサニー」
    「うん。とりあえずファルガーの部屋に持って行けばいい?」
    「あ、あぁ。少し調べてみよう。」

    二人で抱えてきたスクラップとなったサイボーグを一人で抱え直してファルガーの部屋へと向かうサニーの背中から壊せなければ解体すれば良い、と遠回しに自分にも言われている気分になって心がザワついたが二人に怪我が無いようで何よりだと切り替える事にした。
    これで予知夢が変わればいいが…そうもいかない。

    「アルバニャン、浮奇が魘されているようだ。傍に居てやってくれ」
    「えっ?!わかった。ファルガーが一緒に居なくていいの?」
    「私の未来が起こした事だ。早急に対処せねば」
    「…そっか。任せて!浮奇は僕にメロメロになるくらい甘やかしとくよふーちゃん!」

    ウィンクして浮奇の部屋へと入っていくアルバーンに、やはりムードメーカーだなと張り詰めかけた気を一瞬で解されたファルガーが自室へと向かうと、サニーがパーツをひとつひとつ床に並べていた。

    「全て拾ってきたはず。アルバンが思ったより細かく解体しちゃってどのネジがどことかは分からないけど」

    並べられた部品からネジをひとつ拾い上げ、マジマジと観察する。

    「ふむ。…このネジは私のより型が少し古いな。造りは近いが…全身サイボーグか」
    「生身の部分は見当たらなかったよ。ここをバラしたら完全に機能停止した」
    「おっと。これはコアだな。ここから情報が引き出せるだろう。発信機などの類は…」
    「それっぽいのは壊した。あまり意味は無いと思うけど、盗聴されてても嫌だし。」

    流石は特殊警察。そういった物への嗅覚が鋭いようだ。銃弾の形に歪むパーツを見て、私のよりは脆いのだなと撫でてみたら他にも無数の凹みや傷がある事に気付いた。

    「だいぶ激しい戦いだったようだな?」
    「少し身体が鈍ってたから丁度いい運動になったよ」

    やろうと思えばもっとスマートに拘束出来たろうに。戦闘を好むサニーらしい形跡に少し笑った。アルバーンもそれを理解していて敢えて静観したのだろうなと状況も想像出来る。

    「まぁこのコアが無ければ再び動く事は不可能だろう。私がこの”人形”に再び自由を与える事は無いがな。有難うサニー、次は私が仕事をする番だ。コアを弄る時間をくれ。」
    「おーけー。ジャケットが汚れちゃったから洗濯しなきゃ。サイボーグは油臭くて困るよ」
    「なっ!私は油臭くないぞ!!ほのかに薔薇の香り漂う刺激的な大人の男の香りだとウキキからは大好評だ」
    「別に匂いたくないから。…思い詰めるなよ」

    チラ、と一瞬だけ視線を投げてサニーは部屋を後にした。アルバーンといいサニーといい、あの兄弟はお人好しすぎて時々戸惑ってしまう。

    「んん…さて、楽しいお話をしようじゃないか。同郷」

    浮奇を苦しめる悪の親玉はどこのどいつだ?炙り出してNoctyxの恐ろしさを知らしめる必要があるのだ。ファルガーはどっちが悪の親玉だと言わんばかりの不敵な笑みでコアと対峙するのだった。




    「ふーふーちゃん!」
    「わっ、浮奇起きた?」

    勢い良く叫び起きた浮奇に驚いたアルバーンの肩が跳ねた。魘されているが、睡眠不足みたいだしと起こすのを躊躇っているうちに浮奇の方から目覚めたのだ。

    「…アルビー」

    少し呆然としながらも愛称で呼んでくる姿に、落ち着いてはいるみたいだと判断してアルバーンは普段通りに「うっきぃ〜」と名前を呼び返した。

    「あー…少し、進展があったよ。結末は変わってないけど」
    「ほんと?僕に聞かせてくれる?」
    「ん。…俺も、未来を変えたいと思って、今までは夢の中で何も出来なかったけど…少しでもヒントが無いかなって周りを観察してみたんだ」
    「夢の中で夢って自覚して、しかも動けるの?凄いよ浮奇!」
    「えっと、そういうの何て言うんだっけ…」
    「明晰夢だよ。」

