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    なとりうむ

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    なとりうむ

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    ドムサブのマレレオ
    なんでも許せる人向け

    「ナァ」
     暮れ行く陽を窓越しに眺めているときだった。
     授業は終わり教室には誰もいない。人の子たちは忙しなく生きておりその日の授業が終われば留まることなく教室から去っていく。
    マレウスはそれが少し苦手であった。
     何かに駆られるといった感情を思い出せなくなって随分と経つ。最後にそういった感情に襲われたのはいつだっただろうか。いや、そもそもそのような感情を抱いたことなどあったか。
     何にも駆られない心は凪いでいて気が付けばいつも教室で一人立っている。
     だから背後から掛けられた声にすぐに反応することができなかった。
    「ナァ、無視かよ」
    「……僕に話しかけているのか」
     一体誰だろうかと振り返った先にはレオナ・キングスカラーがいた。西日のせいか顔がはっきりとしないが確かにレオナ・キングスカラーであった。
    「他に誰が居ンだよ」
    「それは失礼した」
     彼の言う通り、今この場には僕と彼の二人しかいない。こんな時間に誰かに話し掛けられるという出来事がこれまでなかったのだと自覚しつい苦笑してしまった。
    「用件だけ言う」
     キングスカラーは僕の返事などお構いなしに話し始める。彼が僕に用事があると言うのは珍しい。
    「俺とPlayをしないか」
    「僕とお前が?」
    「ああ。俺とお前が」
    「なぜ」
    「都合がいいから」
    「都合?」
    「お前はなんでも聞けば答えが返ってくると思ってんだな」
     軽蔑を含んだ声音であった。
    「それはお前が理解の追い付かない提案をしたからだろう」
    「俺の話のどこが理解に苦しむ?お前は強いDomだ。強いDomとPlayをしたくなったから誘った、それ以上でもそれ以下でもない」
    「だが、」
    「ご理解いただけたでしょうか、トカゲの坊ちゃん?」
     こちらを馬鹿にしたような口調に嫌味な笑顔で彼は僕をトカゲの坊ちゃんなど称する。僕が長寿の妖精族であることは知っているだろうになんとも幼稚な言い分だ。
     僕に対してこのような物言いをする者など今まで会ったことがない。
    「僕はトカゲではないし、お前よりも長く生きている」
    「ハッ、長く生きてるってだけでおめでたい頭だ」
    「おやおや、仔猫は未だ目も開いてないらしい」
     常のやり取りに少し心が落ち着いた。キングスカラーは真顔である。つまり彼は今真剣に言っているのだろう。冗談でもなんでもなく本気で僕とPlayをしたいのだ。
    「僕はDom性が強い」
    「見りゃ分かる」
    「並のSub性ならやめておけ」
    「問題ねえよ」
    「そうか」
     僕は忠告したからな。そう言って迷わずキングスカラーの手を取り自室へと転移した。
    強いDom性である僕はPlayの相手も限られる。学内に相手を用意することができないので普段は茨の谷に戻り欲を散らしている。最後にPlayをしてからもう半年は経っていた。思い出せば欲を吐き出したくなった。それがキングスカラーに応えた理由だ。彼がどれほどのSubかは見目からは分からない。どうやら随分と上手く隠しているらしい。
     急に場所を変えたことにキングスカラーは少々驚いたようだが誘ってきたのは彼なのでもう止められない。
    「セーフワードは〝レッド〟だ」
    「ああ」
     すっかり観念したのかあっさりとセーフワードを受け入れたようだ。そうだそれでいい。
     久しぶりのPlayだがいつものようにセーフワードを決め、いつものようにSubにコマンドを下す。そうやって互いに欲を散らすだけの行為をやらねば生きていけぬなどなんて哀れなことか。
    「それでは始めよう」
     キングスカラーは僕をじっと見つめる。随分と自信があるようだ。だが僕のコマンドを聞けばそんな余裕も今になくなる。
    「kneel(跪け)」
     マレウスは強いDom性を持っている。これまでPlayをして相手を満足させられなかったことなどなかった。必ず腰砕けにしてきたし己の手腕に自信があった。しかし、キングスカラーは先ほどと何ら変わらずマレウスの前に立っていた。
