どんな姿でも ある日、微小特異点の調査にアーサーとシャルルを連れて向かうことになったカルデア一行。調査のためとある城で開かれる舞踏会に潜入することになったの…だが…。
「なんでまたあの格好をしなくてはいけないんだ!?」
『ワガママを言うんじゃありませーん!!流石に女性がキリエライトだけでは怪しまれるだろ!?帰ってきたら私特製のアフタヌーンティーセットを用意してやるから機嫌直しなさーい!!』
「それでも断固拒否します!!」
『何故だー!!』
そう、今回調査のために訪れたメンバーはマシュ以外全員男なのだ。流石にアーサーとシャルルが女装すると体格の問題が出てしまう。そこで、新宿で女装経験のある立香に白羽の矢が飛んだのだが…本人はアレを黒歴史とし断固拒否しているのだ。ゴルドルフ特製のアフタヌーンティーセットの話が出てもなおだ。
「大丈夫ですよ先輩!!あのお姿とても美しかったですから…自信持ってください!!」
「ちょっと後輩様、なーんの慰みにはなってませんけどぉ!?」
「…あはは、よっぽど黒歴史なんだな」
「すまない、話の内容が…」
「えっ、アーサー王…知らないのか!?」
「…知らないというより、立香は頑なにそのことを話したがらないんだ」
「あっ、そっちか」
そのやり取りを遠目から眺めていたアーサーとシャルルは、シャルルは苦笑いアーサーは呆然としていた。シャルルはアストルフォから話を聞かされていたため知ってはいたが、アーサーは立香の口封じのせいで知らないのだ。
「…アストルフォから取り上げたやつならあるが、見るか?」
「是非とも!」
「即答かい!!」
シャルルはアーサーの飛びつき度合い驚きつつもいつぞやにアストルフォから取り上げた立香の女装姿が写された写真を懐から出しアーサーに渡した。品と可愛らしさを兼ね揃えたドレスを身に纏いウィッグで長くした黒髪をハーフツインにした立香の姿があった。
「…可愛い」
「まぁ、立香はそれを黒歴史にしてるがな…アンタがエスコートするからと説得すれば、折れてくれるかもよ?」
「そうだね…君はマシュをお願いするよ」
「了解」
アーサーは今もなお駄々をこねる立香に近づき、立香の手を握った。
「立香、任務ためだ…お願いできないかい?」
「だ、だから…あんな姿…」
「僕がエスコート役するから…お願い」
「っ〜〜〜〜〜!!」
『あっ、藤丸の弱点が同行していたの忘れてた』
ゴルドルフはアーサーが立香の弱点だと知っているにも関わらずそれを忘れていた。立香はアーサーの真剣な眼差しに顔を赤くし…
「っ…分かった、やります!!女装します!!ただし、アーサーがエスコート役大前提で!!」
「ありがとう、立香」
『流石だな…』
「ありがとうございます、アーサー王…」
「やれやれ…」
こうして、数日後に開かれる舞踏会潜入作戦の段取りを組むことができたのであった。
◇
数時間後、舞踏会の衣装の準備のためにカルデアから新たに3名のサーヴァントが派遣されてきた。
「花嫁の強〜い味方、ハベにゃん参上!!」
「私も同行させて頂きました。このミス・クレーン…全力を尽くしましょう!!」
「…フン」
それはカルデアの衣装係であるハベトロットとミス・クレーン、そして…理由は不明だがバーヴァン・シーまで同行してきたのだ。
「ハベにゃん達は分かるけど…なんでバーヴァン・シーが?」
『…それは私が説明しましょう』
「…モルガン、陛下?」
通信機からモルガンの声が聞こえてきた。どうやらバーヴァン・シーはモルガンの差し金のようだ。
『バーヴァン・シーの靴の目利きに関しては私のお墨付きです。衣装係の2人ではマスターの靴を選ぶのは難しいのではと思い…私が提案したのです。それはハベトロット達も同意しております』
「マスターを完璧な女の子にするには、靴を選べる人がいると助かるな〜ってボクがボヤいたのをモルガンに聞かれちゃってね!そしたら私にいい提案があるって話になったのさ!!」