    ドアの方からした声に二人で振り向くと、そこにはサニーが少し気まずそうに立っていた。

    「えっと…邪魔したかな。二人の方が話しやすかったら俺は外すよ」
    「サニー!浮奇が夢の中で…」
    「ちょっとサニー、ズボンが汚れてるんだけど?ちゃんと着替えてきて」
    「…ごめんなさい」

    森での戦闘中に汚れたんだろう。綺麗好きな浮奇の部屋に入る事を拒否されたサニーはしょんぼりしてパタンと扉を閉めて行った。
    そんな姿に「さにぃ…」とサニー以上にしょんぼりしているアルバーンに、浮奇は耳打ちする。

    「ふーふーちゃんの歌が途切れるタイミングで、血だらけになったサニーがその場に現れたんだ。」





    缶詰は昔、缶切りが存在しない時代があった。ナイフでこじ開けたり銃で撃ち抜いて中身を取り出す事もあったと言う。
    このオイルサーディン缶は撃ち抜いたら油であちこちが悲惨な事になるんだろうなと缶切りを取り出しながらサニーは料理をする事で心身の安定を図っていた。

    服は着替えたし、洗濯機も回している。でもなんとなく浮奇から席を外して欲しそうな空気を察知して居場所の無いサニーはキッチンに立っていた。
    そうだ、パスタにしよう。オイルサーディンは葱とも相性がいいんだ。和風パスタというものに挑戦しよう。焦がした醤油の香りは食欲をそそるし、きっと皆も好きになる味だ。
    大きな鍋を出してお湯を沸かしながら慣れた手つきで包丁を扱う。ファルガーはいつ部屋から出てくるか分からないな。出来たら部屋まで届けるか。浮奇とアルバーンは話が終わったら出てくるだろう。

    「…寂しい」
    「あっ今日はパスタなんだ!んん?ネギ?」

    ひょこっと顔を出したアルバーンに驚いて手元が狂うところだった。この怪盗は時々気配を消して来るから油断ならない。普段ならそれでも気付くけど。

    「…和風パスタにしようかなって」
    「ジャパニーズパスタ!いいね!僕も手伝っていい?」
    「ん。浮奇は?」
    「もう少ししたら来るって〜」

    寂しい、と呟くサニーの一言をちゃんと聞き逃していなかったアルバーンはどれくらいパスタ茹でたらいいかな?とサニーに確認したりしつつ助手を務めた。段々と頭の周りに花が浮いて見える姿に分かりやすいなと微笑みつつ、アルバーンは浮奇との会話を思い出す。



    『サニーが怪我してたの?!』
    『いや、普通に歩いてきたから多分返り血だと思うけど…でもふーふーちゃんも特に外傷は無かったんだ。』
    『じゃあ誰の血だろう…襲ってきたのは全身サイボーグだったのに』
    『待って、俺が寝ている間に襲われたの?ふーふーちゃんが?』
    『あ、そうじゃなくて』

    そこからお互いの情報を擦り合わせて、どういう事かと首を捻る。

    『凄く…嫌な予感がするからふーふーちゃんだけじゃなくてサニーの未来にも注意した方がいいかもしれない』
    『むむむむ…』
    『万が一があるから、サニーに聞かれたくなくて追い出しちゃったけど…』
    『任せて!僕が皆を守るから!』
    『ア、アルビー?』
    『色んな事が闇に潜んでて浮奇も怖いよね。でも大丈夫だよ!僕達は運命に踊らされるだけの人間じゃないんだから!』



    「アルバン」
    「サーニ」

    不意にぽつりとサニーが呟いたので反射で返したことで意識が戻された。特に意味は無かったらしい。黙々と料理をするサニーの横顔はどこか楽しそうだ。
    その姿を見て改めて決心する。繰り返されるひとり言のような名前の呼び合いも、鍋からあがる湯気も、ここにある全てが大切な一瞬の積み重ねなんだ。誰にも壊させやしない。




    一方、その場に残っていた浮奇は”なんて言っても僕らは闇のNoctyx〜♪”とその場で作ったような歌を口ずさんでサニーの様子を見に行くと部屋を出て行ったアルバーンをぽかんとした顔のまま見送って、やがて堪え切れずに笑い声をあげるのだった。
    どいつもこいつも、負けん気がかなり強いったらない。