     余裕がなくなったのはキングスカラーではなく僕の方であった。なぜ、どうして。
    「kneel(跪け)だ、キングスカラー!」
     もう一度、先よりも強く、圧をかけてコマンドを放つ。けれどキングスカラーの目は僕を捉えて離さない。
     数秒、数十秒、数分
     先に動いたのはキングスカラーだった。ため息一つ、呆れた顔だった。
    「お前本当にDomか?」
    「なぜ僕のコマンドに従わないんだ」
    「箱入りのトカゲなんか選ぶんじゃなかった」
    「なぜコマンドに従わないのか聞いている」
    「やめだやめ、話にならねえ」
    「なぜだ、お前はこれを求めていたのではないのか!」
     カッと感情的に叫ぶがキングスカラーは動じない。
    「お前に期待をした俺が間違いだった」
    「お前は僕に何を期待した。お前は強いDomとのPlayを求めていたのだろう?ならばなぜ満足しない。僕以上のDomなどその辺にいると思っているのか!」
     Dom性はコマンドを下し、そのコマンドに応えられることで欲が満たされる。今、二度もコマンドを無視された心はざわつき騒がしい。早く目の前の者を屈服させねば。それだけが思考を埋める。
    「お前、自分のことを優秀なDomだと思ってんのか?」
    「当然だろう、僕はっ!」
    「なら教えてやるよ」
     静かに淡々と彼は話す。
    「お前は最底辺のDomだ」
    「まだ言うのか」
    「理由は二つ」
     僕の声など無視をしてキングスカラーは続ける。
    「一つ目、お前は独り善がりだ」
    「そんなことはない!」
    「二つ目はお前はDom性のことを何も分かっていない」
    「Dom性でないお前に何が分かると言うんだ。Sub性のお前に一体何が!」
    「俺はSubじゃねえ」
    「は?」
    「俺がいつお前にSub性だと自己紹介した?」
    「は…?」
    「俺はUsualだ」
    「な、」
    「そんなに驚くことか? DomもSubも人口は少ない。UsualとPlayすることもあるだろ」
     そんなこと知らない。DomはSubと結ばれるべきだとそう教わったから。UsualとPlayができるなんて知らない。Playを必要としないUsualがPlayをするなんて聞いたことがない。
    「だがお前から誘ってきた」
     そうだUsualはPlayを必要としない。DomやSubに乞われて相手をすることがあっても自ら望んでPlayをすることなどあるはずが
    「そりゃあUsualの中にだってそういうプレイを好むヤツぐらいいるだろうよ」
     俺みたいにな、と平然と彼は宣う。
    「そんなの卑怯ではないか」
    「何が」
    「お前がUsualだと分かっていれば相手にしなかった」
    「ハッ、何が優秀なDomだ。UsualとのPlayを見下すお前が?これまでどうやって生きてきたんだ」
    「僕はっ」
    「いい、いい、言わなくても分かるさ。」
     ゆったりとした口調で僕を嬲る彼の口角は楽しそうに歪んでいる。
    「どうせ与えられるばかりの人生だったんだろう?」
    「そんなこと」
    「ないわけないだろう。次期王たる者の相手だ。身元がきちんとしていて従順で庇護欲をそそる極上のSubを宛がわれたことだろうよ。違うか?」
    「そんなこと、」
     ないとは言えなかった。だってキングスカラーの言う通りだ。僕の相手は元老院が選んだ者たちで僕が自分で相手を選んだことなんて一度もない。今までそのことを不満に思ったことも、疑問に思ったこともなかった。それが当然だと、DomはSubとしかPlayをしないと、それがあるべき姿だと思っていた。
    「僕は……どうすればいい」
    「別にどうも。お前はそのままでいいんじゃねえか」
    「僕はもう今までに疑問を抱いてしまった」
    「いつかは気付くことだったさ」
    「お前が気付かせたんだ」
     今度は僕が彼の目を離さない。今ここで彼の目を逃せばきっと彼は僕から逃げおおせる。いつもの口喧嘩のようにひらりと見切りをつけていなくなってしまう。
     少し考える素振りを見せた彼はぼそぼそとよく聞こえない独り言を言っている。
    「マァ、都合がいいか…」
     そして結論に辿り着いたようだ。
    「いいぜ?俺好みのDomに躾てやるよ」
     今日見た中で一番の笑顔であった。
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