「…私はあくまでもおか、いえモルガン陛下の命できただけだからな!!そこを吐き違えんなよ?」
「いえ…それでもありがたいです!ねっ、先輩?」
「…」
「先輩?」
立香は、頭の中では理解しててもやはり複雑な気持ちは変わらないようだ。
「安心しな、お前が歩きやすいようにあまりヒールの高くないヤツを選んでやるから」
「…お願いします」
「…お前、よほどその姿をご自慢の王子様に見られたくないわけ?」
「っ…」
「図星かよ…お前、少し席を外しな」
「えっ…わたし、ですか?」
「他に誰がいんだよ…」
「マシュごめんな、クレーンと共に別室に行ってくれるかい?」
「…分かりました」
「では、マシュさん…こちらに」
マシュはミス・クレーンと共に別室へ移動した。するとバーヴァン・シーとハベトロットははぁ~っとため息をついた。
「…ハベトロット、お前からお母様の“もう一つの提案”を話しな」
「うん…マスター」
「なに…」
「これはモルガンから君あての提案なんたけどさ…ゴニョゴニョ…」
「…えっ?」
立香はハベトロットから耳打ちされた提案に驚きを隠せないでいた。
「お前の嫌がり度合いを見て、お母様がわざわざ提案してくれたんだ。他の連中には内密に、私とハベトロットにしか話していないんだからなぁ。どうするかはお前しだいだよ?」
「どうよ、マスター?」
「…お言葉に甘えても、良いかな?」
「オッケー!!んじゃ、採寸始めよっか〜!!」
立香はモルガンからの提案を聞いてやっと決心し本格的に準備に取り掛かったのであった。
*****
そして舞踏会当日。マシュはミス・クレーンが仕立ててくれた新しいドレスに身を包み、シャルルと共に立香とアーサーを待っていた。シャルルは王としての姿を取り赤と黒を基調としたスーツを着ていた。
「まさかそのお姿になるとは思いませんでした…」
「役とはいえ、レディの相手をしなくてはならないのでな…こちらが都合が良いと判断したまでだ」
「お待たせ、2人とも」
マシュとシャルルが話していると霊衣・ホワイトローズに身を包んだアーサーがやってきた。
「あれ、立香は?」
「まだ来ていない…準備に時間かかっているのだろう…」
「君にしては、珍しいね…王の姿を取るとはね」
「こちらが都合が良いと判断したまでだ、からかうな」
「やっほー、お待たせ〜!!」
するとハベトロットの声が聞こえそちらに視線をやると…
「っ…!!」
「っ」
「先輩…とても、綺麗です!!」
「っ…あまり、見ないでくれ」
髪型は前回同様ハーフツインで白を基調としたドレスに身を包んだ立香がそこに立っていた。男だとバレないよう万全な対策を練って仕立て上げられたドレスはスカート部分はフリルになっていた。
「髪型は前回同様にしたけどな。その方が肩あたりが上手い具合に隠れて分からなくなるしな。」
「うんうん、どう見ても可愛い女の子だ!!いやぁ~頑張った甲斐があるよ〜」
立香はよほど恥ずかしくて顔を上げずにいた。アーサーはアーサーで目の前の立香を見て顔を赤くしていた。
(こんなに可愛らしくなるとは…)
シャルルはそんなアーサーを見て、アーサーの近くに寄った。
「何をしているのだ…早くレディをエスコートしたらどうなんだ?」
「言われなくとも…」
「せっかくの役得をお前に譲ったのだ…本当なら俺が立香のエスコート役しても良かったのだぞ?」
「しゃ、シャルルマーニュ!!」
「ふっ…冗談だ、いずれにせよ立香がお前を選んでいたからな。では、先に行くぞ」
シャルルはアーサーをひとしきりからかい、マシュの手を取り先に舞踏会会場に乗り込んで行った。
「まったく…」
「やれやれ…シャルルマーニュもやってくれるね〜にしても、マシュのドレス完璧だな!!さすがはクレーンだよ〜」