    「さ、俺もウジウジ悩むのは終わり。もうすぐ星が輝く時間だし、俺は俺が出来る事を探さなくちゃね。…そうだよね、Stargazers」

    自らの身体を抱き締めるように、見えない小さな何かを大切に大切に抱き締める浮奇の姿を、窓の外で輝く黄昏の一番星だけが見ていた。




    「ファルガー、夕飯出来たけど」
    「あぁ、有難う。後で…」
    「ふーふーちゃん、パスタだからすぐ食べないと」
    「僕が食べさせてあげるよ!」
    「なら俺がアルバーンに食べさせようかな」
    「…………わかった。切り上げてダイニングに行くとしよう」

    コンコンとノックをしてサニーが顔を出したと思えば三人揃って呼びに来ていたとは。いつの間にか夜になっていたらしく暗い部屋でコアと向き合っていたファルガーは目頭を揉みながらその場を後にした。

    「美味しいな。今日の夕食を作ったのはサニーだな?」
    「正解。初めて作ったけど成功して良かった」
    「ジャパニーズパスタ!醤油味おいしいー」
    「アルビー、サラダも食べるんだよ」

    普段通りの食卓。それは全員が気を使ってそうなっている訳では無い。ただ自然とそうなるのだ。
    だから自然な流れで話は始まった。

    「回収したコアから大体の情報は取れた。俺が所持する本を目的とした犯行らしいが…サイボーグの古さからして、あまり裕福な犯人ではなさそうだな。命令信号もシンプルなものだった」
    「えっ、そんなに希少な本を持ってたの?」
    「いや…日記帳だな。所謂黒歴史ってやつの日記帳だ。」
    「なんでそんな物をファルガーが持っているんだ…」
    「未来のフリーマーケットで見つけて買った。」

    ファルガーを殺してまで奪いたい物を売りに出すなと呆れた顔で話を聞いているサニーの隣で「なんだ、お宝じゃないんだ」の何故か残念そうにするアルバーン。

    「でも、サニー達は森で襲われたんでしょ?」
    「そこなんだウキキ。ただ日記を奪いたいにしては謎が多い。あそこに何かあるのかもしれない。だからコアを調べているんだが…」
    「俺達が見に行った時は誰かが足を踏み入れた形跡も無かったけどな。とにかくまた日が昇ったら行ってみるよ」
    「次は俺も同行しようかな。スピリチュアルな観点でも何か見つかるかもしれない」
    「ならアルバーンが明日は留守番で…」
    「えーー!僕も一緒に行きたい!」

    ガタンと椅子が音を立てた事も気にせず立ち上がって主張するアルバーンの背中をぽんぽんと叩いて落ち着かせたサニーは改めて口を開いた。

    「今回のターゲットはファルガーだ。ファルガーを一人にする事は一番危険だとアルバーンも分かってるだろう」
    「う、うぅ…でも…」
    「アルビーは勘が鋭いから異変があればすぐに気が付くし、俺もサニーも結構戦える方だと思うけど?」
    「うぇ…」
    「俺達は何も心配いらないから。このアジトとファルガーを守って、アルバン」
    「うぇぇ…わかった…」

    内心は浮奇の予知夢に現れたというサニーの姿が心配だった。サニーは強いけど、返り血じゃなくて、もしも本人の血だったら…
    それでも二人に説得されて、ファルガーの安全も確保していないといけないのは確かだし信じなければとアルバーンは無理矢理自分を納得させた。
    それから四人は話し合い、各々部屋に戻ったり片付けをしたりとちらほら解散していった。
    そうして一人になったアルバーンは今、アジトの屋根の上で寝転がっている。身軽な怪盗ならではのスポットだと自分でも思っているし、今夜は星がよく見えて綺麗なのだ。

    「僕に出来ること…出来ること…サニーみたいに戦えないし、浮奇みたいな特別な力も持ってないし、ふーちゃんみたいに機械もいじれない」

    この役立ず。なんて自分に悪態をついて不貞腐れる。三人は優しいからそんな事を絶対に言ってこないけど、自覚するかどうかは別だ。

    「あーあ…」
    「ニャーン」

    不意に聞こえた声にガバッと起き上がってみれば、屋根の端っこに猫が佇んでいた。

    「わ、危ないよ〜こっちにおいで。どこから登ってきたの?」

    アルバーンの言葉を理解しているかのように素直に近付いてくる猫に手を差し出し、抱き上げた。随分と人馴れしているようだ。真っ白でふわふわな猫の感触に思わずへらりと笑ってしまう。

