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    mugen_kinoko03

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    mugen_kinoko03

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    クローバー視点。
    続くかも。

    無題ラスカルからの手紙が滞った。
    今までそんなことはなかったから、調子でも悪いのかと心配になる。
    もしかしたら、俺との文通に飽きてしまったのかもしれない。
    その可能性は十二分にある。俺は元々嫌われているから。


    ーーー
    「……で、はるばる会いに来たわけか?」

    いても立ってもいられなくなって、工場に足を運んだら、帽子小僧に出迎えられた。
    汚物を見るような目で俺を見やがって。なぜ想い人に会いに来たのにこんな不愉快な思いをしなければならないのか。

    「ラスカルに会わせろ。居るだろォ」
    「まぁ居るけど……」

    けど。けどとは何だ。ハッキリ言えと睨めば、小僧は歯切れ悪くこう続けた。
    数日前、ラスカルが相手取った『客』に何かされたらしい。それ以来、ラスカルの様子がおかしいそうだ。
    誰とも口を聞かず、ひとりきりで部屋にこもっているのだという。

    「近付かない方が身のためだぞ」

    特にお前はな、と。そう小僧が言う。
    余計な世話だと思った。俺はこいつと違ってそれなりに強い。
    ラスカルがかかってきたとしても、よほど油断していなければ勝てる自信がある。
    適当に小僧をあしらって、俺はラスカルの部屋に向かった。


    ーーー
    結論からいえば、ラスカルはそこにいた。およそ時計しかない部屋の片隅で、ぺたりと座り込んで。
    問題だったのは、彼女の腕が血だらけだったことである。
    どうやら自分の爪で腕を掻き壊したようだ。
    まぁ、どうやらというか、現在進行形でやっているから、疑いようもない事実なのだが。

    「おい、」
    「……、……、」

    ぶつぶつと何事かを呟いているが、聞こえていないようである。
    曇り空のような瞳は虚ろで、何も見ていない。
    当然、傍らにいる俺の存在にも気付いていないだろう。
    仕方なしに、彼女の腕を掴んで無理やり止めた。
    びくりと肩を跳ねさせ、弾かれたようにラスカルが俺を見る。

    「お前なに馬鹿なことしてんだァ?」
    「……、」

    目を限界まで見開いて、ラスカルは俺を凝視する。

    「腕、見せてみろ。痛いだろォ」

    ラスカルの頬をするりと撫でると、彼女は嬉しそうに、俺の手に頬を寄せた。
    久しぶりの笑顔だった。しかも面と向かって見れたことに、純粋に喜びを覚えた。
    ふと、ラスカルが口をあんぐり開けた。おもむろに息を大きく吸い込む。
    そこでラスカルが次に何をしようとしているか悟った。

    「ッ馬鹿……!!」
    「ぐ、ぅうう……っ」

    咄嗟に小さな口に、己の指をつっこんだ。
    獣のように俺の指に噛み付くラスカル。当然痛いが、己の身などどうでもいい。
    たとえ指がちぎれようと、それもラスカルのためだ。
    だがまさか、自分で舌を噛もうとするとは思わなかった。
    この力加減だと、本当に噛みちぎってしまっていたかもしれない。
    すんでのところで止めたから良かったが。

    「ラスカル」
    「ぅ、ぅうう……」
    「……。…好きなだけ噛め」

    ラスカルに何があったのかわからないが、相当傷付くことをされたのだろう。
    こいつはいつもいつも傷つけられてばかりだ。いっその事、そんな理不尽な世界からラスカルを隔離してしまいたい。
    永遠に、二人っきりでいたい。
    やがてラスカルは糸が切れたように俺の胸にもたれた。
    出血多量による気絶だろう。ラスカルの傷の手当てをしなければ。
    とても小さく軽い身体を抱き上げて、簡素なベッドへ横たえてやる。
    どさくさに紛れて髪を撫でた後、手当てのための道具箱を探しに部屋を出た。

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