「…マシュは良くても」
「マスター…“ご褒美”のために頑張って!」
「…うん」
立香はまだ複雑な気持ちを胸に抱きながらアーサーの元に寄った。
「あっ…アーサー…」
「あっ、すまない立香…僕らも向かうとしよう」
「うん…」
「さぁ、お手をどうぞ…“レディ”?」
「っ…」
(ズルい…カッコよすぎる…)
アーサーの自然な動きに立香の心臓はバクバクと高鳴っていた。立香は恐る恐るアーサーの手を取り、そのまま2人は舞踏会会場へ乗り込んだのであった。
◇
会場に無事に潜入することができたカルデア一行は、警備の目を掻い潜り合流することに成功した。
『うん、間違いなくこの城の何処かに聖杯が隠されてるね!!』
「それを回収すれば、終わりってことかな?」
『そういうことさ!!藤丸くんもそれまでは我慢してね〜』
「簡単に言わないでよ…」
通信を終え、立香はガックリと肩を落とした。
「俺達はまた会場で捜索するとしよう…行こうか、マシュ」
「はい、先輩とアーサー王もお気をつけて」
「うん…はぁ…」
「少し疲れたかい?」
「うん…」
「少し休んでから捜索に戻ろうか…」
アーサーはまた立香の手を引いて人気の少ない場所に出た。今日は満月でとても綺麗だった。
「何か持ってくるから待ってて」
「うん…ありがとう」
アーサーはそのまま会場内に入って行った。立香はそのまま外で月を眺めていた。
「…綺麗だな」
「おやぁ…御嬢さん1人かい?」
「…えっ?」
振り返ると見知らぬ男が立香をジロジロと見ていたのだ。それもかなり厭らしい目で見ていたのだ。
「あっ…あのっ…」
「可愛いねぇ、御嬢さん…私の相手をしてくれないか?」
「っ!?」
男は立香に抱きつき、厭らしい手つきで腰や尻を撫で回していた。
(っ…き、気持ち悪い!!)
立香は嫌悪感しかなく、突き放そうとするも上手く力が入らず、慣れないヒールのせいで足を挫いてそのままバランスを崩してしまった。
「いっ…ひっ!?」
「大丈夫…怖いことなんて…あだだだだだ!?」
「あっ…」
「…彼女から離れろ」
男は後ろで腕を絞められうめき声を上げていた。アーサーがもの凄い形相で男を睨みながら、立香を抱き寄せた。
「っ!!」
「彼女は私の連れだ、汚い手で触るな」
「ぐっ…クソっ!!」
男はアーサーの気迫に怯みそのまま逃げ出した。
「立香、大丈夫?」
「特には…いっ!?」
立香は先ほど挫いた足を見た。少し赤くなっていた。
「…足を挫いてしまったのかい?」
「こ、これぐらい…」
「無理したらダメだ、悪化してしまうよ」
アーサーはヒョイっと立香を抱きかかえてしまった。所謂、お姫様抱っこだ。
「あっ、アーサー!!降ろして!!」
「こら…レディがそんな風に暴れてはダメだよ?」
「あうっ…耳打ちしないでっ!!」
「それとマシュ達から…聖杯を見つけた、敵と応戦中みたいなんだ」
「えっ!?」
「だから…このまま現場に向かうよ」
「…分かった」
アーサーはホワイトローズからいつもの姿に変え、立香を抱えたまま現場に向かった。
*****
「やあああああ!!」
「はっ!!」
マシュとシャルルは聖杯を守る巨大植物型のエネミーの相手をしていた。
「くそっ、キリがない…」
「マシュ、シャルル!!」
「っ、マスター!!」
「遅いぞ、アーサー王!!」
やっと立香を連れたアーサーが現場に駆けつけてきた。
「なっ、なに…これ!?」
『藤丸くん、そいつがこの特異点を作り出した元凶だよ!!早く何とかしなければ』
「ですがダ・ヴィンチちゃん…先ほどから私とシャルルさんと応戦してますが…っ!?」
「斬ってもすぐに再生してキリがない!!」
敵は聖杯の力で瞬時に再生し埒が明かない。となると宝具で仕留めるしかない。相手は運良くかなり大きいため、アーサーの宝具の特攻が刺さるのだ。
「…アーサー、宝具でケリをつけよう!!」