    「きみ、可愛いね。顔をよく見せて…わぁ!僕とお揃いの瞳だ」
    「ニャ」
    「どうしてこんな所に居るのかって?ほら、空を見て。星がキラキラしてて宝物みたいでしょ?…きみの瞳もキラキラして素敵だけど」
    「ニャーン」
    「へへ、なんだか僕、寂しかったみたい。ねぇきみ、僕の友達にならない?君を一目見たときからなんだかずっと一緒に居たみたいな感覚なんだ。こんなにキラキラした宝物みたいな友達が側にいてくれるなら、ずっとずっと、幸せなんだろうなぁ」

    首の下をくすぐってみると、ゴロゴロと喉を鳴らして応えてくれた。嬉しくなってしばらく眺めていると、パチリと開いた瞳がアルバーンを真っ直ぐに見つめてきた。

    「……本当に、ずっと一緒に居た気がする。不思議だね、君にはなんでも話してしまいそうだよ……あのさ、ほんとは今、すごく大変なんだ。僕の仲間が…」

    猫を相手にとは思わず、ただ友達に相談するようにアルバーンが語るのを、白い猫は腕の中で時折耳をピクリと動かしながら聞いていたのだった。





    相変わらず薄暗い森の中、昨日のような襲撃者は居ないかと警戒しながら歩くサニーと浮奇の姿がそこにはあった。

    「やっぱり特に変わった部分は見当たらないな…浮奇は?どう?」
    「うーん。昨日写真を見た時にも言ったけど、ここで間違いないよ。この岩の所で、ふーふーちゃんは座ってた」

    何度も見たビジョンが現実と重なる。例え夢でも、ここに居る彼を抱き締めたかったと胸の痛みを感じながら大きな岩へと手を触れる。

    「ーーーーーえ?」
    「どうした浮奇? ッ…伏せろ!」

    サニーの威圧的な声に発砲音。咄嗟に言われた通りに身を伏せたけど浮奇は奇襲者が何者なのかを既に理解していた。伏せたまま、浮奇の背丈より大きな岩にもう一度触れて確かめる。

    「…そういう事だったんだ。…許さない」

    繰り返された夢、ファルガーの壊された脚、血に塗れたサニー。次は何を見せる気?
    湧き上がる怒りに身体から力が溢れ出す感じがする。このまま襲撃者にぶつけてやろうかと岩に触れていた手をグッと握り締めると、その拳を何かが優しく包み込んできた感触がして浮奇はハッとした。

    「……ねぇ、そこにいるの?」

    返事は返ってこない。だが、温かな何かは浮奇を労わるように拳から腕へと伝い、肩に乗り、浮奇の頬に優しいキスをしてくれた。そんな気がする。

    「あぁ…ちゃんと、見ていてくれたんだね。俺の愛しい観測者達…」

    握り締めた拳は解いて、溢れた力はその手の平に集めた。浮奇に危険がないようにとサニーはこの場を離れたのだろう。あまり心配はしていない。いつの間にか静かになったこの場所で、浮奇はそっと目を閉じて語り掛けた。

    「どこかの過去の…流れ星さん。俺に力を貸して。」

    紫色の光が浮奇と大きな岩を包み込む。
    光が消えた時、そこに伏せていた浮奇の姿も共に消えていた。





    「やっと準備が出来た。行くぞアルバニャン」
    「うぇ?」

    ファルガーが部屋から出て来たと思えば急にコレだ。説明くらいして欲しいと一人寂しくソファに座っていたアルバーンは口を尖らせた。
    さっさとアジトを出るファルガーについて行って、どこに行くのかと思えば件の森に案内するよう言われて二人と合流出来るのかと喜んでしまった自分の単純さにも腹立つ。

    「この日記帳は、黒歴史ではなく予言書だったんだ。…最も、浮奇のような未来予知ではなく、都合の良い未来へ誘導しているだけのクソみたいな代物だけどな。急ぐぞ。浮奇が危ない。」
    「えぇ?!浮奇が?なんで?」
    「ウキキは意外と怒りっぽいからな、一人で解決しようと暴走している可能性がある」

    訳が分からないが、危ないと言われると何も分からなくても急ぎたくなる。二人に何かあったら耐えられる気がしない。アルバーンが徐々にペースを上げていくと、少しの違和感に気付いた。