「分かった…マスター、令呪を!!」
「─令呪をもって命ずる、宝具を解放せよ…アーサー・ペンドラゴン!!」
アーサーは立香の命に聖剣を手にする。
「 十三拘束解放 、 円卓決議開始!」
『――承認。ベディヴィエール、ガレス、ランスロット、モードレッド、ギャラハッド』
「――是は、世界を救う戦いである」
『アーサー』
「約束された勝利の剣!!」
アーサーの聖剣はまばゆい光を纏い、その光は巨大エネミーを吹き飛ばしたのだった…。
◇
「マスター、足の具合はどうだい?」
「ハベにゃん…うん、今のところは大丈夫だよ?」
あれから帰還した立香は着替えてすぐに医務室行きになった。どうやら足を挫いて軽く捻挫していたようだ。
「足の具合も良くなったところで…じゃーん!!」
「これは…」
「あのドレスを改良した衣装さ!!これを着て…アーサー王と楽しいひと時を過ごしておいでよ!!ハベにゃん、応援してるよ〜」
「…これなら、ありがとうハベにゃん」
*****
その日の夜、アーサーは立香にシュミレーションルームに来るよう言伝されシュミレーションルームにやってきた。
「一体、何をしようと言うんだ…」
「アーサー!!」
「立…香…」
アーサーは立香の姿を見て目を見開いた。立香はあの特異点で身に纏ったドレスに雰囲気が似た衣装を身に纏いアーサーの元にやって来たのだ。ぱっと見ればウェディングドレスにも見えてしまいそうな格好だが、下はちゃんとズボンになっていた。
「立香…その格好は…」
「ハベにゃんが改良してくれたんだ…俺のために…っ…本当は…あんな格好、アーサーの前ではしたくなかった」
「…」
「もしっ…アーサーが、女の子がいいって…言ったら…俺…」
「そんなことは言わないよ…君だから、可愛らしいって思ったんだ。」
アーサーは膝を地面につき、令呪のある右手の甲にキスを落とした。
「っ、なんで、そんなこと…平然とする、かな…」
「君にだけだよ…立香」
「んうっ…」
アーサーはそのまま立香に優しく口づけする。あの日もそうだが、アーサーからしたら今日の立香も儚く愛おしく見えたのだ。
「…似合ってるよ、とても」
「っ、あり、がと…」
「可愛い」
アーサーは未だに顔を赤くする立香の額に己の額を重ねる。そしてそのまま霊衣をホワイトローズに変えた。
「…なんだか、結婚式でもしてる気分だよ」
「ふふ…本当だね、今の君は…花嫁さんみたいだから」
「なんだよ、それ…」
自然と見つめ合い、そのまま静かに口づけを交わす2人。その光景は結婚式の誓いのキスをしてるかのように見える。あの舞踏会会場に似た場所ではあるが、今は2人だけの幸せな時間だ。
「あの時はゆっくりできなくなったけど…立香、僕と踊ってくれませんか?」
「…アーサーが、エスコートしてくれるなら」
「もちろん…では、お手をどうぞ?」
「はい…アーサー」
アーサーのエスコートの元、立香は幸せな時間を過ごすことができたのだった。
◇
「…まったく、やっと機嫌直したのかよ」
「まぁまぁ…にしても不埒な輩に絡まれて足を怪我したのは想定外だったよ」
「…お母様なら焼き殺しているだろうに」
「あり得る…」
今回の任務で立香の機嫌直しに一役買ったバーヴァン・シーとハベトロット。厳密にはモルガンなのだが、これがモルガンが用意した立香の褒美だったのだ。
「…サーヴァントである以上、いつかは別れが来る。一度でも良いから幸せな時間を過ごさせてあげたかったんだ〜」
「お母様…不服だったろうに…」
「モルガンだって分かってるさ…でも、あの二人の間に入れないこともね」
「…感謝しなさいよ、マスター。お母様がお前のためだけに用意したんだから」
「あはは…」
アーサーと立香の見えない場所で、主催者のモルガンに変わって幸せそうな2人を眺めるバーヴァン・シーとハベトロットであった。