    「ふーちゃんの脚、なんか変な音がしてない?」
    「鋭いな。ちょっとした仕掛けをしたが、まぁ気にしなくていい。普段より走りにくさはあるが構っている場合でも無いな」
    「ふーん…あっ、サニー!」

    森の麓で暴れているサニーを見付けたアルバーンは一気にペースアップしてその距離を詰めた。今まではファルガーに合わせて遅くしていたらしい。
    サイボーグとはいえ、もう少し早く走る訓練でもした方がいいかなとファルガーは苦笑いしてアルバーンの背中を追う。

    「来るなアルバン!!昨日の奴とは違う!」

    怒鳴られて反射で止まったアルバーンはサニーと戦っている相手を見て驚いた。昨日と似たようなサイボーグではあるものの、所々が人間…つまり見た目がファルガーに似ているのだ。
    重たそうな機械の四肢を素早く動かして殴り掛かり、サニーはそれを右手に持った銃で打ち付けていなしたが痛みを感じないサイボーグは気にも止めずに次々に攻撃を繰り出す。

    「サニー!浮奇は何処だ!」
    「ファルガー?!浮奇は岩の所に…クソッ。コイツは俺が止めるから!」
    「! わかった!気を付けてねサニー!」

    サニーが腹に蹴りを喰らわして後ろに吹き飛んだ襲撃者は素早く立ち直ると後ろを向いて逃げ出した。襲撃者は戦いつつもサニーを追わせて浮奇から距離を取らせようとしているのかもしれない。それで森の外に居たのかと納得したアルバーンはファルガーを引き連れて森の中へと入った。

    残されたサニーは逃げ回る襲撃者にイラつきを露わにして銃を構え、迷わず引き金を弾く。
    銃弾は昨日よりは丈夫らしいサイボーグの足に当たり、壊れこそしないが衝撃で襲撃者を転ばせるには十分だった。
    立ち上がろうと手を付いたところで背中に容赦のない蹴りが打ち込まれて地面に縫い付けられる。

    「VSFだ!観念しろ!!」

    背中を踏み付けたままそう告げたサニーに諦めたのか、動かなくなった襲撃者にひと息ついて、明らかに未来から来ているだろうからと追っている最中に呼び付けた部下を待たなければならないが…嫌な予感がするから出来れば森の中にいる三人と合流したい。

    「………殺すか」

    そう呟いた時、サニーの中でプツリと何かが切れた気がした。この時代に来てからというものの、随分と平和に過ごしていたものだ。人でありサイボーグであるこの生命体は、間違いなく自分達に害を成すものだ。ならば排除しておくべきだろう。

    「あぁ、俺、自分のことすっかり優しくなったなって思ってたけど…そうでもなかったね。…ふふ、はははは、ハハハハハハ」

    どうしてこんなに高揚するのだろう。こんな顔、皆には見せられないな。
    銃を持ち直して、どこから撃とうかと銃口をゆらゆら揺らして眺める。そうだ、ゆっくりしちゃダメだった。早く行かなきゃ。

    「あー、もっと撃ちたいのになぁ」

    いつもサニーの暴走を止めてくれる仲間は今、そこに居なかった。




    「浮奇が居ない…どこに行っちゃったんだろう」
    「……」

    ファルガーは羽織っているジャケットから一冊の小さな本を取り出し、開いた。

    「あ、例の予言書?」
    「正しくは”こうなってくれ!お願い!”書だがな。この本によると、この岩は大昔に空から降ってきた隕石らしい。流れ星の成れの果てだな。」
    「わお!この時代では判明してない事実ってやつだね」
    「ああ。そして星の力は浮奇にも深い関わりがある…アルバニャン、過去と、現在と、未来、いつの時代でも多くの人が必要とする存在は何だと思うか?」
    「必要な存在?サニー…は違うよね。うーん…?」
    「真っ先にサニーが出て来るのはアルバニャンらしいな。…しかしある意味では遠くない答えだ。アルバニャンにとってサニーが崇拝の対象であればな。答えは”神様”だ」
    「神様!」

    岩の上に飛び乗って周囲を見渡すアルバーンに、恐らく浮奇は近くにはもう居ないのだろうとファルガーは話を続けた。

    「神様というのは、偶像であったり特定の人物であったり、伝承に残る人であったり、色々な形で存在するが…人は特に弱った時、自分で光を見つけられなくなった時にそれを求めてしまう事が多々ある。」
    「浮奇が神様ってこと?」
    「そうなる事を求めている者が居るようだ。さて、私は浮奇を迎えに行って来るからアルバニャンはサニーを助けに行ってくれ。」
    「…大丈夫なの?予知夢ではふーちゃんが一番危ないんでしょ」

    勿論サニーは心配だけど、浮奇もファルガーも心配なアルバーンは行動を決め兼ねている。しかし言われたファルガーはハッハッハ!と盛大に笑って見せて不敵な笑顔で返した。

    「アルバニャンまで忘れたか?私達はNoctyxだ。何者にも壊されないさ。それに、今回の事は私の時代の者が起こした騒動だ。キチンと片付けねば」
    「…絶対に二人で無事に帰ってこないと許さないからね!」

    ウジウジしていたら間に合わなくなる可能性がある。アルバーンはまずはサニーを助けて、それからファルガー達に合流する事を選んだ。怪盗らしく身軽さを生かして木から木へと飛び移って離れて行くアルバーンの姿にヒュゥ、と口笛を吹いてファルガーも未来へと旅立った。




    「サニー!無事?…サニー?」
    「あー…アルバン」

    応援を呼んだらしい、VSFの隊員達が襲撃者を拘束して連れて行こうとしている最中だった。自分が来なくても大丈夫だったかもと思ったアルバーンだったが、すぐにサニーの異変に気がついた。

    「なんでそんなに真っ黒なの?」
    「俺も、わけわかんないんだけど…急にアルバーンみたいな目をした猫が目の前に飛び込んできて…その猫がなんか、黄色いイカみたいなの咥えてて……思い切り墨みたいなのかけられて、いま目が見えない」
    「わーお…」

    アルバーンみたいな猫はわかる。しかし黄色いイカとは。目をゴシゴシと擦るサニーの腕を掴んで、真っ黒になった顔を見た。頭から墨を被ったような姿のサニーに浮奇から聞いていた血塗れのビジョンが重なる。

    「あまり擦らない方がいいよ。まずは目に入った墨を水で洗い流そう。お水買って来よう」
    「うん…あるばん、連れて行って」
    「おっけー」

    襲撃者はもうVSFに回収されているしこの場は大丈夫そうだ。もしかしたら本当に未来も変わったのかもしれない。とはいえこの後に血濡れになったらと思うとこの状態のサニーを一人で置いとく訳にもいかない…となれば。
    そうしてアルバーンは視界不良のサニーを引っ張って、近くのコンビニに向かうのだった。





    森の中にただ存在していた岩がこうも出世するとは。都市開発で森が消失して発見というところだろうか。
    未来へと移動したファルガーは立派な建物の中で如何にも神聖な物として祀られている大きな岩の前に立っていた。生えていた苔も削ぎ落とされて磨かれたか。あの風情が分からないとは嘆かわしいものだ。

    「ふーふーちゃん?なんでここに…」
    「ウキキの考えている事はなんでも分かるからな。迎えに来た」

    真後ろから戸惑う声が聞こえて、やはりなと安堵した。とにかく浮奇が無事で良かった。
    ファルガーは振り向かないまま、返事に詰まる浮奇に問い掛ける

    「浮奇はどうやってこの岩の真実を手に入れたのか気になるが…それよりも、すぐに帰ると言わないのは理由があるな?言う事を聞くから仲間に手を出すなとでも言ったか?」
    「……その岩から、星の力を受け取ったんだ。今回の事は俺のせいで起こったんだって知ったから」
    「自分が犠牲になればそれで良いと思ったんだな」
    「だって、ふーふーちゃんが死ぬのは嫌だから…」

    ファルガーは消して責めるような口調で話してない。それなのに、浮奇にとっては大声で罵倒されるより怖かった。
    バタバタと足音が聞こえてくる。ファルガーが見つかってしまったら…と焦るが当の本人は微動だにしていなかった。

    「ふーふーちゃん」
    「思ったより大きな建物だが…まぁ不可能では無い大きさで助かった。ここはまだ出来たばかりで、まずは象徴となるものを用意してそれから信者を集めようとしている、言わば下準備の段階だな」

    ファルガーは蹴るように片足を岩に押し当てる。
    そしてやっと、浮奇の方を上半身だけを少し捻って振り返って見せた。

    「私の世界の者がすまなかった。私といる事で浮奇という特別な存在に気付いてしまったようだ。何にでも手を出さないようキチンと躾をせねば」
    「…待って、何をしようとしてるの?ふーふーちゃ」
    「Boom」

    カチリと機械的な音がしたと思ったら、ファルガーを中心に爆発が起きた。正しくはファルガーのサイボーグの脚が爆発したのだ。
    脚が破壊され、吹き飛ぶファルガーを浮奇は咄嗟に念力で捕まえ、抱き締めて共に倒れた。粉々に砕けた岩が飛んできていたが全く気にもならなかった。

    「ふーふーちゃん!!なんて事を!」
    「ッ……あぁ、やはり星は浮奇を傷付けたがらないんだな。ちゃんと避けているようだ。砕いた岩で怪我する事だけが気がかりだったが、良かった…」
    「何を言ってるの?!こんな、無茶をして…俺を置いて死ぬなんて許さないから!!」
    「俺をあの時代に置き去りにするのだって許さない」
    「ッ…」

    何人もの悲鳴や怒号、足音が聞こえている。でもそんな事は浮奇にはどうでも良かった。「あぁ、建物までは壊せなかったか。腕にも仕込んでくれば良かった」と腕の中で呑気に話すファルガーが憎らしくて、浮奇への執着心の重さが心地良くてもう感情がぐちゃぐちゃだ。

    「…ウキキ。手を貸してくれるか?こんな脚になってしまったし、サニー達も心配だ。私一人では帰れそうにないんだ」
    「この……ビッチ!こんな所、俺の力で壊滅させて二度と手を出す気も起きなくさせてやるんだから!」

    視界がグラグラと揺れ始める。建物は軋み、悲鳴を上げる。柱がバキバキと勝手に折れて倒れて辺りはパニック状態に陥った。

    「死にたくなかったら今すぐ出て行きな!ここはもう瓦礫しか残らないよ!」
    「流石はウキキだ。怒った顔も美しいな」

    その日、神の怒りを買ったと噂が後を絶たずひとつの組織が崩壊した。




    無事に現代へと戻ってきた浮奇とファルガーは、ファルガーに命の心配は無いのかとあれこれ確かめていた。

    「爆発の衝撃はあったが、実は脚のパーツ自体はサニー達が昨日持ち帰った物を組み直して付け替えていたのだ。アジトに戻って元の脚に付け替えれば済むから大丈夫なんだ」
    「それでもあんな無茶は二度としないで」
    「悪かったウキキ。二度としない。そうだ、ついでだから夢の通りに童謡も歌っておくか…おや?」
    「どうしたの?ふーふーちゃん」
    「夢の中では小鳥に手を伸ばしていたんじゃなかったか?今、私の目の前に…」

    ファルガーの視線の先に浮奇も目をやると、そこには羊が佇んでいた。モコモコの毛が触ったら心地良さそうだ。近くで牧場なんてあっただろうかとファルガーと目を合わせて共に首を傾げていると、アルバーンが二人を呼ぶ声が聴こえてきた。

    「アルバニャン!サニー!無事だったか」
    「ファルガー?!全然無事じゃないけど大丈夫なのその脚!!」
    「帰るのに困るくらいだ。サニーはどうしてそんなに真っ黒なんだ?煙突掃除でもしたのか?」
    「俺にもよくわからない…浮奇も、もう大丈夫?」
    「俺は大丈夫…あ」

    目を離したら羊が消えている。なんだったんだろうと浮奇にはますます分からなかった。でも、悪くない感じはしていたからそのうち…すぐに会えるんだろうなと不思議と思う。ファルガーも似たような表情で羊の居た場所を見ている。

    「とにかく…みんな、帰ろう」

    アルバーンが両手を広げてまずはサニーの首に回してグイッと引っ張り、それからファルガーと浮奇もまとめてムギューと抱き締めた。

    「Noctyx最強!僕お腹がすいちゃった!早く帰ろうよ!」
    「サニー!荷物のように担がないでくれ!」
    「耳元で大声出すなよ…うるさい」

    ギャーギャー騒ぎながら移動する三人に並んで、浮奇はそのうるささに耳を傾けた。

    今日はよく眠れそうだ。

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